ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊   作:HAY

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いよいよ彼女が登場します!




第65話 “来訪者”

ある日、ある町の書店―――

 

「こんにちはー」

 

入って来た朱里が、店の奥にいる店主に声をかける。

 

「ああ、いらっしゃい。頼んでいた本なら届いているよ」

 

「本当ですか⁉」

 

朱里は嬉しそうに、懐からピンク色の風呂敷を取り出す。

 

「えーと…“初級房中術入門”と“図解体位百科”だったね」

 

「はうっ⁉」

 

書名を声に出された瞬間、固まる朱里。

 

「「?」」

 

「はわわ~⁉書名は言わなくていいですから~!」

 

店にいた2人の男性客の視線に気付いた朱里は、大慌てで本を受け取り風呂敷で包み、代金を支払う。

……一体どんな本を買ったのか?

 

「ありがとうございました~!」

 

「そういえばお前、“張三姉妹”って知ってるか?」

 

「ああ、最近話題の!」

 

そんな会話を聞き流しながら、朱里は店を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桃花村を離れ、近くの町に買い物に来ていたルフィ、ウソップ、愛紗、鈴々、星は一軒の茶店で一人書店に行った朱里を待っていた。

 

「お待たせしました~」

 

「お、終わったか」

 

「それでは、桃花村に帰るとしよう」

 

「しかし、書店に行くくらいなら、わざわざ別行動しなくてもいいんじゃねェか?」

 

「うむ、それくらいなら別にいくらでも付き合うぞ?」

 

「えっと…皆さんを私の趣味に付き合わせるのは悪いですし…あははは…」

 

笑ってごまかす朱里。

……本当にどんな本を買ったのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、何ですか⁉」

 

とある林の中で、一人の少女が3人の賊に襲われていた。

少女は崖際に追い詰められ、袋のネズミ状態である。

 

「お、お金なんて私持ってないですよ!」

 

「確かに金目のものはなさそうだが…代わりにいいモン持ってんじゃねェか…」

 

少女の体をいやらしい目で見ながら、賊は近づいて行く。

 

「っ!そ、それ以上近づいたら…!」

 

そう言って少女は背中の背負い梯子から莚を一つ手にする。

 

「それでどうする気だ?」

 

「こ、これで…!」

 

そう言うと女は莚を頭から被り…

 

「ほ、ほ~ら…これでもうどこにいるかわかりませんよ…!」

 

「……頭かくして尻隠さずか…?」

 

「いや、頭すら隠れてないような…?」

 

「姿は見えなくても、どこにいるかは丸わかりだしな…」

 

(……やっぱり駄目?)

 

少女の方も自覚はあったらしい。

 

「舐めてんのか⁉いい加減にしろ!」

 

「きゃあ⁉」

 

賊の一人が筵をはぎ取る。

 

「そこまでだ!」

 

「「「「⁉」」」」

 

不意に後ろから声が聞こえ、賊達は振りき少女も顔を上げる。

 

そこには5人の男女―――ルフィ、ウソップ、愛紗、鈴々、星が立っていた。

 

「何だテメェら⁉」

 

「冥土の土産に教えてやろう!」

 

星が一人前に出て、手で関羽を指し示す。

 

「この者こそ、しっとりツヤツヤの下の毛が自慢の…」

 

 

 

 

 

 

「冥土の土産に教えてやろう!」

 

愛紗に殴られ頭にこぶができた星が、改めて愛紗を指し示し…

 

「この者こそ、噂と違って絶世の美女ではないので気付かぬかもしれぬが…」

 

 

 

 

 

 

「冥土の土産に教えてやろう!」

 

こぶが二段になった星が、三度(みたび)愛紗を指し示し…

 

「この者こそ、弱きを助け悪を挫く“黒髪の山賊狩り”だ!」

 

「何⁉」

 

「あ、アニキ…!」

 

「へっ!上等じゃねぇか!自慢の下の毛、綺麗にそぎ落としてやらァ!やっちまえ!」

 

「「おおーっ!」」

 

そう言って向かってくる山賊達に対し…

 

「誰も下の毛の自慢はしておらん!」

 

そう言う愛紗を先頭に、ルフィと鈴々も迎え撃ち…

 

「ふん!」

 

「ぎゃあ⁉」

 

「はァっ!」

 

「ぐえっ⁉」

 

「おりゃーっ!」

 

「ほぎゃーっ⁉」

 

賊3人は、あっという間に空の彼方へと消えて行ったのだった。

 

「よーし!よくやったぞ3人とも!おれの指示どーり!」

 

「うむ!我らの活躍で、再び平和が戻ったな!

朱里よ、もう出てきていいぞ。私の壺漬けメンマは大丈夫か?」

 

「はいはい、傷一つついていませんよ。ウソップさんも星さんも何もしていないのに…」

 

ブツブツ言いながら、近くの木の陰に隠れていた朱里が出て来る。

 

「星さんはメンマより、自分の頭のたんこぶを心配して下さい」

 

「全く…愛紗は気が短いな…」

 

「大丈夫かお前?」

 

そんな事を言う星達をよそに、ルフィ達3人は襲われていた少女に声をかける。

 

「立てるか?」

 

「はい。危ないところを助けていただき、ありがとうございます」

 

愛紗の手を借りて少女は立ち上がる。

 

年齢は愛紗と同じぐらいで、桃色の髪をツインテールにしており、顔立ちはかなり整っている。

 

「何、礼には及ばん」

 

「あんな奴ら、鈴々達にかかればどうってことないのだ」

 

「そーそー、気にすんな」

 

「でも、私を助けるためにあんな怪我をしてしまって…」

 

そう言いながら少女は、星の頭にある二段のたんこぶを見つめる。

 

((((((……天然?))))))

 

そんなことを思う一同だった。

 

「しかし…この辺りの賊はあらかた退治した筈だったのだがな…」

 

()()()の周りにまだあんな奴らがいたとはな…」

 

「!」

 

「おそらく、どこからか流れ着いた追剥だと思いますけど…村の人達にも、注意するように言っておいた方が良いかもしれませんね」

 

「あのう…」

 

「「「「「「?」」」」」」

 

助けた少女が話に入って来た。

 

「もしかして皆さんは、桃花村の人達なのでしょうか?」

 

「ああ、そうだが…」

 

「本当ですか⁉実は私、桃花村に行く途中だったんですけど、さっきの怖い人達に襲われて、逃げている途中で道がわからなくなってしまって、困っていたんです!」

 

「そうだったのか。それは災難だったな。だが、もう大丈夫だ」

 

「ああ、一緒に行こうぜ」

 

「重ね重ねありがとうございます!あ…申し遅れました…」

 

そこで少女は改まって自己紹介をする。

 

「私の名前は“劉備(りゅうび)”、字は“玄徳(げんとく)”といいます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「ええェ~~~っ⁉」」」」」」

 

「へっ⁉」

 

「お前が…⁉」

 

「劉備…⁉」

 

「玄徳…⁉」

 

「へ…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まー順を追って説明するとな…。

この桃花村で義勇軍を結成したのが、中山靖王とかいう偉い奴の子孫を自称していた“劉備玄徳”っつー男なんだ」

 

一行は、劉備玄徳を名乗る少女を連れ、桃花村の屋敷に帰宅した。

そして、大広間でウソップが事情を説明していた。

 

「ここにいるルフィ、関羽、張飛、孔明の4人はその男が掲げる正義に共感して、義勇軍に協力し、世のため民のために戦っていたんだ。

だけど徐々にその男は本性を現し始め、自分の出世のために民を犠牲にする事を、何とも思わないような奴だとわかって、亀裂が生じていたんだ。

丁度そんな時に、おれが黄忠っていう女とその娘の璃々と一緒に村を訪れたんだが…。

そしたらその男が、前に璃々を誘拐して黄忠に暗殺をさせようとした悪党の黒幕だってわかって、それがバレた途端、どっかへ逃げ去っちまったんだ」

 

「そうですか…やっぱり私の名前と素性を騙っていたんですね…」

 

「“やっぱり”?」

 

「きっと…あの人に違いないです…!」

 

「“あの人”?」

 

「お前、何か知ってんのか?」

 

「はい。実は私は母と二人で、莚や草鞋(わらじ)を織っては近くの町でそれを売り、日々の糧を得て暮らしていたのですが…

 

 

 

 

 

ある日、私が莚を売った帰りに茶店で一休みをしていると、隣に座っていた若い男の人が声をかけてきたんです。

 

『あのう、お嬢さん』

 

『?』

 

『もしよろしければそのお腰の剣、少々拝見させていただけないでしょうか?』

 

『ええ、いいですけど…』

 

その人は剣をとると鞘から抜いて、色々と調べ始めて…

 

『何とも素晴らしい剣ですな!刃の輝きはもちろん、鞘の造りや柄の装飾も見事だ!これは由緒正しきものなのではないですか⁉』

 

『はい、私のご先祖様が代々受け継いできた宝剣で、血筋の証でもあるんです』

 

『そのご先祖とは?』

 

『中山靖王の“劉勝(りゅうしょう)”様です』

 

『なんと!』

 

それで、私が茶店を出てしばらくして、人気のない崖沿いの道に差し掛かったところで、その男の人が追いかけてきて…

 

『あのう…申し訳ありませんがその宝剣、もう一度見せていただけないでしょうか?』

 

『構わないですけど…』

 

そして私がまた剣を渡すと…

 

『さすが中山靖王の宝剣…天子様にゆかりがある一族の物は格が違う…!』

 

『ありがとうございます』

 

『ところでお嬢さん、お名前は何というのでしょうか?』

 

『“劉備”です』

 

『よければ字も教えていただけないでしょうか?』

 

『“玄徳”ですけど…』

 

『成程、“劉備玄徳”……良い響きだ……』

 

『それは…どうも……?』

 

『……ではその名前とこの宝剣……いただかせてもらおう!』

 

『っ⁉キャーッ⁉』

 

そう言うなり、その人は私を崖から突き落として、剣を奪って去ってしまったんです。

幸い、途中で木の枝に引っかかったおかげで、一命はとりとめました。

 

それで私が家に帰り、事の次第を母に説明すると…

 

阿備(あび)や…私は昔からあなたに教えてきましたね?

あの宝剣は私達の先祖、劉勝様のさらに前、漢の礎を築いた“劉邦(りゅうほう)”様から受け継がれ、ご先祖様方が民のために振るってきた大切な宝剣だと…。

たとえ貧しい庶人に身を落としてしまったとしても、その剣と劉邦様の御心は受け継ぎ、絶やしてはならないと…。

時が来たら剣を手にし、世のため人のために戦わねばならぬぞと…』

 

『はい…』

 

『それなのに…………何たる様ですかァ⁉

ご先祖の心を代々伝えてきた大事な宝剣を奪われ、おめおめ戻って来るとは情けない‼』

 

『⁉』

 

そう言うなり、怒り心頭の母は私の首根っこを掴んで走り出し、家の近くを流れる蟠桃河(ばんとうが)に投げ込んだんです…。

 

『きゃ~~~っ⁉』

 

 

 

 

 

それ以来、母はその時の怒りを思い出すたびに、私を蟠桃河に投げ込むようになってしまって…」

 

「すげーな、お前の母ちゃん…」

 

話を聞いたルフィ達は、劉備の母の行動にドン引きしていた。

 

「このままじゃ身が持たない、いつか溺れ死ぬと思っていた時に、この辺りの村で私と同じ名前の人が義勇軍を率いているという噂を耳にして…」

 

「成程…それで宝剣を奪った男の人が、自分に成りすましているんじゃないかと思って、訪ねて来たワケだったんですね…」

 

「そこまでちゃんとした考えがあったワケではないんですけど…他に何の手がかりもなかったので…。

藁にもすがる気持ちで、何とか宝剣を返してもらえないかと…」

 

バタン!

 

「「「「「「「⁉」」」」」」」

 

「劉備!覚悟!」

 

「てめェどの面下げて帰って―――!」

 

「ヒィーーーッ⁉」

 

―――と、勢いよくドアを開けて紫苑とゾロが部屋に入り、劉備に武器を向けた!

 

「あら?」

 

「あ?」

 

 

 

 

 

 

「まァ…そういう事だったんですね…怖がらせてしまってごめんなさい…」

 

「いや、本当に悪かった…。村の奴らが『劉備が来た』って言ってたから、てっきりアイツが帰って来たんだと…」

 

劉備は、ゾロ達にも自分がある男に宝剣を奪われたいきさつを話した。

 

「気にしないでください。ちょっとびっくりしただけですから…」

 

「それにしても…許せないのは劉備さんの名を騙っていたあの男…!

もし見つけたら耳と鼻をそいで、目を抉り出し…!時間をかけて生爪を一枚一枚剥がして、指を一本一本斬り落として…!その身を三枚におろして、高温の油に体を放り込んで…!」

 

怒りに体を震わせながらそう語る紫苑の顔は、どんどん人離れしたものになって行く…。

 

「し、紫苑…劉備も怖がっているし、みんなもドン引きしているからそれくらいに…」

 

何とかウソップがなだめ、紫苑の顔は元に戻った。

 

「でも、ニセ劉備の奴ホントむかつくなー!今度会ったら絶対ブッ飛ばしてやる!」

 

「しかしこうなると、あの時あの男を捕えておけば良かったな…」

 

「そうですね。そうすれば劉備さんの宝剣も取り戻せていたのに…」

 

「それは仕方がないですよ。その時皆さんは、事情を知らなかったんですし…」

 

「ん?待てよ?そういや宝剣っていや…」

 

「どうしたのだゾロ?」

 

「いや、さっき村を散歩してたらよ、剣がどうこうって話している奴らがいて、気になって聞いてみたら…

 

 

 

 

 

『ああ、公孫瓚様が身に過ぎた宝剣を手に入れたっていう噂話ですよ』

 

『誰だそりゃ?』

 

『幽州北平郡の太守で、“白馬将軍”を自称している影の薄い方です』

 

『なんでも討伐した賊の隠れ家から、大層立派な剣が見つかって、きっとこれは由緒正しきものに違いないって、戦利品として自分の物にしたらしくて…』

 

 

 

 

 

…ってことだったんだが…」

 

「コウソンサン…コウソンサン……あっ!伯珪ちゃん!」

 

「劉備さん、公孫瓚さんをご存じなんですか?」

 

「はい!昔、同じ先生の私塾で一緒に勉強していたことがあるんです!」

 

「ん~…コウソンサン…コウソンサン…」

 

「ハテ…ドコカデ聞イタヨウナ気ガスルガ…」

 

「思い出せないのだ~…」

 

頭をひねるルフィ、星、鈴々。

 

「星…お主はわざとだろう…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同刻、北平郡にて―――

 

「へっくし!誰かが私の噂でもしているのか?

最近白馬将軍として名も売れてきたし、この宝剣を手に入れてから、運が回って来たのかな~?」

 

(……ハァ~…)

 

馬小屋でそう得意げになる公孫瓚を見て、隣にいた白馬はため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、桃花村―――

 

「まァ単なる噂だし、その宝剣がお前のモンだって確証があるワケじゃねェが、他にアテがねェんだったら、行ってみたらどうだ?」

 

「そうですね。その剣が劉備さんの物で、公孫瓚さんがお知り合いなら、事情を話せは返してもらえるでしょうし…」

 

「そうですね。それじゃあ私、伯珪ちゃんを訪ねてみます!」

 

「とはいえ、すでに日が傾いているし、一人旅で山中の野宿は危ない。今日はこの屋敷に泊まって行かれるといいだろう」

 

「え?でも、そこまでお世話になるのは…」

 

愛紗の提案に劉備は遠慮するが…

 

「いえ、是非泊って行ってください!」

 

「!」

 

紫苑が懇願するように言う。

 

「晩御飯、腕を振るいますから!知らなかったとはいえ、失礼をしてしまったお詫びをさせて下さい」

 

「…それじゃあお言葉に甘えて…」

 

「よーし!今夜は宴だー!」

 

「ええっ⁉宴だなんて、いくら何でもそんな…」

 

「気にすんなって」

 

「ルフィは何かと理由をつけて、派手に騒ぐのが好きなだけだからな」

 

「はァ…」

 

バタン!

 

「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」

 

「「劉備ィ!覚悟ォー!」」

 

「ヒィーーーッ⁉」

 

またもや勢いよくドアが開けられ、今度は得物を構えたナミと翠、そして頬を膨らませた璃々が入って来た。

 

「アレ?」

 

「あんた…」

 

「誰…?」

 

「「「「「「「「…………」」」」」」」」

 

一度見た光景に、ため息をつく一同だった。

 

 


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