ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊 作:HAY
美羽の城、謁見の間―――
「『…という次第につき、先日そちらにお渡しした宝剣を、劉備なる者にお返しいただけるよう、お願い奉り候なり。袁術殿へ。優雅で可憐で美しい袁紹より』ですって」
「うう…何だかあの高笑いが聞こえてくるようじゃ…」
チョッパーと再会した翌日、ルフィ達は麗羽から貰った紹介状を渡し、美羽と謁見していた。
「ふむ…劉備とやら、あの宝剣を返して欲しいとのことじゃな?」
「はい!お願いします」
「イヤじゃ」
あっさり断る美羽。
「あれは妾が、馬鹿には見えない衣と交換して手に入れた物なのじゃ。今更お主に返す謂れはない」
(そんな衣ないくせに…)
ナミはひそかに美羽を睨む。
「それはわかっています。でも、あれは我が家に代々伝わる大事な物で…」
「そんなこと妾の知ったことではないのじゃ」
(腹立つが、確かにそう言ってしまえばそこまでだな…)
そんな事を思うゾロ。
「お願いします!宝剣を返してください!返していただけるのなら、私何でもしますから!」
「!」
「ダメと言ったらダメ…」
「袁術様、ちょっと…」
「何じゃ張勲?」
桃香の言葉で何か思いついたのか、七乃が美羽に耳打ちする。
「あのですね…ヒソヒソヒソ…」
「……!おお!成程のう!劉備とやら!」
美羽の目の奥が怪しく光る。
「は、はい!」
「宝剣のためなら何でもするというのは、本当じゃろうな?」
「え…?」
「どうなのじゃ⁉」
「…は、はい!何でもします!」
「そうか…よろしい!」
▽
「化物退治をすることになった?」
その夜、ルフィ達はチョッパー達が泊っている宿に戻り、事の次第を伝えた。
「はい。袁術さんの話によると、ここから少し離れた高い山の頂上に、古びたお堂があるそうです」
「袁術殿はそのお堂を取り壊して、そこに別荘を建てる予定らしいが、そのお堂に化物が住み着いていて、そのせいで工事が全く進まないらしくてな」
「討伐隊を何度が向かわせたみたいだけど、みんな化物を見るなり腰を抜かして逃げかえって来るんですって」
「…で、宝剣を返して欲しかったら、おれ達で化物を何とかしろって話だ」
朱里、星、ナミ、ゾロが順に説明する。
「なるほど」
「しかし化物など…狂言臭い気がするのです…」
「だが、そのお堂には何かがあって、それで袁術殿が困っているのは本当らしい」
そう言うと星はどこかから小さな巾着袋を取り出す。
「それは?」
「袁術殿が『化物を退治するまで屋敷に泊まっていい』と言ってな、我らがそれを断り街の宿に泊まると言うと、宿代を出してくれたのだ」
「化物退治を途中で放り出されるのは、本当に困るみたいなんです」
「?どうして、屋敷に泊まるのを断ったのです?」
「気持ちはありがたいんだけどね~…」
「気持ち悪ィぞ、あの城」
顔をしかめながらナミとルフィが言う。
美羽の城の中はへんてこりんな彫刻があちこちに飾られ、壁や天井、梁や柱までが金銀宝石、真珠などで埋め尽くされ、悪趣味な事この上なかった。
ルフィにとっては、面白い物が置いてあるのは良いのだが、部屋のあちこちがハデハデのゴテゴテなのはさすがにお気に召さなかった。
「うう~…」
そんな会話がされる一方、桃香は部屋の隅で震えていた。
「よりによって化物退治だなんて~…!私絶対無理ですよ~…!」
「なァに劉備殿!そう案ずることはない!」
「そうなのだ!鈴々達が付いているのだ!」
意気揚々として励ます愛紗と鈴々。
「あれ?でも愛紗さん達って化物の類は苦手だったんじゃ?」
「あ、そういえば前も怖がっていたよな」
ルフィと朱里は雷々達との出来事を思い出す。
「ん?そうなのか?」
「へ~…」
「意外だな…」
「ま、まァ本物はちょっと…。だがこの手の化物騒ぎは、大方人間の仕業だと相場が決まっている!」
「そうなのだ!ちょちょいのぷ~でブッ飛ばしてやるのだ!」
「まァ私達もいるし、大丈夫よ。あ、間違えた。こいつらもいるし、大丈夫よ」
「お前は⁉」
ナミの言葉にツッコむゾロ。
「…で今から化物退治に行くんだけど、チョッパーも一緒に来てくれない?」
「おれが?」
「もしその化物が、何かの動物の類だったら説得してもらおうと思って…」
「そういう事か。よし、おれに任せてくれ!」
「頼もしいですねチョッパーさん」
「う、うるせーな!そんな事言われても、嬉しくなんかねーぞ!」
朱里の言葉に照れだすチョッパー。
「……可愛い…」
「愛紗よ。何か言ったか?」
「ンンッ!な、何も言ってないぞ!」
「恋も行く」
「え?」
「れ、恋殿⁉」
「チョッパーの仲間なら恋の仲間。だから、手伝う」
「本当かよ!ありがとうな!良い奴だな~お前~!」
そう言ってルフィは恋の肩をバシバシと叩く。
「くお~らァ~!恋殿は天下無双の豪傑!お前ごときが馴れ馴れしくお手を触れて良いお方ではないのですぞ~!」
そう言ってねねはルフィのスネをゲシゲシと蹴る。
「皆さん!頼りにしています!」
涙を浮かべ喜ぶ桃香。
「任せておけ!」
「どーんと
愛紗と鈴々は自信満々に胸を叩く。
(
苦笑いする朱里。
(本当に大丈夫なのだろうか?)
星はどうも不安がぬぐい切れないのだった。
▽
そして夜中、一同は化物を退治するべく、松明を持った愛紗を先頭に
「…いかにも化物が出そうな雰囲気だな」
「ひっ!ちょ、趙雲さんやめて下さいよ!」
「どんな奴なんだろうな~?美味ェのかな~?」
「お前は化物を食うつもりなのですか~⁉」
「丸焼き…塩ゆで…」
「恋殿!こんな猿の考えに影響されないでくだされ~!」
「ルフィの方がよっぽど化物みたいなのだ…」
「それにしても高い山ね…」
「この上に別荘を建てれば、さぞかし見晴らしが良いだろうな」
「にしても、意外と視界がハッキリしてるな」
「どうやらこの辺りの岩にヒカリゴケが生えていて、それで少し光があるみたいですね」
「あ、アレ!」
チョッパーの言葉に前方を見ると、お堂が見えてきた。
「やっと着いたか…」
「…これはまた化物の住処にふさわしい場所だな」
お堂の前に立ち星が呟く。
「ひィィィっ⁉」
星の後ろに隠れる桃香。
「あの…やっぱり劉備さんは宿で待っていた方が良かったんじゃ?」
「だ、駄目ですよそんなの!これは私の宝剣を取り戻すためなんですから、私だけが安全な所に居て何もしないなんて、絶対に駄目です!」
『カ~エ~レ~…』
「「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」」
突然、どこからともなく不気味な声が聞こえて来た。
『カ~エ~レ~…』
「ど、どこだ⁉出て来い!」
「す、姿を現すのだ!」
得物を構える愛紗と鈴々。
「やっぱり何かいるのは間違いないみたいね…」
「襲ってくるなら斬るだけだ」
「チョッパー、臭いで何かわからないのですか?」
「…ダメだ。あちこちから違う臭いがしてきて…よくわからねェ…」
『オォオオォオォオォォォオォ…』
「「「「「「「「「「!」」」」」」」」」」
続いて不気味な唸り声が聞こえ、同時にお堂の戸口がガタガタと揺れ始め、黄緑色の光が漏れだす。
「り、鈴々!ぬかるなよ!」
「りょ、了解なのだ!」
そして勢いよく戸口が開き―――
『ウ゛ア゛ア゛ア゛ァァァッ!』
全身を黄緑色に光る毛で覆われ、真っ赤な目、巨大な口と手、鋭い牙と爪を生やした猛獣の化物が現れた!
「ば、化物ォ~~~!」
「なのだァ~~~!」
先ほどの威勢はどこへ行ったのやら?
愛紗と鈴々は得物を放り投げ、泣き叫びながら近くにいたルフィに抱き着く。
「うわっ⁉愛紗!鈴々!離れろ!動けねェ!」
「イ~ヤァ~~~!」
「な、ナミ殿⁉そ、そんな所をさわらな…あんっ!」
同様に、ナミは隣にいた星に…
「ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァ~~~⁉」
「もがっ⁉(い、息がっ…!)」
チョッパーはゾロの顔面に…
「ヒイイイィィィ~~~⁉」
「ちんきゅ。どいて。動けない」
ねねは恋の腰にしがみつく。
「………⁉」
皆が混乱する中、朱里はただ一人化物の様子をじっと見ている。
「ええい、仕方がない!みんな、ここはいったん退くぞ!」
「わかりました!
ルフィさん、そのまま愛紗さん達とお二人の武器を抱えてきてください!劉備さんはナミさんの
星さんはそのままナミさんを!星さんの槍は私が!
ゾロさんと恋さんは、チョッパーさんとねねちゃんをお願いします!」
「わかった!」
「ひゃ、ひゃい!」
「すまない!」
(こいつ…!また、しがみついたまま気絶してやがる…!)
「…走りにくい」
そうして、一行は引き揚げるのだった。
▽
その後、宿屋にて―――
「―――ったく、何が任せておけだ!ギャーギャーワーワー泣きわめきやがって!」
「恐怖のあまり、おのれの得物まで投げ出すとは!武人の風上にも置けぬ奴らめ!」
「面目ない…」
「なのだ…」
ゾロと星に説教され、愛紗と鈴々はすっかり縮こまってしまった。
「ひいい~…」
「あ、あがが…」
「うう~…」
ナミ、チョッパー、ねねは未だに震えが止まらず怯えている。
「あんまり美味そうじゃなかったな~…」
「どういう思考をしていたら、アレを見て最初にそんな感想が出てくるのですか~⁉」
「蒸し焼き…唐揚げ…」
「恋殿!やめてくだされ~!」
ねねは何故かわからないが、哀しくて泣きそうになるのだった。
「しかし、劉備殿は案外肝が据わっているのだな」
「私も、てっきり真っ先に腰を抜かしてしまうとばかり…」
「何て言うかその…恐怖のあまり、腰を抜かすこともできなかったというか…」
「…何だそりゃ?」
「しかし…あの化物どうしたものか?」
星は真剣に考え始める。
「このままじゃ宝剣、返してもらえないですもんね…」
「そこなんだけど…」
ナミが何やら考えながら口を開く。
「そもそもあの袁術って子、本当に宝剣を返す気があるの?」
「?それってどういうことですか?」
「…それは一理あるのです」
「陳宮さん?」
「これも周辺の街や村で聞いた噂なのですが、袁術の奴は何かを献上するとか、お礼をするといった約束を守ったことが一度もないそうです。
あげたとしても偽物だったり、量がずっと少なくなっていたりするとか…」
「確かに、袁紹の奴はまだ最低限の礼儀や義理ってモンを分かっているようだったが、袁術の方はただの自分勝手で我が儘なガキにしか見えなかったな」
「ええっ⁉それじゃあ、化物を退治しても結局宝剣は取り返せないってことですか⁉」
「その可能性が高いですね…」
「そんなァ…」
ガックリと肩を落とす桃香。
「化物退治はともかく…何とかして宝剣を取り戻す方法を考えないと…」
「肉やったら返してくれねェかな?」
「うーん…お肉はともかく、何か袁術さんが欲しがりそうな物を用意して、それと交換するしかないかもしれませんね」
ルフィの発言を聞き、朱里が呟く。
「噂では、袁術殿は蜂蜜が大好物とのことですが…」
「それを我らが用意するのは無理だな」
「そもそもただ高価だけの物では、袁術殿はいくらでも手に入れられるでしょうし…」
「袁術ちゃんの屋敷に、へんな彫刻とかがいっぱいあったわよね?あの類の物はどうかしら?」
「確かに、それが無難だな」
「いっそそこら辺の石ころを特別な物だと言って渡してはどうです?」
「しかし…いくら珍品だと言っても、石に興味を持つかどうか…」
「………!一つ思いつきました!」
そう言うと朱里は、自分の荷物をまさぐりだした。
果たして、孔明の策とはいかなるものか?