ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊 作:HAY
「見えてきましたぞ」
ブルックが合流してから数十日後、ルフィ達は月の治める街のすぐ近くまで来ていた。
「あそこが董卓殿の城下町ですか…おや?」
一行が城へ向かっていると、正面の城門が開き騎馬隊が一隊出てきた。
「おい、誰か出てきたぞ」
「あれは…」
「詠に雪羅…?」
「おーい!えーい!雪羅ー!」
「おお!チョッパー!恋!ねね!」
「あ!あんた達ー!」
先頭を走っていた詠と華雄がチョッパー達に気づき、近づいて来た。
「帰って来たのか。袁術との縁談はどうなった?」
「やめた」
「そうか」
「所で、何だか大人数になっているけど、そいつら誰?」
後ろにいるルフィ達を見ながら、詠が訊ねる。
「途中で出会った、チョッパーの仲間なのです。こっちの四人が船長と船員、あとは海賊の仲間ではなく旅の同行者なのです」
「へーあんた達が…」
「所で、2人してどこに行くつもりだったんだ?」
「そうだった!大変なのよ!」
「月がまたいなくなってしまってな。どうやら一人で
「ええっ⁉月が⁉」
「またなのですか⁉」
▽
「長安っていうのは、ここからだいぶ東に行った司隷
張々を城に預けた後、ルフィ達は詠らと一緒に馬を進めながら、事情を説明して貰っていた。
「その街は“
「そいつらは自分勝手な政治をして、住民は重税や兵からの暴行に苦しんでいるそうだ。
だがこの二人の欲望には天井が無く、互いに相手を亡き者にして、長安の政権を独占しようと企み、ついには街のあちこちで戦を始めたらしい」
「街の中で戦を⁉」
「悪政極まりないな…」
詠と華雄からの説明を聞いて愛紗は驚き、星は顔をしかめる。
「そして数日前、李傕がとんでもない策を採ったって情報が入ったの」
「“とんでもない策”?」
「天子様とその妹様の誘拐よ」
「「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」」
「おい待てよ!天子ってこの国で一番偉い奴の事だろ⁉そいつを誘拐なんてしたら、みんな敵になるんじゃねェのか⁉」
「そうなのだ!そんな事をしたら、絶対に不利になるのだ!」
ルフィと鈴々が疑問の声を上げる。
「確かに、普通ならそうかもしれないわね」
「どういう事ですか?」
「つまりその李傕さんは、天子様は自分達の軍に所属している事にして、自分達が正義の軍だと主張し、敵対している郭汜さんを不利にしようとしている、という訳ですね」
「その通りよ」
朱里の言葉を肯定する詠。
「そんな!天子様を攫っておきながら、味方しているように見せかけるだなんて…!」
「んな理屈が通るかよ!」
「残念だけど通用するのよ…」
「今の世の中は、皇帝陛下の威光を利用した者勝ち、正しさを先に主張した者勝ちになってしまっているのです…」
声を荒げる桃香とゾロに対し、詠とねねは無念そうに呟く。
「でも詠、それでどうして月が長安に向かったんだ?」
チョッパーが訊ねる。
「李傕と郭汜は元々董家、つまり月の一族に仕えていた武官だったのよ。
朝廷から官爵を貰ったから独立を認めたの。十中八九、賄賂を贈ったんでしょうけどね。
でも、独立を認めたのは自分の一族だから、野放しにしてしまった責任を感じて、自分で何とかするつもりなのよ」
「しかしそれなら、何故供もつけずに一人で?」
「天子様を誘拐したっていうのは、あくまでも情報があるだけで、証拠がある訳ではないの。
だからお忍びで調べて、証拠を掴むつもりなんだと思うわ。
全く…いつもこっちの気も知らないで、勝手に動くんだから…」
「お前らも大変そうだな…」
「お気持ち、お察しします…」
ゾロと愛紗を始め、その場にいたほとんどが心底詠達に同情するのだった。
「所で…お主達、当然のように我々に同行しているが、良かったのか?」
華雄が訊ねる。
「ああ、おれ達はチョッパー助けてくれたお礼言いたくて、董卓に会う為に来たんだ。だから、おれ達も一緒に行くよ」
「はい。賈駆殿達が構わないのであれば…」
「まァボク達も人手が増えるのは助かるし、ついて来るのは構わないわよ」
「それじゃあ、このまま全員で長安に乗り込んで、董卓さんと天子様達を助け出しましょう!」
桃香のその言葉に全員頷き、ルフィ達は詠達と共に行動することが決定した。
「そういえば恋」
ふと思い出したように華雄が訊ねる。
「お主の方天画戟の石突に飾ってあった、木彫りの犬はどうしたんだ?」
「この間の戦の後、気が付いたら無くなっていた」
「戦場で落としたのか」
「あれ、お気に入りだった。だから、凄く残念」
「!」
その話を聞き、鈴々は思わずねねの方を見た。
▽
その頃、洛陽の王宮。
その一室で数人の者達が話し合っていた。
「それは本当か⁉」
「はい。主上様と妹様が姿を消した時期から考えても、辻褄が合います。ほぼ間違いないかと」
「おお!では早速主上様を我らの手中に!」
「うむ!一刻も早く主上様の威光を取り戻さねば、我らの身が危うい!」
「それにしても“
「聞けば不審な人影を確認したため、相手を捕えようとその場を離れたとか…」
「そういう時こそ、天子様の傍を離れるべきではないだろうに…」
「しかもその際に、護衛の兵を全て連れて行ったとか…」
「功績欲しさと自身の身の安全に目がくらんだか…」
「妹の宮中入りに便乗し、大将軍に成り上がったが所詮は肉屋か…」
「全く使えん奴だ!」
「その通りだ!いっそのこと誅殺して…」
「皆さん」
「「「「「「「「「「っ⁉」」」」」」」」」」
青い髪の女性が、静かだがとても重みのある声を放ち、その場が静まり返る。
「今はそのような事を言っている場合ではないのでは?」
「そ、そうであったな!」
「ちょ“
「あ、ああ!一刻も早く行動に移そう!」
「う、うむ!何進に命令を出せ!」
「まずは天子様を取り戻すこと!」
「天子様の威光さえあれば、全ては我らの思いのままよ!」
「「「「「「「「「はっはっはっはっは!」」」」」」」」」
ほとんどの者が大笑いする中…
(ふふふ…)
趙忠と呼ばれた女性はどこか違う笑みを浮かべ…
(……所詮は虎の威を借る狐…天子を無くしては何もできぬのか…!)
灰色の髪の中性的な顔立ちをした人物は、顔をしかめていた。
▽
同じ頃、王宮の別の部屋で2人の女性が話をしていた。
「ふう…」
褐色肌の女性がため息を漏らす。
「どうしたのよ姉様?」
妖艶な雰囲気の女性が訊ねる。
「いや…どうも最近
「この間の天子様の誘拐の件で、見限られちゃったんじゃないの?」
「…やはりそう思うか?」
「ええ。あの人達、私や姉様が宮中入りするまでは色々尽くしてくれたけど、最近は私達の方が天子様に気に入られているから、それが気に食わないみたいだし…。
もしかしたら、その内殺されちゃうかもしれないわね」
「ぐっ…!そ、それも考えられるか…?」
「私は“
「っ!じょ、冗談ではない!向こうがその気なら、こっちにも考えがあるぞ!」
「考えって?」
「決まっている!こっちが先に仕掛け、奴らを皆殺しにするのだ!」
「わ~姉様ってば冷酷~」
「武官とは冷酷なものだろ。そうだ…近頃は政敵として対立することも増えたし、丁度いい…!」
「でも、だとしたら真っ先にやらなくちゃいけない事が一つあるわよ」
「?何だ?」
「空丹様達を捜し出すのよ。私達が今の地位にいるのは、空丹様に気に入られているからだもの。
天子様の後ろ盾がないままじゃ、私達は不利よ」
「確かにそうだな…。よし、急いで捜し出すぞ」
「まァ天子様がいなくなって困っているのはあの人達も同じだし、そろそろ有力な情報が入るころだと思うけど…」
▽
ルフィ達が詠達と行動を共にしてから数日後、一行は山道を進んでいた。
「見えたわ!」
崖沿いの道に差し掛かったところで、詠が声をあげた。
「あれか?」
崖の下に広がる大きな森、その向こうに城が見えた。
「あれが長安…」
「まだだいぶ遠いですね…」
「でも、この調子なら今夜には着く筈よ」
「月はもうあそこにいるのかな?」
「そうだな。おそらく数日前には城内に入っているだろう」
「とにかく、急いで長安に向かいましょう」
「その前に、まずこれからの行動を確認するわ」
その言葉に、一同は詠の周りに集まる。
「まず、あまり沢山の兵を連れて行くと、李傕達に気取られる可能性があるから、最初は少人数の精鋭で長安に乗り込んで情報を探る。
兵士達はこの山の麓で待機して、ボク達の合図を待って長安に乗り込む。良いわね?」
「了解しました」
「じゃあさっそく偵察に行く人員を…あれ?」
「どうした詠?」
「何か…一人足りなくない?」
「「「「「「「「「「え?」」」」」」」」」」
詠の言葉に一同が周囲を見渡して確認してみると…
「あーーー!ルフィがいねェぞ!」
「い、いつの間に⁉」
「あの野郎どこへ行きやがった⁉」
「あっち」
ゾロの問いに恋が長安の方を指さす。
「詠が話し始めた時に、崖から飛び下りて行った」
「えェ⁉飛び下りたって、この高さからですか⁉大怪我しちゃいますよ⁉」
「いや…ルフィ殿ならこのぐらいの高さは一応平気だが…!」
「アイツ…森の中突っ切って近道する気だ!」
「はわわっ⁉そんなことしたら十中八九迷子になっちゃいますよ!」
「しまった!最近は大人しかったから縛るのを忘れていた!」
「今までは縛っていたのですか⁉」
「どうする⁉今から追いかけて連れ戻すか⁉」
「たぶん…それは無理なのだ…」
「そうですね…ルフィさん足速いですし、どう行けばこの下に出られるのかもわからないですし…」
「でも、何とかして探さないとまずいんじゃないの?」
「大丈夫、あいつを探すのには簡単な方法があるから」
詠の言葉にナミは自信満々に返す。
「何よ?簡単な方法って?」
「騒がしくなっている場所を探せばいいのよ」
「ソレ完全に手遅れって事でしょうがァ!」
「とにかく、もしアイツが長安に着いていたら、必ずどこかで騒動が起こる筈!そこをとっ捕まえるしかないわ!」
「その騒動に月が巻き込まれたらどうすんのよ⁉最悪、天子様達にまで迷惑がかかるかもしれないのよ⁉」
「しかし賈駆殿…残念ながら他に方法は…」
「ぐゥ…!」
愛紗の言葉に詠は一旦口を閉ざし…
「ああもう!ちょっとアンタらァ!」
ゾロ、ナミ、ブルックを怒鳴りつける。
「誰が船長なのか知らないけど、下っ端の躾ぐらいちゃんとしておきなさいよ!
人の上に立つ者としての自尊心とか、少しくらいはあるでしょ⁉」
「「「…………」」」
「…………」
「「「「「…………」」」」」
「………詠」
「何よねね?」
「今飛び下りて行った、あの男が船長なのです…」
「………え?」
▽
とある山小屋。
「…………」
一人の少女が椅子に腰掛け、窓から外を見ていた。
「…………」
その隣では、別の少女が床に座り一冊の本を読んでいる。
「……“
椅子に座っていた少女が話しかける。
「何ですかお姉様?」
「あなた、またその本を読んでいるの?」
「はい」
「それって何の本なの?」
「天の御遣い様の物語です」
「ああ、空から落ちてきた人達の話ね」
「はい」
白湯と呼ばれた少女が返事をすると、その姉らしき人物は再び外を見る。
(…………)
少女はしばらく姉の横顔を見ていたが、やがて目を閉じ祈るように書物を抱きしめる。
(九人の天の御遣い様…どうかこの国をお救い下さい…。苦しむ民草や私達を助けて下さい…)
「あら?」
不意に姉が声をあげる。
「お姉様、どうかしましたか?」
「見て白湯、川に人が流れてきたわ」
「?人?」
妹の方も身を乗り出して外を見てみる。
すると、小屋のそばを流れる小川に人が沈んでいるのが見えた。
「た、大変!」
妹は慌てて小屋を飛び出した。