ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊 作:HAY
長安からさほど離れていない場所を、一台の箱型馬車と兵士の大群が進んでいた。
「“
「やかましい!これでも急いでいるのだ!少しは黙っていろ!」
馬車の中から身を乗り出した女性と、その隣の馬に乗っていた女性が言い争っていた。
「何がやかましいですか⁉そもそも、あなたが主上様の傍を離れたのが事の発端で…!」
「“
馬車の中にいたもう一人の女性が2人をたしなめる。
「将軍、ご報告が!」
「どうした?」
一人の兵士がやって来て、馬上の女性に報告をする。
「長安の東門で何やら闘争が起きているようです!」
「そうか。天子様が巻き込まれている可能性もある。全員東門へ急げ!」
「「「「「「「「「「はっ!」」」」」」」」」」
▽
その頃、長安、東門―――
「“
「「「「「「「「「「ギャアァァ~~~⁉」」」」」」」」」」
街の外に出たルフィは空丹達を降ろし、李傕・郭汜、両軍の大量の兵士を相手に奮闘していた。
すでに周辺には、戦闘不能状態の兵士達が大量に転がっている。
「ルフィってすごく強いのね」
「この強さ…それに腕が伸びてるような…?もしかしてこの人…」
「…………」
空丹と少女がルフィの強さに驚いている隣で、白湯は2人とはどこか違う目でルフィを見ていた。
(この強さ…やっぱりルフィが…)
「あ~!こいつら弱いクセに数ばっか多いなー!キリがねェ!」
「な、何なんだこの男⁉」
「つ、強えェ…!」
「こらー何やっとるかキサマら!」
「情けないぞたった一人相手に!」
「李傕将軍!」
「郭汜将軍も!」
李傕と郭汜の両方が現れた。
「相手はたった一人だぞ!わざわざ戦ってやる必要などない!」
「隙をついて天子様さえ攫ってしまえばいいのだ!」
「おお!」
「確かに!」
「「「!」」」
「一斉に掛かれーーーっ!」
「「「「「「「「「「おおーーーっ!」」」」」」」」」」
「ルフィ!」
「させるかっ!」
とっさにルフィは空丹達の方へ下がる。
その時―――
「おらァーーーっ!」
「ヨホホーーーッ!」
「ハァーーーッ!」
「うおりゃーーーっ!」
「てェーーーいっ!」
「はァっ!」
「とりゃーーーっ!」
「でりゃーーーっ!」
「「「「「「「「「「ぐわあああァァァーーーっ⁉」」」」」」」」」」
何者かが8名乱入し、兵士達を吹っ飛ばす!
無論、それは…
「おおっ!ゾロ!ブルック!愛紗!鈴々!星!恋!華雄!あと…誰だお前⁉」
「ウチは“張遼”!字は“文遠”!ゾロの戦友や!」
「―――ったく!街で騒ぎがあったかと思えば、やっぱりテメェか!」
「どうしてあなたはいつも騒ぎの中心にいるのですか⁉」
「まァ皆さん!言いたいことは色々あるかもしれませんが、まずは目の前の敵を倒しましょう!」
「大暴れしてやるのだーーー!」
「この街の官軍なら、賊と大して変わらん!倒して構わぬだろう!」
「倒す!」
「チョッパー!ナミ殿!わが主と天子様達の護衛は任せたぞ!」
「おう!任せとけ!」
「あんた達はそいつらに集中して!」
ゾロ達8人が加勢し、最後の華雄の呼びかけに答えてチョッパーとナミが、さらに少し遅れて桃香、朱里、詠、ねねもやって来て空丹達の方に駆け寄る。
「あ!月!」
ルフィが先ほど街で出会った少女に、チョッパー、詠、ねねが駆け寄る。
「チョッパー!それに詠ちゃん達も!」
「やっと見つけた!もう、本当に心配したんだからね!」
「あの人が董卓さん?」
桃香がねねに訊ねる。
「はい!ねね達の主なのです」
「えっと…皆さんは…?」
白湯が恐る恐るナミに訊ねる。
「私達はルフィの仲間であなた達の味方よ」
「お二人が天子様とその妹様ですか?」
「ええ。私が皇帝の“劉宏”」
「私は妹の“劉協”です」
「天子様、このような服装で謁見するご無礼をお許しください」
空丹達が桃香の問いに返事をしたところで、月が2人の前に跪いて挨拶する。
「私は涼州武威郡太守、“董卓仲穎”と申す者。お二人を李傕、郭汜の手から救わんと馳せ参じました」
「うむ。董卓とやら、ありがたく思うぞ。帝の身を思って急いで参られた故こと、咎めはせぬ」
「なんとも有難きお言葉、感謝いたします」
「「「「…………」」」」
月と白湯の高貴な風格を漂わせるやり取りに、ナミ、チョッパー、桃香、朱里は思わず見入ってしまった。
「「「「「「「「「「ギャアアアァァァ⁉」」」」」」」」」」
そして、そんなやり取りがされている間にも、李傕・郭汜の軍は次々と片付けられていた。
ルフィ1人にさえ歯が立たなかった連中が、9人もの豪傑に太刀打ちできる筈もなく…
「な、何なんだよこいつら⁉」
「こんな化け物みたいな奴ら、戦って勝てるワケねェよ…!」
「もう降参しようかな…?」
「そうだな…おれそこまで郭汜将軍に恩義があるワケじゃねェし…」
「あの人、おれ達が毎日命がけで戦っているのに、ねぎらいの言葉の一つもないもんな…」
「給料なんて乞食と大差ないくらいだしよ…」
「李傕将軍もそうだよ…」
「もうやめようぜ…」
「賛成…」
「やってらんねーよ…」
「あの人達怖えし…」
兵士達はこの有様であった。
「ええい!揃いも揃って何やっとるかァーっ!」
「この役立たずどもめェーっ!」
「そこにいるのは李傕と郭汜だな!」
「「!」」
憤る2人を華雄が見つけた。
「華雄殿…」
「久しいな…」
「かつての同胞とはいえ、我が主と天子様に無礼を働くような逆賊を相手に容赦はせんぞ!」
華雄はそう言って得物である“
「ちょい待ちや」
そこへ霞が乱入してきた。
「何だ?」
「一時とはいえ、ウチは将として李傕のとこに身を置いたからな…。身内の不祥事は身内で…李傕の方はウチにやらせてくれへんか?」
「…いいだろう」
「張遼…!裏切者が…!」
「ウチからしてみれば、天子様の軍とか大嘘ほざいた、あんたの方がウチを裏切ったようなモンやけどな…!」
そう言うと霞は偃月刀を構える!
「ぬああァァ!」
対する李傕も剣を振りかざし斬りかかる!
「へっ!」
「ぐがっ…!」
しかしその剣先が届く前に、霞の偃月刀が李傕を斬り裂いた。
「もう片付いたか。さて郭汜よ、お前も負けを承知でかかってくるか?」
「何をォ⁉我は将軍郭汜だぞ!舐めるのも大概にしろォ!」
郭汜はそう叫び、槍を振るって華雄に斬りかかる!
「たァっ!」
「ぎゃっ⁉」
しかし華雄は得物を振り回し、槍ごと郭汜を叩き斬ってしまった。
「将軍といえど、所詮は賄賂で買った肩書だけだな…」
「…死んではいないみたいやな」
「ああ。こいつらの首には大して価値はない。生け捕りにしてようやく誇れるというものだ。お主の方もそうであろう?」
「ああ。致命傷にならへんよう仕留めるのも、こいつら相手なら造作もないことや」
「うむ。
両軍の兵士どもォ!李傕、郭汜はともに我らが捕えた!
おとなしく下ればよし!さもなくば一人残らず首を刎ねようぞ!」
「⁉しょ、将軍達が⁉」
「ど、どうする⁉」
「う、ううむ…」
華雄のその言葉で兵士達の戦意はさらに消沈してしまい、ほとんどの兵士達が武器を捨て始めた。
その時…
「そこまでだァーーーっ!」
「「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」」
何者かの声が響き渡った。
「我は天下の大将軍“
見るといつの間に現れたのか、褐色肌で茶色く長い髪の女性が馬上で叫んでいた。
その後ろには一台の馬車と武装した兵士の大群がある。
「ああ!主上様!よくぞご無事で!」
「
「あら、黄。それに“
馬車から2人の女性が出てきて空丹に駆け寄る。
片方は青い長髪でおっとりした外見の女性。
もう一人は緑色っぽい髪をして、きらびやかな服装をした妖艶な雰囲気の女性である。
「陛下、お怪我はございませぬか?」
「ええ。傾もご苦労様」
“何進”こと“傾”も、馬から降りて空丹に歩み寄る。
「誰だ?」
「どうやら朝廷の者達のようですな」
▽
傾の号令で、李傕・郭汜の兵士達は全員武器を置き降伏した。
そして今、空丹、白湯、傾、黄と呼ばれた青い髪の女性と、瑞姫と呼ばれた妖艶な女性が横に並び立ち、ルフィ達と月達はその前に並び立つ。
さらに両者の間には、縄で縛られた李傕と郭汜が正座させられている。
「それでは主上様、劉協様、この李傕と申す者がお二人を誘拐した。
郭汜の方は特に危害を加えてはいないが、李傕の手からさらにお二人を攫おうとした。
以上で間違いありませんね?」
黄が空丹達に確認する。
「ええ。お腹は空くし部屋は汚いし、辛かったわ」
「両軍に属する者達の話から判断しても、間違いないと思う」
「わかりました。何進将軍」
「うむ。李傕、郭汜、天子様の身柄を拘束し無礼を働いた罪は重い!都にて晒し首とする!」
「お、お待ちください何進将軍!」
「“
李傕と郭汜は大慌てで傾、瑞姫、黄の前に進みでる。
どうやら“瑞姫”というのは“何太后”の、“黄”というのは“趙忠”の真名のようだ。
「どうか見逃していただけないでしょうか?」
「もちろん、
「はァ⁉」
「「⁉」」
次の瞬間、黄が般若のような顔で2人をにらみつけた。
「主上様に危害を加えておいて、賂ごときで見逃して貰えるとでも⁉」
「ひ、ひィっ⁉」
「か、何進殿ォ…何太后様ァ…」
「どう思う瑞姫?」
「賄賂を貰うより、打ち首にして身ぐるみ剝いだ方が多く貰えそうな気がするわね」
「私も同感だな」
「そ、そんなァ~…」
「ひ、ひいィィ~…」
「誰か、こいつらを厳重に拘束しておけ。もし逃がしたらここにいる全員、連帯責任で打首だと思え」
「はっ!」
「ヒイィィィ~~~!」
「ど、どうかご慈悲をォ~~~!」
傾の命令で、李傕と郭汜は兵士達に連れていかれた。
「さて、では改めて名乗っておこう。我が名は“何進”字は“
李傕と郭汜がいなくなると、傾は月達に向き直る。
「董卓とやら、此度の働きは誠に大義であったぞ!」
「もったいなきお言葉、感謝いたします」
「貴殿とその配下共には追って官爵と恩賞を贈ろう。今後も我が朝廷のために尽くしてくれ」
「はっ!」
「それからそこの男」
…と、今度はルフィに向き直る。
「聞けばお主が天子様を李傕の手から救い出し、食事まで用意してくれたそうだな。
お主が望むのならば、この功績を称え董卓の配下から独立させ…」
「あ、いえ、彼は旅の武芸者で、私の配下の者ではありません」
「ん?何だそうだったのか。だったら私が直接ねぎらう必要も無かった…」
…と、ルフィが正規の兵でないことを知ったとたん、傾は明らかに態度を変える。
「ちょっと待って姉様」
「何だ瑞姫」
「あの男とその後ろの人達の格好、よく見てみなさいよ」
「?」
瑞姫の言葉に、傾はルフィと後ろにいるゾロや愛紗達に視線を向ける。
「む…?“藁の帽子”…“三本の刀”…“肩の刺青”…“黒い髪”…“虎の髪飾り”…それにあの宝剣……おい、そこの娘」
「は、はい!」
「もしやキサマは劉備玄徳か?」
「え⁉は、はい、そうですが…」
「おお、やはりそうか。ではお前達は、桃花村の義勇軍の者達なのか?」
「は、はい、左様でございますが…」
戸惑いながら愛紗が答える。
「ふうむ…朱儁の報告と少々違うようだが…。まァいい。どちらにせよ官位のない雑軍…」
「だから待ってってば姉様」
「何だ?」
「あのね…ヒソヒソヒソ…」
「…!おお、成程!」
瑞姫が何か耳打ちした後、傾は改めてルフィ達に向き直り…
「こほん!遥か東の地からの遠征、誠にご苦労であった!後ほど貴殿らの拠点である村に遣いとともに恩賞を贈ろう!」
またもや傾は態度を一変させる。
「は、はァ…ありがとうございます…」
戸惑いながらも礼を言う愛紗。
「では、今は天子様の御身が第一であるがゆえ、我らは失礼する」
「はい。道中の安全をお祈りします」
月の言葉に返事もせず、傾は馬に飛び乗る。
「さァ主上様、馬車にお乗りください。洛陽に帰りますよ」
「宮殿に戻るのね」
「はい、すぐに元の生活に戻れますよ」
「……そう、わかったわ」
「さ、劉協様も」
「うん」
黄に促され、空丹と白湯は馬車へと足を運ぶ。
「
「⁉ちょ、ちょっとあなた‼」
途端に、黄は不愉快極まりないといった表情になる。
「いくらお二人の恩人とはいえ、軽々しく真名を…‼」
「いいの!」
「りゅ、劉協様⁉」
「私達が許したの!」
「ええっ⁉しゅ、主上様!
「ええ!私達は友達だもの!ね、ルフィ?」
「おう!」
「……さ、左様でございますか…」
黄は露骨に不満そうな顔をしていたが、それ以上は何も言わなかった。
空丹が馬車に乗り込むと、白湯と黄と瑞姫も順に乗り戸が閉まる。
「ルフィー!」
すると、白湯が窓から顔を出した。
「本当にありがとう!ルフィに会えて良かった!私、頑張るね!」
「おう!頑張れよー!」
「出発!」
傾の掛け声で、馬車と軍は動き出した。
「またな~~~!」
「……まさか天子様方の真名を預かるとはな…」
「あの男…その意味がわかってるの?」
「十中八九わかっていないでしょうな…」
大腕を振って見送るルフィの姿を星と詠は驚き半分、あきれ半分で見ている。
「さてと…」
「それでは…」
「ん?」
すると、ナミと愛紗がルフィに近づき…
「「今までどこで何しとったんじゃーーー!」」
「ギャーーーッ!」
鉄拳制裁をくらわした。
▽
「えへへ…♪」
帰りの馬車の中、白湯は昼食にする予定だったスモモを懐から取り出し、それを見て笑っていた。
「白湯様、何だかずいぶんご機嫌だけど…何かいいことでもあったの?」
「うん!」
瑞姫の問いに上機嫌で答える。
「…………」
一方、空丹は同じようにスモモを手にし、考え込んでいた。
(どうしたのかしら?
さっき宮殿に帰って、今まで通りの暮らしに戻るって聞いた時、何だか嫌な気分になったわ…。
今までの暮らしを嫌だなんて思った事、一度もなかったのに…。
それに、ルフィと白湯と三人で川で遊んだり、森を歩いたりした……ああいうのがもっと続いて欲しい……そんな気がするわ…)
―――――何十日も、こんな何もねェ所でじっとしてるなんて退屈じゃねェか!
「……ねェ黄」
「はい、何でしょう?」
「私…退屈だったみたい…」
「え…?」