ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊   作:HAY

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第6話 “鈴々山賊団頭領 張飛翼徳”

鈴々山賊団がアジトにしている山小屋へ続く山道―――

 

「一本杉を左だったな」

 

ルフィと関羽は庄屋達と『鈴々山賊団を退治したら、その後の処罰は関羽達に任せる』という条件で話をつけ、山賊団のアジトである山小屋へ向かっていた。

 

「あとは真っ直ぐだったな」

 

「…………」

 

「どうした?」

 

「いえ…先程の庄屋殿達が…」

 

「?」

 

「『絶世の美女という噂だったのに』と言っていたのが…ハァ…」

 

「十分美女だと思うけどな…」

 

「ルフィ殿…鼻をほじりながら言われても、嬉しくありません…」

 

ビュン!

 

「うおっ⁉」

 

「⁉」

 

突如、前方から小石が1つルフィに向かって飛んできた。

とっさに躱したルフィが関羽と一緒に前を見ると、近くの木の上に男の子が1人、大量の小石を抱えて立っていた。

 

「ここから先は鈴々山賊団の縄張りだ!役人の手先はとっとと帰れ!」

 

そう言って2人に石を投げつける!

 

「わっ!コラッ!止めろ!危ないだろ!」

 

「よっ!はっ!」

 

関羽は青龍偃月刀で石を防ぐ。

ルフィの方はゴム人間であるため、石くらい当たっても何ともないが、わざわざ当たってやる理由もないため避ける。

 

「このォ!親びんの所へは行かせないぞ!」

 

「ええい!面倒だ!」

 

関羽はそう叫ぶと石を避けつつ走り、その子が登っている木を切り倒す!

 

「うわァ!」

 

「よっ!」

 

そして、ルフィは落ちてきた子をキャッチする。

 

「……助かった…」

 

気が倒れるのを見た男の子は、地面に落ちずに済んだ事に胸をなでおろす。

 

が…

 

「それはどうかな?」

 

「にしししし!捕まえたぞ!」

 

「!」

 

背後で自分の首根っこを掴むルフィと、目の前で仁王立ちしている関羽に気づき、青ざめるのであった。

 

特に関羽はどす黒い笑顔をしていたそうな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なァ関羽、アイツついて来てるぞ」

 

「わかっています。無視しましょう」

 

先程の子供に軽くお仕置きをした後、2人はまた山道を歩き出した。

 

2人の会話からもわかるように、その子は後をつけて来ていた。

 

ガサッ

 

「「ん?」」

 

「や~い、ば~か!」

 

「サ~ル!」

 

「間抜け~っ!」

 

「アホ~っ!」

 

すると今度は女の子が4人現れ、悪口を言いだした。

 

「何だ?」

 

「おそらく我らを挑発しようとしているのでしょう。まァこういうのは気にせず、落ち着いて…」

 

「年増~!」

 

「おばさ~ん!」

 

「何だとォ⁉」

 

「お前今、“落ち着け”って言ったよな⁉」

 

自分で言っておきながら関羽はあっさりと挑発に乗り、ずかずかと前に出る。

 

「ガキ共ォ…ん?」

 

ふと地面を見ると、何かを隠すように葉っぱが敷かれている。

 

「成程、落とし穴か。子供にしてはよく考えたな…。だが、そのような罠に引っかかる関雲長ではない!トウッ!」

 

そう言うと関羽は、葉っぱが敷かれていた地面を軽々と飛び越え…

 

ズボッ

 

「な~~~~~⁉」

 

その先に巧妙に隠されていた、もう1つの落とし穴に落ちた。

そう、関羽が気づいた方は、その後ろの落とし穴に気づかせない為の囮だったのだ。

 

「引っかかった~」

 

「親びんの言った通りだ~」

 

「でも、もう一人いるよ…」

 

「あ…」

 

「ど、どうしよう…」

 

「お~い、関羽~。だいじょ…」

 

ズボッ

 

「うお~~~~~⁉」

 

「「「「え~~~⁉おとり用に、わざとわかりやすく作った方に落ちた~~~⁉」」」」

 

相手が想像以上に間抜けだった事に、驚く子供たち。

 

「と、とにかく二人ともやっつけたぞ!」

 

「どうする?埋めちゃう?」

 

「その前におしっことかかけちゃう?」

 

自分たちの勝利を確信し、そんな事を話し合うが…

 

「あ~ビックリした」

 

「くっ…関雲長、一生の不覚…」

 

「え…?」

 

「うそ…もう出てきた…」

 

あっさり脱出されてしまった。

 

「さてと…じゃあ…」

 

「お仕置きだな…」

 

「「「「ヒィィィィィ⁉︎」」」」

 

山に悲鳴が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

そして、2人に拳骨や雑巾絞りなどのお仕置きをされ、子供達はすっかり大人しくなった。

 

「お、親びんは…お前らなんかに負けたりしないからな!」

 

その内の1人が、負けじと叫んできた。

 

「わかったわかった。鈴々の事は悪い様にはしないから、お前達は村に帰れ」

 

「ほんとに?」

 

「親びんを役人に渡したりしない?」

 

「しない?」

 

「ああ、しねェよ」

 

心配そうに訊ねる子供達に対し、ルフィは腰を下ろし笑いながら答えた。

 

「……ねェ、帰ろう?」

 

「……うん、そうだね」

 

「帰ろ帰ろ」

 

ウソではないとわかったのか、子供達は村の方へ帰っていった。

 

そして、帰り際に振り返り…

 

「「「「「デ~ブ!ブ~ス!バ~カ!サ~ル!間抜け~!ババア~!お前らなんか親びんにやられちゃえ~!」」」」」

 

そう言い残すと一目散に村へと走っていった。

 

「「…………」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから2人は再び歩き出した。

 

「まったく…あの悪ガキどもは…」

 

「いい奴らだな~」

 

「はァ⁉」

 

「親分のために、あんなに一生懸命になってよ。親分もいい奴なんだろうな~。おれ達がアイツらやっつけたって知ったら、きっとスゲー怒るぞ」

 

「………まァ…そうかもしれませんが…」

 

「?」

 

「けど、ババアというのは…!確かにあの子らよりは年上かもしれませんが、まだそこまでの年齢では…!」

 

「お前、さっきからソレばっかり気にしてるよな…」

 

関羽の年齢への拘りに呆れ気味になるルフィだった。

 

「あ」

 

「!」

 

そんな事を話している内に、ついに山賊団のアジトである山小屋に着いた。

山小屋の前には、以前子豚に乗っていた少女がいる。

 

「ルフィ殿、ここは私に任せて貰えませぬか?」

 

「わかった」

 

ルフィから許可を得ると、関羽は一歩前に出て少女に話しかける。

 

「お主が鈴々か?」

 

すると少女が怒ったように話す。

 

「“鈴々”は真名なのだ!お前なんかに呼ばれる筋合いはないのだ!」

 

「“マナ”?」

 

聞き慣れない言葉にルフィは首をかしげるが、関羽と少女は構わず話を続ける。

 

「そうか…では改めて問おう。お主、名は何と申す?」

 

「我が名は“張飛(ちょうひ)”!字は“翼徳(よくとく)”!泣く子も泣き出す鈴々山賊団の親びんなのだ!」

 

「張飛とやら、お主の手下は全員村に追い返したぞ」

 

「⁉︎鈴々の友達に何をしたのだ⁉︎」

 

「な~に、ちょっとしたお仕置きをな」

 

「おのれ~!仲間のかたき!十倍返しなのだ~!」

 

そう言うと張飛は自分の身長の倍は長さがある武器、“丈八蛇矛(じょうはちだぼう)”を構える!

対して関羽も青龍偃月刀を構える!

そして両者はほぼ同時に走り出す!

 

「おりゃーーーーーっ!」

 

「ハァーーーーーッ!」

 

両者の得物がぶつかり合い、重々しい金属音が響き渡る!

 

「(…なんて力だ!力押しでは不利だな!)ハァ!」

 

張飛の一撃は外見からは想像できないほど重く、関羽は正面から受け止めず受け流すように攻撃をかわし、偃月刀を振り下ろす!

 

「うおりゃーーーーー!」

 

しかし張飛は関羽の攻撃を受け止めて上に跳ね除け、横に蛇矛を振るう!

その一撃を関羽は背後に飛び退いて躱し、距離を詰めて連続で刺突を繰り出す!

 

張飛はその全てを受けきり、反撃に出る!

 

そして2人は何合、何十合と打ち合うが勝負はつかない。

いつの間にか日は沈み、月が高く昇っていた。

 

「ハァ…ハァ…」

 

「ハァ…ハァ…」

 

両者とも肩で息をしている。

 

「うおおおおお!」

 

「てりゃあああああ!」

 

2人は距離をとった後、再び互いに向かって突っ込み―――

 

「“戦塵(せんじん)”……“颶風(ぐふう)”‼」

 

「“蛇矛(じゃぼう)”……“槍打(そうだ)”‼」

 

必殺の一撃を放つ!

 

ガキィィィィィン!!

 

しかし、それでも決着はつかない。

 

両者はしばらく武器を交えたまま動かなかった。

 

「………惜しいな」

 

数秒の沈黙の後、関羽が口を開いた。

 

「…?何がなのだ?」

 

「これ程の強さを持ちながら、やっているのが山賊の真似事とはな…」

 

「…!よ、余計なお世話なのだ!」

 

「…張飛よ。お主、幼い頃に賊に両親を殺されたそうだな」

 

「…⁉そ、それがどうしたのだ⁉」

 

「…私も、幼い頃に家族を失った…村が戦に巻き込まれ、父も母も、そして兄者も…」

 

「………!」

 

「…………」

 

その言葉に張飛だけでなく、ルフィも関羽の話を真剣に聞き始める。

 

「私は思った…『こんな悲しみを他の誰かに味合わせたくない』『二度とこんな事が起きない世の中にしたい』とな…」

 

「そ、それが鈴々と何の関係があるのだ⁉」

 

「お主は変えたいと思わぬのか⁉何の罪もない人々が戦に巻き込まれ、賊に襲われ、飢えや病に苦しめられる、この世の中を‼」

 

「う…………そ、そんなの…わかんないのだァーーー‼」

 

「!」

 

そう叫ぶと張飛は無茶苦茶に蛇矛を振り回し始めた。

まるで癇癪を起した子供のように。

 

「鈴々は…鈴々は…!淋しくて…!でもどうしていいか…わからなくて…!誰もいなくて…!何も…わからなくて…!」

 

(くっ…!)

 

関羽は必死に張飛の攻撃を受け止めるが、それまで押さえつけられていた張飛の様々な感情が込められた一撃は、今までよりもずっと重く、そして…

 

(しまっ…!)

 

とうとう耐え切れず、偃月刀を落としてしまった。

 

(クッ…!)

 

とっさに関羽は、素手で防御を取る。

 

「うっ…!ぐっ…!」

 

「………?」

 

しかし、張飛はそれ以上攻撃をせず…

 

「うわあああああん!」

 

その場に泣き崩れてしまった。

 

「お、おい!どうした⁉」

 

「泣かせてやれよ」

 

「…え?」

 

あわてて泣き止ませようとする関羽を、ルフィが止めた。

 

「涙が出るならよ…泣かせてやれよ」

 

「……はい」

 

「うわあああああん!」

 

そうして2人は張飛が自然に泣き止むのをただ待つ事にした。

 

 


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