ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊   作:HAY

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第70話 “旅芸人” 

ルフィ達が豫州に向けて出発した頃、桃花村―――

 

「いまひ~ら~り~ひらひら~はね~ひろげ~♪せん~ねんのねむり~めざ~めゆく~♪」

 

「楽しそうだな璃々」

 

ある日、ウソップが屋敷の庭を歩いていると、歌っている璃々に出くわした。

 

「あ!ウソップお兄ちゃん!」

 

「どうしたんだその歌?」

 

「この間、青州から来た行商人に教えてもらったのよ」

 

「紫苑」

 

「あ、お母さん」

 

「何でも青州出身の旅芸人が歌っているらしくて、今年の春の暮れ頃から流行りだしたそうなんです」

 

「へ~旅芸人ね…(どんなやつらなんだろうな?)」

 

「ウソップお兄ちゃんもいっしょにうたおう!」

 

「よし、じゃあ歌うか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は少々遡り、ある春の日の夕方、青州のとある町―――

 

「は~い!皆さんお立合い~!」

 

3人の女性が楽器を手に日銭稼ぎをしていた。

 

「私達張三姉妹の歌と音楽!」

 

「どうぞお楽しみ下さ~い!」

 

桃色の長い髪女性が琵琶、水色の髪をサイドテールにした女性が胡弓、薄い紫の短髪で眼鏡をかけた女性が太鼓を演奏し、歌い始める。

 

「「「前髪かすめ~た~♪つむじか~ぜ~♪」」」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

しかし、楽器の演奏がどこかぎこちなく歌声も小さい。

そのせいか、見物人の反応はあまりよろしくない。

 

「「「…ユ・メ♪蝶ひらり~♪」」」

 

やがて歌が終わり…

 

「お楽しみいただけましたのなら、お気持ちだけで結構ですので、こちらのザルに…」

 

「お米、お野菜、その他何でも大歓迎」

 

「お金だったら大感激!」

 

「「「皆様のお心遣いをよろしくお願いしま~す!」」」

 

3人は催促するが…

 

「……今日も駄目だったわね…」

 

日が沈むまで待ってみたが、ザルの中はとうとう空っぽのままだった。

 

「「はァ…」」

 

「大丈夫だよ二人とも。収入が全くないなんて、いつものことでしょ?」

 

桃色の髪の女性、“張角(ちょうかく)”がため息を漏らす2人を励ます。

 

「姉さん…自分で言ってて悲しくないの?」

 

水色の髪の“張宝(ちょうほう)”は額に手を当て呟く。

 

姉さんと呼ぶところを見ると、3人は姉妹のようである。

 

「とにかく、またしばらくはひもじい生活になりそうね…」

 

眼鏡をかけた“張梁(ちょうりょう)”はため息交じりに呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、張角、張宝、張梁の3人は林の中を歩いていた。

 

「ね~…次の村まだ~…?」

 

「まださっきの村を出たばかりじゃない…」

 

「だって朝早かったから、お姉ちゃん眠いんだもん…」

 

そう呟きながら、大きなあくびをする張角。

 

「“天和(てんほう)”姉さん、気持ちはわかるけど…」

 

張角の真名らしき名を呼ぶ張梁。

 

「あれ?」

 

その時、張宝が何かを見つけた。

 

「ちぃ姉さん?」

 

「ちぃちゃんどうしたの?」

 

「あそこ…誰か倒れてる!」

 

「「!」」

 

2人が張宝の指さした方を見ると、確かに人間らしき影が横たわっている。

 

3人は思わず駆け寄る。

 

「あの大じょ…きゃあ⁉」

 

真っ先に駆け寄り、顔をのぞき込んだ張角が悲鳴を上げる。

 

「姉さん⁉」

 

「どうしたの⁉」

 

「が、がいこ…」

 

震えながら人影を指さす張角。

2人がよく見てみると…

 

「ひっ…!」

 

「こ、これって…」

 

倒れていた人影は、白骨化した死体だった。

 

「…死んでからもう何十年もたっているわね…」

 

死体を見ながら張梁が呟く。

 

「こんなに毛が残っている白骨死体なんてあるのね…」

 

「…ねェ二人とも…この人、埋葬してあげない?」

 

「…そうね、弔ってあげましょう」

 

「…ええ、ずっとこのままなんて、いくらなんでも可哀そ…」

 

「ふわああァ~~~…」

 

3人がそんな事を話していると、不意に誰かのあくびが聞こえた。

 

「あ~…もうだいぶ日が高くなってますね…。少々寝すぎたでしょうか?」

 

「「「…………」」」

 

独り言が聞こえ、3人は声の主を確かめようと、恐怖に顔を染めながらゆっくりと首を動かす。

 

「しかし、山の中で寝るのは身体に堪えますね…寝違えたんでしょうか?首が痛い…」

 

見ると3人の予想通り、声の主は先ほど3人が見つけた白骨死体だった。

 

「……骨だけなのに寝違えたりするんでしょうか?」

 

「「「ば…」」」

 

「?」

 

「「「化物ォ~~~‼」」」

 

「ええっ⁉化物⁉どこですか⁉コワイッ!」

 

「アンタだっ!」

 

張宝のツッコミが炸裂した。

 

 

 

 

 

 

「イヤ~驚かせてしまって申し訳ありません。私、“ブルック”と申します。以後、お見知りおきを」

 

「こっちこそお騒がせしてごめんなさい。私は“張角”、この二人は私の妹で次女の“張宝”と三女の“張梁”っていうの」

 

「な、何なのよ…⁉何なのよあれ⁉」

 

「全くわからないわ…」

 

「それにしても、目が覚めて良かったですよ。もう少しで、生き埋めにされるところだったんですね…。私もう死んでますけど…」

 

「その姿でも埋められると苦しいの?」

 

「さァ~?埋められたことないから、わからないですね~」

 

「―――っていうか、何で姉さん普通に会話しているのよ⁉」

 

「お気楽もあそこまでいくと、もう才能ね…」

 

「も~二人ともいつまで怖がってるの?こんなに陽気で明るい人が、悪い人なワケないよ」

 

「そもそも、どう見ても人じゃないでしょソレ!」

 

「私、一応人間ですよ。こんな姿ですけど」

 

「自覚はあるのね…」

 

「それにしてもお三方、中々お美しいですね~」

 

「え~⁉ホント~⁉」

 

「そ、それはどうも…」

 

「恐縮です…」

 

「パンツ見せて貰ってもよろしいですか?」

 

「嫌よ!」

 

バキィ!

 

ブルックのこめかみを蹴る張宝。

 

「“ぱんつ”が何かはわからないけど、何か絶対に嫌よ!」

 

「ヨホホホ!お手厳シィ~!骨身にしみました!ガイコツなだけに!」

 

「やかましい!」

 

「その身体でも痛いんだ」

 

「…ところであなた、本当に何者なの?人間なら、どうしてそんな姿をしているの?」

 

「えーとですね…話せば長くなるのですが…」

 

 

 

 

 

 

「え~っと、つまりブルックさんは…変な果物を食べて…」

 

「その能力(チカラ)で一度死んでから生き返った…」

 

「その時すでに身体が白骨化していたから、動く骸骨になったと…」

 

「はい、そういうことです」

 

「へ~、世の中って不思議なことがあるんだね~」

 

「死んでから生き返るなんて、信じがたいけど…」

 

「けど、それくらいのことがないと、ありえないわよこんな状況」

 

「おや?」

 

…と、そこでブルックが3人の荷物である楽器に視線を向ける。

 

「あの…皆さまは音楽を嗜まれているのですか?」

 

「そうだよ。旅芸人として歌いながら、いつかは歌で天下を取りたいって思ってるの!」

 

「おー!それはそれは!よろしければ、一曲お聴かせいただけないでしょうか?」

 

「もちろんいいですよ!」

 

「ちょ、ちょっと…!」

 

「天和姉さん…」

 

「ほらほら二人とも、歌って欲しいって言っているんだから、歌ってあげようよ!」

 

「わかったわよ…」

 

「でも、時間も惜しいから一曲だけよ…」

 

「は~い!それでは聴いて下さ~い!」

 

そして3人は楽器を奏で、歌を披露する。

 

「「「前髪かすめ~た~♪つむじか~ぜ~♪」」」

 

 

 

 

 

 

「「「…ユ・メ♪蝶ひらり~♪」」」

 

「…………」

 

「ありがとうございました~!いかがでしたか~?」

 

「あのー皆さん…」

 

「?何ですか?」

 

「ひょっとして、楽器の方は始めてから、まだ日が浅かったりしますか?」

 

「あ、はい…そうですけど…」

 

「どうしてわかったのよ?」

 

「失礼を承知で言わせていただきますが、皆さんの手の動きがぎこちなく感じまして…。

あと、演奏の方に気をとられて、歌の方も疎かになってしまっているような気がしまして…」

 

「あ~…」

 

「確かにそうかも…」

 

ブルックの言葉に納得する張角と張宝。

 

「……あの…」

 

「?何でしょう?」

 

「一回聞いただけで、そこまでわかるってことは……ひょっとしてブルックさんも音楽を?」

 

「はい!私、こう見えて音楽家でして…」

 

「え~そうなの~⁉何を演奏するんですか⁉」

 

「一応、主な楽器は一通り演奏できますが、一番はこのヴァイオリンですかね?」

 

どこからともなくヴァイオリンを取り出すブルック。

 

「へ~初めて見る楽器~!」

 

「すっごい綺麗ね~」

 

「この辺りに来た時も、これだけは肌身離さず持っていたので、持ってこれたんです。

ガイコツだから肌はないんですけどー!」

 

「……あの~一曲でいいんで、ブルックさんの演奏聴かせて貰えませんか?」

 

興味津々といった様子でお願いする張角。

 

「ちょっと姉さん!」

 

「ええ、いいですよ。先ほど皆さんの演奏を聴かせていただきましたし、お礼がわりと言っては何ですが、私も一曲」

 

「やった~!」

 

「全くもう…」

 

「まァ、他の人の演奏を聴くのもいい勉強になるかもしれないし、良いんじゃない?」

 

「それでは一曲…」

 

そしてブルックは演奏を始める。

 

フィ~~~ン♪

 

「「「!」」」

 

最初の音が響いたその瞬間、3人はブルックの演奏に釘付けになった。

 

「ビンクスの酒を~…♪」

 

 

 

 

 

 

「…ヨホホホ~♪ヨホホホ~♪」

 

やがて演奏が終わり…

 

「す、すっご~い!」

 

「あ、あんな綺麗な演奏初めて聞いた…!」

 

「歌もすごく上手だった…!」

 

3人はそろって拍手する。

 

「ヨホホホ恐縮です」

 

「……あ、あの~ブルックさん…」

 

「?何です?」

 

「さ、さっき私達が演奏した曲を弾くことって、できないですか?」

 

「いや、姉さん…」

 

「いくら何でもそれは…」

 

「……少々お時間よろしいですか?」

 

「「え?」」

 

そしてブルックは時折、指先をタクトのように動かしながら、しばらく思案し…

 

「お待たせしました。では…」

 

ヴァイオリンを構えると…

 

~~~♪~~~♪

 

「「「!」」」

 

張角達が先ほど演奏した曲を、弾いてみせた。

 

「…こんな感じでどうでしょうか?」

 

「うそ…さっき一回聞いただけなのに…」

 

「私達の演奏よりも、ずっと上手に聴こえたわ…」

 

楽器の精度が違うのもあるが、やはり演奏の技術の差が大きいのだろう。

 

「………あ、あのっ―――」

 

「「「⁉」」」

 

突然、張角が両手でブルックの手をとる。

 

「―――私達と一緒に音楽活動してくれませんか⁉」

 

「はい?」

 

「「姉さん⁉」」

 

 

 

 

 

 

「…で、活動しながらブルックさんに楽器を教えてもらおう、って思ったの!」

 

「う~ん…確かにちぃ達独学だもんね~…。やっぱり、ちゃんと誰かに教えてもらった方が良いのかも…」

 

「悪い考えではないと思うわ。それに今のご時世だと、男が一人一緒にいてくれた方が助かることもあるし。

……その状態だと性別わからないけど、あなた男よね?」

 

「はい。生前はちゃんとついていましたよ」

 

「それで、ブルックさんの方はどうかな?」

 

「そうですね~…正直言って、私はこの辺りの習慣が全くわからないので、誰かが案内をしてくれるのは助かりますが…。

私も私で目的があって、今は逸れた仲間を探している途中なので…。仲間が見つかるまでで良いのでしたら…」

 

「うん、いいよ!それまでに私達上手になるもん!ね?」

 

「そりゃそうよ!ちゃんとちぃ達の実力で天下を取るもの!」

 

「私も」

 

「そうですか!それでは皆さん、しばらくの間よろしくお願いします」

 

こうして、ブルックは張角、張宝、張梁の張三姉妹と共に行動することになった。

 

 


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