ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊   作:HAY

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第7話 “兄妹(きょうだい)(さかずき)

「勝負の途中で泣いちゃったから…勝負は鈴々の負けなのだ。だから…煮るなり焼くなり好きにすれば良いのだ」

 

泣き止んだ張飛はそう言って武器を捨て、2人の前に胡坐をかいて座り込んだ。

 

「『好きにしろ』と言われてもだな…。私はお主が庄屋殿や村の者達に、今までの悪行を詫びて、行いを改めてくれれば良い。そうしてくれるか?」

 

「………わかったのだ」

 

「よし!謝るときは私達も一緒に行くからな。ルフィ殿もそれで良いな?」

 

「ああ」

 

「それでは明日の明朝、村の入り口で落ち合おう。では、私達は帰る」

 

「!……ま、待つのだ!」

 

「「?」」

 

山を下りようとする2人を張飛が呼び止めた。

 

「よ、夜の山道は危ないのだ!だ、だから今夜は鈴々の家に…と、泊っていくといいのだ!」

 

「いや、私達は野宿には慣れているから…」

 

そう言って関羽は断ろうとするが…

 

「泊ってこうぜ」

 

「え?」

 

ルフィは泊ろうとする。

 

()()()()()()()()()()

 

「え?……あ」

 

ルフィに言われ関羽は張飛の顔を見る。

そしてその顔が“行かないで”と訴えていることに気がついた。

 

「……そうだな。一晩、厄介になるとしよう」

 

「!」

 

「にしし!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして2人は張飛の山小屋に泊まることになった。

そして関羽は今、山小屋の風呂に入っている。

 

「妙な事になったな…」

 

『湯加減はどうなのだ~?』

 

扉越しに張飛が話し掛けてきた。

 

「ああ、丁度良いぞ」

 

「なら鈴々も入るのだ!」

 

「…え?」

 

「突撃なのだ~!」

 

…と、叫びながら扉を開け、張飛が湯船の中に飛び込んできた。

 

「な~~~⁉」

 

「にゃはは~」

 

「コラー!飛び込むんじゃない!」

 

「ううっ!」

 

関羽に叱られ小さくなる張飛。

 

「まったく…風呂の入り方も…」

 

「……すごく大きいのだ…」

 

「は?……っ⁉」

 

関羽は自分が腰に手を当てて仁王立ちしていた為、丸見えだった事に気づき、慌てて胸を隠し湯船の中に座り込んだ。

 

「関羽は、何でそんなに大きくなったのだ?」

 

「え⁉こ、これはだな…その…そうだ、志だ!大志を胸に抱いたから、その分大きくなったのだ!…………たぶん」

 

とりあえず、それっぽい事を言ってごまかす関羽。

 

「本当にそれで、バインバインになれるのだ⁉」

 

「ま、まァ…そういう話もあったり、なかったり…」

 

「よーし!じゃあ鈴々も、今日から大志を抱くのだー!」

 

「……そうだな、大志を抱くのは悪い事ではないからな…そうすると良い…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風呂から出た後、関羽は張飛から借りた寝間着に着替えた。

今は、ルフィと居間で布団を取りに行った張飛を待っている。

 

「…そういえばよォ関羽」

 

「何でしょうか?」

 

「お前にも兄ちゃんがいたんだな」

 

「…と言うとルフィ殿にも?」

 

「ああ、2人な」

 

「そのお二人は、今はどうしているのですか?」

 

「1人は海賊やってる。おれよりも3年早く海に出たんだ」

 

「そうですか。もう一人は?」

 

「……昔、死んだ」

 

「⁉」

 

「殺されたんだ…“国”に」

 

「な、何故です⁉昔ということは、まだ子供…」

 

「偉い奴の前を横切ったから…殺されたんだってよ…」

 

「…………それだけで?」

 

関羽はとても他人事とは思えなかった。

 

この村の庄屋の言いなりになり、張飛を役人が捕えようとしたように、権力者の横暴はこの国の至る所で起こっていた。

賊による反乱など、民が苦しむ原因の氷山の一角に過ぎない。

それどころか賊が跋扈している事すら、権力者が原因だと言える。

 

権力者を不快にさせる事、それが今のこの国では最も重い罪になっているのである。

 

関羽が何も言えずにいると、ルフィが口を開いた。

 

「関羽…おれ決めたよ」

 

「…え?」

 

「帰る前に、おれもこの国を何とかする」

 

「!」

 

「おれは海賊だし、天の御遣いなんかじゃねェかもしれねェ。でも、おれもお前と一緒に戦う!いいか?」

 

「…はい、ありがとうございます!」

 

「お布団持ってきたのだ~」

 

丁度2人の話が終わった時、張飛が布団を抱えて戻って来た。

3人は張飛を真ん中に川の字になって、布団に入る。

 

「しかし、すまぬな。風呂や布団まで貸してもらって」

 

「別に構わないのだ!勝負に負けたのだから、一晩一緒に寝るくらい仕方がないのだ!」

 

「…何だか、誤解を招きそうな言い方だな」

 

「誤解って?」

 

「あ、いえっ!何でもありません!」

 

なんとなく予想はできていたが、ルフィがそのテの事に疎かったため、慌ててごまかす関羽だった。

 

「それに…」

 

「「?」」

 

「誰かと一緒に寝るのは、すごく久しぶりで…何だか、お父さんとお母さんができたみたいで…すごく嬉しいのだ…」

 

「…そっか、よかったな」

 

「ちょ、ちょっと待て!」

 

「「?」」

 

「私とルフィ殿はその様な関係ではない!それに妹ならともかく、お主の様な娘がいる年齢でもない!」

 

無論、張飛が言ったのはただの例えなのだが、関羽はどうも気になるらしい。

 

「……妹、って事はお姉ちゃんだったら良いのか?」

 

嬉しそうに訊ねる張飛。

 

「…まァ、それなら良いが…」

 

「だったら、関羽は今日から鈴々のお姉ちゃんなのだ!」

 

「はァ⁉い、いや待て!姉なら良いといったのは、そう意味ではなくて…」

 

「…駄目なのか?」

 

「うっ…」

 

悲しそうな顔をする張飛。

 

「おれは別にいいぞ。父ちゃんでも兄ちゃんでも」

 

「う…わ、わかった…お主の姉になってやる」

 

「わ~い!鈴々にお兄ちゃんとお姉ちゃんができたのだ~!」

 

嬉しそうに関羽に抱き着く張飛。

 

「こ、こら!抱き着くな!」

 

「これで…」

 

「?」

 

「これで…もう夜になっても淋しくないのだ…」

 

「…ああ、今日から私達三人は兄妹だ。ルフィ殿も良いですな」

 

「ああ」

 

「…それならば張飛、私達と一緒に旅に出てくれるか?」

 

「旅?」

 

「ああ、私は世の中を変える為…世の中を変える方法を探す為に、ルフィ殿は逸れてしまった仲間を探す為に旅をしている」

 

「仲間って、何の仲間なのだ?」

 

「その…ルフィ殿は天の国から来た…海賊でな…」

 

関羽は少し迷ったが、これから行動を共にする以上隠す事はできないと判断し、正直に話した。

 

「海賊⁉鈴々も山賊だから似た者同士なのだ!」

 

「ああ、そうだな!」

 

(ほっ…)

 

思いのほか、険悪な状態にならなかったため、胸をなでおろす関羽だった。

 

「…それで、どうだ張飛?一緒に来るか?」

 

「当然なのだ!鈴々達は兄妹だから、ずっと一緒なのだ!」

 

「うむ!」

 

「おう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝―――

 

ルフィと関羽は張飛を連れて、庄屋の屋敷を訪れた。

 

張飛はしっかりと謝り、庄屋もこれ以上は咎めないという事で解決した。

その後、村の人々にも謝り、張飛がこれから2人と一緒に旅に出る事も告げた。

 

そして大勢の村人達が3人を見送りに、村の門まで来てくれた。

その時、ルフィと関羽が部屋を借りた店の女将が前に出てきた。

 

「あんた達…」

 

「「「?」」」

 

「これ…餞別に持っていきなさい」

 

そう言って、1本の酒瓶とお猪口を3つ差し出した。

 

「くれんのか、コレ?」

 

「ああ。ここから少し行ったら、村人がいつも花見に行く場所があってね。今なら丁度花も咲いているだろうから、そこで飲むといいよ」

 

「おお!ちょうどよかったよ!ありがとう!」

 

「?“丁度良い”?」

 

「はにゃ?」

 

関羽と張飛はルフィの言っている意味がわからず、首をかしげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして3人は村を後にした。

 

しかし、少しずつ張飛の顔が暗くなっていき、関羽は心配そうに訊ねた。

 

「どうした?もう村が恋しくなったのか?」

 

「そうじゃないのだ…。ただ、山賊団のみんなが見送りに来てくれなかったから…。きっと鈴々が良い親びんじゃなかったから…だから…」

 

「…いや、そうでもないみたいだぞ」

 

「ああ、ホラ」

 

「…?」

 

そう言われて張飛が2人が示した方向を見ると…

 

「「「「「親びーーーーーん!」」」」」

 

「!」

 

「武者修行、頑張ってくださーーーーーい!」

 

「強くなって帰ってきてねーーーーー!」

 

「みんな親びんが帰って来るの、待ってますからーーーーー!」

 

アジトだった山小屋から、子分の子供達が大腕を振って、呼び掛けてくるのが見えた。

 

「みんな…!」

 

「泣くな張飛、旅立ちに涙は不吉だぞ」

 

「な、泣いてなんかいないのだ!」

 

張飛はそう強がるが、目は大粒の涙が今にもこぼれそうになっていた。

 

「人は次に会う時まで、別れ際の顔を覚えているものだ。子分達に、そんな情けない顔を覚えて貰いたくはないだろう?笑顔で応えてやれ」

 

「!」

 

関羽に言われ、張飛は涙をぬぐい…

 

「みんなーーーーー!行ってくるのだーーーーー!」

 

とびっきりの笑顔で応えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3人が村を出てしばらくすると…

 

「おお!」

 

「キレーだな~!」

 

「鈴々もここでよくお花見したのだ!」

 

一面に桃の花が広がる桃園に辿り着いた。

 

「よし!じゃあここでするか!」

 

そう言うとルフィは近くの切株にお猪口を乗せ、中に酒を注ぐ。

 

「ルフィ殿、一体何をするつもりなのですか?」

 

(さかずき)だよ!盃!」

 

「“さかずき”って何なのだ?」

 

「おれ達、兄妹になるんだろ?だったら盃を交わそうぜ!」

 

「盃を交わすと兄妹になれるのか?」

 

「ああ!おれもこうやって兄ちゃん達と兄弟になったんだ」

 

(そうか、実の兄ではなかったのか…)

 

「だったら、鈴々達も盃を交わすのだ!」

 

「ええ、いいでしょう」

 

盃を交わす意味を知ると、張飛は嬉しそうに賛成し、関羽も同意する。

 

「そうだ!二人にお願いがあるのだ!」

 

「「?」」

 

「兄妹になるなら、鈴々の事は真名で“鈴々”って呼んで欲しいのだ!あと、二人の事を真名で呼びたいから、真名を教えて欲しいのだ!」

 

「ええ⁉しかし、私達は出会ったばっかりで…」

 

「なァ、“マナ”って何だ?」

 

「え?」

 

「知らないのか?」

 

「ああ。初めて聞いた」

 

「天の国には真名がないのですか?

“真名”というのは、“(まこと)の名前”と書きます。

持ち主にとっての命も同然の大切なもので、許可なく呼べば殺されてしまうこともあります」

 

「名前を呼んだだけでか⁉」

 

「はい。真名を呼ぶことを許すという事は、親愛や忠義、信頼の証でもあるのです」

 

「そうなのだ!だから鈴々は兄妹で、家族で、ずっと一緒にいる二人と真名で呼び合いたいのだ」

 

「そうか。おれは真名はねェけど呼んでいいのか?」

 

「もちろんなのだ!」

 

「わかった、じゃあ呼ぶ!これからよろしくな“鈴々”!おれの事は“ルフィ”って呼んでくれ」

 

「うん!よろしくなのだ“ルフィ”!」

 

「仕方ないな…では私も…。我が名は“関羽”、字は“雲長”、真名は“愛紗(あいしゃ)”という。この真名をお主に預けよう。これでいいか“鈴々”?」

 

「うん!」

 

「ルフィ殿にも真名を預けます。これからは“愛紗”と呼んでください」

 

「わかった。よろしくな“愛紗”」

 

「ところで…私もルフィ殿にお願いがあるのですが…」

 

「何だ?」

 

「兄妹になるのでしたら…ルフィ殿には……その…私の…兄上になって貰えないでしょうか?」

 

「おういいぞ。じゃあ3人の中で、おれが一番上で次が愛紗、一番下が鈴々でいいな」

 

「はい」

 

「わかったのだ」

 

そして3人はそれぞれお猪口を手にし…

 

「これで今日からおれ達は―――兄妹だ!」

 

「はい!」

 

「うん!」

 

盃を交わしたのだった。

 

 




今回で第一席ぶんは終わりです。
次回から、第二席に入ります。

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