ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊   作:HAY

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第十一席編です!




第55話 “お兄ちゃん”

 

(ううっ…)

 

『愛紗、戦だ!村が襲われた!お前は寝台の下に隠れていろ!絶対に声を上げるんじゃないぞ!』

 

『ぐああっ!』

 

『!兄者ァァァァァ‼』

 

 

 

 

 

 

「っ!」

 

小さな洞窟の中で、愛紗は目を覚ました。

 

「……またあの夢か………鈴々、またお前のせいで…」

 

そう言いつつ自分の胸元を見るが、孫家に寝泊まりしていた時と違いそこに鈴々はいない。

 

「あれ?」

 

「くー…」

 

「むにゅ…」

 

右隣を見ると、鈴々は朱里と向かい合わせになり背中を丸めて寝ていた。

 

「かーっ…」

 

反対側では、ルフィが立派な鼻ちょうちんを膨らませて寝ている。

 

「……顔を洗ってくるか…」

 

そう呟き、愛紗は洞窟を出た。

 

「⁉」

 

出ると、そこは戦場になっていた。

 

「おらァ!」

 

「てりゃーっ!」

 

数十人の集団同士が剣や槍を振り回し戦っている。

 

両方ともちゃんとした鎧を着ていないため、どちらも正規の軍ではない様に見える。

片方の集団は、後方に馬に乗った総大将らしき人物がいた。

 

「こ、これは…?」

 

「ぐあァ!」

 

「!」

 

愛紗は呆然としていたが、一人の男の悲鳴を聞き我に返る。

 

「ひひひ…」

 

「ヒィッ…!」

 

見ると怪我をして地面に倒れ込んだ男に、一人の男がとどめを刺そうとしていた。

 

「おいっ!やめろ!」

 

思わず叫ぶ愛紗。

 

「何だァ?テメェも義勇軍の仲間か⁉」

 

「“義勇軍”?」

 

「くたばれェ!」

 

男はそう叫び、狂喜に満ちた顔で剣を振りかざす!

 

「くっ!」

 

偃月刀を置いてきてしまった愛紗は、白刃取りで受け止める!

 

「どうしたんですか関羽さん…?何だか騒がしいですけど…」

 

そこへ目をこすりながら朱里が出てきた。

 

「孔明殿!戻れ!」

 

「⁉」

 

朱里は愛紗の言葉で完全に目を覚まし、周囲の状況に気づく。

 

「ルフィ殿と鈴々を起こして来てくれ!それから私の―――青龍偃月刀を!」

 

「は、はいっ!はわわっ!」

 

慌てて洞窟内に戻る朱里。

 

「ぐっ…!でェい!」

 

「ぐっ!」

 

愛紗は崖沿いに追い詰められつつも、相手の腹に蹴りをくらわす。

 

「クソがァ!」

 

再び剣を取り向かってくる相手に対し、愛紗も容赦しない考えを決めたのか、身構える。

 

「オラァ!」

 

相手の剣が振り下ろされた瞬間―――

 

ガキン!

 

「⁉」

 

鈴々が横から飛び出し、蛇矛で剣を受け止めた。

 

「何⁉」

 

「ふんっ!」

 

「っ⁉」

 

さらにルフィが現れ、相手の頭に跳び蹴りをくらわす。

 

「関羽さァん!はわわっ⁉」

 

朱里もやってきて、転びながらも愛紗に偃月刀を投げ渡す。

 

「何だてめェら⁉」

 

「よくも同胞を!」

 

愛紗に向かって来た男の仲間らしき連中が、4人を取り囲む。

 

「な、何なのでしょう⁉」

 

「わからないのだ!」

 

「だが、取り敢えず…」

 

「暴れるか!」

 

そしてルフィ、愛紗、鈴々は戦場に躍り出て、自分達に向かってくる相手を片っ端から倒す!

 

「うおりゃーーーっ!」

 

「ぐふっ…!」

 

凄まじい腕力とすばしっこさで相手を翻弄し、吹っ飛ばす鈴々!

 

「ハァーーーッ!」

 

「ぐあっ⁉」

 

巧みな技で偃月刀を振るい、敵をなぎ倒す愛紗!

 

「オオオオオーーーッ!」

 

「ギャア!」

 

「ガフッ⁉」

 

目に留まらぬ速さで敵の懐に飛び込み、殴り、蹴り飛ばすルフィ!

 

「な、何なんだコイツら⁉」

 

「こんな奴らが相手じゃ、命がいくつあっても足りねェぞ!」

 

「に、逃げろォーーーっ!」

 

3人の強さに圧倒され、相手は逃げ出した。

 

「…………!何をしている⁉」

 

その様子を見て、敵対していた軍―――義勇軍の将らしき人物は…

 

「敵は乱れたぞ!押し返せェーーーっ!」

 

「「「「「「「「「「っ!は、はいっ!」」」」」」」」」」

 

腰の剣を掲げて号令を出し、軍は反撃を開始した。

 

 

 

 

 

 

しばらくして―――

 

その戦は義勇軍の勝利に終わった。

 

「―――で、結局何なんだコイツら?」

 

「先程戦っていた奴らは“義勇軍”と呼んでおりましたな」

 

「“ぎゆうぐん”?」

 

「民が自発的に結成した軍の事です。おそらく、この辺りの村人が盗賊に対抗する為に作ったのではないかと…」

 

「その通りです」

 

「「「「!」」」」

 

朱里が説明していると、義勇軍の総大将らしき人物がルフィ達の話に入って来た。

宝石などの装飾が施された立派な剣を腰に着けており、中々二枚目の男である。

 

男は馬から降りると、ルフィ達に挨拶する。

 

「どこのどなたか存じませぬが、危ないところをご助力いただき感謝いたします。

私はこの義勇軍を率いている“劉備(りゅうび)玄徳(げんとく)”と申します」

 

「…………」

 

「以後、お見知りおきを」

 

「私は旅の武芸者で、“関羽”字を“雲長”と申します」

 

愛紗はしばらく劉備の顔を見ていたが、劉備が挨拶を終えると自分も挨拶した。

 

「こちらにおられるのは私の義兄妹で、義兄の“ルフィ”殿、義妹の“張飛”。そして旅の同行者の“孔明”殿です」

 

「うむ。関羽殿にルフィ殿、張飛殿、そして孔明殿か…」

 

劉備はそれぞれの顔を見ながら、名前と一致させていく。

 

「あ!」

 

「?」

 

そして再び愛紗の顔を見て声をあげた。

 

「先ほどの強さ、そしてその美しい黒髪…もしやあなたはあの“黒髪の山賊狩り”では⁉」

 

「えっと…まァ一応…そう呼ばれているようで…」

 

「おお!やはりそうでしたか!」

 

「絶世の美女ではないですけど…」

 

「いやァ噂にたがわず、お美しい方ですな」

 

「⁉あ、あのう!い、今何とおっしゃいましたか⁉」

 

「「「⁉」」」」

 

かなり驚愕した様子で訊ねる愛紗。

 

「『噂にたがわずお美しい方』、と申しましたが?」

 

「………そ、それはどうも…」

 

「良かったな愛紗」

 

「る、ルフィ殿⁉べ、別に私は…」

 

そう言いつつも顔を赤らめ、嬉しさを隠しきれない愛紗だった。

 

「そういえば最近、『黒髪の山賊狩りは、天の御遣いの男と共に行動している』という噂がありましたが、もしやそちらのルフィ殿が?」

 

「あ、はい。その可能性があるというだけですけど…」

 

ルフィに代わって愛紗が答えた。

 

「ほう!噂は本当でしたか!

ところで皆さん、我々義勇軍は幽州の州境にある村、“桃花村(とうかそん)”を拠点にしているのですが、もし宜しければばそこまでご同行して頂けないでしょうか?」

 

「それは別に構いませんが…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうしてルフィ達4人は劉備率いる義勇軍と一緒に桃花村まで向かった。

 

そして村の周辺の田畑に着き…

 

「ん?どうしたんだい義勇軍の大将さん?まるで勝って帰って来たみたいだが?」

 

農夫の一人が声をかけてきた。

 

「勝って帰ってきたのです!」

 

「へ~、勝って帰って来たんですか。…………ええっ⁉本当ですかい⁉」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか劉備殿が勝って帰って来るとは、驚きましたな」

 

ルフィ達は劉備に案内され、村の大きな屋敷の応接間で屋敷の持ち主の男も交えて話をしていた。

 

「そういえば、村の方々も劉備殿が勝利した事に驚いていましたが…」

 

「お前らそんなに弱ェのか?」

 

「る、ルフィ殿もう少し言い方を…!」

 

「はい。それはもう…」

 

劉備に代わって男が説明を始めた。

 

「申し遅れました。私はこの屋敷の持ち主である張世平(ちょうせいへい)と申します。

三ヶ月ばかり前、こちらにおります劉備殿が、僅かな手勢と共にこの村に落ち延びて来たのが事の始まりでした。

最初は、あまりに不穏な身なりをしておったので、食い詰めた賊か何かかと思ったのですが、話を聞いてみると、“中山靖王(ちゅうざんせいおう)”の末裔という、高貴な血筋の方でして…」

 

「“チュウザンセイオウ”?」

 

「何なのだそれ?」

 

「昔の皇帝陛下の親戚の方ですよ!」

 

「つまり劉備殿は天子様の血縁者なのですか⁉」

 

「はい。色々ありまして、貧しい庶人にまで身分を落としてしまいましたが、血筋の証であるこの宝剣だけは、常に大切にしておりました」

 

そう言って腰の剣に手を添える劉備。

 

「それで、賊退治のために義勇軍を結成したいと言われまして…

 

 

 

 

 

『今、大陸各地で賊が跋扈し、暴政が相次ぎ、か弱き民ばかりが苦しめられております。

たとえ落ちぶれようとも、私は皇帝陛下の血筋。

乱世を治め、塗炭の苦しみから民を救うため、立ち上がりたいと存じます!

しかし恥ずかしながら、我らは志があろうとも、武器はおろかその日の食事にさえ困る始末…。

張世平殿は、義理堅く情に厚い方とお聞きしました。

無論、お貸し頂いた分は、いずれ数倍の利潤を加えてお返しします!

どうか天下万民のため、ご助力頂けないでしょうか⁉』

 

 

 

 

 

…との事でした。

私も少し前まではこの屋敷を始め、多くの拠点を持つ大商人だったのですが、各地の賊やそれらと大差ない役人に、商品、商売道具、従業員、仕舞いには妻まで奪われてしまいました…。

この屋敷にある財産もいずれ奪われてしまうくらいなら、志ある方に差し上げようと思い、屋敷の一部を義勇軍の拠点として貸し与え、蔵を開いて武器、馬、食料を整え、村人から兵を募り出陣したのですが…。

七回出陣して七回敗北するという始末でして、さすがに今度負ける様でしたら、支援を止めさせて頂こううと思っていたのですが…」

 

「まァ今回は勝ったんだからいいじゃねェか」

 

「そうですよ!ルフィ殿の言う通りです!」

 

張世平が話している間、劉備はずっと気まずそうにしていたが、ルフィの助け舟で気を取り直す。

 

「…それで、関羽殿。

今お聞きした通りの有り様でお恥ずかしい限りなのですが、暴虐非道な賊を打ち倒し、この地に平和を取り戻すため、我が義勇軍に加わって貰えないでしょうか?」

 

「わかりました」

 

愛紗は即座に返事をした。

 

「ルフィ殿達も宜しいですか?」

 

「ああ、いいぞ」

 

「鈴々もなのだ!」

 

「私も!どこまでお力になれるかわかりませんが、頑張ります!」

 

「そういう訳でして劉備殿!我らを劉備殿の義勇軍に加えてください!」

 

「おお!感謝いたします!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふう…」

 

その夜、愛紗は一人屋敷の風呂に入っていた。

 

「劉備殿か…どことなく兄者に似ていたな…」

 

湯に浸かりながら劉備の事を考える愛紗。

 

兄に似た目つきや声、整った顔立ち、そして…

 

「『噂にたがわずお美しい』か…」

 

愛紗も乙女である。

二枚目の男性にその様な事を言われて嬉しくない筈がなかった。

たびたび『噂と違って絶世の美女ではない』だの、失礼な事を言われ続けいた愛紗にはなおさら嬉しかった。

 

そのうえ、自分が心のどこかで追い求めていた面影を持つ男の言葉は、愛紗の心に深く入り込んだ。

 

「そんな事を言われたのは初めて……いや、そういえばもう一人いたな…。私を美女と言ってくれた男は…」

 

―――――十分美女だと思うけどな…

 

―――――ルフィ殿…鼻をほじりながら言われても、嬉しくありません…

 

「今思えば、慰めでなどではない本心からの言葉だったからこそ、鼻をほじったりしながら言ったのだろうな…」

 

湯船の中で大きく伸びをし、愛紗はルフィとの出会いを思い出す。

 

「そういえばルフィ殿と出会って、もうすぐ一年近くになるのか…。

懐かしいな…。初めて出会った時は、海賊と名乗った瞬間殺そうとして―――っ!」

 

そこで愛紗は突然、ハッとした様子で湯船から立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、愛紗」

 

「ルフィ殿!」

 

ルフィが屋敷の廊下を歩いていると、慌てた様子の愛紗が正面から走って来た。

 

「どうした?」

 

「劉備殿に、義勇軍への協力を断りに行こうと思いまして…!」

 

「え?何でだよ?」

 

「そ、それは……私達には旅の続きがありますから…!」

 

「別にいいじゃねェか、ちょっとくらい」

 

「こ、今回のはいつまでかかるかわからないですし…旅の目的も果たさずに…」

 

「でもお前、山賊退治の為に旅してたんだろ?」

 

「た、確かに私の目的には合っていますが…ルフィ殿には…」

 

「おれは別にいいぞ?」

 

「……っ!わ、私が良くないのです!」

 

愛紗はまるで叱責するように叫び俯く。

 

「私は…ルフィ殿に詫びなければならないのです…!」

 

「?」

 

やがて愛紗は俯いたまま語りだした。

 

「初めて出会った時、私はあなたを殺そうとしました…。

それなのにあなたは私を助け、賊討伐に協力してくれた…。

私はその詫びがしたくて、はぐれたお仲間を探すのに協力を申し出ました…。

ですが…一緒に旅をしている内に、あなたの優しさに甘え…詫びの気持ちを忘れてしまっていました…。

あなたを天の御御遣いとして祭り上げ、私の役に立てようと…ルフィ殿を利用しようと…考えていたのです…」

 

「…………」

 

「劉備殿の義勇軍に協力する事は、私の目的を達する為にはなります…。

ですが…ルフィ殿の仲間を探す為や天の国に帰る為には…遠回りになるばかりで…。

これ以上…ルフィ殿に甘える訳には…迷惑を掛ける訳には…」

 

「……愛紗」

 

「…………」

 

俯いたまま黙り込む愛紗に対してルフィは…

 

「おれ達も、もう仲間じゃねェか」

 

当然の様にそう言った。

 

「…………え?」

 

思わず愛紗は顔を上げる。

 

「おれの仲間の事は―――あいつらの事は気になるけど、きっと大丈夫だ。

それに、あいつらだってここに居たら、お前に力貸すに決まってる」

 

「……ですが、私はあなたに…」

 

「いいんだよ。おれの事利用して」

 

「え?」

 

またしても当然の様に言うルフィにキョトンとする愛紗。

そんな愛紗にルフィは…

 

「もっとおれを頼れよ。おれはお前の仲間で―――兄ちゃんだろ?」

 

そう言って笑いかけるのだった。

 

「あ…」

 

―――――本当に辛かったらいつでもおれを頼って良いんだぞ。おれは愛紗のお兄ちゃんなんだからな

 

「お前もちゃんと出るんだな……涙」

 

「―――っ!」

 

気がつくと愛紗は泣いていた。

それは愛紗が1人になってから、初めて誰かの前で流した涙だった。

 

「……ルフィど……兄う………」

 

愛紗は静かに涙を流しながら、小さく体を震わせ―――

 

「………お兄ちゃん…」

 

力なくそう呟き、ルフィの胸に顔をうずめた。

 

「お兄ちゃん…!お兄ちゃん!お兄ちゃァん!うっ…うう……うわァァァァァ……」

 

その夜、愛紗は武人の関羽雲長ではなく、1人の女の子として泣きじゃくった。

大好きな兄に甘える妹として泣き続けた。

 

 




恋姫無双編、いよいよ最終章です!


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