ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊 作:HAY
夜―――
「は~…お風呂なんて久しぶり~…」
劉備は、屋敷の風呂に入っていた。
「え~っと…黒髪が綺麗なのが“関羽”さんで、その義妹の鈴り…じゃなくて“張飛”ちゃん。
良い子な方の小さい子が“孔明”ちゃんで、言葉にしがたい雰囲気の“趙雲”さん。
眉毛が太いのが馬超さんで、一番年う…」
ゾクッ
「―――じゃなくておっぱいが大きい“黄忠”さんと、その娘の“璃々”ちゃん!」
湯に浸かっているに筈なのに何故か寒気を感じ、劉備は慌てて訂正した。
「鼻が長いのが“ウソップ”さんで、肩に刺青をしているのが“ナミ”さん。
刀を三本持っているのが“ゾロ”さんで、藁で編んだ帽子を被っているのが“ルフィ”さん。
みんないい人達ばっかりだったな~…」
▽
翌朝―――
「それじゃあ皆さん、本当にお世話になりました」
ルフィ、ゾロ、ナミ、ウソップ、愛紗、鈴々、星、朱里は、出発する劉備を村の入口まで見送りに来ていた。
「また賊に襲われないように気をつけてな」
「はい。でも、私だってそう何度も襲われるほど間抜けじゃないですよ」
「あ…いえ、そういう意味では…」
「元気でな~!」
「皆さんも~!」
そして、劉備は去って行った。
「……行ったようだな」
「じゃ、私達は戻りましょうか」
「そうだな」
「んで、おれ達もおれ達の旅の予定を考えるか」
「うむ、そうし…」
「きゃーっ!」
「「「「「「「「⁉」」」」」」」」
一同の耳に劉備の悲鳴が聞こえた。
▽
劉備は、昨日の賊に再び捕まってしまっていた。
「おとなしくしやがれ!」
そう言って賊は劉備の服を破く。
「きゃあ⁉」
「昨日はしくじったが、今日こそは…」
「そこまでだ!」
「「「「⁉」」」」
そこへルフィ達
「また、テメェらかよ⁉」
「それはこっちの台詞だ!性懲りもなく悪行を繰り返しおって!今度こそ、この青龍偃月刀の錆にしてくれる!」
そう言って愛紗は偃月刀を振り回し、ルフィ達も身構える。
しかし…
「へっ!だが、昨日のようにはいかねェんじゃねェか⁉」
そう言うと賊は劉備に剣を突きつける。
「ひっ!」
「おのれ!卑怯な!」
「どうだ⁉人質がいればどうすることもできねェだろ⁉」
「すげェぜアニキ!本物の悪党だ!」
「さ~て、テメェらにも昨日の借りを返させてもらおうかね⁉」
「手ェ出すんじゃねェぞ?手ェ出したらコイツがどうなるか…」
「“ゴムゴムの”…」
「「「「「「「「「?」」」」」」」」」
「…“スタンプ”!」
「ふげっ⁉」
躊躇いなく賊の顔面を蹴り飛ばすルフィ。
「ルフィ⁉」
「アニキー⁉」
「て、テメェ!今、手ェ出すなって言ったばかりだろうが⁉」
「足」
「「「「「いやいやいや…」」」」」
(成程…!)
劉備だけが納得していた。
「とにかく!これ以上何かしようとしたら…」
「そこまでだ!」
「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」
突然上から何者かの声が聞こえ、見上げると近くの木の上に人影が…
「なーあれって…」
「またやってるのか…」
「久しぶりに見たのだ…」
「どうしてわざわざ…」
その人物に見覚えがあるルフィ達は呆れ気味になる。
「何だテメェは⁉」
「ある時はメンマを好む旅の武芸者…またある時は月明りを背後に佇む謎の美女武芸者…。
しかしてその実態は―――乱世に舞い降りた一匹の蝶!美と正義の使者“華蝶仮面”推参!トウッ!」
名乗りを上げ、せ…華蝶仮面は飛び下りる。
「アレが…“華蝶仮面”…」
「ちゃんと見るのは初めてね…」
「悪党ども…観念するなら今の内だぞ…」
「へっ!何言ってやがる!こっちには人質がいるんだぜ!」
余裕を見せる賊に対し…
「……やむをえん…この技だけは使いたくなかったが…秘儀“影分身”!」
「「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」」
すると、華蝶仮面は賊の周囲を高速で走り回り、残像を作る!
「すげー!」
驚くルフィ。
「…すごいのか?アレは?」
「すごい速さではありますが…」
「あ、アニキ!仮面の奴が…どんどん増えて…!」
「び、ビビんじゃねェ!ただの目くらましだろう…!」
「―――っ!」
「「「⁉」」」
そして華蝶仮面はぴたりと動きを止め―――
「…………」
「な、何だ…?何をする気だ…?」
「…………」
「「「…………」」」
「…………目が回った…」
「「「だあァァァっ⁉」」」
思わずズッコケる賊。
「っ!隙あり!」
「「「ああっ⁉」」」
その隙をついて劉備を助け出す華蝶仮面。
「もう大丈夫だぞ」
「はい…あ、ありがとうございます…華蝶仮面様…♡」
頬を朱に染める劉備。
「ボケ倒して相手をズッコケさせ、その隙をつく…!人間の心理を巧みに利用した、見事な策と言えましょう…!」
真顔で言う朱里。
「朱里…それは本気で行っているのか?」
「……いえ、冗談です」
またも真顔で言う朱里。
「そ、そうか…」
「安心したわ…冗談で…」
「て、テメェ卑怯だぞコラァ!」
「美と正義の使者に向かって卑怯とは失礼千万!この華蝶仮面への侮辱、地獄で償ってもらうぞ!者ども!やってしまえ!」
「……てめェはやんねェのかよ…」
「何で鈴々達があいつの手下みたいになっているのだ…」
「気持ちはわかりますが、今は賊を成敗しましょう…」
「それもそうね…。さあ!ルフィ!ゾロ!愛紗!鈴々ちゃん!やってしまいなさい!」
「…そういえば、ナミさんもそういう人でしたね…」
「もういい…ささっと終わらせるぞ…」
「ああ、わかった」
そして…
「「「ぎゃーっ⁉」」」
昨日同様、賊は空の彼方へと消えていったのだった。
「終わったな…」
一同が一息ついたとき…
「賊はどこだ⁉賊は⁉」
…と、わざとらしく振る舞いながら星が出てきた。
「賊なら、もうルフィさん達が退治してくれました」
「くそっ!出遅れたか!」
「「「「「「…………」」」」」」
その様子を見て、ルフィ達は顔を寄せ合う。
「どうするのだ?」
「何が?」
「メンマ仮面の正体の事よ」
「とりあえず、話合わせてやった方が良いんじゃねェか?」
「だな、あとでへそを曲げられても面倒だ」
「そうですね。星さんただでさえ面倒くさいところがあるのに、これ以上は…」
「そういえば、劉備殿」
「何ですか?」
「お主、賊に人質にされていたのであろう?どうやって助かったのだ?」
「はい!華蝶仮面と名乗る、とってもカッコイイ方が現れて、私を賊の手から救い出してくれたんです!」
「「「「「…………カッコイイ?」」」」」
ルフィ以外の5人が疑問の声をあげる。
「ほほう…そんなことがあったのか…♪」
露骨に嬉しそうにする星。
「ああ…もう一回、ちゃんとお礼を言っておきたかったのに…いつの間にかいなくなっていて…」
「カッコイイうえに礼も言われぬうちに姿を消すとは、きっと謙虚で慎ましい人柄なのであろう♪」
「……よく言うのだ…」
「…っていうか劉備さん、本当に正体に気付いていないの?」
「凛々しくも美しいあのお姿…きっと仮面の下の素顔も、さぞかし素敵なのでしょうね…♡」
「……気付いてないみたいですね…」
「ルフィや鈴々と同じ系統の人間か…」
「どこの世界にも似たような奴っていんだな…」
「まー嬉しそうだし、良いじゃねェか!」
「そうかそうか!その華蝶仮面とやらは、そんなに凛々しく美しかったのか!」
「はい!」
「なァルフィ殿、愛紗、皆も、やはり今の世の中は物騒だ。劉備殿だけではまた賊に襲われる可能性がある。
我々も新たに旅に出ようと考えていたところだし、公孫瓚殿の所まで送ってやってはどうだろう?」
「星さん、劉備さんの事がすっかり気に入ってしまったようですね」
「そうみたいね」
「でもまァ確かに、丁度いいかもしれねェな」
「そうだな」
「よっし!じゃあ決まりだな!」
「鈴々達も一緒に出発なのだー!」
「どうであろうか、劉備殿?」
「……それじゃあ、お言葉に甘えさせていただきます」
「それではまず…」
…と、愛紗は劉備の方を見て…
「劉備殿の服装をなんとかせねばな」
「へ?…………きゃあァっ⁉」
…と、そこで劉備はようやく、自分の上半身が裸同然だったことを思い出すのだった。
ちなみに…
(くそっ…完全に出るタイミングを見失った…!)
近くの茂みで、仮面をつけた鼻の長い男が体育座りをしていたそうな…
▽
そして一行はウソップも加えて村に引き返し、劉備の服を調達することにした。
「うん、寸法は丁度いいな」
「昨日町で買った、愛紗さんの替えの服があって良かったですね」
「あ、あの…本当にいいんですか?服までいただいて…」
「なァに、これからしばらくはともに旅をする仲だ、つまらん遠慮は無しだ」
「で、でも…」
「くれるって言うんだから、ありがたく貰っておきなさいよ。似合ってるんだし」
「そ、それじゃあ」
「おーい、終わったかー?」
「ええ、いいわよ」
別の部屋にいたルフィ達が入って来た。
「よし!じゃあ行くか!」
「留守番ばっかで退屈だったからな…!さっさと行こうぜ!」
うずうずしている様子のルフィとゾロ。
「おいナミ、あの二人が行くとなると…」
「少なくとも、私達のどっちかは一緒に行った方が良いわね…」
「やっぱそうなるよな…」
「そーね…私が行くから、あんたは留守番してて」
「え⁉意外だな!お前が進んで面倒ごとを引き受けるなんて…!」
「何よ⁉それじゃあまるで私が、面倒ごとを他人に押し付けちゃダメみたいじゃないの!」
「押し付けてる自覚はあんのか…」
「そりゃ私は可愛いし、スタイルもいいんだから押し付けて当然でしょ⁉」
「いやいやいや、何言ってんだお前…」
「けど、璃々ちゃんがあんなにあんたに懐いているのに、離れ離れにしたら可哀想でしょ⁉璃々ちゃんを連れて行くワケにもいかないし…」
「ああ、そういうことか」
「それでは一緒に行くのは私と愛紗とルフィ殿、それにゾロ殿とナミ殿と…」
「愛紗とルフィが行くなら、鈴々も一緒に行くのだ!兄妹だからいつでも一緒なのだ!」
「そうだな。朱里はどうする?」
「私もお供します。そろそろまた旅に出て、見聞を広めたいと思っていたので」
「成程…旅をして、世に埋もれている未知の体位を見て回る、というワケか!」
「はい!広い世の中には、私には想像もつかないような格好でぐんずほぐれつ…ってそれだけのために行くんじゃありません!」
(そのために行くことは否定しないのか…)
「何の話だ?」
「“タイイ”って何なのだ?」
「お二人は知らなくていいです~!」
その手のことを全く知らないルフィと鈴々だった。
▽
そして、村の入口にて―――
「それでは、留守を頼みます」
「あたしとウソップと紫苑は留守番か~…」
ウソップ、翠、紫苑、璃々に見送られ、ルフィ達は出発する。
「村の事は三人に任せたのだ!」
「わかった…」
「サンジ達が来たら頼むぞ!」
「おう!」
「みんな~いってらっしゃ~い!おみやげかってきてね~!」
「こ、こら璃々…!」
「ええ、任せておいて」
笑顔で応えるナミ。
「やった~!」
「あ、間違えた。こいつらに任せておいて」
「「お前買わねーんかい!」」
ゾロとウソップがツッコむ。
「みんな!にゃはは♪」
ウソップ達に笑顔を向ける鈴々。
「へへっ!」
「ああ!」
「うふふ…」
「えへへ♪」
そして4人も笑顔を向ける。
「?何だ?新手のにらめっこか?」
その様子を見て星が訊ねる。
「違うのだ。人は次に会う時まで、別れ際の顔を覚えているから、鈴々はみんなにとびっきりの良い顔を見せて、それを覚えてもらっているのだ」
「…で、あたし達もとびっきりの良い顔を見せて、鈴々に覚えてもらっているってワケ」
「成程…それでは私もとびっきりの顔を…」
そう言うと星は息を吸い込み、表情を作る。
「「「………ヒイィッ⁉」」」
その瞬間、3人の顔が青ざめる。
紫苑はとっさに手で璃々の目を覆う。
「?お母さ~んみえない…」
「どうだ?私のとびっきりの顔、覚えてくれたか?」
「あ、ああ…今のは忘れようにも忘れられねェぜ…」
「…っていうか今夜、夢に出て来そう…」
……一体どんな顔をしていたのか?
「よーし!出発だー!」
「「「「「「おー(なのだー)!」」」」」」
こうして、ルフィ、ゾロ、ナミ、愛紗、鈴々、星、朱里、そして劉備の旅が始まったのだった。
~没案~
「そこまでだ!」
「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」
突然上から何者かの声が聞こえ、見上げると近くの木の上に人影が…
「何だテメェは⁉」
「私の名は“そげキング”!狙撃の島で生まれたヒーローだ!」
「あのう…あれは…」
「お前らが考えてる通りだ…」
「天の国にも似たようなことを考える人がいるんですね…」
「まあね…」
「新しい変態仮面なのだ!」
「えー⁉そげキング⁉何でお前がここに⁉」
「狙撃の島は君たちの心の中にある…だから私は、君たちがいる場所には必ずいるのさ…」
「何を言っているんでしょう…?」
「…っていうかルフィも鈴々も、なぜあの鼻で気付かないのだ?」
「全くね…」
(しまった!先を越された…!)
他にも華蝶と二人で登場する展開とかも考えたんですけど、ルフィと鈴々にそげキングの正体を説明するシーンを入れても入れなくても違和感が出てしまうので、没にしました。