ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊 作:HAY
「勝負の途中で泣いちゃったから…勝負は鈴々の負けなのだ。だから…煮るなり焼くなり好きにすれば良いのだ」
泣き止んだ張飛はそう言って武器を捨て、2人の前に胡坐をかいて座り込んだ。
「『好きにしろ』と言われてもだな…。私はお主が庄屋殿や村の者達に、今までの悪行を詫びて、行いを改めてくれれば良い。そうしてくれるか?」
「………わかったのだ」
「よし!謝るときは私達も一緒に行くからな。ルフィ殿もそれで良いな?」
「ああ」
「それでは明日の明朝、村の入り口で落ち合おう。では、私達は帰る」
「!……ま、待つのだ!」
「「?」」
山を下りようとする2人を張飛が呼び止めた。
「よ、夜の山道は危ないのだ!だ、だから今夜は鈴々の家に…と、泊っていくといいのだ!」
「いや、私達は野宿には慣れているから…」
そう言って関羽は断ろうとするが…
「泊ってこうぜ」
「え?」
ルフィは泊ろうとする。
「
「え?……あ」
ルフィに言われ関羽は張飛の顔を見る。
そしてその顔が“行かないで”と訴えていることに気がついた。
「……そうだな。一晩、厄介になるとしよう」
「!」
「にしし!」
▽
そうして2人は張飛の山小屋に泊まることになった。
そして関羽は今、山小屋の風呂に入っている。
「妙な事になったな…」
『湯加減はどうなのだ~?』
扉越しに張飛が話し掛けてきた。
「ああ、丁度良いぞ」
「なら鈴々も入るのだ!」
「…え?」
「突撃なのだ~!」
…と、叫びながら扉を開け、張飛が湯船の中に飛び込んできた。
「な~~~⁉」
「にゃはは~」
「コラー!飛び込むんじゃない!」
「ううっ!」
関羽に叱られ小さくなる張飛。
「まったく…風呂の入り方も…」
「……すごく大きいのだ…」
「は?……っ⁉」
関羽は自分が腰に手を当てて仁王立ちしていた為、丸見えだった事に気づき、慌てて胸を隠し湯船の中に座り込んだ。
「関羽は、何でそんなに大きくなったのだ?」
「え⁉こ、これはだな…その…そうだ、志だ!大志を胸に抱いたから、その分大きくなったのだ!…………たぶん」
とりあえず、それっぽい事を言ってごまかす関羽。
「本当にそれで、バインバインになれるのだ⁉」
「ま、まァ…そういう話もあったり、なかったり…」
「よーし!じゃあ鈴々も、今日から大志を抱くのだー!」
「……そうだな、大志を抱くのは悪い事ではないからな…そうすると良い…」
▽
風呂から出た後、関羽は張飛から借りた寝間着に着替えた。
今は、ルフィと居間で布団を取りに行った張飛を待っている。
「…そういえばよォ関羽」
「何でしょうか?」
「お前にも兄ちゃんがいたんだな」
「…と言うとルフィ殿にも?」
「ああ、2人な」
「そのお二人は、今はどうしているのですか?」
「1人は海賊やってる。おれよりも3年早く海に出たんだ」
「そうですか。もう一人は?」
「……昔、死んだ」
「⁉」
「殺されたんだ…“国”に」
「な、何故です⁉昔ということは、まだ子供…」
「偉い奴の前を横切ったから…殺されたんだってよ…」
「…………それだけで?」
関羽はとても他人事とは思えなかった。
この村の庄屋の言いなりになり、張飛を役人が捕えようとしたように、権力者の横暴はこの国の至る所で起こっていた。
賊による反乱など、民が苦しむ原因の氷山の一角に過ぎない。
それどころか賊が跋扈している事すら、権力者が原因だと言える。
権力者を不快にさせる事、それが今のこの国では最も重い罪になっているのである。
関羽が何も言えずにいると、ルフィが口を開いた。
「関羽…おれ決めたよ」
「…え?」
「帰る前に、おれもこの国を何とかする」
「!」
「おれは海賊だし、天の御遣いなんかじゃねェかもしれねェ。でも、おれもお前と一緒に戦う!いいか?」
「…はい、ありがとうございます!」
「お布団持ってきたのだ~」
丁度2人の話が終わった時、張飛が布団を抱えて戻って来た。
3人は張飛を真ん中に川の字になって、布団に入る。
「しかし、すまぬな。風呂や布団まで貸してもらって」
「別に構わないのだ!勝負に負けたのだから、一晩一緒に寝るくらい仕方がないのだ!」
「…何だか、誤解を招きそうな言い方だな」
「誤解って?」
「あ、いえっ!何でもありません!」
なんとなく予想はできていたが、ルフィがそのテの事に疎かったため、慌ててごまかす関羽だった。
「それに…」
「「?」」
「誰かと一緒に寝るのは、すごく久しぶりで…何だか、お父さんとお母さんができたみたいで…すごく嬉しいのだ…」
「…そっか、よかったな」
「ちょ、ちょっと待て!」
「「?」」
「私とルフィ殿はその様な関係ではない!それに妹ならともかく、お主の様な娘がいる年齢でもない!」
無論、張飛が言ったのはただの例えなのだが、関羽はどうも気になるらしい。
「……妹、って事はお姉ちゃんだったら良いのか?」
嬉しそうに訊ねる張飛。
「…まァ、それなら良いが…」
「だったら、関羽は今日から鈴々のお姉ちゃんなのだ!」
「はァ⁉い、いや待て!姉なら良いといったのは、そう意味ではなくて…」
「…駄目なのか?」
「うっ…」
悲しそうな顔をする張飛。
「おれは別にいいぞ。父ちゃんでも兄ちゃんでも」
「う…わ、わかった…お主の姉になってやる」
「わ~い!鈴々にお兄ちゃんとお姉ちゃんができたのだ~!」
嬉しそうに関羽に抱き着く張飛。
「こ、こら!抱き着くな!」
「これで…」
「?」
「これで…もう夜になっても淋しくないのだ…」
「…ああ、今日から私達三人は兄妹だ。ルフィ殿も良いですな」
「ああ」
「…それならば張飛、私達と一緒に旅に出てくれるか?」
「旅?」
「ああ、私は世の中を変える為…世の中を変える方法を探す為に、ルフィ殿は逸れてしまった仲間を探す為に旅をしている」
「仲間って、何の仲間なのだ?」
「その…ルフィ殿は天の国から来た…海賊でな…」
関羽は少し迷ったが、これから行動を共にする以上隠す事はできないと判断し、正直に話した。
「海賊⁉鈴々も山賊だから似た者同士なのだ!」
「ああ、そうだな!」
(ほっ…)
思いのほか、険悪な状態にならなかったため、胸をなでおろす関羽だった。
「…それで、どうだ張飛?一緒に来るか?」
「当然なのだ!鈴々達は兄妹だから、ずっと一緒なのだ!」
「うむ!」
「おう!」
▽
翌朝―――
ルフィと関羽は張飛を連れて、庄屋の屋敷を訪れた。
張飛はしっかりと謝り、庄屋もこれ以上は咎めないという事で解決した。
その後、村の人々にも謝り、張飛がこれから2人と一緒に旅に出る事も告げた。
そして大勢の村人達が3人を見送りに、村の門まで来てくれた。
その時、ルフィと関羽が部屋を借りた店の女将が前に出てきた。
「あんた達…」
「「「?」」」
「これ…餞別に持っていきなさい」
そう言って、1本の酒瓶とお猪口を3つ差し出した。
「くれんのか、コレ?」
「ああ。ここから少し行ったら、村人がいつも花見に行く場所があってね。今なら丁度花も咲いているだろうから、そこで飲むといいよ」
「おお!ちょうどよかったよ!ありがとう!」
「?“丁度良い”?」
「はにゃ?」
関羽と張飛はルフィの言っている意味がわからず、首をかしげた。
▽
そして3人は村を後にした。
しかし、少しずつ張飛の顔が暗くなっていき、関羽は心配そうに訊ねた。
「どうした?もう村が恋しくなったのか?」
「そうじゃないのだ…。ただ、山賊団のみんなが見送りに来てくれなかったから…。きっと鈴々が良い親びんじゃなかったから…だから…」
「…いや、そうでもないみたいだぞ」
「ああ、ホラ」
「…?」
そう言われて張飛が2人が示した方向を見ると…
「「「「「親びーーーーーん!」」」」」
「!」
「武者修行、頑張ってくださーーーーーい!」
「強くなって帰ってきてねーーーーー!」
「みんな親びんが帰って来るの、待ってますからーーーーー!」
アジトだった山小屋から、子分の子供達が大腕を振って、呼び掛けてくるのが見えた。
「みんな…!」
「泣くな張飛、旅立ちに涙は不吉だぞ」
「な、泣いてなんかいないのだ!」
張飛はそう強がるが、目は大粒の涙が今にもこぼれそうになっていた。
「人は次に会う時まで、別れ際の顔を覚えているものだ。子分達に、そんな情けない顔を覚えて貰いたくはないだろう?笑顔で応えてやれ」
「!」
関羽に言われ、張飛は涙をぬぐい…
「みんなーーーーー!行ってくるのだーーーーー!」
とびっきりの笑顔で応えた。
▽
3人が村を出てしばらくすると…
「おお!」
「キレーだな~!」
「鈴々もここでよくお花見したのだ!」
一面に桃の花が広がる桃園に辿り着いた。
「よし!じゃあここでするか!」
そう言うとルフィは近くの切株にお猪口を乗せ、中に酒を注ぐ。
「ルフィ殿、一体何をするつもりなのですか?」
「
「“さかずき”って何なのだ?」
「おれ達、兄妹になるんだろ?だったら盃を交わそうぜ!」
「盃を交わすと兄妹になれるのか?」
「ああ!おれもこうやって兄ちゃん達と兄弟になったんだ」
(そうか、実の兄ではなかったのか…)
「だったら、鈴々達も盃を交わすのだ!」
「ええ、いいでしょう」
盃を交わす意味を知ると、張飛は嬉しそうに賛成し、関羽も同意する。
「そうだ!二人にお願いがあるのだ!」
「「?」」
「兄妹になるなら、鈴々の事は真名で“鈴々”って呼んで欲しいのだ!あと、二人の事を真名で呼びたいから、真名を教えて欲しいのだ!」
「ええ⁉しかし、私達は出会ったばっかりで…」
「なァ、“マナ”って何だ?」
「え?」
「知らないのか?」
「ああ。初めて聞いた」
「天の国には真名がないのですか?
“真名”というのは、“
持ち主にとっての命も同然の大切なもので、許可なく呼べば殺されてしまうこともあります」
「名前を呼んだだけでか⁉」
「はい。真名を呼ぶことを許すという事は、親愛や忠義、信頼の証でもあるのです」
「そうなのだ!だから鈴々は兄妹で、家族で、ずっと一緒にいる二人と真名で呼び合いたいのだ」
「そうか。おれは真名はねェけど呼んでいいのか?」
「もちろんなのだ!」
「わかった、じゃあ呼ぶ!これからよろしくな“鈴々”!おれの事は“ルフィ”って呼んでくれ」
「うん!よろしくなのだ“ルフィ”!」
「仕方ないな…では私も…。我が名は“関羽”、字は“雲長”、真名は“
「うん!」
「ルフィ殿にも真名を預けます。これからは“愛紗”と呼んでください」
「わかった。よろしくな“愛紗”」
「ところで…私もルフィ殿にお願いがあるのですが…」
「何だ?」
「兄妹になるのでしたら…ルフィ殿には……その…私の…兄上になって貰えないでしょうか?」
「おういいぞ。じゃあ3人の中で、おれが一番上で次が愛紗、一番下が鈴々でいいな」
「はい」
「わかったのだ」
そして3人はそれぞれお猪口を手にし…
「これで今日からおれ達は―――兄妹だ!」
「はい!」
「うん!」
盃を交わしたのだった。
今回で第一席ぶんは終わりです。
次回から、第二席に入ります。