ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊   作:HAY

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第73話 “縁談”

「へ~、そういう事があったんですか…」

 

ルフィ達とチョッパーが仲間だと知った一同は、11人で席に着き自己紹介を済ませ、互いに今までの事を話した。

 

(この男がチョッパーの船長…)

 

話を聞いたねねは、不信感丸出しの目でルフィを見る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ねねが董卓陣営に加わってから数日後の事、チョッパーの医務室にて―――

 

『チョッパー、薬草が届いたので持ってきたのです』

 

『ありがとうねね。そこに置いといてくれ』

 

『……あの、チョッパー』

 

『ん?』

 

薬草を置きながら、ねねは訊ねる。

 

『チョッパーはどうして月達に協力しているのですか?』

 

『ん~…似ているからかな?』

 

『似ている?』

 

『うん。今のこの国とおれの生まれた国、あと月達とドクターが…』

 

『“どくたー”?』

 

『おれの……親だよ。おれが医者と海賊になるきっかけをくれたな…』

 

『え?』

 

『ドクターは、おれの生まれた国の病気を治そうとしていたんだ』

 

『国の…病気?』

 

『うん。この国も同じ病気になっている。偉い奴も国民も。だから独りぼっちで、悪いことをしたワケじゃないのに嫌われて、辛い思いをする奴が現れるんだ』

 

『…………』

 

『月達はこの国を治そうとしている。ドクターと同じようにな。だからおれも、手伝ってやりたいんだ』

 

『…………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日―――

 

『走るのです!』

 

ドドドドド…

 

『止まるのです!』

 

キキィーッ!

 

ねねは城の庭で、恋が拾って来た動物達の調練をしていた。

犬や猫だけでなく、牛やヤギなどの家畜、カモやフクロウなどの鳥類、トラやオオカミなどの猛獣までいる。

 

『いや~…ほんと助かるわ…』

 

詠がやって来た。

 

『あいつ片っ端から動物拾ってくるもんだから、世話に本当に困っていたのよ』

 

『ねねは元々家畜が相手の仕事をしていたので、動物の世話は慣れているのです。任せておくのです』

 

『頼りにしてるわ。あんた頭の出来も申し分ないし、その内正式に恋の軍師にする予定だから。今後ともあいつとこの子達の事、よろしく頼むわね』

 

『本当ですか⁉全力で頑張るのです!』

 

『お~い!え~い!ねね~!』

 

『『!』』

 

少し離れた所からチョッパーが呼びかけてきた。

 

『おれ、今から新人医師の教育に行ってくるから~!患者が来たら頼むな~!』

 

『了解!任せといて~!』

 

チョッパーは去って行った。

 

『診察に薬剤調合、医学書の作成に新人の教育…毎日毎日、ほんと頭が下がるわ…』

 

『そういえば詠…』

 

『何?』

 

『チョッパーの事で、ちょっと良いですか?』

 

 

 

 

 

 

『…ああ、その事…』

 

『みんな知っているのですか?』

 

『ええ。チョッパーがボク達の所に来てから、一週間ぐらいした頃だったかな?あいつの口から聞いたわ。

最初あいつが海賊だって聞いたときは、冗談かと思ったわよ』

 

『…詠達は、チョッパーを海賊達に返すつもりなのですか?』

 

『…ボクも犯罪者の仲間に返すのは思うところがあるけど…チョッパーが大事な仲間だから、帰りたいってね…』

 

『…そんなに大事なのですか?』

 

『…あいつ、生まれてすぐに親に捨てられたんだって』

 

『え⁉』

 

『青い鼻だから気味が悪いってね。そのうえ変な果物のせいで、さらに妙な生き物になって…人間からも動物からも嫌われて追い回されて…。

しばらくしてある人間に拾われて、そいつに言われたんだって『いつか海に出て海賊になれ。信念を掲げて進む、すごい奴になれ』って』

 

『…………』

 

『けど、大抵の奴は化物扱いして仲間になんてしてくれないし、あいつは海の事を何も知らない。どうしようもなかった時に、今の船長に勧誘されたらしいわ』

 

『……きっと、良い船長さんなのですね』

 

『……まァ、大物ではあるんでしょうね』

 

『ほえ?』

 

半ば呆れ気味に言う詠を、不思議そうに見るねね。

 

『その船長、何でチョッパーを勧誘したと思う?』

 

『医者の仲間が欲しかったのでは?』

 

『そいつ、チョッパーが珍しい動物だから連れて行こうとしたらしいわ』

 

『は?』

 

思いもよらぬ理由に、開いた口が塞がらなくなるねね。

 

『変な話よね。今まで化物だったから嫌われてきたのに、今度は化物だから仲間になって欲しいって言われるなんて』

 

『……そうですね』

 

二人は呆れつつも、少しだけ嬉しそうにそう言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……ただの阿呆(あほう)にしか見えないのです…)

 

「ん?何だ?」

 

「何でもないのです」

 

「チョッパーさんも呂布さんも陳宮さんも大変だったんだね」

 

「……ふんだ!添い寝してもらって喜ぶなんて、お子ちゃまな奴なのだ!」

 

「何を~⁉ねねは別にお子ちゃまじゃないのです!」

 

「いいや!添い寝で喜ぶのはお子ちゃまだけなのだ!」

 

先ほどの店での一件からか、ねねのことが気に入らないらしい鈴々は口先では強くあたる。

しかし実際は、自分も早くに家族を亡くしていたこともあり、ねねの辛さや恋を慕う気持ちを、自分の事のように理解していた。

 

「ほ~、添い寝で喜ぶのはお子ちゃまか…」

 

―――――これで…もう夜になっても淋しくないのだ…

 

「な、何で笑っているのだ愛紗⁉」

 

「いや別に」

 

「お前ら、ありがとうな。チョッパー助けてくれてよ」

 

「とんでもないです。ねね達の方がチョッパーには色々と助けて貰ったのです」

 

「チョッパー強いし、いいお医者さん。頼もしい」

 

「た、頼もしいだなんて!そんなこと言われたって、嬉しくなんかねーぞ!コノヤローが!」

 

「すごく嬉しそうだね…」

 

「小踊りまでしているな…」

 

「感情が隠せない方なんですね…」

 

「可愛い…」

 

「愛紗?どうしたのだ?」

 

「い、いやっ!何でもないぞ!」

 

「しっかし、お前も涼州にいたとはな…」

 

一時期翠と共に涼州にいたゾロは、思わぬすれ違いに驚く。

 

「おれはちょっとだけ、『3本の刀を持った剣士が来ている』って噂で聞いた事あったけど、アレやっぱりゾロの事だったんだな。

おれが噂を聞いた頃には、もうゾロは涼州を出て行った後だったけど…」

 

「郡をまたいで情報が届くのには、時間がかかりますからね…」

 

「しかし、涼州の董卓殿に仕えているお主達が何故豫州に?」

 

「お見合いに来た」

 

星の問いに恋が答える。

 

「お見合い?呂布どのがか?」

 

「…………(フルフル)」

 

愛紗が訊ねると恋は首を横に振る。

 

「それでは…」

 

今度はねねに視線を向ける。

 

「んあ?」

 

「ちがう。ちんきゅに交尾はまだ早い」

 

「「「「ぶっ⁉」」」」

 

恋の言葉にナミ、桃香、愛紗、朱里は顔を赤くし吹き出す。

 

「朱里、“コービ”って一体何なのだ?」

 

「し、知らなくていいです!鈴々ちゃんにはまだ早すぎます!」

 

「?」

 

顔を真っ赤にしてそう言う朱里を不思議そうに見る鈴々だった。

 

「そうだな。鈴々にはまだ早いな。だが、愛紗はそろそろいい頃合いではないか?」

 

「⁉」

 

星は意味深な笑みを浮かべ、愛紗に話を振る。

 

「よ、余計なお世話だ!そもそも、そういうのは相手が…」

 

チラ…

 

「ん?」

 

「っ!と、とにかく余計なお世話だ!」

 

「そ、それじゃあどなたがお見合いされるのですか?」

 

何とか場の空気を変えようと桃香が問いかける。

 

「お見合いするのはこいつ。張々だぞ」

 

そう言ってチョッパーはねねの足元で寝ている犬を示す。

 

「「「「「「「「犬?」」」」」」」」

 

「張々、身体大きい。同じくらい大きい相手じゃないと、交尾大変」

 

「な、成程…」

 

「それでここの領主の袁術が、張々と同じ種類の犬を飼っているって話を聞いて、お見合いに来たんだ」

 

「でも、止めることにした」

 

「お見合い、上手くいかなかったんですか?」

 

「まだ、袁術には会っていない。でも止める」

 

「?何で?」

 

「ここの人達、みんな元気ない。きっとここの領主良い人じゃない。そんな人との縁組み、止めた方が良い。だから、お見合いしないで帰る」

 

「さすが恋殿!ねねも袁術殿の噂を聞いて、そう考えていたところなのです!」

 

「袁術さんって、そんなに評判良くないんですか?」

 

「良くないなんてものではないですぞ…」

 

朱里の質問にねねは顔をしかめる。

 

「ここに来る途中で、周辺の村や街でも何度か話を伺ったのですが、悪い話しか聞かなかったのです」

 

「ここは他の地域と比べて、課せられている税が極端に高いらしいんだ」

 

「それは全て、袁術が自分の贅沢のために使っているのです。

そのうえ本人はロクに政務もせず、毎日高級品の蜂蜜水を水のように飲んでは遊んでばかり。

実際この地が成り立っているのは、周辺の諸侯からの援助によるところが大きいそうです」

 

「それなのに袁術は周辺の諸侯に、お礼らしい事をしたことは一度もないんだってよ」

 

「あったとしても、それはそこら辺にあるガラクタや腐りかけの食料ばかりを送るだとか、とんでもない輩なのです」

 

「そんな…!どうしてそんな人が領主をやっているんですか⁉」

 

酷く動揺した様子で桃香が訊ねる。

 

「朝廷にはしっかり賄賂を贈っているので、偉い奴から気に入られているのです。

それに袁術は名門の袁家の一族で、『袁術だけならともかく、一族全体は敵に回したくない』とのことで、みんな好き勝手にやらせているのです」

 

「それじゃあそいつ、親戚が偉いってだけで威張ってるのか⁉」

 

怒り半分に驚くルフィ。

 

「そんな…!いくら偉い人の血縁者だからって…!」

 

「劉備殿…」

 

桃香も同じ高貴な者の血縁者として、思うところがあるようだった。

 

「…これは、我々の要件も一筋縄ではいかないかもしれんな…!」

 

「そうだな。けっこうな苦労を覚悟した方が良いかもしれん」

 

星の言葉に愛紗も頷く。

 

「そういえば、ルフィ達も袁術に用があって来たんだよな?」

 

「大丈夫なのですか?聞いたところでは、袁術には面会するだけでも賄賂が必要になるそうですが…」

 

「一応、親戚の袁紹殿から紹介状をいただいていますから、会う分には問題ないかと思います」

 

「そうですか」

 

「ところでよルフィ」

 

改まった様子でチョッパーが口を開く。

 

「お前らがいる“トウカソン”って村に行けば、ウソップにも会えるんだな?」

 

「ああ」

 

「ただ、東の端の幽州にある村だから、涼州からだとかなりの長旅になるけど、大丈夫?」

 

「大丈夫さ。涼州に戻って月達に話したらすぐに…」

 

「その必要はない」

 

「え?」

 

不意に恋が話を遮った。

 

「チョッパーは、このままみんなと行くといい。月達には恋とねねが話しておく」

 

「え…でもおれ、月達にちゃんとお礼とお別れ言っておきたいし…」

 

「まァ世話になったんなら、そういう事は面と向かって言っておくのが筋ってもんだな」

 

ゾロもチョッパーに賛同するが…

 

「やっと会えたんだから、一緒にいた方が良い」

 

「恋…」

 

恋は譲る様子がない。

どうやら仲間を離れ離れにすることに抵抗があるようだ。

 

「あの~ちょっと良いですか?」

 

桃香が話に入って来た。

 

「陳宮さん達は、もう少しこの街に滞在することってできますか?」

 

「ん~…路銀は多めに用意してきましたし、予定より早く帰ることになりそうですから、数日なら…」

 

「でしたら、私の宝剣を返してもらうまで、街で待っていただけないですか?

それで宝剣を取り戻したら、私達も一緒に涼州まで行って、その後桃花村に戻るっていうのはどうでしょう?」

 

「……妥協案としては、それが一番かもしれませんね…」

 

「我々やルフィ殿達の目的としては、もうしばらく旅を続けるのは合っているな…」

 

「鈴々も構わないのだ!」

 

「そうだな。チョッパーを助けてくれたんなら、おれもお礼言いてェし」

 

「まァ、一言礼は言っておくべきかもな」

 

朱里、星、鈴々、ルフィ、ゾロは賛同する。

 

「私も。あとはチョッパー達が良ければいいけど…」

 

ナミはそう言ってチョッパー達の方を見る。

 

「おれは構わないけど…」

 

「恋もそれでいい」

 

「ま、まァ恋殿が良いのであれば、ねねも反対はしませんが…」

 

「ですが…劉備殿はどうするのですか?一人だけで幽州まで帰るのはいささか危険ですし、かといって涼州まで行くのは…」

 

愛紗が訊ねる。

 

「それは…迷惑でなければ、私も涼州まで同行したいと思います。良いですか?」

 

「しかし…劉備殿はここで宝剣を返してもらえば、あとは帰るだけ。かなり遠回りになってしまいますよ?」

 

「いいですよ。私だってここまで皆さんを付き合わせてしまいましたし、それに…」

 

「?」

 

「呂布さん達の主の董卓さん。そんなに良い人なら会ってみたいですし!」

 

「そうですか…」

 

「よし!決まりだな!」

 

そして話がまとまり、一同は店を出る。

 

「今日はもうだいぶ日が傾いていますし、宿を探して休みましょう」

 

「うむ、では我々は明日の朝一で袁術殿を訪ねるとしよう」

 

「話がややこしくなるといけないので、ねね達は街で待っているのです」

 

「わかりました」

 

「それじゃあ“呂布”、“陳宮”、よろしくな!」

 

ルフィがそう言うと…

 

「“恋”でいい」

 

「ん?」

 

「れ、恋殿⁉」

 

「いいのか?真名で呼んで?」

 

「チョッパーの仲間なら良い」

 

「れ、恋殿!血迷ってはなりませぬぞー!いくらチョッパーの仲間とはいえ、このような猿に真名を預けるなど…」

 

「猿じゃない。チョッパーの船長さん」

 

「そっか、じゃあ呼ぶよ。よろしくな“恋”」

 

「よろしく」

 

そう言って握手をする2人。

 

「ぐぬぬぬ~!ねねは恋殿といついかなる時でも苦楽を共にすると誓った仲!恋殿だけに苦汁をなめさせるワケにはいかぬのです~!

おいお前!不本意ではありますが、ねねもお前に真名を預けるです!ねねの真名は“音々音”なのです!」

 

「“ねねねね”?」

 

「“ね”が一個多いですぞー!“音々音”なのです!」

 

「おれ達みんな“ねね”って呼んでるから、その方が呼びやすいと思うぞ」

 

「そっか。じゃあよろしくな“ねね”」

 

「ふん!」

 

ルフィは手を差し出すが、ねねはそっぽを向くのだった。

 

こうして、思わぬ形でチョッパーと再会したルフィ達は、恋、ねねも加え、袁術の城下街に滞在することになったのだった。

 

 


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