ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊   作:HAY

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第75話 “天下に二つとない名器”

翌朝、謁見の間にて―――

 

「な、何じゃと⁉そんなに恐ろしい化物じゃったのか⁉」

 

「はい!顔は猿、胴は狸、手足が虎で尻尾は蛇、トラツグミに似た気味の悪い声で鳴く、それはそれは恐ろしい化物でした!」

 

朱里は昨夜化物と退治した時のことを、だいぶ誇張して美羽に説明した。

 

「お、おお…」

 

化物の姿を想像し青ざめる美羽。

 

「その化物を相手に我ら一丸となり、一歩も臆することなく丁々発止(ちょうちょうはっし)と打ち合い、バッサバッサと勇猛果敢に斬りつけ戦いました!」

 

(実際は一太刀も浴びせることなく逃げ出したがな…)

 

ゾロがそんなことを思いながら横目で愛紗と鈴々を見ると、2人は気まずそうにしていた。

ナミの方は完全に開き直っており、全く気にする様子はない。

 

「しかし…どういうわけかあの化物は、いくら斬りつけてもすぐに傷が治り、痛くもかゆくもない様子でして…」

 

「それで敗れたというのか?」

 

「はい…」

 

「ううむ…どれだけ斬りつけても傷がすぐに治るとは…」

 

「それでは、あの化物を倒すのは不可能ということでしょうか?」

 

「いいえ、一つだけ方法があります」

 

「何⁉どんな方法じゃ⁉」

 

「宝剣というものには、悪しきものを滅する聖なる力が宿るといわれています。

ですから、宝剣で負わせた傷なら化物も回復できず、息の根を止めることができる筈…!」

 

「ほ、宝剣じゃと…⁉」

 

「袁術様、あの化物を完全に滅するために、劉備殿の宝剣を我らの手にお戻しいただけないでしょうか⁉」

 

「う、うむ…まァ、そういう事なら…」

 

美羽は折れかけるが…

 

「⁉だ、駄目ですよ袁術様!」

 

七乃が止めに入る。

 

「宝剣を返したら、そのまま持ち逃げされちゃうかもしれませんよ!」

 

そ、そうか!それはダメじゃ!」

 

「そうですか…では、その代わりに“コレ”をお預けするというのはいかがでしょう?」

 

そう言うと朱里は持ってきた小さな包みを開ける。

 

「?何じゃそれは?」

 

包みを開けると、そこには朱里が先日美羽の城下町で買った湯飲が、上下逆さの状態で置かれていた。

 

「?何じゃ?ただの湯飲ではないか」

 

「何をおっしゃいます!これは天下に二つとない名器“はてなの茶碗”でございます!」

 

「“はてなの茶碗”?」

 

「ご覧ください、この茶碗は蓋がくっついており飲み口が塞がっております。それだけでも不思議なのに、さらに底が抜けているのです。

手にした誰もが『はてな?』と首を傾げる驚くべき一品!」

 

逆さの湯飲を手に取り説明する朱里。

 

対する美羽は…

 

「おお!確かにこれはなんとも奇妙な!」

 

(ええっ⁉美羽様⁉)

 

心底驚いたようだった。

 

ちなみに、朱里の後ろでは…

 

「ぶっ…くくっ…」

 

「ぷぷっ…」

 

愛紗達が必死に笑いをこらえていた。

ルフィに至っては、両手で口をしっかりおさえ我慢している。

 

「袁術様、これをお預けしますので、ひとまず宝剣をお返しいただけないでしょうか?」

 

「うむ、それなら良いぞ。張勲、宝剣を返してやるのじゃ」

 

「は、はい…」

 

さすがに七乃の方は気付いていたようだが、主に逆らうことはできないのか、化物を何とかして欲しい気持ちが勝ったのか、言われるままに宝剣を返すのであった。

 

 

 

 

 

 

その後―――

 

「うーむ…やはり蓋がとれぬ…」

 

美羽は交換した湯飲を手に取ってみていた。

 

「見れば見るほど不思議な品じゃのう…」

 

「あのー…美羽様…本当に良かったのですか?そんな物と交換に、宝剣を渡して…」

 

やや疲れた様子で七乃が訊ねる。

 

「何を言っておるのじゃ!これほどの名器が手に入ったのであれば、このまま宝剣を持ち逃げされたとしても損ではないぞ♪」

 

…と、自分の城下町で売っている湯飲を手に、美羽は満足そうにする。

 

「ま、私は美羽様が満足しているなら、それで良いんですけど♪」

 

教育者としてそれでいいのか張勲?

 

世の中とはやはり因果応報なのか?

こうして袁術は、袁紹からだまし盗った宝剣を、見事にだまし盗られてしまったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方宿屋では…

 

「あっはっはっはっはっは!そ、そんな嘘でだまし取ったのですか⁉」

 

「す、すげーな孔明!あははははは」

 

宝剣を取り返したいきさつを知り、ねねとチョッパーは腹を抱えて大笑いしていた。

 

「よくあんな嘘を、あそこまで(まこと)しやかに捲し立てたものだな」

 

「まったくなのだ」

 

「つーか、よくあんなウソで騙せると思ったな。実際、騙せてるんだけどよ…」

 

「ちょっと不安はありましたけど、袁紹さんの従妹ならたぶん大丈夫だろうと思って…」

 

「なるほど…」

 

「根拠としては十分かもしれんな」

 

「それにしても、宝剣に魔を滅する聖なる力が宿っているなんて、私全然知らなかったです」

 

宝剣を手に劉備が呟く。

 

「あ…劉備さん、それも嘘なんです」

 

「え?そうなんですか?」

 

「はい。でも一度引き受けた以上、化物退治はしっかりやり遂げましょう。

『舌先三寸で宝剣をだまし取った』なんて言われたら後味悪いですから…」

 

「しかし、宝剣の聖なる力が嘘なら、どうやってあの化物を倒すのだ?」

 

「そうなのだ!あいつでっかくて、すごい声で鳴いて、体中が光ってて、火を吹いたのだ!」

 

「火は吹いていないですが、ねねも正直、あの化物にはもう近づきたくないのです…」

 

「大丈夫。ねねは恋が守る」

 

そう言ってねねの頭をなでる恋。

 

「うう~恋殿~♪」

 

ねねはコロッと化物の恐怖を忘れ、恋に甘えることに夢中になる。

 

「大丈夫ですよ。仕掛けはもうわかっていますから」

 

「仕掛け?」

 

「はい。あの鳴き声は瓶か何かに、法螺貝(ほらがい)とかの音を反響させたものだと思います。体が光っていたのは、ヒカリゴケを付けていたからだと」

 

「そ、それじゃああの化物は…」

 

「作りものですね」

 

「「ええ~っ⁉うう~…」」

 

驚きの声をあげ、ショックでうなだれる愛紗と鈴々。

 

「な~んだ、じゃあ食えねェのか…」

 

「まだそんな事を考えていたのですか~⁉」

 

「…………(しょぼん)」

 

「恋殿~!」

 

「まァ何にせよ、そうとわかれば怖くないわね!」

 

「ああ、大丈夫だな!がはははは!」

 

ナミとチョッパーも強気になる。

 

「ただ、誰が何のためにあんな事をしているのかが気になるんですよね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜―――

 

『カ~エ~レ~…』

 

一行が再び例のお堂の前に着くと、またもや不気味な声が聞こえて来た。

 

「『やァやァ我こそは、中山靖王の末裔たる劉玄徳なる者!

昨夜は不覚をとったが、今夜はこの“値千金”、“売れば三年は遊んで暮らせるほどの大金が手に入る宝剣”で一刀両断してくれる!』」

 

宝剣を手にし桃香が叫ぶ。

 

「『化物退治の報奨金を前金で受けった以上、こちらも後には退けんしな!』」

 

そう言って愛紗は少々膨らんだ巾着袋を取り出す。

 

『オォォオオォォオォオォオォ…』

 

そして昨夜と同様、不気味な唸り声が聞こえ、お堂の戸口が揺れ黄緑色の光が漏れだす。

 

『ウ゛ア゛ア゛ア゛ァァァッ!』

 

そして戸口が開き化物が現れる!

 

「『化物~!』」

 

「『なのだ~!』」

 

愛紗と鈴々が泣き叫び倒れ、後にいたルフィ達も皆次々に倒れる。

そして、手にしていた宝剣や巾着袋が地面に投げ出された。

 

 

 

しばらくすると…

 

「ひひひひ…」

 

「くくくく…!」

 

「あっはっはっは!」

 

暗闇の中から3人の少年が現れた。

 

「何だよこいつら?」

 

「とんだ見掛け倒しだな」

 

「今夜は全員気絶しちまって…!笑っちまうぜ!」

 

「しかも高価な剣やお金まで持ってきてくれるなんてな」

 

そう言いながら3人は倒れているルフィ達に近づく。

 

「これ貰っちまおうぜ」

 

「どうせ役人から貰った金なんだろうし、遠慮することねェよ」

 

そう言って1人が愛紗の近くにある巾着袋に手を伸ばす。

 

ガシッ

 

「⁉」

 

次の瞬間、愛紗の手が少年の腕をつかんだ。

 

「人の物を勝手に持って行こうとするとは、あまり感心しないな」

 

「このっ…!放せっ!」

 

「なっ⁉」

 

「うわあっ⁉」

 

「⁉」

 

声が聞こえ、少年が見ると他の2人もそれぞれ鈴々と星に取り押さえられていた。

 

「捕まえたのだ!」

 

「ししし!ばーか!」

 

「おとなしくしろ」

 

「おれ達だって、ガキ相手に手荒な事はしたくねェんだよ」

 

「お、重い…」

 

「何ィ…⁉」

 

「星、抑えろ…」

 

「金目の物を持っていることを匂わせれば、それを取りに出てくると思いましたけど、上手くいきましたね」

 

「途中でバレないか、ヒヤヒヤしましたよ…」

 

「ちょっとわざとらしすぎなかった?」

 

「…にしても、犯人がこんな子供だったとは…」

 

「お前だって子供じゃねェか!」

 

「何をー!ねねは頭脳が大人なのですー!」

 

「けど、どうしてこんな事を?」

 

「ヒィッ⁉タヌキの化物⁉」

 

「シカの仲間だおれは!」

 

「ちっくしょ~!よくもだましたな!」

 

「それはこっちの台詞だ!何故こんな事をした⁉悪戯にしては質が悪すぎるぞ!」

 

「悪戯なんかじゃねェ!」

 

「じゃあ何故…」

 

愛紗がそう言った時…

 

「お待ちください…!」

 

「「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」」

 

お堂の方から誰かの声が聞こえ、一同が見ると…

 

「私が説明します…」

 

入り口の近くに、少年達よりも年上の少女が、もっと小さい子達を数人連れて立っていた。

 

 

 

 

 

 

ルフィ達はお堂の中に入った。

 

「あの化物、こういう仕組みになっていたのか…」

 

「よくこんな物作れたわね…」

 

内側から化け物の絡繰りを見て、思わず感心する一同。

 

「街の演劇で使われていた、仕掛けや被り物が捨てられていたから、それを利用して作ったんだ」

 

「それで、どうして化物のふりを?」

 

「私達は皆、みなしごなのです」

 

少女は語り始めた。

 

「賊に両親を殺されたり、病や飢饉で親が亡くなったり、事情はそれぞれ異なるのですが、雨風をしのげる場所を求めて、一人二人とこのお堂に集まって来たのです。

その後も、橋の下に捨てられていた子や、行倒れた親の傍で泣いていた子などが集まって、この人数になりました。

野草を摘んだり、街で路銀稼ぎをしては飢えをしのいで、このお堂を家代わりにして暮らしていたのですが…。

数日前、街で領主様がここを壊して別荘を建てるという話を聞いて…」

 

「それで化物のふりを?」

 

「はい。そうすれば、いずれ領主様も別荘を建てようと思わなくなり、ここを取り壊すこともなくなるかと…」

 

「袁術の奴、ここにこいつらが住んでる事知らねェのか?」

 

ルフィは疑問に思う。

 

「知らないでしょうし、知っていたとしても、無視して取り壊すと思うのです…」

 

「何だそりゃ⁉むかつく奴だな!」

 

「今すぐ袁術の所に乗り込んで、ぶっ飛ばすのだ!」

 

「ルフィ殿、鈴々も待て。そんな事をしても、おそらく根本的な解決にはならないだろう」

 

怒りだす2人を制止する星。

 

「だな。おれ達で袁術を倒しても、あのガキのことだ。おれ達に仕返しすることしか考えねェだろ」

 

「じゃあどうするのだ?」

 

「袁術ちゃんに『貧しい者達に施しをすることで自分が得する』、それか『施しをしないと自分がひどい目に遭う』って思わせることができれば…」

 

「朱里、何かいい考えはないか?」

 

「そうですね……袁術さんは化物の話を信じ込んでいるみたいでしたから、そこを利用すれば上手くいくかもしれません」

 

「孔明、その時はおれも協力するぞ!」

 

「ねねも!これは見過ごせないのです!」

 

「恋も…この子達放っておけない」

 

チョッパー達もやる気を見せる。

 

「ほ、本当に何とかしてくれるのですか⁉」

 

「ああ!もちろんだ!」

 

「皆さん、ありがとうございます!」

 

少女がお礼を言い、他の子達も表情が明るくなる。

 

「朱里はおっぱいはちっちゃいけれど頭はいいから、ドーンと()()()に乗った気でいるのだ!」

 

「はうう…」

 

「鈴々よ、それを言うなら()()()だろう?」

 

「ああ、そうだったのだ」

 

()()だからね…」

 

「わざと間違ったこと教えんじゃねェよ星…」

 

「わざとなど…私がそんな事をする奴に見えるのか?」

 

「そういう事をする奴にしか見えないわよ…」

 

「…そうか…少々気をつけるとしよう…」

 

少し真剣に反省する星だった。

 

「ぷっ…」

 

「くくく…」

 

「「「「「「「「「「あはははははっ!」」」」」」」」」」

 

一同のやりとりを見て、どこかこわばっていた子供達も笑い出し、一気に空気が明るくなる。

 

「…………」

 

「………?」

 

そんな中、桃香は一人だけ表情が暗いままの少年の事が気になった。

 

「今から山を下りるのは大変でしょうから、今夜はここに泊っていって下さい。布団も何もありませんが…」

 

「では、お言葉に甘えて…」

 

こうして、その日はルフィ達もお堂で寝泊まりすることになった。

 

 


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