ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊   作:HAY

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第76話 “亡霊”

翌朝―――

 

「………ん~…」

 

日が昇る少し前にルフィは目を覚ました。

 

「……ションベンしてくるか…」

 

ルフィは一人、お堂を出た。

 

 

 

 

 

 

少しして日が昇り始めた。

 

「ふーすっきりした」

 

用を足したルフィがお堂に戻ろうとすると…

 

「ん?」

 

「…………」

 

昨夜、終始暗い顔をしていた少年が近くの林に向かって行き…

 

「…………」

 

その後ろを、こっそりと桃香が付けて行くのが見えた。

 

「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年は、林の中のお堂からさほど離れていない、少し開けた場所で座り込んだ。

 

「……母ちゃん…」

 

そこには数個の石がうず高く積まれている。

 

「……早起きなんだね」

 

「!」

 

桃香は少年に声をかけた。

 

「―――っ!な、なんだよ、おどかすなよ…」

 

目に浮かべていた涙をぬぐい、少年はぶっきらぼうに答える。

 

「…ひょっとしてそれ、お母さんのお墓なの?」

 

「うん、おれだけのじゃなくて、みんなの父ちゃんや母ちゃんの墓。下には何もないけど、そうしようってみんなで…」

 

「そう…」

 

桃香は悲しげな少年の背中と小さなお墓を見つめる。

 

「ねェ、お母さん達にお花摘んであげない?」

 

「な、何でだよ…花なんて、そんな女みたいなこと…」

 

「お花摘んでお供えしてあげたら、きっとお母さん達喜ぶよ」

 

「え…?」

 

桃香はそう言うなり、近くに咲いていた花を数本摘み取り、少年に渡す。

 

「はい。これ、お母さん達に渡してあげて」

 

「……うん」

 

少年は花を受け取り、お墓に供える。

 

「……これで、母ちゃん喜んでくれるかな?」

 

「ああ、もちろんだ」

 

「「⁉」」

 

不意に第三者の声が聞こえ、2人は振り向く。

 

「ルフィさん」

 

「お前ら、自分達が生きるのも大変なんだろ?それなのに、こんなに大切にして貰ってんだ。きっとすげー喜ぶぞ」

 

(ルフィさん…)

 

「……うん」

 

少年は初めて笑った。

 

『…………』

 

その時少し離れた所で、どこか不思議な女性が3人を見ていたことに、誰も気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の昼―――

 

「おお!それではあの化物を討ち取ることに成功したのじゃな!」

 

「はい!」

 

ルフィ達は美羽に謁見していた。

 

「それはでかした!よくやったのじゃ!」

 

「しかし、化物の息の根を止めた時、宝剣は聖なる力を使い果たし、塵となって消えてしまいました…」

 

美羽達が何らかの言い分をつけて、宝剣を奪うことができないよう、宝剣はなくなったことにして報告した。

 

「そうか…それは残念じゃのう…」

 

(がっかりしているところを見ると、やっぱりなんだかんだ言って、また自分の物にするつもりだったのね…)

 

ナミは密かに確信する。

 

「ま、あの宝剣は化物を退治した暁には、お主達に返すと言っていた物。失ったことを攻めたりはせぬから、安心してよいぞ」

 

「何とも有難き幸せ!…しかし、一つだけ気がかりなことが…」

 

「どうかしたのか?申してみよ」

 

「どうやらあの化物は、飢えや貧しさゆえに苦しみ死んでいった者達の怨念が集まって生まれた、亡霊だったようなのです」

 

「ふむ?」

 

「ですから、袁術様が年貢を下げ貧しき者に施しをしなければ、いつまた現れるやもしれません。どうかこの事を心に留め置き、お考え下さい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後―――

 

「成程、そういう作戦ですか…」

 

宿に戻ったルフィ達は、チョッパー達に城での出来事を伝えた。

 

「しかし朱里。私が見たところ、袁術はあの程度のことで行いを改めるような人間ではないと思うが…」

 

「私も同感ね。朱里ちゃんがその話を始めた瞬間、袁術ちゃん退屈そうにしてあくびしていたもの」

 

星とナミの言う通りであった。

 

 

 

実際その頃の美羽はというと…

 

「お待たせしました美羽様」

 

「おお~!待ちかねたぞ!」

 

朱里から貰った湯飲を上下逆さ―――もとい正しい置き方にして、それで蜂蜜水をいただいていた。

 

「ぷはーっ!天下に二つとない名器で飲む蜂蜜水はまた格別じゃの~!

それにしてもあやつら、本当に間抜けじゃの~♪妾にこの茶碗を預けたこと、すっかり忘れているとみえる♪」

 

「それはよろしいのですが…孔明とやらが言っていた件はどうします?」

 

「ん?……貧しきに者に施しをせねば、また化物が現れるというやつか?」

 

「はい…」

 

「うむゥ…正直言って妾は、自分のこと以外にお金を使うのは、あまり好きではないのじゃ!」

 

「でも、放っておいてまた化物が出たらどうします?」

 

「ま、その時はその時じゃ。化物が出てから考えればよい♪」

 

「さっすが美羽様!惚れ惚れするような短絡思考!考えの無さは中原イチィ~♪」

 

「わはははは!苦しゅうない!もっと褒めてたもう!わははははは!」

 

…といった感じであった。

 

 

 

 

「はい。それは私も重々承知です」

 

「というと?」

 

「さっきのは前振り、本命は今夜です」

 

「今夜?」

 

「何をするつもりなのだ?」

 

「今夜、私達が亡霊のフリをして、袁術さんが寝ているところを襲います。そして死ぬほど驚かせて、施しをする気にさせるんです」

 

「成程…!」

 

「それはいいな…!」

 

「よし!やるぞ!」

 

「しかし、袁術の屋敷に夜忍び込むなど…大丈夫なのですか?」

 

「見たところ、袁術さんの兵士はみんなやる気がなくて、あくびや居眠りしている人達ばかりでしたから、侵入するのは造作もないことかと」

 

「成程なのです…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、美羽の寝室―――

 

「むにゅ…」

 

天蓋付きの寝台で、美羽は眠っていた。

 

「う~ん…もうこれ以上蜂蜜水は飲めぬのじゃ……むゥ…?」

 

()()が体に触れ、美羽は目を覚ます。

 

『…………』

 

「何じゃ…?妾はまだお眠なのじゃ~…む?」

 

目を開けると、目の前に不思議な雰囲気の女性がいた。

 

「お主は誰じゃ…?見たことのない顔じゃが……」

 

『………っ!』

 

次の瞬間、その女性はガイコツに変わり、口を開けて美羽に襲い掛かってきた。

 

 

 

 

 

 

その少し前、美羽の寝室に続く廊下―――

 

「昼間、家来の方から聞いた話では、この先に袁術さんの寝室があるそうです」

 

怪物のお面をつけた朱里を先頭に、城に潜入した一行は美羽の寝室に向かっていた。

 

一行は、目の周りを黒く塗り、木でできた角・牙・爪をつけて(みの)を着たルフィとゾロ。

頭から布を被ったナミ、愛紗、桃香、ねね。

人型になったチョッパー。

蓑を着て、頭にブタの置物を乗せ、付鼻をつけ、顔に何やら書き込んだ鈴々。

口の周りを赤く塗り、黒い服を着た星。

トラの頭が付いた毛皮を着た恋。

…といった具合に化物に扮していた。

 

「おう、任せておけ」

 

「…星さん、ずいぶん気合入っていますね」

 

「ああ、私はこういう質の悪い悪戯が死ぬほど好きでな…!」

 

「だと思いました…」

 

「腰が抜けるほどおどかしてやるわ」

 

「お化けだぞォ~…」

 

「ナミさん、劉備さん、愛紗さんも、誰が誰なのかわからないですけど、お願いしますね」

 

「……あのちょっと良いですか?」

 

「どうした愛紗?」

 

「ひょっとして、そちらにいる茶色くて大きい方は…」

 

「チョッパーだぞ」

 

「……それは何かを着ているとかではなく、チョッパー殿の本来のお姿なのですか?」

 

「まァ似たようなもんかな?」

 

「……そうですか…」

 

「「「「「「「「「「?」」」」」」」」」」

 

何故か愛紗は少々ショックを受けたようだった。

 

「…この格好、久しぶり」

 

「おれと恋は、この姿で何人も人をおどかしてきたからな…。思いっきりビビらせてやる…!」

 

「ねねも…暴君に一矢報いる機会…!全力でやらせていただきますぞ…!」

 

「ししし!早く行こうぜ!うずうずしてきた!」

 

「ああ、戦いじゃねェがこれはこれで楽しそうだ…!」

 

「鈴々もなのだ!」

 

「皆さん、ずいぶんノリノリですね…。ところで鈴々ちゃん、その格好は一体?」

 

「おしっこをしちゃいけない場所ですると、夜中にやってきておへそを舐めるという恐ろしい妖怪“ふんにゃもんにゃ”なのだ…!」

 

「……とにかく妖怪なんですね…。では皆さん、行きま…」

 

「ぎゃあああああ~~~⁉」

 

「「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」」

 

その時、突然廊下の奥から悲鳴が聞こえて来た。

 

「い、今のって…」

 

「袁術殿の…⁉」

 

 

 

 

 

 

「わ、悪かったのじゃ‼もう贅沢はせぬ‼年貢も下げる‼蜂蜜水も我慢するし、政務もまじめにやる‼貧しい者に施しもするから許してたも~‼」

 

一同が部屋に飛び込むと、部屋の隅で縮こまりガタガタと震える美羽の姿があった。

 

「「「「「「「「「「………?」」」」」」」」」」

 

「本当じゃ‼絶対じゃから‼約束するから‼だからもう許してたも~‼」

 

美羽に襲い掛かるガイコツの姿は、ルフィ達には全く見えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日―――

 

ルフィ達は美羽の街を後にした。

 

「それにしても、昨夜の袁術殿のアレは一体何だったのだろうな?」

 

「だからー本物の亡霊が出て、袁術の事おどかしたんだろ?」

 

「何言ってるんですか?お化けや亡霊なんて、いるワケないじゃないですか」

 

「天の国ならともかく、こっちの世界でそういうのはいないんじゃない?」

 

「ナミ達は、天の国で亡霊を見たことがあるのか?」

 

「亡霊っつうか、似たようなことができる奴なら何人かいたな」

 

「死体のまま動いたり、幽霊になったり、死体を動かしたりな」

 

「な、なんと奇怪な…」

 

「でも、昨夜の袁術さん、本当に何があったんでしょうね?」

 

「おしっこ漏らしていた。さすがに変」

 

「そうですね~…きっと私がお話しした化物の事が原因で、怖い夢を見たのではないでしょうか?」

 

「それにしては、様子が尋常ではなかったような気もするが…」

 

「まるで目の前に何かがいるような怖がり方だったのです…」

 

「まァ何でもいいじゃないですか。袁術さんが行いを改めてくれて」

 

「そうだな。張勲殿に聞いたところ、米蔵を開いて食料を分け与え、みなしごのために孤児院を造る手筈を整えたらしい」

 

「税金も下げるみたいですし、周辺の諸侯にも渡していなかった約束の品を、送るように手配したそうなのです」

 

「人が救われるのなら、悪夢様々です」

 

「それもそうだな」

 

「そういう事なのだ!」

 

そんな事を言いながら歩いていると…

 

「…ん?」

 

最後尾を歩いていたルフィが不意に横を見て、足を止めた。

 

「ルフィさん?」

 

「誰だアレ?」

 

「?」

 

ルフィの前を歩いていた桃香が気になって、同様に足を止めて見ると…

 

(え?)

 

手に花束を握った不思議な雰囲気の女の人が、こちらに会釈していた。

 

(あの人が持っているお花…あの子がお墓にお供えした物と同じ…?)

 

「ルフィ~!劉備殿~!」

 

「何やってるのだ~?」

 

「ああ!悪ィ!」

 

「すいません!」

 

愛紗と鈴々に急かされ、2人がやや駆け足になりながらもう一度振り向くと…

 

「あり?」

 

「え?」

 

女の人は消えていた。

 

「何はともあれ、劉備殿の宝剣を無事取り戻すことができて何よりだな」

 

「はい!これも皆さんのおかげです!本当にありがとうございました!」

 

「おれ達もチョッパーと再会できたしな!」

 

「では、次は涼州だな!」

 

「出発なのだー!」

 

かくして、一行は西の地を目指して出発したのだった。

 

 




チョッパーが脅かす展開を期待していた方もいたみたいですが、ここはアニメと同じにしました。

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