ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊 作:HAY
ルフィ達が豫州に向けて出発した頃、桃花村―――
「いまひ~ら~り~ひらひら~はね~ひろげ~♪せん~ねんのねむり~めざ~めゆく~♪」
「楽しそうだな璃々」
ある日、ウソップが屋敷の庭を歩いていると、歌っている璃々に出くわした。
「あ!ウソップお兄ちゃん!」
「どうしたんだその歌?」
「この間、青州から来た行商人に教えてもらったのよ」
「紫苑」
「あ、お母さん」
「何でも青州出身の旅芸人が歌っているらしくて、今年の春の暮れ頃から流行りだしたそうなんです」
「へ~旅芸人ね…(どんなやつらなんだろうな?)」
「ウソップお兄ちゃんもいっしょにうたおう!」
「よし、じゃあ歌うか!」
▽
時は少々遡り、ある春の日の夕方、青州のとある町―――
「は~い!皆さんお立合い~!」
3人の女性が楽器を手に日銭稼ぎをしていた。
「私達張三姉妹の歌と音楽!」
「どうぞお楽しみ下さ~い!」
桃色の長い髪女性が琵琶、水色の髪をサイドテールにした女性が胡弓、薄い紫の短髪で眼鏡をかけた女性が太鼓を演奏し、歌い始める。
「「「前髪かすめ~た~♪つむじか~ぜ~♪」」」
「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」
しかし、楽器の演奏がどこかぎこちなく歌声も小さい。
そのせいか、見物人の反応はあまりよろしくない。
「「「…ユ・メ♪蝶ひらり~♪」」」
やがて歌が終わり…
「お楽しみいただけましたのなら、お気持ちだけで結構ですので、こちらのザルに…」
「お米、お野菜、その他何でも大歓迎」
「お金だったら大感激!」
「「「皆様のお心遣いをよろしくお願いしま~す!」」」
3人は催促するが…
「……今日も駄目だったわね…」
日が沈むまで待ってみたが、ザルの中はとうとう空っぽのままだった。
「「はァ…」」
「大丈夫だよ二人とも。収入が全くないなんて、いつものことでしょ?」
桃色の髪の女性、“
「姉さん…自分で言ってて悲しくないの?」
水色の髪の“
姉さんと呼ぶところを見ると、3人は姉妹のようである。
「とにかく、またしばらくはひもじい生活になりそうね…」
眼鏡をかけた“
▽
翌日、張角、張宝、張梁の3人は林の中を歩いていた。
「ね~…次の村まだ~…?」
「まださっきの村を出たばかりじゃない…」
「だって朝早かったから、お姉ちゃん眠いんだもん…」
そう呟きながら、大きなあくびをする張角。
「“
張角の真名らしき名を呼ぶ張梁。
「あれ?」
その時、張宝が何かを見つけた。
「ちぃ姉さん?」
「ちぃちゃんどうしたの?」
「あそこ…誰か倒れてる!」
「「!」」
2人が張宝の指さした方を見ると、確かに人間らしき影が横たわっている。
3人は思わず駆け寄る。
「あの大じょ…きゃあ⁉」
真っ先に駆け寄り、顔をのぞき込んだ張角が悲鳴を上げる。
「姉さん⁉」
「どうしたの⁉」
「が、がいこ…」
震えながら人影を指さす張角。
2人がよく見てみると…
「ひっ…!」
「こ、これって…」
倒れていた人影は、白骨化した死体だった。
「…死んでからもう何十年もたっているわね…」
死体を見ながら張梁が呟く。
「こんなに毛が残っている白骨死体なんてあるのね…」
「…ねェ二人とも…この人、埋葬してあげない?」
「…そうね、弔ってあげましょう」
「…ええ、ずっとこのままなんて、いくらなんでも可哀そ…」
「ふわああァ~~~…」
3人がそんな事を話していると、不意に誰かのあくびが聞こえた。
「あ~…もうだいぶ日が高くなってますね…。少々寝すぎたでしょうか?」
「「「…………」」」
独り言が聞こえ、3人は声の主を確かめようと、恐怖に顔を染めながらゆっくりと首を動かす。
「しかし、山の中で寝るのは身体に堪えますね…寝違えたんでしょうか?首が痛い…」
見ると3人の予想通り、声の主は先ほど3人が見つけた白骨死体だった。
「……骨だけなのに寝違えたりするんでしょうか?」
「「「ば…」」」
「?」
「「「化物ォ~~~‼」」」
「ええっ⁉化物⁉どこですか⁉コワイッ!」
「アンタだっ!」
張宝のツッコミが炸裂した。
▽
「イヤ~驚かせてしまって申し訳ありません。私、“ブルック”と申します。以後、お見知りおきを」
「こっちこそお騒がせしてごめんなさい。私は“張角”、この二人は私の妹で次女の“張宝”と三女の“張梁”っていうの」
「な、何なのよ…⁉何なのよあれ⁉」
「全くわからないわ…」
「それにしても、目が覚めて良かったですよ。もう少しで、生き埋めにされるところだったんですね…。私もう死んでますけど…」
「その姿でも埋められると苦しいの?」
「さァ~?埋められたことないから、わからないですね~」
「―――っていうか、何で姉さん普通に会話しているのよ⁉」
「お気楽もあそこまでいくと、もう才能ね…」
「も~二人ともいつまで怖がってるの?こんなに陽気で明るい人が、悪い人なワケないよ」
「そもそも、どう見ても人じゃないでしょソレ!」
「私、一応人間ですよ。こんな姿ですけど」
「自覚はあるのね…」
「それにしてもお三方、中々お美しいですね~」
「え~⁉ホント~⁉」
「そ、それはどうも…」
「恐縮です…」
「パンツ見せて貰ってもよろしいですか?」
「嫌よ!」
バキィ!
ブルックのこめかみを蹴る張宝。
「“ぱんつ”が何かはわからないけど、何か絶対に嫌よ!」
「ヨホホホ!お手厳シィ~!骨身にしみました!ガイコツなだけに!」
「やかましい!」
「その身体でも痛いんだ」
「…ところであなた、本当に何者なの?人間なら、どうしてそんな姿をしているの?」
「えーとですね…話せば長くなるのですが…」
▽
「え~っと、つまりブルックさんは…変な果物を食べて…」
「その
「その時すでに身体が白骨化していたから、動く骸骨になったと…」
「はい、そういうことです」
「へ~、世の中って不思議なことがあるんだね~」
「死んでから生き返るなんて、信じがたいけど…」
「けど、それくらいのことがないと、ありえないわよこんな状況」
「おや?」
…と、そこでブルックが3人の荷物である楽器に視線を向ける。
「あの…皆さまは音楽を嗜まれているのですか?」
「そうだよ。旅芸人として歌いながら、いつかは歌で天下を取りたいって思ってるの!」
「おー!それはそれは!よろしければ、一曲お聴かせいただけないでしょうか?」
「もちろんいいですよ!」
「ちょ、ちょっと…!」
「天和姉さん…」
「ほらほら二人とも、歌って欲しいって言っているんだから、歌ってあげようよ!」
「わかったわよ…」
「でも、時間も惜しいから一曲だけよ…」
「は~い!それでは聴いて下さ~い!」
そして3人は楽器を奏で、歌を披露する。
「「「前髪かすめ~た~♪つむじか~ぜ~♪」」」
▽
「「「…ユ・メ♪蝶ひらり~♪」」」
「…………」
「ありがとうございました~!いかがでしたか~?」
「あのー皆さん…」
「?何ですか?」
「ひょっとして、楽器の方は始めてから、まだ日が浅かったりしますか?」
「あ、はい…そうですけど…」
「どうしてわかったのよ?」
「失礼を承知で言わせていただきますが、皆さんの手の動きがぎこちなく感じまして…。
あと、演奏の方に気をとられて、歌の方も疎かになってしまっているような気がしまして…」
「あ~…」
「確かにそうかも…」
ブルックの言葉に納得する張角と張宝。
「……あの…」
「?何でしょう?」
「一回聞いただけで、そこまでわかるってことは……ひょっとしてブルックさんも音楽を?」
「はい!私、こう見えて音楽家でして…」
「え~そうなの~⁉何を演奏するんですか⁉」
「一応、主な楽器は一通り演奏できますが、一番はこのヴァイオリンですかね?」
どこからともなくヴァイオリンを取り出すブルック。
「へ~初めて見る楽器~!」
「すっごい綺麗ね~」
「この辺りに来た時も、これだけは肌身離さず持っていたので、持ってこれたんです。
ガイコツだから肌はないんですけどー!」
「……あの~一曲でいいんで、ブルックさんの演奏聴かせて貰えませんか?」
興味津々といった様子でお願いする張角。
「ちょっと姉さん!」
「ええ、いいですよ。先ほど皆さんの演奏を聴かせていただきましたし、お礼がわりと言っては何ですが、私も一曲」
「やった~!」
「全くもう…」
「まァ、他の人の演奏を聴くのもいい勉強になるかもしれないし、良いんじゃない?」
「それでは一曲…」
そしてブルックは演奏を始める。
フィ~~~ン♪
「「「!」」」
最初の音が響いたその瞬間、3人はブルックの演奏に釘付けになった。
「ビンクスの酒を~…♪」
▽
「…ヨホホホ~♪ヨホホホ~♪」
やがて演奏が終わり…
「す、すっご~い!」
「あ、あんな綺麗な演奏初めて聞いた…!」
「歌もすごく上手だった…!」
3人はそろって拍手する。
「ヨホホホ恐縮です」
「……あ、あの~ブルックさん…」
「?何です?」
「さ、さっき私達が演奏した曲を弾くことって、できないですか?」
「いや、姉さん…」
「いくら何でもそれは…」
「……少々お時間よろしいですか?」
「「え?」」
そしてブルックは時折、指先をタクトのように動かしながら、しばらく思案し…
「お待たせしました。では…」
ヴァイオリンを構えると…
~~~♪~~~♪
「「「!」」」
張角達が先ほど演奏した曲を、弾いてみせた。
「…こんな感じでどうでしょうか?」
「うそ…さっき一回聞いただけなのに…」
「私達の演奏よりも、ずっと上手に聴こえたわ…」
楽器の精度が違うのもあるが、やはり演奏の技術の差が大きいのだろう。
「………あ、あのっ―――」
「「「⁉」」」
突然、張角が両手でブルックの手をとる。
「―――私達と一緒に音楽活動してくれませんか⁉」
「はい?」
「「姉さん⁉」」
▽
「…で、活動しながらブルックさんに楽器を教えてもらおう、って思ったの!」
「う~ん…確かにちぃ達独学だもんね~…。やっぱり、ちゃんと誰かに教えてもらった方が良いのかも…」
「悪い考えではないと思うわ。それに今のご時世だと、男が一人一緒にいてくれた方が助かることもあるし。
……その状態だと性別わからないけど、あなた男よね?」
「はい。生前はちゃんとついていましたよ」
「それで、ブルックさんの方はどうかな?」
「そうですね~…正直言って、私はこの辺りの習慣が全くわからないので、誰かが案内をしてくれるのは助かりますが…。
私も私で目的があって、今は逸れた仲間を探している途中なので…。仲間が見つかるまでで良いのでしたら…」
「うん、いいよ!それまでに私達上手になるもん!ね?」
「そりゃそうよ!ちゃんとちぃ達の実力で天下を取るもの!」
「私も」
「そうですか!それでは皆さん、しばらくの間よろしくお願いします」
こうして、ブルックは張角、張宝、張梁の張三姉妹と共に行動することになった。