ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊 作:HAY
真・恋姫無双編、投稿開始します!
第62話 “不在の総大将”
「たァーっ!」
「はーっ!」
「うああっ⁉」
「ギャッ⁉」
とある谷間で、山賊と武装した民百姓の集団が戦っていた。
民百姓の方は2人一組になって互いをカバーし合いながら戦っており、戦況は彼らの方が有利に見える。
「オラァッ!」
「「「「「「「「「「ギャー⁉」」」」」」」」」」
その中に一人、3本の剣を振るい、一度に何人もの賊をなぎ倒す男がいた。
敵を振るってくる剣ごと弾き飛ばし、時には数人分の剣を同時に払いのける!
男の隣には、3本の刀が描かれたドクロの旗が掲げられている。
「標的にした村におれ達がいたとはな……テメェらは天に見放された様だな…!」
「うおりゃーーーっ!」
「「「「「「「「「「うわあああああ⁉」」」」」」」」」」
そしてもう一人、子豚に乗り戦場を走り回る少女がいた。
少女は自身の身長よりも長い、丈八蛇矛と“張”字の旗を振り回して敵をなぎ倒す!
「鈴々様のお通りなのだー!敵将は誰なのだー!尋常に勝負するのだー!」
その2人が暴れる戦場のかなり後方で、賊の頭領らしき人物が様子を見ていた。
「くっそ~!こんな狭い谷じゃせっかくの数を生かせねェし、身動きもとれねェ!」
「このままじゃ全滅しちゃいますぜ?」
「さっきはわざと敗走して、おれ達をここにおびき寄せたのか…」
「一旦引き返すぞー!広い所で体制を立て直すんだー!」
「「「「「「「「「「はーっ!」」」」」」」」」」
頭領の言葉を聞き、賊は退却を始める。
「あー!待つのだー!みんなー!追撃なのだー!」
「おい、待て張飛」
「どうして止めるのだゾロ⁉今が好機なのだ!」
「……お前、孔明の作戦忘れたのか?」
「あ…そういえばそうだったのだ…」
「あとは他の奴らに任せるぞ。じゃ、おれは先に村に帰る」
「あー!ゾロを一人で歩かせたら、鈴々がみんなに怒られるのだー!だから駄目なのだー!」
▽
撤退した賊達は少し開けた所に出て足を止めた。
「よーし!こんだけ離れりゃいいだろ!お前らァ、ここで態勢を…」
ジャーン!ジャーン!ジャーン!
「「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」」
その瞬間、周囲の山から銅鑼の音が響き、無数の人影が姿を現す!
「うわあ!伏兵だー!」
「逃げるぞー!」
賊が逃げ出すその様子を、人影の中で一人の少女が見ていた。
「作戦通りです!」
「孔明殿の言う通り、本当にこれだけで逃げだしましたね」
「はい、出陣の時に常に銅鑼をならせば、『銅鑼が鳴ると敵が現れる』と思い込ませる事ができます。
混乱させるだけなら、銅鑼と人影だけで充分です」
実際にそこにいたのは銅鑼を持った数人の村人だけで、攻撃するつもりは全くなかった。
▽
「急げー!伏兵に追いつかれるぞー!」
賊が走り去っていく様子を、近くの草むらで一人の男が見ていた。
「孔明の言った通りだ。よォしお前ら、行くぞォ!」
そして男は後方にいる弓兵達に指示を出し、自身も立ち上がる!
「賊共ォ!おとなしく降参しろ!さもなくばおれ達の餌食になるぞォ!」
そう言って男はパチンコを構え、後ろにいる兵達も立ち上がり弓矢を構える!
その後ろには、鼻の長いドクロの旗が翻っていた。
「こ、こんなとこにも伏兵が⁉」
「すごい数だぞ⁉」
賊が戸惑う中、後ろの弓兵達は…
「孔明殿の策も凄いけど、ウソップ殿もよくこんな事思いつくよな」
「
「ん?おい、何か後ろにいる奴ら変だぞ?」
「あー!ただの案山子じゃねェか!だましやがったな!」
「気づかれたか!だが、もう遅せェ!」
「賊共よ!」
「「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」」
今度は反対側の崖の上から声が聞こえ、見上げるとそこには人影と“趙”の旗が。
「地獄への道案内!この趙子龍が勤めてやろう!丸太を落とせ!」
そう指示を出し、星自身は馬で崖を下り斬りかかる!
「よーし!こっちも行くぞ!放てェ!」
同時にウソップと弓隊も攻撃する!
「に、逃げろー!」
▽
その後、賊達の何人かは難を逃れ…
「ハァ…ハァ…くそ…だいぶやられちまったな…」
「なァに問題ねェよ。今頃別動隊が村を襲っている筈だ」
「おお!そういえばそうでした!」
「連中、きっと今頃大慌てですぜ!」
「頭ァー!」
…と、そこへ一人の賊が走って来た。
「ん?あいつは別動隊に加わっていた…」
「おお、どうした?作戦が成功したか?」
「それが…別動隊は村に残っていた連中にやられてしまいやした!」
「何ィ⁉」
▽
村の門前。
そこにできた累々たる屍の山の上に、一人の女性が立っていた。
隣には“馬”と書かれた旗がある。
「こういう事があるから、何人かは村に残っていないとな…」
「馬超ちゃーん」
櫓の上から誰かが呼びかけた。
櫓には“黄”の旗が立っている。
「私、ご飯の用意してくるから後の事は任せて良いかしら?」
「おう、良いぞ。黄忠、お疲れさ~ん」
▽
「別動隊もやられて、残ったのはおれ達だけ…」
「とにかく砦に引き返すぞ!砦の奴らと合流すれば…」
「あの…お頭…」
「何だ?」
「その砦が…滅茶苦茶に壊されている様なんですが?」
「は?」
見てみると、確かに前方に砦らしき建物がある。
しかし、壁や天井が崩れ、とても人が住める様な状態ではない。
そして砦の周りには、大勢の倒れた賊が。
「何だ…?」
賊達が呆然としていると、一人の女性が数人の男と一緒に砦から盗み出した金、武器、食料などを持って出てきた。
男の一人が、舌を出しウィンクをしたドクロの旗を掲げている。
「げっ、もう戻って来たの⁉しょうがないわね…こうなったら、私の後から出てくる奴が相手よ!」
「「「「「「「「「「お前じゃねーんかい!」」」」」」」」」」
女の背後にいた男達と賊達が、思わず息を合わせてツッコんだ。
「ナミ~どうした~?」
今度は砦から一人の男が出てきた。
背後には同じように数人の男がおり、一人が麦わら帽子を被ったドクロの旗持っている。
「麦わら帽子…?」
「…ってことは天の御遣いの…⁉」
「ん?ナミ、あいつら敵か?」
「ええそうよ。やっちゃいなさいルフィ!」
「よし!」
「「「「「「「「「「ひいいィィィ!」」」」」」」」」」
「に、逃げ…」
ジャーン!ジャーン!ジャーン!
またもや銅鑼の音が響き、一人の女が率いる部隊が退路を塞ぐ。
そして部隊の一人が掲げているのは…
「“関”の旗?」
「…って事は関羽ー⁉」
「乱世に乗じて弱きを虐げる悪党共め…我が青龍偃月刀の威力!思い知るがいい!」
▽
劉備玄徳を名乗っていた男が、桃花村を出て行ってから数日―――
ルフィ達は義勇軍として活動を続けていた。
その日の夜、義勇軍の勝利を祝して宴会が行われていた。
ルフィ達は璃々も加え11人で大広間の食卓に着き、酒とご馳走を楽しんでいた。
星はさらに“趙私物”と貼紙をした壺を目の前に置き、中のメンマを堪能している。
「いや~、この辺りの賊はほとんど退治されました!これも皆さまのおかげ、村民を代表してお礼を申し上げます!」
張世平がほろ酔いした様子で、ルフィ達にお礼を述べる。
「しかしながら、“
皆、感服しておりますぞ!」
「そ、そんな…私なんてまだまだ…」
照れ臭そうにする朱里。
「そう謙遜することはない。我が軍の勝利に、孔明殿の策が大きく貢献しているのは本当だ」
「そうそう!孔明の作戦のおかげでおれやナミ、義勇兵達も安心して戦えるってもんだ!」
愛紗とウソップも朱里を褒める。
「あたしも個人の武ならともかく、兵を率いて戦うのに関しては孔明に感謝しているぜ」
そう言うと翠は、隣に座っている星のメンマにそーっと箸を伸ばす。
「まァ、ルフィ殿や愛紗が一番おいしい所を持っていく事が多いのは、少し不満だが…なっ!(ギロッ)」
「ヒィッ⁉」
星の一睨みで、翠は箸をひっこめた。
「天の御遣いであるルフィ殿、ゾロ殿、ナミ殿、ウソップ殿の強さは、まさに天下無双!
賊の中には、あの髑髏の旗を見ただけで逃げ出す者も多いとか!」
「当ったりめーよ!このキャプテン・ウソップ様の前には、賊の百人や千人、ちり芥も同然よ!」
「私達の一騎当千の実力!国中に響かせてやるわよ!」
「いつも孔明に頼んで、比較的安全な場所に置いて貰ってんのは、どこのどいつだ…」
呆れ混じりに言うゾロ。
「そういえば、ありがとうな。おれ達の旗、作ってくれてよ」
「まさかここに来て、自分の海賊旗を持てるとは思わなかったぜ」
ルフィとウソップが礼を言う。
「ルフィ達は義勇軍の将なのですから、旗印は必要でしょう」
そう愛紗は言うが…
「おれ達は別に、義勇軍に入ったわけじゃねェぞ?愛紗達の事手伝ってるだけで…」
ルフィは否定する
「ですが、村の皆さんも『義勇軍の総大将は天の御遣い』という認識の様ですよ?」
「いくらそう扱われてもな…。天の国ではおれ達は悪党、討伐される側だ。実感が湧かねェし、そういう柄じゃねェ」
ゾロも朱里の言葉を否定する。
因みにルフィ達はみんなが解りやすいよう、自分達の世界の事を『天の国』と呼ぶ事にしている。
またナミが孫家で得た情報から、自分達がいた世界が天の国で、天の御遣いが自分達を指している事は承知していた。
「じゃあ、今の義勇軍の総大将って誰になるんだ?」
「もちろん愛紗なのだ!」
「何を言うか鈴々!そういうのは、年長の方が務めるのが…」
「関羽さん、それはどういう意味かしら?」
「⁉い、いえっ!深い意味は…!」
「お、落ち着け…!落ち着け~…紫苑…!」
紫苑の殺気にあてられ、縮こまる愛紗だった。
因みにこういう時に紫苑を宥めるのは、一番付き合いの長いウソップの役目になっている。
「だとしたら馬超か?この中では一番名声も高いだろうし…」
「ん~…でもやっぱり、先に加わっていた関羽達を差し置いてなるのはな~…」
「なら私も違うな」
「鈴々も。ルフィと愛紗の妹なのに、二人より偉いのはおかしいのだ」
「でしたら、孔明殿はどうであろう?我々に指示を出す立場である訳だし…」
「はわわっ⁉そ、そんな…!私なんてただの軍師でしゅし!指示を出すだなんてそんな大層な…!」
「確かに総大将は無理そうだな。“はわわ軍師”殿」
「は、“はわわ軍師”…」
星によって、可愛くも不名誉なあだ名をつけられてしまう朱里だった。
「まァ、それについて論ずるのはまたの機会にしよう」
「それにしても天の御使い様方を除いても、関羽殿、馬超殿、趙雲殿、黄忠殿と、我が軍は豪傑揃いですな!」
張世平が今度は愛紗達を褒め称える。
「むっ⁉鈴々が入っていないのだ!」
「中でも!」
「?」
「子豚に乗り、戦場を縦横無尽に駆け、暴れ回る張飛殿は皆に“
「にゃ、にゃはは~♪それほどでもあるのだ~♪」
((猛豚将軍…))
―――――ブヒブヒなのだー!
「「ぷっ…!」」
ブタの鼻と耳をつけた鈴々を想像し、思わず吹き出すナミと朱里だった。