ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊 作:HAY
夜―――
「噂で聞いたのはこの辺りですが…」
ゾロ達は老父と一緒に、例の脱走兵と住民達の隠れ家を探して、街の北の方を訪れていた。
「……人の気配は全く感じられんが…」
「チチチー!」
「ふんふん…なるほど。おーいみんなー!」
一同が周囲を探索していると、一匹のネズミの前にしゃがみ込んでいたチョッパーが声を上げた。
「今、こいつが教えてくれたんだけど、あそこの建物に人間が出入りしているのを何度か見たらしいんだ」
そう言ってチョッパーが示した先には、ところどころ崩れてはいるが、豪華な造りをした大きめの屋敷があった。
「では、入ってみるとしよう」
▽
半分ほど崩れかけた門から、一行は中に入った。
「これは…!」
入ってみると建物は明らかに人の手によって、あちこちが破壊されていた。
「蜘蛛の巣があまり張っていないところを見ると、まだ人の出入りがあるみたいですね…」
周囲の様子を見て朱里が呟く。
「確かにそうね。でも門の腐食具合から見て、持ち主がいなくなってからかなり経つみたいよ」
「怪しいですな…。ここを調べてみるのです」
詠とねねも呟く。
一行は家屋の内部に足を進めた。
内部は乱暴に開けられた収納棚や櫃が放置され、古びた家具などが散乱している。
「何者かが侵入して、破壊と略奪をしたみたいね…」
ナミが呟く。
「それにしても、ここ誰のお屋敷なんでしょう?」
「おそらく、李傕か郭汜に楯突いた政務官のお屋敷でしょう。
これだけ大きい屋敷ならば、間違いなく高い身分の者か、大商人の物でしょうし、略奪だけでなく破壊までされているのは、持ち主が相当な怒りを買ったからだと思います。
李傕か郭汜の配下の者の屋敷なら、放置される筈はないと思いますから、二人に敵対している者の屋敷を兵達が荒らしたんだと思います」
桃香の疑問に朱里が答えたその時…
「ほう…お嬢ちゃんは賢いんやなァ…」
「「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」」
不意に何者かの声が聞こえ、ゾロ達はとっさに身構える。
「!あそこに誰かいるのだ!」
鈴々が指した方を見ると、屋敷の奥の暗闇の中に、何者かが偃月刀を手に立っているのが見えた。
「アンタら何者や?」
声の主は得物を構え、歩き出す。
やがて月明かりにその姿が照らされ…
「ん⁉おめェ霞じゃねェか!」
「⁉ゾロォ⁉」
「「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」」
▽
「ついて来いや」
簡単に自己紹介、ゾロと出会ったいきさつの説明を済ませた後、一行は霞に案内されて屋敷の台所に向かった。
霞はそこの隅にある大きめの竈に向かい、焚口に入っている薪を取り除く。
「ここが隠し通路の入り口になっとるんや。最後に入ってくる奴は、ちゃんと薪で隠しといてな」
隠し通路は地下道になっており、人一人がやっと通れる程の広さだった。
ゾロや愛紗達は少々身をかがめ、ブルックに至っては四つん這いになって進んだ。
しばらく行くと、少し広いところに出た。
そこは縦穴になっており、上から縄梯子がかけられ、地上に出られるようになっていた。
登ってみるとそこはどこかの林の中で、何人もの住民が天幕を張り暮らしていた。
霞はその内の一つに、ゾロ達と一緒に来た老父を案内して食事を与え、別の天幕にゾロ達を連れて行った。
「ここは長安から少し離れた所にある林の中や。この絵地図で言うと、この辺りになる」
霞は床に絵地図を広げて、説明を始めた。
「あの屋敷はここの本来の領主様の屋敷でな、有事の際に人が避難できるように、あの通路を作って、この辺りに食料や武器、金をある程度貯めといたらしいんや。
領主様は少し前に二人に殺されて、屋敷は荒らされたんやけど、何とかあの通路だけはバレずに済んでな。
領主様の腹心が少しずつ住民を避難させて、この集落を築いたんや。
んで、ウチはそいつに協力を求められて、基本あの屋敷に隠れて、あの隠し通路が気付かれんよう見張ったり、時々役人から必要物資を奪って、ここに供給したりしとるちゅうワケや」
「では、あの老父が言っていた、李傕の下から逃げ出した客将というのは…」
「ああ、ウチの事や」
「しかし、おめェが何でここに?」
「あんたらと別れた後、ウチは今まで通り日銭稼ぎをしながら旅しとったんやけどな…」
ゾロに訊かれ、霞は説明し始める。
「だいぶ前にこの辺りの役人が喧嘩売ってきおってな、返り討ちにしたらそれを見ていた李傕の奴が勧誘してきたんや。
『天子様の身を守り、国家のために我とともに戦わんか?』って。
路銀に困っていたところやったし、天子様のためならきっと誇れるモンがある思うて承諾したんや。
けど実際にやる事というたら、弱い者いじめと略奪ばっか。
嫌になってすぐ辞めたったわ」
「なるほど…」
「ほんで、ゾロ達はどうしてここに?」
▽
「自分で天子様を攫っといて、天子様をお守りする軍を騙る⁉どんだけド汚い奴やねん!」
話を聞き、霞は怒り心頭に叫んだ。
「それで、張遼さんは天子様とその妹様、董卓さんやルフィさんの事は何かわかりませんか?」
「必要物資をめぐって何度か役人とはやりおうてるけど、そういった話は聞いたことないなァ…」
桃香の問いに、霞は申し訳なさそうに答える。
「そうですか…」
「ただ…李傕が天子様を誘拐したっちゅうのは本当やと思う」
「え⁉」
「ウチも天子様に直接会った事はないけど、郭汜の奴が度々李傕んトコに来て『天子様をよこせ』っちゅうてな。
それに李傕も自信満々に『天子様に刃を向ける反逆者め』って返しておったわ。
それに、李傕の奴は毎日食事をどこかに届けとるようやったし、天子様は李傕の手の中にいるとみて間違いないと思う」
「成程ね…」
「けど、あとの二人の事はホンマにわからへんわ…すまへんなァ…」
「いいわよ気にしなくて」
「うん。ルフィはすぐに見つけられるだろうし、月の事は明日おれも臭いで探してみるし」
「しかし、街で何の騒動もないという事は、ルフィは長安には着いていないという事だろうか?」
愛紗は首をかしげる。
「道に迷った可能性が高いわね…」
冷や汗をかくナミ。
「…ったく方向オンチを自覚しねェで勝手に動きやがって」
そういうゾロに対し…
((((((((お前が言うな…)))))))
ナミ、チョッパー、ブルック、愛紗、鈴々、星、朱里は心底そう思うのだった。
「せやけど天子様を助けるんなら、相当な覚悟をしといた方がええで」
霞は真剣な顔で言う。
「郭汜の奴も天子様を攫う気やから、天子様を助けるんやったら、李傕と郭汜の両軍を相手にする必要がある。
あの二人は徹底的に戦をする気やから、自分の屋敷とその周りの区画を防壁で固めとるし、武器とかも相当準備をしとるからなァ…」
▽
ルフィ、劉宏、劉協はしばらく森の中を進んでいたが、劉宏と劉協が疲れて歩けなくなってしまった。
幸い、少し開けた場所がすぐ近くにあったので、ルフィが焚火を焚き、そこで休んでいた。
「お腹空いたわ…」
「私も…」
「そういや、何日もメシ食ってねェって言ってたもんな…。よし、ちょっと待ってろ」
そう言うなり、ルフィは森の中へ消えていった。
「どこに行ったんでしょう?」
「さァ?でも、待ってろって言うんだから待っていましょう」
「…はい」
ドゴン!
「⁉」
「?」
突然、森の奥から轟音が聞こえ、しばらくすると何かを引きずる音が聴こえだした。
やがて…
「あー!思ったより早く見つかって良かったー!」
気絶したイノシシを引きずるルフィが現れた。
「あのルフィ…それは…?」
「イノシシだよ。捕まえたんだ。焼いて食おうぜ!」
▽
「「「ごちそうさまでしたー」」」
3人はイノシシを焼いて食事を済ませた。
もっとも、肉の8割近くはルフィが食べた。
「あ~食った食った~!」
「ふー…久しぶりにお腹いっぱい食べられた…」
「へー…お肉って本当はああいう毛むくじゃらの動物なのね。知らなかったわ」
「えっ⁉見たことねェのか⁉」
劉宏の言葉に驚くルフィ。
「うん。私もお姉様も、料理されたお肉しか見たことなかったから……あの…ルフィ」
劉協は代わりに答えると、表情を曇らせ…
「何だ?」
「あのお肉は…生きた動物だったのですよね?」
「ああ」
「でも、私達が食べたから死んだんだのですよね…」
「……ああそうだ」
ルフィは表情を少し厳しめにして語り続ける。
「肉だけじゃねェ。魚も果物も野菜も卵も、全部生きてる奴を殺して食ってるんだ。
おれ達は生きてる奴を食わねェと生きられねェんだ」
「果物や野菜もそうなの?」
今度は劉宏が訊ねる。
「ああ。たぶん最初から死んでるワケじゃねェと思うぞ」
「……お菓子とかもそうなの?」
「ああ。あれは果物とかを使って作るんだ」
ルフィはお菓子の作り方など全くわからないが、サンジが作っていたケーキなどに果物が使われていたことを思い出し、そう答えた。
「へェ…どうやって?」
「わかんねェ。それは作ってる奴に訊いてくれ」
「あれ?」
不意に、劉協が声を上げる。
「どうした?」
「あそこ…何か光っている…」
「「?」」
▽
謎の光が気になり、3人がその場所へ行ってみると…
「わァ…!」
「すごい…!」
「キレーだな~!」
そこは小川になっており、何十匹、何百匹もの蛍が飛んでいた。
「ねェルフィ、コレはなんていうのですか?」
「これはホタルっていう虫だ」
「“ほたる”…?“むし”…?」
「カサカサしている奴や、ウネウネしている奴を“虫”っていうんだ。…で、光る虫の事を“ホタル”っていうんだよ」
「“虫”…“ホタル”…」
「すごい!すごーい!」
…と、劉宏は大はしゃぎしながら小川に入っていく。
「お、お姉様⁉」
劉協は心配するが、川は膝小僧ぐらいまでの深さしかなかったため、劉宏は平気で入って行った。
「あはははははっ!」
着物や体が濡れるのも気にせず、劉協は楽しそうにホタルと戯れる。
「……楽しそうだな、あいつ」
「……うん。あんなに楽しそうなお姉様、初めて見ました…」
ルフィは足を小川に入れて川岸に腰掛け、劉協はその隣に体育座りする。
「……ルフィ」
「ん?」
「私…何も知りませんでした…お肉の事も、動物の事も、虫の事も…。
書物とかを読んで、いろんな事を知りたいって思っていましたけど、させて貰えませんでした…」
「……そっか。でも良かったじゃねェか」
「え?」
「今まで何も知らなかったんなら、これから毎日面白ェモンいっぱい見られるぞ」
「………うん!」
「ねェ~!あなた達も来なさいよ~!」
「よし、行くか!」
「……うん!」
ルフィは能力者であるため、あまり水には入らない方が良いのだが、そこまで深くないので大丈夫だろうと判断し入る。
劉協の方も、服が濡れることは気がかりではあったが、劉宏があまりにも楽しそうだったため、入って行った。
「……あのねルフィ」
「何だ?」
「私の真名はね…“
突然、劉協はそれまでの丁寧な口調を止めて話し始めた。
「私、ルフィと真名を交換したい」
「いいのか?おれは真名がねェから交換はできねェぞ?」
「それでもいい。私、ルフィには“白湯”って呼んで欲しい!」
「わかった。じゃあ呼ぶ」
「あら。それじゃあ私の事も、真名で“
「そうか。それじゃあ“白湯”、“空丹”よろしくな」
「ええ!」
「うん!」
「きゃっ⁉」
「お、お姉様⁉」
「どうした⁉」
「今、足に何か触ったわ…」
「あ…!よく見たら水の中に何かがたくさんいる…」
「ああ、魚だよ」
「“サカナ”?これが?」
「ああ。水の中にいて、ヒラヒラしてるところがあって、体の表面がザラザラしている奴の事だ」
「へー…じゃあさっきのお肉みたいに、これをバラバラにすると白いものになるの?」
「たぶんそうなんじゃねェか?」
その夜、ルフィ、空丹、白湯は遅くまで川の中で遊び続けた。
ルフィが他人に何かを教えたり、説明するシーンはルフィの思考レベルを考えて言葉を選ばないといけないから、結構難しいです。