ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊   作:HAY

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第十二席編です!




第58話 “遠征”

ナミが桃花村義勇軍に加わってから数十日―――

 

雪はすっかり溶け、春爛漫が目の前に迫りつつあった。

 

そんなある日の夕方、ルフィ達は軍議を行っていた。

 

「官軍からの出陣要請?」

 

「ああ。何でもこの近辺の街で、住民がかなり大規模な反乱を起こしたらしい」

 

「…………」

 

劉備から話を聞き、表情を曇らせる愛紗。

民を救いたい一心で戦って来た彼女にとって、民と戦うのは抵抗があるようだ。

 

「討伐隊を何度か向かわせたそうだが、一向に反乱を鎮めることができず、“中郎将(ちゅうろうしょう)”の“朱儁(しゅしゅん)”殿が直接兵を率いて来られる事になったそうだ」

 

「“チュウロウショウ”?」

 

「通常は皇帝陛下の身辺を警護する武官のことです」

 

「そう。その朱儁殿の耳に我らの活躍が届いたらしく、『朝廷に尽くさんという志あらば、我が陣に参ぜよ』と」

 

「漢王朝の偉い人達も、ようやく鈴々達のすごさに気付いたのだ!」

 

「中郎将の朱儁の下か…それって成り上がり者の何進(かしん)の下に着くってことになるよなァ…。

ちょっと複雑だけど…この際だ!大暴れして、腑抜けた官軍どもの目を覚まさせてやるか!」

 

「お目々ぱっちりなのだ!」

 

ブツブツ言いながらも翠はやる気を見せ、鈴々も出陣には乗り気のようである。

 

「それだけ偉い人が来るってことは、活躍したら褒美も期待できるのかしら⁉」

 

「まァ、出陣を拒否する理由はねェな」

 

ナミは目を輝かせ、ゾロも反対はしていないようである。

 

「孔明殿はどう思う?」

 

「そうですね…。おそらく各地で続発す反乱の鎮圧や賊退治に人手をとられ、官軍は猫の手も借りたい状態…。

中郎将直々の出陣といっても、大した兵力ではないのかもしれません…」

 

「成程…それで我らに声をかけてきたというワケか…」

 

「まァでも、偉い奴に『来い』って言われてんなら、行った方が良いんじゃねェか?」

 

「ルフィ殿の言う通りだ!」

 

劉備は勢いよく椅子から立ち上がる。

 

「理由はどうであれ、これはまたとない好機!

ここで華々しい手柄を立てれば、我らの名声はさらに高まる!あわよくば大陸中に広がるかもしれん!

そうすれば我が軍に参ずる者も増え、我が軍はより大きく、強くなれる!」

 

「「「「「「「…………」」」」」」」

 

「あ…そして、それがより多くの人を救うことになる。そうであろう?」

 

呆気にとられるルフィ達を見て、劉備は付け足すように言った。

 

「………!はい!」

 

「では、出発は明日の明朝だ!」

 

「よォし…じゃあ早速兵站(へいたん)の準備にかかるわ!気合入れていくわよみんな!

あ、間違えた。気合入れていくのよみんな!」

 

「「お前は⁉」」

 

ゾロと翠のツッコミが炸裂した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜―――

 

愛紗は一人、風呂に入っていた。

 

「…………」

 

ここ数日、愛紗は義勇軍に入って間もない頃の、ある夜のことをよく思い出していた。

 

―――――関羽殿…もしあなたが…また別の意味で、私をあなたにふさわしい人物だと…私の傍に居てくれるというのであれば…

 

―――――お~い!お前ら~!

 

(なぜ…あの時、逃げたりしたのだ…?別にルフィ見られても…何も…)

 

考えがまとまらなくなり、愛紗は頭を左右にブンブン振って思考を切り替える。

 

「いかんいかん!明日の明朝には出陣するのだ!今はより多くの人を救うため、戦のことを考えるのだ!」

 

自分に言い聞かせると、愛紗は風呂から出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝―――

 

支度を終えたルフィ、ゾロ、ナミ、愛紗、翠が屋敷の玄関に集まる。

劉備は外に待機している兵馬や輜重隊(しちょうたい)の様子を見に行っている。

 

「鈴々と孔明はまだか?」

 

「寝坊でもしたのかしら?」

 

そんなことを言っていると…

 

「はわわ~!鈴々ちゃん風邪なんですから寝てなきゃ駄目ですよ~!」

 

「鈴々はカゼなんてひいていないのだ~…」

 

そんなやり取りが聞こえてきた。

 

「何だ?」

 

「大方寝相が悪くて、布団をかぶっていない状態で寝てしまったのだろう…」

 

「熱があってくしゃみが出て、鼻水垂らしているんだから風邪に決まっているじゃないですか~!」

 

「熱があってくしゃみが出て、鼻水垂らしてても…ずずっ…『何とかはカゼをひかない』って言うからコレはカゼじゃないのだー!」

 

「張飛…何とかって…」

 

「自分で言ってりゃ世話ねェな…」

 

「何言ってるんですか!」

 

朱里は鈴々の正面に立ち、説教するように言う。

 

「『馬鹿は風邪をひかない』っていっても、それはルフィさんやゾロさんぐらいの馬鹿になってからの話です!

鈴々ちゃん程度の馬鹿じゃ、風邪だってひいちゃいます!」

 

「そうよ!一言でバカって言っても、張飛ちゃんのバカとあいつらのバカを一緒に考えちゃダメよ!」

 

「孔明殿、ナミ殿も…言ってる事は間違っていないが、もう少し言い方を…」

 

「そうだよ。いくら本当の事でも、本人達の目の前でハッキリ言うのは…」

 

「テメェら好き勝手言いやがって‼」

 

「まァ確かに、カゼなんてひいたことねェけどな」

 

朱里をはじめ、皆揃ってひどい事を言う。

本当の事だが…。

 

「鈴々はずっとルフィと愛紗と三人で一緒に戦って来たのに、二人だけ出陣して鈴々だけお留守番なんて絶対に嫌なのだ!」

 

「鈴々…気持ちはわかるが、そんな体で出陣するワケにはいかんだろう?」

 

「そうだぞ。却って足を引っぱ…」

 

「行くったら行くのだァーっ!鈴々はずっと…ルフィと…愛紗と…一緒にィ…」

 

そう言いつつも、ふらついてしまう鈴々。

 

「ほら、熱があるのに無理をするから…こんな状態で戦に行くなんて無理ですよ」

 

「そ、そんなことないのだ…鈴々は…」

 

「張翼徳!」

 

「!」

 

愛紗に真名でない名前で呼ばれ、面食らう鈴々。

 

「お主に任務を与える!我らが出陣している間、ここに残り村を守ってくれ!」

 

「…………」

 

(なるほど…)

 

「私も残ります!」

 

「孔明ちゃん?」

 

「戦が長引いた場合に備え、食料を用意して村の守備につきます!」

 

「孔明…」

 

「わかった。劉備どのには私から伝えておく」

 

「村の警備なんて、張飛には荷が重いんじゃないか?」

 

「馬超は黙っているのだ!」

 

「張飛、留守を頼んでもいいか?」

 

「……わかったのだ。愛紗の頼みなら鈴々は残って村を守るのだ…」

 

((ほっ…))

 

その様子を見てナミと朱里は安堵の息をつき、ルフィ達も安心する。

 

「よし!それでこそ我が義妹だ!」

 

「!当然なのだ!村は鈴々に任せておくのだ!」

 

愛紗の言葉に鈴々も笑顔を取り戻す。

 

「鈴々…」

 

「?」

 

「早く元気になれ」

 

耳元でささやく愛紗。

 

「!………♪」

 

「よし!じゃあ鈴々!」

 

ルフィも鈴々に歩み寄り…

 

「?…わっ⁉」

 

「村のこと、頼んだぞ!」

 

そう言って自分の麦わら帽子を被せる。

 

「……わかったのだ!……ああァ……」

 

「鈴々!」

 

「鈴々ちゃん!」

 

「おい!大丈夫か⁉」

 

気が抜けたのか、鈴々はその場に座り込んでしまう。

 

「私、鈴々ちゃんを部屋に寝かせてきます!」

 

「すまない。孔明殿、鈴々を頼む」

 

「はい、任せて下さい!」

 

朱里に支えられ、鈴々は部屋へと戻って行った。

 

「じゃ、私達も行きましょうか」

 

「ん?ナミ、結局お前来るのか?」

 

「当たり前でしょ!孔明ちゃんが張飛ちゃんの看病でここに残るなら、私が軍師やるしかないでしょ!」

 

「あ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かくして鈴々と朱里、そして必要最低限の警備の兵を残し、桃花村義勇軍は出発した。

 

ちなみにルフィ達は、もともと運動神経が良いからか、元の世界でチョッパーやカルガモなどに乗った経験があるからか、問題なく馬に乗れている。

 

「わかりました。では、張飛殿と孔明殿抜きで戦いましょう」

 

「申し訳ない…」

 

「いえいえ、仕方のないことです」

 

劉備は愛紗には笑顔でそう言ったが…

 

「…チィッ……」

 

前を見た瞬間、露骨に不愉快そうな顔をした。

 

「…………」

 

やはり鈴々のことが気になるのか、愛紗は心配そうに村の方を振り返る。

 

「どうした関羽?」

 

「……いや、何でもない…」

 

「……よし!さっさと行って、さっさと終わらせて、さっさと帰ろう!」

 

「……!はい…!」

 

ルフィの言葉で、愛紗は気持ちを持ち直すのだった。

 

「それにしても、ルフィが帽子を預けるなんてね…」

 

「あの帽子がどうかしたのですか?」

 

ナミの言葉が気になり、問いかける愛紗。

 

「あの帽子、昔ルフィが友達から預かった大切な物らしくてね、大抵の奴だったら、帽子に触るだけですっごく怒るのよ」

 

「そうだったのですか…」

 

そうして義勇軍が進む中…

 

「何だ?遠征か?」

 

近くの茂みから、怪しい人影がその様子を見ていたことに、誰も気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし!これで準備は良いな?」

 

しばらくして、遠征軍の集合場所に着いたルフィ達は陣の設営を済ませていた。

 

すでに日は傾きかけている。

 

「あらルフィ、それに関羽も」

 

「「!」」

 

聞き覚えのある声で呼びかけられ、2人が振り向くと…

 

「華琳!」

 

「曹操殿、お久しぶりです」

 

「そうね。…関羽、相変わらず上も下も美しいわね」

 

「⁉」

 

華琳の言葉に寒気を感じる愛紗だった。

 

「お前も来ていたのか」

 

「ええ。まァ今回は大した事じゃなさそうだから、連れてきたのは桂花と香風だけだけどね」

 

「おーい!関羽~!ルフィ~!馬の準備おわ…」

 

…と、そこへ翠がやって来た。

 

「!曹操!」

 

「…馬超…久しぶりね…」

 

「ん?お前ら知り合いか?」

 

「ええ、ちょっとしたね…」

 

「…曹操、今少し時間良いか?」

 

「何?いつかの件で詫びでもしたいのかしら?」

 

「それもあるけど、それ以上に知っていてもらいたい事があるんだ…」

 

「?知ってもらいたい事?」

 

 

 

 

 

 

「韓遂が⁉」

 

翠は、西涼に帰った際に知った、馬騰の死の真相を華琳に話した。

 

「…それは本当なの?」

 

「ああ…他でもない韓遂本人が言っていた。間違いない」

 

「そう…」

 

「曹操殿!」

 

「⁉」

 

地面に座り込み、頭を下げる翠。

 

「この度は…本当に申し訳なかった…!全部涼州の…あたしの身内のせいで…あなたにたくさんの無礼を…」

 

「……馬超、頭を上げてちょうだい。詫びなければならないのは私の方よ」

 

「え…?」

 

「私はその夜、馬騰殿達と一緒に宴席に出ていた…馬騰殿が落馬した現場にいち早く駆け付けたのも私の部下だった…。

私があの時ちゃんと調べていれば、すぐにでも真相は明らかになった…。

あれを事故だと決めつけてしまった、私の責任よ…」

 

「曹操……寛大な心遣い…感謝します…」

 

「私もそう言ってもらえると助かるわ…。この話はこれで終わりにしましょう」

 

「ああ…ありがとう」

 

「そちらにおられるのは、どなたですか?」

 

「「「「!」」」」

 

劉備がやって来た。

 

「劉備殿!」

 

「あなたは?」

 

「私はこの義勇軍を率いる“劉備玄徳”と申します」

 

「あなたが……私は“曹孟徳”よ」

 

「おお!あなたがそうでしたか!評判はかねがね伺っております!」

 

「…そう」

 

「しかし、噂通り可憐なお方ですなァ!」

 

「…褒めていただき感謝するわ」

 

華琳は口ではそう言いつつも、どこか劉備のことが気に入らないのか、表情は不機嫌そうだった。

 

「華琳様~…!あ、あんた達…!」

 

「あ!お兄ちゃん」

 

「おー猫耳!香風も久しぶりだな~!」

 

「うん!久しぶり!」

 

「桂花、どうかしたの?」

 

「は、はい!朱儁殿が軍議を開くので、天幕にお集まりくださいとのことです」

 

「わかったわ。桂花、香風、あなた達も来なさい」

 

「はっ!」

 

「はーい!」

 

「関羽殿、ルフィ殿、我々も向かいましょう!」

 

「はっ!」

 

「わかった!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~朱儁の天幕~

 

参陣した各軍の総大将、軍師、副将が合わせて十人ほど集まっていた。

 

それぞれが座っている席の上座に、銀髪で愛紗よりもやや年上の女性―――朱儁が座っている。

 

華琳は朱儁に一番近い席に座り、その後ろには桂花、香風が立っている。

劉備は一番端の席に座り、ルフィと愛紗はその後ろに待機している。

 

「皆揃ったな。ではこれより軍議を始める。曹操、現状と見解を」

 

「はっ!反乱軍のこもる山は道が狭く、崖も険しく攻めにくい地形であり、まさに天然の要害。

正面から攻めても、いたずらに犠牲を増やすばかり。故に、まずは山を包囲し兵糧、水の補給を断つのが上策かと」

 

華琳は立ち上がり献策する。

 

「ふむゥ…」

 

「そもそも此度の反乱は領主の苛斂誅求(かれんちゅうきゅう)が原因とのこと。

兵糧攻めで相手の士気が下がったところで、これまでの施策の誤りを認め、『降伏した者は罪一等を減ずる』と告げれば、大半は山を下り降伏する筈。

上手くいけば戦うことなく乱を治められるかと」

 

「……手ぬるいな」

 

「!…手ぬるいとは?」

 

「朝廷に盾突いた者の降伏を認めるなど、手ぬるいにもほどがある!それにこれ以上時間をかけては、朝廷の威信に傷をつける!

悠長に兵糧攻めなどせず、一気に攻め滅ぼせ!」

 

「しかし正面からの攻撃はあまりにも無謀…!」

 

「反乱軍など所詮は烏合の衆。首謀者さえ討ちとれば後は何とでもなろう」

 

(その首謀者は天然の要害と大勢の反乱兵に守られているんでしょうが…!)

 

華琳の後ろにいる桂花も腹を立てる。

 

「どうじゃ?誰か明日の先陣を切り、敵将の首を揚げてこようという者はおらぬか?」

 

朱儁はそう問いかけるが、全員策の無謀さを理解しているため、黙り俯く。

 

「功名を立てるまたとない機会じゃぞ?」

 

「「…………」」

 

愛紗は元々発言権のある立場ではないため黙り、ルフィは途中から話が理解できなくなったため、口を閉じている。

 

しばらくの沈黙の後…

 

「朱儁将軍!」

 

「「「「「「「「「「!」」」」」」」」」」

 

「恐れながらそのお役目、この私めにお命じ下さい!」

 

劉備が立ち上がった。

 

「お主は…」

 

「義勇軍の“劉備”、字は“玄徳”と申す者でございます!」

 

「…?お主が“劉備玄徳”なのか?」

 

「はい。何か?」

 

「……まァよい。明日の先陣となり、敵将の首を揚げてくれるのか?」

 

「もちろん!この劉玄徳、身も心も朝廷に捧げる所存!

その朝廷に弓退く敵が、たとえ何千、何万いようとも、決して恐れたりなどいたしませぬ!」

 

劉備はそう言いながら朱儁の前に進み出る。

 

「…………」

 

華琳はそんな劉備を毛嫌いするように見る。

 

「よくぞ申した!では、明日の先陣はお主に命ずる!

お主の手勢に我が官軍の兵三千を貸し与えよう!賊軍を蹴散らしてまいれ!」

 

「はっ!閣下のご期待に応え、必ずや賊将の首を揚げてご覧に入れましょう!」

 

「うむ。……ふむゥ……」

 

劉備の顔をまじまじと見つめる朱儁。

 

「見事勝利した暁には、お主を官軍の将として、妾の側近としよう。

その後の働き次第では、新しい中郎将として何進将軍に推薦してやっても良いぞ」

 

劉備の二枚目の顔が気に入ったのか、頬を赤らめそう言う朱儁。

 

「おお!ありがとうございます!」

 

こうして軍議は終了した。

 

 




アニメ版の何進さん、今作では朱儁さんとして登場していただきました。


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