ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊 作:HAY
軍議後、義勇軍の天幕。
「夜明けと同時に真正面から攻撃する⁉」
軍議の内容を聞き、ナミは訳がわからないといった感じの声をあげた。
「何でそんな無茶苦茶な命令を引き受けるのよ⁉」
「だが聞いた限りじゃ、誰かがそう言わねェ限り、軍議が終わらなかった様な気もするな…」
「そういう意味じゃ懸命な判断ともいえるか…」
「まァまァ、官軍の兵が三千も加わるのですし…」
「その官軍の兵ってアテになるの?」
「おれも少し見てきたが、武器と鎧が立派なだけで、やる気も腕もねェろくでなしが大半だったぞ」
「まァ、今の朝廷の兵は戦の経験がない奴や、酒や女で遊んでいる奴が多いからな…」
後ろ向きな考えばかりが飛び交っていた。
「なァ、さっき華琳が言っていた“カレーちゅうちゅう”って何だ?」
「“苛斂誅求”。民の都合を考えずに税をとることです。
正規の兵や役人、政務官などは、民の平穏を守る代わりに、税として民の生産物を貰う権利があるのですが、税の量は領主が自分で決められるのです。
おそらく、自分達の贅沢の為に重い税を掛けたか、不作の年に例年と変わらない量の税をとっりしたため、民は生活が苦しくなり、反旗を翻したのでしょう」
「何だそりゃ⁉じゃあ悪いの領主じゃねェか!」
愛紗の説明を聞き、大声をあげるルフィ。
「おい!おれ達あいつらの味方していいのか⁉」
「朝廷に命じられた以上、動かぬ訳にはいきませぬ。
それにこの戦で手柄を立てれば、後々我々が正式な領主となり、民を暴政から救う事もできるかもしれないのですよ」
「……ふーん…」
劉備の説明を聞いても、ルフィは納得ができないらしい。
「それに、我々が偉くなれば、金も肉も大量に手に入りますよ…」
「へーそう…」
「…………意外だな。あたしもてっきり、肉の事出せば納得すると思ってたんだけど…」
「まァ、あいつは基本、やりたくねェ事はやらねェ主義だからな…」
▽
一方桃花村、拠点の屋敷。
「さァ鈴々ちゃん、これを飲んでください」
鈴々は自室の寝台で、朱里の看病を受けていた。
「孔明、これ何なのだ?」
「“
「“ミッカソウ”?」
「動物の死骸に寄生して、一日で芽を出し、二日で葉を茂らせ、三日目に花を咲かせることから“三日草”って呼ばれているんです」
「何かヘンな臭いがするのだ…」
「薬には花を使うんですけど、四日目には枯れてしまうので、滅多に見つからない貴重な薬草なんですよ」
「貴重な薬草…」
朱里の心遣いを理解した鈴々は…
「…んっ!」
一気に飲み干す!
「ぷはーっ!まっずーい!」
「鈴々ちゃん、もう少しありますけど飲みますか?」
「飲むのだ!」
「はい!」
▽
義勇軍の陣。
すっかり日が沈み暗くなった頃、愛紗は近くの水辺に佇み、月を見ていた。
(兄者……世の中を変える方法が…道が見えてきました…。どうか私達を見守っていてください…)
「関羽殿」
「!劉備殿」
「そろそろ明日の作戦会議をしたいので、来て頂けますか?」
「わかりました」
「……関羽殿」
「!」
劉備は愛紗が寄り掛かっていた木に手をつき、正面から見つめる。
「りゅ、劉備殿…!」
「私には…あなたしかいません…」
「⁉」
「ずっと…私の隣にいて下さい」
「そ、そんな事…」
もう片方の手で愛紗の肩を掴む劉備。
「契りの証を…」
「………っ⁉」
肩をなでながら、顔を、唇を近づける劉備。
…が
ドン!
「うおっ⁉」
唇が重なる寸前で、愛紗は劉備を突き飛ばした。
「とととと…っ⁉」
池に落ちそうになる劉備。
「も、申しわけありませ~ん!」
愛紗は全速力でダッシュし、逃げ去った。
「か、関羽殿⁉」
そう叫ぶと同時に劉備はこらえきれなくなり、池に落っこちた。
▽
(な、何をやっているのだ私は~⁉)
仮にも主君である劉備を突き飛ばしてしまった事に対する罪悪感で、愛紗は頭を抱えていた。
(あとでちゃんと謝らなければ…。
だが、あのような事をされるのはやはり困る…劉備殿はあくまでも主君であって、そういうのは彼とではなく……。
……
そう考えた瞬間、頭の中に1人の男の顔が浮かぶ。
この1年間苦楽を共にしてきた男の顔が。
「⁉」
同時に自分の顔が熱くなるのを感じ、思わず両頬に手を添える。
(な、何だコレは⁉わ、私は一体どうしてしまったんだ~⁉)
▽
某所
沢山の焚火、篝火が焚かれ、その周囲に見るからに質の悪そうな連中が大勢集っていた。
「お頭方ァ~!念の為もう一度見てきましたが、義勇軍の奴ら本当に出払っている様です!」
「主力の将達や、例の天の御遣い共の姿も見えませんでした!」
「残っているのは村人、それも老人、女、子供がほとんど!見張りの兵も大した数じゃないですぜ!」
「そうか…」
その話を聞き、男達は不気味な笑みを浮かべる。
そのほとんどは、かつて桃花村義勇軍に敗れた賊の頭目、残党達だ。
「やっと好機が来た様だ…」
「粘り強く待っていた甲斐があったぜ…」
「今夜こそあの時の恨み…晴らしてやる…」
「戻ってきたら拠点を奪われているのは、今度はあいつらの番だ!行くぞ者共ォ!」
「「「「「「「「「「おおおおおっ!」」」」」」」」」」
悪意、恨みの大群が桃花村に牙を剝こうとしていた。
▽
桃花村義勇軍の陣、劉備の天幕。
「では作戦会議を始めましょう」
ルフィや愛紗ら主力の将達が揃い、軍議を行っていた。
劉備は一応服は着替えたが、まだ髪が濡れている。
「明日の出陣ですが、まずルフィ殿は基本的に自由に動いて構いません」
「あっそ…」
((まだ納得してないのか…))
「それで、関羽殿には張飛殿の隊も率いて貰い…」
「劉備殿ォ!」
義勇兵が一人、天幕に駆け込んできた。
「どうした?」
「村が…桃花村が賊の大群に襲われました!」
「何⁉」
「「「「「⁉」」」」」
「たった今村から着いた伝令によりますと、相手は何千人もいるとの事…。
おそらくは、今までに退治した賊の残党どもが結託、さらに手勢を増やして襲って来たのではないかと…」
「クソッ…!それで?」
まるで面倒くさそうに聞き返す劉備。
「ちょ!あんたそれでって…!」
「孔明殿が指揮を執り、屋敷に村人を避難させ、防戦しているそうですが『何時までもつかわからない。至急増援を請う』との事です!」
「なんてこった!」
「おれ達がいなくなるのをずっと狙ってやがったのか…!」
「おいヤベェぞ!急いで戻らねェと!」
「劉備殿!急いで村に戻りましょう!」
一同は慌てふためくが…
「…………」
「どうしたのです⁉早く村へ…!」
「いや、村には戻らない」
「「「「⁉」」」」
「何を言っているのです⁉急がないと!こうしている間にも村が…!」
「大丈夫。櫓に掘り、村の守備は万全なのですし、張飛殿もいるのですから…」
「それで持ち堪えられそうにないから、援軍を求めてきたんでしょうが⁉」
「張飛だって、病気で戦えそうにないから置いて来たんだぞ!あんた話聞いてなかったのかよ⁉」
「大丈夫ですよ。孔明殿が…」
「伝令!」
酷く負傷した義勇兵が一人、大慌てで駆け込んで来た。
戦の真っただ中の桃花村から来た様だ。
「賊どもは村の外堀を突破!至急救援を……」
そこまで言った所で、力尽きて倒れてしまう。
「おい!しっかりしろ!」
「すぐに手当てを!」
「……!劉備殿!お願いです!急いで村に増援を!」
居ても立ってもいられなくなった愛紗は、必死に劉備に懇願する。
しかし…
「だが、我らは明日の先陣を承っている…!」
「しかし…!」
「明日の戦で功を立てれば、官軍の将になれるのだぞ!それも皇帝陛下直属の武官、中郎将の朱儁殿の―――」
ドゴォォォン!
「⁉」
次の瞬間、劉備はルフィに殴り飛ばされた。
「…………」
「……る、ルフィ殿…?」
「……おれは頭が悪いから…」
ルフィは床に転がった劉備を睨みつけながら言う。
「官軍とか将軍とか、全然わかんねェよ。でもな…」
「…?」
「おれ達が一番やんなきゃいけない事ぐらい、おれにだってわかるぞ‼」
「ひっ…⁉」
そう怒鳴ると、ルフィは天幕から出て行こうとする。
「る、ルフィ殿…ど、どちらに…?」
「明日の出陣、おれは好きに動いていいんだろ⁉」
そう言ってルフィは走り去っていった。
「ま、待って下され!いくらあなたでも、一人で行っては自殺する様なものですぞォ!」
そう外に向かって叫ぶ劉備の背後に…
「じゃあ2人で行ってくる」
「ゾロ殿⁉あ、あなたまで…⁉」
「おれは元々船長について来ただけだ」
そう言うとゾロは劉備の胸倉をつかみ…
「てめェみてェなフザけた奴の手柄や出世の為に!
「⁉」
そう怒鳴ると、劉備を投げ捨て出ていく。
「…そうね。私も船長の意思に従うわ」
「ナミ殿⁉ま、待って下され、明日手柄を立てれば報酬はきっと思いのまま…」
「報酬は確かに魅力的よ。私はお金が大好きだもの。でもね…」
「…?」
「アンタの事は大っ嫌いなのよ‼」
「⁉」
そう言い捨てるとナミも出て行った。
「し、仕方ないですね…。村の事はルフィ殿達に任せて、我々は…」
「……劉備殿は…村の事は気にならないのですか?」
開き直って軍議を行おうとする劉備に愛紗は問いかける。
「確かに拠点を失うのは辛いですし、屋敷に貯め込んだ軍資金や食料などを、賊に奪われるのも悔しいですが…」
「っ!私が言いたいのはそんな事ではない!我々が村を見捨てたら村人達がどうなるのか、それは考えないのですか⁉」
「関羽殿、あなたの言いたい事もよくわかります。
しかし世の中を変え、より多くの人々を救う為には、より大きな力が必要なのです」
いつもの優男の表情を浮かべ、劉備は愛紗に正面から話し掛ける。
「関羽殿、大義のために、私の為に傍で尽くしては貰えぬか?」
「っ!」
「村はルフィ殿達に任せて、我々の輝かしい大義のために、私と共に戦って欲しい」
愛紗の両肩に手を添える劉備。
「…………」
「私の事だけを考えて、私の…私達の大義の為に……天下の万民の為に……村の事は仕方のない犠牲だと…」
パァン
次の瞬間、愛紗の平手打ちをくらい、劉備はまたしても床に転がった。
「お見事♪」
そして愛紗も天幕を出て行こうとする。
「ま、待って下され!あなたまでいなくなっては、明日の戦はほぼ確実に負け戦になってしまいますぞ!
そうすれば我らの大義が叶う日が遠のいて…」
「…あなたの大義が何を指しているのかは、私にはわからぬ。だが、私には私の志がある!」
「⁉」
この時愛紗は、完全に理解してしまっていた。
この男と一緒にいても、自分が望む世界は実現しないという事を。
「私の志は真に愛する価値があるものを守り抜く事だ!」
愛紗は出て行った。
「ま、待ってくれ…!」
「あたしも抜けるぜ♪」
翠も出ていき、一人残された劉備はガックリと肩を落とすのだった。
▽
(鈴々!孔明殿!みんな!どうか無事でいてくれ!)
愛紗が馬に飛乗りしばらく走っていくと、同じ様に馬に乗ったナミに追いついた。
「ナミ殿!」
「関羽さん!来たの⁉」
「当然!」
「あたしも来たぜーっ!」
「馬超さん!」
「敵は何千もいるというが、大丈夫だろうか⁉」
「大した事ないわよ!私達のいた世界では―――天の国ではもっと沢山の、もっとやばい連中と戦って来たんだから!」
「頼もしいですな!」
「当然よ!天の御使い様に任せなさい!」
「そうさ!あたしと関羽だってかなり強いんだし、それにゾロ達が……あっ!」
「馬超?」
「どうしたのよ?」
「あいつら……ちゃんと村に辿り着けているのか⁉」
「「あ…」」
▽
同刻、曹操軍の陣、華琳の天幕。
「まったく!何なのかしらあの劉備って奴は⁉」
華琳はえらく不機嫌そうな様子で、お茶をがぶ飲みしていた。
本当なら酒を飲みたい所なのだが、出陣中である為流石に自重していた。
隣にいる桂花と香風は、黙ってその様子を見ている。
「関羽の様な者があんな奴を選ぶだなんて…」
『アレェ⁉ここどこだ⁉』
「!」
不意に天幕の外から聞き覚えのある声が聞こえた。
「あの声は…」
「お兄ちゃん?」
▽
「成程、拠点である村が賊の大群にね…」
「それで道に迷ってここに来たと……馬鹿なの?」
「お兄ちゃん…方向音痴…」
気になって天幕に招き入れてみると、案の定入って来たのはルフィだった。
ルフィは事の次第を華琳に伝えた。
「なァ、お前ら桃花村どっちにあるか知らねェか⁉」
「一応、この辺りの地理は把握しているけど…」
「じゃあどこにあるか教えてくれよ!」
「それは構わないけど…良いのあなた?」
「何が?」
「あなたの義勇軍、明日の先陣を承っているんでしょう?」
「知るかそんなの!村の為だっていうから協力してたけど、もー頭にきた!大っ嫌いだあんな奴!」
「関羽達の事は良いの?」
「ああ、大丈夫だよ。あいつらは死んだりしねェし、もうあんな奴に協力したりしねェよ」
「…その桃花村っていう村、そんなに大事なの?」
「当たり前だろ!あの村には友達が何人もいるんだぞ!」
「友達?」
「ああ!張世平のおっさんに、鈴々の友達に、肉屋のおばさんに、魚屋のおっさんに、農家のおっさんに…」
「…前々から聞きたかったんだけど…」
「何だ?」
「あなた……前に『海賊王になる』って言っていたわよね?」
「ああ」
「その為に、ここで関羽達と一緒に戦う必要があるの?」
「いや。たぶんねェ」
「じゃあどうしてこんな所で寄り道しているのよ?余計な事しないで、必要最低限の事だけやっていた方が…」
「ダメだよ。そんなんじゃ」
「?“駄目”?」
「そんなの…おれのなりてェ海賊王じゃねぇし、余計な事やったらダメな様じゃ―――やりたい様にやれねェ様じゃ、どうせ海賊王になんてなれねェよ」
「……そう…」
ルフィの返答を聞いた華琳は、どこか満足そうな表情を浮かべ…
「香風、あなた兵を連れて見回りに行ってらっしゃい」
「?見回り?」
「道順はあなたに任せるわ」
「……見回りの途中で賊に出会ったらどうすれば良い?」
「それはあなたの判断に任せるわ」
「うん。わかった」
香風はにっこりと笑って返事をし、華琳の意図を理解したルフィも笑みを浮かべる。
「何しているの?さっさと行きなさい、命令よ」
「はーい!」
「ありがとう華琳!恩に着る!」
「あなたも、土下座している暇があったらさっさと行きなさい。急いでるんでしょう?」
「お兄ちゃん!」
「おう!」
2人は天幕を出て行った。
「……何なんですかあの男?」
「あら?桂花はルフィが気に入らないのかしら?」
「当然です!軽々しく頭を下げ、口を開けば友達だの好き嫌いだの…劉備の言動の方がまだ理解できます」
「そうね。彼の思考はまるで子供のように単純だわ。
―――でもだからこそ、もっとも根本的な事や基本的な事を、ちゃんと理解できているのかもしれないわ」
「……はあ…」
「あと、軽々しく頭を下げる事と、躊躇いなく頭を下げる事は似て非なるものよ」
「……はい…」
「…それにしても…」
「?」
「やっぱり欲しいわね、あの男…♡」
「⁉か、華琳様⁉」
頬をかすかに朱に染めてそう言う華琳を見て…
(あ…あのサル~~~‼)
激しく嫉妬の炎を燃やす桂花だった。
アニメだと華琳の所に行くのは翠なのですが、今作では2人の関係がだいぶ変わっているので、同じだとちょっと違和感がありました。
そこで、思い切って話を大きく変えることにしました。