ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊   作:HAY

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第80話 “朝廷”

「見えてきましたぞ」

 

ブルックが合流してから数十日後、ルフィ達は月の治める街のすぐ近くまで来ていた。

 

「あそこが董卓殿の城下町ですか…おや?」

 

一行が城へ向かっていると、正面の城門が開き騎馬隊が一隊出てきた。

 

「おい、誰か出てきたぞ」

 

「あれは…」

 

「詠に雪羅…?」

 

「おーい!えーい!雪羅ー!」

 

「おお!チョッパー!恋!ねね!」

 

「あ!あんた達ー!」

 

先頭を走っていた詠と華雄がチョッパー達に気づき、近づいて来た。

 

「帰って来たのか。袁術との縁談はどうなった?」

 

「やめた」

 

「そうか」

 

「所で、何だか大人数になっているけど、そいつら誰?」

 

後ろにいるルフィ達を見ながら、詠が訊ねる。

 

「途中で出会った、チョッパーの仲間なのです。こっちの四人が船長と船員、あとは海賊の仲間ではなく旅の同行者なのです」

 

「へーあんた達が…」

 

「所で、2人してどこに行くつもりだったんだ?」

 

「そうだった!大変なのよ!」

 

「月がまたいなくなってしまってな。どうやら一人で長安(ちょうあん)に向かったらしい」

 

「ええっ⁉月が⁉」

 

「またなのですか⁉」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「長安っていうのは、ここからだいぶ東に行った司隷京兆尹(けいちょういん)にある街の名前よ」

 

張々を城に預けた後、ルフィ達は詠らと一緒に馬を進めながら、事情を説明して貰っていた。

 

「その街は“李傕(りかく)”と“郭汜(かくし)”っていう二人の武将が兵権を握り、政務官を脅して支配しているの」

 

「そいつらは自分勝手な政治をして、住民は重税や兵からの暴行に苦しんでいるそうだ。

だがこの二人の欲望には天井が無く、互いに相手を亡き者にして、長安の政権を独占しようと企み、ついには街のあちこちで戦を始めたらしい」

 

「街の中で戦を⁉」

 

「悪政極まりないな…」

 

詠と華雄からの説明を聞いて愛紗は驚き、星は顔をしかめる。

 

「そして数日前、李傕がとんでもない策を採ったって情報が入ったの」

 

「“とんでもない策”?」

 

「天子様とその妹様の誘拐よ」

 

「「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」」

 

「おい待てよ!天子ってこの国で一番偉い奴の事だろ⁉そいつを誘拐なんてしたら、みんな敵になるんじゃねェのか⁉」

 

「そうなのだ!そんな事をしたら、絶対に不利になるのだ!」

 

ルフィと鈴々が疑問の声を上げる。

 

「確かに、普通ならそうかもしれないわね」

 

「どういう事ですか?」

 

「つまりその李傕さんは、天子様は自分達の軍に所属している事にして、自分達が正義の軍だと主張し、敵対している郭汜さんを不利にしようとしている、という訳ですね」

 

「その通りよ」

 

朱里の言葉を肯定する詠。

 

「そんな!天子様を攫っておきながら、味方しているように見せかけるだなんて…!」

 

「んな理屈が通るかよ!」

 

「残念だけど通用するのよ…」

 

「今の世の中は、皇帝陛下の威光を利用した者勝ち、正しさを先に主張した者勝ちになってしまっているのです…」

 

声を荒げる桃香とゾロに対し、詠とねねは無念そうに呟く。

 

「でも詠、それでどうして月が長安に向かったんだ?」

 

チョッパーが訊ねる。

 

「李傕と郭汜は元々董家、つまり月の一族に仕えていた武官だったのよ。

朝廷から官爵を貰ったから独立を認めたの。十中八九、賄賂を贈ったんでしょうけどね。

でも、独立を認めたのは自分の一族だから、野放しにしてしまった責任を感じて、自分で何とかするつもりなのよ」

 

「しかしそれなら、何故供もつけずに一人で?」

 

「天子様を誘拐したっていうのは、あくまでも情報があるだけで、証拠がある訳ではないの。

だからお忍びで調べて、証拠を掴むつもりなんだと思うわ。

全く…いつもこっちの気も知らないで、勝手に動くんだから…」

 

「お前らも大変そうだな…」

 

「お気持ち、お察しします…」

 

ゾロと愛紗を始め、その場にいたほとんどが心底詠達に同情するのだった。

 

「所で…お主達、当然のように我々に同行しているが、良かったのか?」

 

華雄が訊ねる。

 

「ああ、おれ達はチョッパー助けてくれたお礼言いたくて、董卓に会う為に来たんだ。だから、おれ達も一緒に行くよ」

 

「はい。賈駆殿達が構わないのであれば…」

 

「まァボク達も人手が増えるのは助かるし、ついて来るのは構わないわよ」

 

「それじゃあ、このまま全員で長安に乗り込んで、董卓さんと天子様達を助け出しましょう!」

 

桃香のその言葉に全員頷き、ルフィ達は詠達と共に行動することが決定した。

 

「そういえば恋」

 

ふと思い出したように華雄が訊ねる。

 

「お主の方天画戟の石突に飾ってあった、木彫りの犬はどうしたんだ?」

 

「この間の戦の後、気が付いたら無くなっていた」

 

「戦場で落としたのか」

 

「あれ、お気に入りだった。だから、凄く残念」

 

「!」

 

その話を聞き、鈴々は思わずねねの方を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、洛陽の王宮。

その一室で数人の者達が話し合っていた。

 

「それは本当か⁉」

 

「はい。主上様と妹様が姿を消した時期から考えても、辻褄が合います。ほぼ間違いないかと」

 

「おお!では早速主上様を我らの手中に!」

 

「うむ!一刻も早く主上様の威光を取り戻さねば、我らの身が危うい!」

 

「それにしても“何進(かしん)”の奴…!易々と天子様を誘拐されるとは何てザマだ!」

 

「聞けば不審な人影を確認したため、相手を捕えようとその場を離れたとか…」

 

「そういう時こそ、天子様の傍を離れるべきではないだろうに…」

 

「しかもその際に、護衛の兵を全て連れて行ったとか…」

 

「功績欲しさと自身の身の安全に目がくらんだか…」

 

「妹の宮中入りに便乗し、大将軍に成り上がったが所詮は肉屋か…」

 

「全く使えん奴だ!」

 

「その通りだ!いっそのこと誅殺して…」

 

「皆さん」

 

「「「「「「「「「「っ⁉」」」」」」」」」」

 

青い髪の女性が、静かだがとても重みのある声を放ち、その場が静まり返る。

 

「今はそのような事を言っている場合ではないのでは?」

 

「そ、そうであったな!」

 

「ちょ“趙忠(ちょうちゅう)”殿の言う通りだ!」

 

「あ、ああ!一刻も早く行動に移そう!」

 

「う、うむ!何進に命令を出せ!」

 

「まずは天子様を取り戻すこと!」

 

「天子様の威光さえあれば、全ては我らの思いのままよ!」

 

「「「「「「「「「はっはっはっはっは!」」」」」」」」」

 

ほとんどの者が大笑いする中…

 

(ふふふ…)

 

趙忠と呼ばれた女性はどこか違う笑みを浮かべ…

 

(……所詮は虎の威を借る狐…天子を無くしては何もできぬのか…!)

 

灰色の髪の中性的な顔立ちをした人物は、顔をしかめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、王宮の別の部屋で2人の女性が話をしていた。

 

「ふう…」

 

褐色肌の女性がため息を漏らす。

 

「どうしたのよ姉様?」

 

妖艶な雰囲気の女性が訊ねる。

 

「いや…どうも最近宦官(かんがん)共の態度に、どことなく敵意がこもっている様な気がしてな…おかげで居心地が悪い…」

 

「この間の天子様の誘拐の件で、見限られちゃったんじゃないの?」

 

「…やはりそう思うか?」

 

「ええ。あの人達、私や姉様が宮中入りするまでは色々尽くしてくれたけど、最近は私達の方が天子様に気に入られているから、それが気に食わないみたいだし…。

もしかしたら、その内殺されちゃうかもしれないわね」

 

「ぐっ…!そ、それも考えられるか…?」

 

「私は“空丹(くうたん)”様のお気に入りだから助かるかもしれないけど、姉様はねェ…?」

 

「っ!じょ、冗談ではない!向こうがその気なら、こっちにも考えがあるぞ!」

 

「考えって?」

 

「決まっている!こっちが先に仕掛け、奴らを皆殺しにするのだ!」

 

「わ~姉様ってば冷酷~」

 

「武官とは冷酷なものだろ。そうだ…近頃は政敵として対立することも増えたし、丁度いい…!」

 

「でも、だとしたら真っ先にやらなくちゃいけない事が一つあるわよ」

 

「?何だ?」

 

「空丹様達を捜し出すのよ。私達が今の地位にいるのは、空丹様に気に入られているからだもの。

天子様の後ろ盾がないままじゃ、私達は不利よ」

 

「確かにそうだな…。よし、急いで捜し出すぞ」

 

「まァ天子様がいなくなって困っているのはあの人達も同じだし、そろそろ有力な情報が入るころだと思うけど…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルフィ達が詠達と行動を共にしてから数日後、一行は山道を進んでいた。

 

「見えたわ!」

 

崖沿いの道に差し掛かったところで、詠が声をあげた。

 

「あれか?」

 

崖の下に広がる大きな森、その向こうに城が見えた。

 

「あれが長安…」

 

「まだだいぶ遠いですね…」

 

「でも、この調子なら今夜には着く筈よ」

 

「月はもうあそこにいるのかな?」

 

「そうだな。おそらく数日前には城内に入っているだろう」

 

「とにかく、急いで長安に向かいましょう」

 

「その前に、まずこれからの行動を確認するわ」

 

その言葉に、一同は詠の周りに集まる。

 

「まず、あまり沢山の兵を連れて行くと、李傕達に気取られる可能性があるから、最初は少人数の精鋭で長安に乗り込んで情報を探る。

兵士達はこの山の麓で待機して、ボク達の合図を待って長安に乗り込む。良いわね?」

 

「了解しました」

 

「じゃあさっそく偵察に行く人員を…あれ?」

 

「どうした詠?」

 

「何か…一人足りなくない?」

 

「「「「「「「「「「え?」」」」」」」」」」

 

詠の言葉に一同が周囲を見渡して確認してみると…

 

「あーーー!ルフィがいねェぞ!」

 

「い、いつの間に⁉」

 

「あの野郎どこへ行きやがった⁉」

 

「あっち」

 

ゾロの問いに恋が長安の方を指さす。

 

「詠が話し始めた時に、崖から飛び下りて行った」

 

「えェ⁉飛び下りたって、この高さからですか⁉大怪我しちゃいますよ⁉」

 

「いや…ルフィ殿ならこのぐらいの高さは一応平気だが…!」

 

「アイツ…森の中突っ切って近道する気だ!」

 

「はわわっ⁉そんなことしたら十中八九迷子になっちゃいますよ!」

 

「しまった!最近は大人しかったから縛るのを忘れていた!」

 

「今までは縛っていたのですか⁉」

 

「どうする⁉今から追いかけて連れ戻すか⁉」

 

「たぶん…それは無理なのだ…」

 

「そうですね…ルフィさん足速いですし、どう行けばこの下に出られるのかもわからないですし…」

 

「でも、何とかして探さないとまずいんじゃないの?」

 

「大丈夫、あいつを探すのには簡単な方法があるから」

 

詠の言葉にナミは自信満々に返す。

 

「何よ?簡単な方法って?」

 

「騒がしくなっている場所を探せばいいのよ」

 

「ソレ完全に手遅れって事でしょうがァ!」

 

「とにかく、もしアイツが長安に着いていたら、必ずどこかで騒動が起こる筈!そこをとっ捕まえるしかないわ!」

 

「その騒動に月が巻き込まれたらどうすんのよ⁉最悪、天子様達にまで迷惑がかかるかもしれないのよ⁉」

 

「しかし賈駆殿…残念ながら他に方法は…」

 

「ぐゥ…!」

 

愛紗の言葉に詠は一旦口を閉ざし…

 

「ああもう!ちょっとアンタらァ!」

 

ゾロ、ナミ、ブルックを怒鳴りつける。

 

「誰が船長なのか知らないけど、下っ端の躾ぐらいちゃんとしておきなさいよ!

人の上に立つ者としての自尊心とか、少しくらいはあるでしょ⁉」

 

「「「…………」」」

 

「…………」

 

「「「「「…………」」」」」

 

「………詠」

 

「何よねね?」

 

「今飛び下りて行った、あの男が船長なのです…」

 

「………え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある山小屋。

 

「…………」

 

一人の少女が椅子に腰掛け、窓から外を見ていた。

 

「…………」

 

その隣では、別の少女が床に座り一冊の本を読んでいる。

 

「……“白湯(ぱいたん)”」

 

椅子に座っていた少女が話しかける。

 

「何ですかお姉様?」

 

「あなた、またその本を読んでいるの?」

 

「はい」

 

「それって何の本なの?」

 

「天の御遣い様の物語です」

 

「ああ、空から落ちてきた人達の話ね」

 

「はい」

 

白湯と呼ばれた少女が返事をすると、その姉らしき人物は再び外を見る。

 

(…………)

 

少女はしばらく姉の横顔を見ていたが、やがて目を閉じ祈るように書物を抱きしめる。

 

(九人の天の御遣い様…どうかこの国をお救い下さい…。苦しむ民草や私達を助けて下さい…)

 

「あら?」

 

不意に姉が声をあげる。

 

「お姉様、どうかしましたか?」

 

「見て白湯、川に人が流れてきたわ」

 

「?人?」

 

妹の方も身を乗り出して外を見てみる。

すると、小屋のそばを流れる小川に人が沈んでいるのが見えた。

 

「た、大変!」

 

妹は慌てて小屋を飛び出した。

 

 

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