ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊 作:HAY
「…とは言ったものの…」
ある日、ルフィ達は屋敷の大広間で会議をしていた。
「義勇軍の鍛錬の予定がすでにだいぶ決まっている以上、すぐに出発するワケにはいかんな…」
「うむ。今から少しずつ、日程を調整するとしよう。ルフィ殿達もそれで良いか?」
「ああ、いいぞ」
「それに天の御使いの噂を聞いて、向こうからやってくるかもしれないし。
他の奴らの事も何らかの形で噂になって、こっちに聞こえてくるかもしれないし。
だから、そこまで急ぐ必要はねェよ」
「確かに。ルフィさん達の仲間なら、噂になりやすいかもしれませんね」
「チョッパーとかブルックなんて特にな…」
「あいつらどうしてるかな~…」
▽
時は少々遡り、ある夜の涼州、武威郡―――
「よし!これで全部だな」
その城の一室―――月達に用意してもらった医務室で、チョッパーは診察日誌の整理をしていた。
チョッパーは董卓陣営に加わってから、医者としての診察や薬剤調合はもちろん、新しい医者達への教育やそのための教科書作り、さらにそのためにこの世界の文字を覚える勉強など、忙しい日々を送っていた。
「せっかくだし、もう少し勉強するかな…」
『チョッパー、いる?』
部屋の外から誰かが呼びかけてきた。
「その声、恋か?いいぞ入って」
チョッパーが答えると、恋が入って来る。
恋は両手に一人の少女を抱え、後ろにセントバーナードらしき犬を連れていた。
「どうしたんだそいつら?」
「拾って来た。この子、倒れていた。診て欲しい」
▽
チョッパーは、恋が拾って来た少女を寝台に寝かせて診てみた。
一緒に連れてきた犬は、寝台の横に座らせている。
少女はチョッパーと同じくらいの身長で、制帽を被っており、明るい緑色の髪を首元で二つ縛りにしている。
「…栄養失調だな。もう何日もロクに食事してないんだと思う」
「食べ物、持ってくる?」
「そうだな。果実を絞った汁とか、羹とか飲めるくらいの物が良いよ」
『ちょっとチョッパー!恋来ていない⁉』
またもや部屋の外から誰かが呼びかける。
「詠か?うん、ここにいるぞ」
「やっと見つけた!」
「何?」
「“
「うん」
「…ったくもう、これで今月に入ってから何度目よ…」
「
「いいわよ数えなくて!
もうここには、あんたが拾って来たのがわんさかいるんだから、今更一匹や二匹増えたって変わんないわよ。
飼うのはいいけど、ちゃんと躾けなさいよ」
「躾けはちゃんとやってる」
「躾けてんのほとんどチョッパーでしょうが!
何度も言うようだけど、チョッパーはいつまでもボク達の所にいるワケじゃないんだからね!
出ていった後も大丈夫なように、自分で躾けなさいよ!」
「わかった」
「…それじゃあね」
詠は部屋を出て行った。
「恋は食べ物取って来る」
「おう。コイツらはとりあえずおれが見て…」
「ちょっと待てェーい!」
もの凄いスピードで詠が戻って来た。
「何?」
「何じゃないわよ!
そっちのでっかいワンコは良いとして、よく見たら寝台で寝ているのは人間じゃない!」
(よく見ないと気付かなかったのか?)
心の中でツッコむチョッパーだった。
「一体どういうことよ⁉」
「おい、詠。一体どうしたんだそんなに騒いで?」
…と、廊下の向こうから華雄がやって来た。
「…って、そうよ雪羅!どういう事よ⁉聞いてないわよ⁉」
どうやら“雪羅”というのは、華雄の真名のようである。
「何がだ?」
「あんたさっき、恋がばっちいのを
「ああ、言ったぞ」
「二匹じゃなくて一人と一匹じゃないのよコレ!」
「同じような物だろ?恋もそう言っていたし…」
「うん。この子ばっちいけど可愛い。あっちもばっちいけど可愛い。だから同じ」
「同じじゃない!」
「詠ちゃん。そんなに騒いでどうしたの?」
月までやって来た。
「月!大変よ!恋がこのワンコと、あの女の子を拾って来て…!」
「女の子?」
「ああ、あの寝台に寝ている奴なのだが…」
「あの子、どこの子よ⁉歳は⁉名前は⁉拾って来たって、まさか可愛いからって、どこかから攫って来たんじゃないでしょうね⁉」
「それは違うぞ詠。こいつらは帰る場所がなくて困っていたところを、恋が見つけて連れてきたんだぞ」
チョッパーがそう言う。
「はァ⁉何であんたがそんな事知って…」
「わふっ!」
「ああ…そっちのワンコから聞いたのね…」
「う~ん…」
「「「「!」」」」
少女が目を覚ました。
「……あれ…ここは…?……!
少女は上体を起こし、困惑した様子で辺りを見渡す。
「わん!」
「ああ…!張々、よかったのです…!」
犬が近づいて顔を見せると、少女は安心したように犬の頭をなでる。
張々というのは犬の名前のようだ。
「気が付いたか?」
チョッパーが少女の顔をのぞきながら訊ねる。
「へ?……うわあああ⁉狸が喋ったのです⁉」
「トナカイ!鹿の仲間だおれは!」
「えーっと…ちょっといい?」
「…⁉」
今度は詠が話しかける。
「あんた名前は?」
「ね、ねねは“
ここはどこなのです?」
「ここはこちらにいる武威郡太守、董卓様のお城よ」
「太守様の…?どうしてねね達はここにいるのです?」
「ここにいる呂布が、あんた達を拾って来たのよ」
「ねね達を拾った…?」
ぐ~…
「あ」
陳宮のお腹から大きな音がした。
「とりあえず何か食べ物持ってくるね」
「いいよ月。それならボクがやるから…」
「い、いらないのです!」
「「「「「⁉」」」」」
陳宮が叫ぶ。
「ね、ねねは物乞いじゃないのです!だ、だからいらないのです!」
「「「「「…………」」」」」
陳宮があまりにも必死に否定するので、チョッパー達は少し困惑した。
「……はァ、わかったわよ」
「?」
「食べた分はちゃんと働かせてあげるから、とにかくまずは食べなさい」
そう言うと詠は部屋を出て行った。
▽
しばらくして、詠が器に入れたスープと肉を一切れ持ってきた。
「……あの…本当に食べていいのですか?」
器を受け取った陳宮は、おそるおそる訊ねる。
「「「「「…………」」」」」
一同はいまだに食べようとしない陳宮を、しばらく困ったように見ていたが…
「恋はお腹が空くと、ご飯が食べたくなる」
やがて恋が口を開いた。
「ご飯を食べると幸せになる。一人だけで幸せになるより、みんなで幸せになった方が良い。だから、お腹が空いているなら食べると良い」
「…っ!ありがとう…なのです…!」
そうして陳宮はスープを飲み始めた。
張々も肉を食べ始める。
「…美味しいです…!」
腹と舌、そしてさらに別の
(おれが
その様子を見て、チョッパーはそんなことを思うのだった。
▽
「…ご馳走様なのです」
「それで、陳宮さん」
陳宮が満腹し落ち着いたのを確認して、月が訊ねた。
「陳宮さんはどうして、この子と一緒に倒れていたんですか?」
「話せば、長くなるのですが…
みなしごだったねねは、子犬の頃から買っていた張々の引く荷車に、絞った家畜の乳を乗せ、街まで運ぶ仕事をして暮らしていたのです。
でもある大雨の日の夜、宿代わりに寝泊まりさせてもらっていた水車小屋から火が出て、火事になったのです。
本当は、水車をちゃんと整備していなかったから、歯車の摩擦で火が出たのですが、ねねの火の不始末が原因と決めつけられて、村を追い出されてしまったのです。
その後ねねは、張々と村から村へ旅を続け、掃除や荷物運びなどで日銭を稼ぎながら生活していたのです。
でも、治安が悪くなって、税の取り立てが厳しくなって、みんな生活が苦しくなってきて、だんだんねねは仕事をさせて貰えなくなってきて…。
『お願いです!何でもいいから仕事をさせて下さいなのです!一生懸命働きますから!もう十日も何も食べていないのです!』
『うるせェ!』
『うあっ⁉』
『ここんとこただでさえ仕事がねェのに、オメェみてェな他所からの流れ者にやる仕事なんかねェよ!
物乞いならテメェの村でやりゃいいだろ!』
そんな風に言われて、日銭稼ぎもできずに彷徨って、廃墟に寝泊まりして生活を続けていたのです。
『っ!…も、物乞いじゃ…ないのです…。ねねはただ…ご飯を食べるために…働きたいだけなのです…』
…で、今日の夕方、少しは雨風を凌げそうな大木の下で寝て、気が付いたらここにいたのです」
「それであんたさっき、『物乞いじゃない』ってあんなに言い張っていたのね…」
「陳宮ちゃん…大変だったんだね…」
話を聞き月は静かに涙を流す。
「う゛ゥ~…づら゛がっだな゛~お゛ま゛え゛ら゛~…」
チョッパーに至っては号泣している。
「…とりあえず、食べた分は働いてもらうから、今日は身体を洗ってもう休みなさい。良いわね?」
「まァ、部屋の掃除ぐらいはやらせて貰えるだろう。ゆっくり休め」
「それじゃあ陳宮ちゃん、明日からよろしくね」
そう言って詠、華雄、月は部屋を出て行った。
「…で、お前どうする?ここでこのまま寝るか?それとも…」
「え、えっと…」
「恋が連れて行く」
「え?」
「恋が拾って来た。だから恋が面倒みる」
「そうか、わかった。そういうワケだから、今日は恋の部屋で寝てくれ」
「わ、わかったのです…」
「こっち」
未だに困惑気味の陳宮と張々を連れ、恋は部屋を出て行った。
▽
部屋を出た恋が陳宮達を連れて向かったのは浴室だった。
「ばっちいままだと詠が怒る。だから綺麗にする」
そういって陳宮の体を洗う恋。
「ひゃああ⁉く、くすぐったいのです!じ、自分でできるのです!」
▽
入浴後、陳宮は恋の寝台を貸してもらい、横になっていた。
張々は寝台の横で丸くなって寝ている。
(お布団で寝るの久しぶりだから、却って寝付けないのです…)
「ちんきゅ」
「ひゃああっ⁉」
恋が顔をのぞき込んできた。
「び、びっくりしたのです…」
「…眠れない?」
「は、はい…」
「…それじゃあ…」
恋が寝台に入って来た。
「え?」
そして一緒に横になり、陳宮を抱きしめる。
「拾ってきた子たちの中に、すぐには
(……いい匂い…それにあったかい…。どうしてかわからないけど…すごく懐かしい気がするのです…)
「恋が拾ってきた子達は、みんな恋の家族。だからちんきゅもそう」
「…!」
「だから、安心して眠ると良い」
「うう…!」
その時、陳宮は決意した。
(この人に付いて行くのです…!ずっと一緒にいるのです…!少しでもこの人の役に立てるようになるのです…!)
▽
翌朝―――
「お願いなのです!ねねをここで働かせてほしいのです!」
陳宮は月達に頭を下げて、懇願していた。
「ここで働きたいのです!呂布殿の…皆様のために働きたいのです!」
「う~ん…働きたいっていっても…」
「……詠ちゃん…」
「ええっ⁉ちょっ…月⁉」
「お願い…」
上目遣いで頼む月。
「ううっ…!」
「詠」
「?」
「ちんきゅは恋が拾って来た。恋が面倒みる。だからお願い…」
「れ、恋まで…」
「お願い…」
恋も上目遣いになって懇願する。
「う~ん……まァ、雑用係としてなら…」
「ありがとうなのです!」
「良かったな陳宮!」
「さすが詠だな。そう言うと思ったぞ」
「ありがとう詠ちゃん!大好き!」
「ありがとう詠」
詠に抱き着く月と恋。
「ちょ…⁉いちいち抱き着かないでよ!特に恋!力つよ…いだだだだ⁉」
恋が腕を回した部分からメキメキと嫌な音が響きだし、悲鳴を上げる詠。
その様子を見て、二人は詠から離れる。
「それでは陳宮さん、これからよろしくお願いしますね」
「はい!では、改めて自己紹介を!我が名は“陳宮公台”!真名は“
親しい者達からは“ねね”と呼ばれていたので、そうお呼び下さい!」
「私は“董卓仲穎”、真名は“月”です」
「ボクは“賈駆文和”、真名は“詠”。言っとくけど同僚として働いてもらう以上、容赦はしないからね!」
「私は“華雄”、真名は“雪羅”だ。これからは、共に主のために頑張ろうぞ!」
「恋は“呂布”、字は“奉先”、真名は“恋”」
「おれは“トニートニー・チョッパー”だ。これからよろしくな」
こうして、“陳宮公台”こと“音々音”―――通称“ねね”が董卓陣営に加わったのであった。
今後の展開的に、ねねの話を先にどこかに入れておかないと違和感があったため、今回投稿しました。
あと、華雄さんの真名はオリジナルで考えました。