ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊   作:HAY

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第71話 “ほあーっ!”

ブルックと張三姉妹が出会った翌日―――

 

宿泊した宿の一室で、4人は今後の方針について話し合っていた。

 

「出費が一人分増えた以上、今までよりも余裕はないわよ。真剣に収入を考えないと…」

 

財布の紐を握っている張梁が厳しめの口調で言う。

 

「そうですね…とりあえず、演奏の方は私が請け負いますから、皆さんは歌の方に集中してください」

 

「そうね。歌だけだったら、ちぃ達もかなり自信あるし」

 

「うん、それで決まりだね。じゃあ早速…」

 

「あ、ちょっと待ってください」

 

「「「?」」」

 

「歌もそうですけど、振り付けについても考えた方が良いかと…」

 

「振り付けって…踊るってこと?」

 

「はい。演奏は私がやるのですから、ただ棒立ちで歌うより、舞がある方が華やかに見えるでしょう?」

 

「ブルックさんの言う通りね。それがあれば耳だけじゃなくて、目でも人を惹きつけることができるし…」

 

ブルックの提案に賛同する張梁。

 

「ふーん……踊るんだったら、服装ももう少し変えた方が良いかしら?」

 

今度は張宝が提案する。

 

「あー…それもそうですね。服装がきらびやかだとより美しく感じますし…」

 

「じゃあ、新しい服買いに行こー♪」

 

「そんな余裕、あるワケないでしょう」

 

「あうう…」

 

「…っていうか姉さん、今のは単に新しい服買いたかっただけでしょ?」

 

「バレてた?」

 

「けど、服装ね…?」

 

「何かいい方法はないでしょうか?」

 

「それなら、ちぃちゃんに一つ考えがあるわよ♪」

 

「「「?」」」

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

それから、ブルックは数分間部屋の外で待つように言われた。

 

『ブルックさーん!いいわよー!』

 

「!」

 

張宝に呼ばれ、ブルックが部屋の中に入ると…

 

「おおっ!」

 

袖と裾が短く肩や脇、太股が露出した服を着た張角が立っていた。

 

「これは…さっきまで着ていた服の袖と裾を短くしたのですか?」

 

「その通り!これなら人目を惹くでしょ⁉」

 

自信ありげに言う張宝。

 

「で、でも…さすがにちょっと短すぎない?」

 

試着している張角は、少々恥ずかしそうにしている。

 

「この袖に合わせるなら…もうちょっと短い方が良いかしら?」

 

張角が着ている状態を見ながら思案する張梁。

 

「え?」

 

「太股とかおへそとか、見える方がいいわよね?」

 

戸惑う張角をよそに張宝も話を進める。

 

「でも…」

 

「あとは……3人で一緒に立ったときに、色が多すぎないように注意するべきすね」

 

ブルックも2人の話に加わる。

 

「そうなの?」

 

「そうね。お洒落をするなら、服の色は三色ほどでまとめて、三色目を少なくするのが基本だから…」

 

「えっと…」

 

「ちぃ達一人一人に一色で、残りの二色は三人で統一って感じかしら?」

 

「あの…」

 

「3色目は服よりも、帽子や髪飾りなどにした方が良いかもしれませんね」

 

「ねェ…」

 

「幸い布だけなら、いろんな色のがまだ沢山あるわ」

 

「お姉ちゃん、何だか置いてけぼりにされてない…?」

 

「じゃあもうひと頑張りいきましょう!」

 

「ええ!」

 

「はい!」

 

「あうう~!お姉ちゃんも混ぜてよ~!どうして私よりブルックさんの方が馴染んでるの~⁉」

 

一人空気扱いの張角は泣きそうになるのだった。

 

 

 

 

 

 

「…服はだいたいこんな感じでいいわね」

 

その後、張宝と張梁は自分達の服も同様に裾や袖を切り、三姉妹でお揃いの衣装が完成した。

 

「あとは、三人で共通の一色…」

 

「やはり服ではなく、装飾品にした方がいいかと…」

 

ブルック達は残っている布切れなどから、丁度いい物が無いか探す。

 

「あ、こんなのどうかな⁉」

 

張角は黄色い布を手に取り、リボンのように後頭部に着ける。

 

「おお…!いいですね…!」

 

「それじゃあちぃも…!」

 

「私も…!」

 

張宝と張梁も同じ黄色の布を探し、それぞれ右手首と胸元に蝶結びで着ける。

 

「「「じゃーん!」」」

 

「おおー!お美しィー!実にきらびやかですよ3人とも!」

 

「よし!それじゃあ服はこれでいいわね!」

 

「あとは歌と踊りを練習しましょう。ブルックさん、指導をお願いしますね」

 

「はい、お任せ下さい」

 

それから数日、3人はブルックにコーチをしてもらい、歌や踊りの練習をするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、張三姉妹はブルックが加わってから、初披露の日を迎えた。

 

「姉さん、振り付け覚えた?」

 

「まァ、一通りは…」

 

「あれだけ練習したんですから、大丈夫ですよ」

 

「とにかく、もうやるしかないんだから行くわよ!」

 

川辺にあった、板状の岩の上に張三姉妹は立つ。

 

「では、いきますよ」

 

「あれ?ブルックさんは乗らないんですか?」

 

「私が乗ると狭いですし、あくまでも主役は皆さんですから。では…」

 

そう言うとブルックは3人が乗る岩の近くに立ち、ヴァイオリンを奏でる。

 

フィ~~~ン♪

 

「ん?」

 

「何だこの音?」

 

「綺麗な音色…」

 

ブルックの演奏に惹きつけられ、近くにいた人々が集まる。

 

「あの髑髏の仮面の人か?」

 

「何か、隣に女の子もいるぞ?」

 

「何が始まるんだ?」

 

集まってきた人々は、張三姉妹にも注目し始める。

 

「わわわ~!人が一杯集まって来たよ~⁉」

 

「いや、集めるためにブルックさんに演奏して貰ったんでしょ…」

 

「天和姉さん、しっかりして…」

 

「そんなの絶対ムリだよ~!お姉ちゃん生まれてこの方、しっかりしたことなんて一度もないんだから~!」

 

「……あの、張角さん」

 

見かねたブルックが声をかける。

 

「な、何ですか?」

 

「張角さんは、歌うの楽しいですか?」

 

「は、はい…」

 

「なら大丈夫ですよ」

 

「へ?」

 

「歌で人を楽しませるためには、歌っている本人が楽しそうにしていることが、一番大事です。そうでないと、見ている人は楽しくないですから。

これは歌に限らず、人を楽しませる物全てに共通して言えることです」

 

「…………」

 

「さ、いつもみたいに楽しくいきましょう!」

 

「うん!」

 

ブルックの言葉で緊張がほぐれ、晴れやかな笑顔を浮かべる張角。

 

「それでは、今から私達張三姉妹の歌と踊りを始めまーす!」

 

「時間がある方は、是非見て行ってくださーい!」

 

「ではいきますよ!さんっ!はいっ!」

 

ブルックが演奏を始め、張三姉妹が歌いだす。

 

「「「前髪かすめ~た~♪つむじか~ぜ~♪」」」

 

今までと違い、楽器の演奏に気をとられることなく、歌に集中できる。

それだけでなく、ブルックの指導が効いたのか、歌唱力も格段に上昇していた。

何より表情、しぐさの全てが楽しそうで生き生きとしている。

 

その姿は人々の心を強く惹きつけた。

 

ブルックも3人の歌を邪魔せず、盛り上げるように、音程や音量を巧みに調整する。

 

「「「…ユ・メ♪蝶ひらり~♪」」」

 

そして曲が終わる。

 

「「「…………」」」

 

「…………」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

一瞬、場の空気が静まりかえり…

 

パチパチパチパチパチ…!

 

「「「!」」」

 

(ヨホホ…!)

 

拍手喝采が巻き起こった。

 

(わあ…!)

 

(や、やったわ…!)

 

(やった…!)

 

「ほわーーーっ!」

 

「ほわっほわっほわーーーっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、4人は宿屋の一室で休んでいた。

 

「…今日一日で、今までの一月分の稼ぎになったわ…!」

 

ザル一杯に入ったお金を数えながら、張梁が呟く。

 

「皆さん、今まで本当に大変だったんですね…」

 

「「やった~!」」

 

昼間の喜びが抜けないまま、寝台の上でハイタッチする張角と張宝。

 

「ついに…私達の時代が来たんだね…!」

 

「いや、まだそこまでは…」

 

「でも、今までで一番の大成功よね!」

 

「そうね」

 

「これも全部、ブルックさんのおかげだよ!」

 

「いえいえ、皆さんのお歌が素晴らしかったからですよ。昼間も言いましたが、主役は皆さんですし、私は別に大したことは…」

 

「そんなことないわよ!」

 

「ええ。ブルックさんが私達に色々教えてくれたから…」

 

「「「本当にありがとうございます!」」」

 

「…どういたしまして」

 

「それで…ブルックさん」

 

「?何です?」

 

「これからしばらく、一緒に行動するんだし…真名を交換しませんか?」

 

「……あの、失礼ですが“マナ”とは?」

 

「え?知らないんですか?」

 

「ブルックさんがいた所にはない習慣なの?」

 

「はい。少なくとも私は聞いたことないですね」

 

「真名っていうのは、本人の魂のような特別な名前で、親しい人や信頼関係がある人しか呼ぶことを許されない名前なの」

 

「それはそれは…。それで、そんな大切な名前を私に?」

 

「うん!ブルックさんは私達の恩人だし!」

 

「もうちぃ達の仲間だから!」

 

「家族みたいなものだから」

 

「…そうですか、では遠慮なく、その真名で呼ばせていただきます」

 

「うん!私は“天和”っていうの!」

 

「ちぃは“地和(ちーほう)”」

 

「私は“人和(れんほう)”」

 

“張角”こと“天和”、“張宝”こと“地和”、“張梁”こと“人和”は順に真名を教える。

 

「はい。“天和”さん、“地和”さん、“人和”さん、改めてよろしくお願いします!」

 

「うん」

 

「よろしく!」

 

「よろしくお願いします」

 

「ではお近づきの印に下着見せて貰ってもよろしいですか?」

 

「嫌よ!」

 

バキィ!

 

地和の正拳が炸裂した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、4人はあちこちで歌と踊りを披露した。

 

4人は次第に有名になり、大商人や庄屋の屋敷に呼ばれることや、役人が用意した公共の舞台で披露することも増えた。

 

収入が増え、懐が豊かになった4人は衣装をよりきらびやかで、材料も高価な物に変えた。

ブルックは新しい歌を、地和と人和はロウソクや布を用いたパフォーマンスも考えるようになり、4人はますます話題になった。

 

グッズなども売れ始め、サイン会ならぬ揮毫(きごう)会や握手会なども開催されるようになった。

 

張三姉妹のファンは日に日に増え、何度も舞台を見に来る者やプレゼントを贈る者も現れた。

ファンの多くは、天和達が黄色いリボンをしていることならい、自分達も黄色い服を身に着けた。

 

ブルックの方も外見が目立つこともあり、『張三姉妹を輝かせる凄腕の音楽家』として、ファンの間で有名になった。

 

そして4人は、牛に引かせる移動式の小屋を購入し、青州の外でも活動を開始することにした。

 

 

 

そんなある日のこと。

 

「あ~…今日もいい天気~…」

 

4人は牛に移動小屋をひかせて移動していた。

 

「次の舞台は、どこでやりましょうか?」

 

「そうね~…」

 

「でも最初はやっぱり、できるだけ青州に近い場所で…」

 

「止まれーーー!」

 

「「「「⁉」」」」

 

突然怒鳴り声が聞こえ、牛の背中に乗っていた人和が車を止める。

 

すると近くに茂みや木の陰から、山賊らしき男達が十人程現れた。

 

「な、何なのよあなた達…!」

 

「見ての通り山賊だ。身ぐるみ全部おいてけ」

 

「……いや、()()()()()()()のは勿体ねェな…」

 

「っ!」

 

山賊達は天和達をいやらしい目で見る。

 

「全員おれ達と一緒に来て貰おうか」

 

「へへへ!上玉じゃねェかコイツら!」

 

「い、いやっ!」

 

「こ、来ないで!」

 

「おいおい、そんなに怖がるなって」

 

「別に殺しはしねェよ」

 

「ちょっと一緒に楽しいことしようってだけだぜ?」

 

「ひっ…!」

 

手を伸ばす山賊。

 

「ちょっとお待ちください」

 

「「「「「「「「「「?」」」」」」」」」」

 

その時、ブルックが山賊達の前に出た。

 

「何だテメェは?妙な格好しやがって」

 

「名乗るほどの者ではありません。しかし一言…」

 

「ぶ、ブルックさん?」

 

「な、何を…?」

 

「あのですね、私も皆さまと同じ男性ですから、お美しい女性の下着や裸を見たいという気持ちはあります。

しかしですね…さすがにお手を触れるのは、同意を得てからするべきだと思うのですが?」

 

「……言いてェ事はそれだけか?骸骨仮面?」

 

「……ご理解していただけませんか?」

 

「するワケねェだろうが」

 

「説得は失敗だな。次はどうする?」

 

「おめェ一人で、おれ達全員を相手にする気か?」

 

「いいえ、もう終わってますから」

 

「あ?」

 

「「「?」」」

 

その時、天和達もブルックの手にいつの間にか1本の剣―――仕込み杖が鞘から抜かれた状態で握られていることに気が付く。

 

「何言って…ぐっ⁉」

 

「「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」」

 

次の瞬間、山賊達はいっせいに顔を歪める。

 

「“鼻唄三丁”…“矢筈(やはず)斬り”‼」

 

そして、ブルックが仕込み杖を収めると同時に、全員その場に倒れ込んだ。

 

「え…ぶ、ブルックさん⁉」

 

「い、今の何⁉何をしたの⁉」

 

「別に何でもありませんよ?

私が目にも留まらぬ速さで斬って、それがあまりにも速かったため、今になってようやく斬られたことに気が付いた。それだけです」

 

「それだけって…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜―――

 

「ええっ⁉ブルックさんって海賊だったの⁉」

 

「はい、隠していて申し訳ありません。もし嫌でしたら真名もお返ししますし、ここでお別れしますが…」

 

「ううん、それはいいよ。ね?」

 

「そうそう。ちぃ達の恩人だし…」

 

「悪い人じゃないっていうのは、一緒にいてよくわかったから」

 

「そうですか」

 

「でも、確かに気になっていたのよね。ブルックさんの楽器、ちぃの胡弓に似ているけど、演奏に使う弓が刃物みたいになってたから…」

 

「はい。これは杖であり、武器であり、楽器でもあるんです」

 

「けどその剣、一般的な剣に比べてずいぶん細いわね」

 

「ええ。斬技も得意ですが、基本的に私が扱う武術はフェンシングですから」

 

「“ふぇんしんぐ”?」

 

「突くことに重点を置いた剣技で、細長く片手でも扱える軽い剣を用いるのです」

 

「へ~、そんな剣技もあるんだ…」

 

「あの…ブルックさん、良かったらそれも私達に教えて貰えないですか?」

 

「え?」

 

「確かに、今の世の中何かと物騒だし、ちぃ達も護身の術くらい見に着けておいた方が良いかもしれないわね…」

 

「軽い剣だったら、私達でも扱えるかもしれないし、普段から踊りの練習しているから体力とかも結構あるし…」

 

「わかりました。私が可能な限りの稽古をお付けいたしましょう」

 

「「「ありがとうございます!」」」

 

ブルックという用心棒がいたこともあり、張三姉妹は順調に青州外での活動を開始することができたのだった。

 

 




合流はもう少し先です。


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