ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊 作:HAY
ルフィ達が涼州を出てから数日、一行は曇り空の下を歩いていた。
「だいぶ雲行きが怪しくなってきたな…」
「今すぐ降って来る感じはしないけど、いつ降り出してもおかしくないし、一度降り出すと長くなりそうね」
空を見上げながらナミが言う。
「さっきわずかにですけど、雷鳴のような音が聞こえましたし、心配ですね…」
「ぷぷっ…雷が怖いなんて、朱里はお子ちゃまなのだ」
「そうじゃなくて、ほらアレ」
そう言って朱里は近くにある黒焦げの木を指さす。
「雷が落ちると、あんなふうになっちゃうんですよ」
「雷は背の高い物や金属に落ちやすいから、気をつけないとね」
「「「っ!」」」
朱里とナミの言葉に愛紗、鈴々、星は思わず得物を低く持ち直す。
「心配ならおれが持ってようか?」
「「「「「?」」」」」
ルフィの言葉に不思議そうにする桃香達。
「ルフィは伸びる身体のおかげで、雷が効かないのよ」
「そうなんですか?」
「ああ」
「あと私も、身がないので雷は平気です。ヨホホホホ」
「―――で、どうする?」
「いいえ、けっこうです。自分の得物は自分で持ちます」
「私も。やっと取り戻した大切な宝剣ですから、自分で持ちたいですし」
▽
しばらくして…
「あ、あそこに村がありますよ」
先頭にいた桃香が村を見つけた。
「丁度いいな。今夜はあそこに泊めて貰おう」
愛紗も村に気付く。
「なァ、村の門の前にあるアレ何だ?」
「随分幅の広い谷だな」
「たぶん、大きい川が干上がっちゃったのよ。真ん中あたりに、まだ少しだけ水が流れているみたいだし」
ルフィとゾロの呟きにナミが答えた。
▽
そして、ルフィ達は村へ向かい…
「!止まれ!」
「「「「「「「「「「?」」」」」」」」」」
河川跡に架けられていた橋を渡り切ったところで、門前にいた槍を持った少年達に止められた。
「お前ら、何者だ⁉」
「何者と言われても…」
「おれはルフィ、か…むぐ」
すかさずゾロがルフィの口を押える。
「見ての通り、旅の者だが?」
「……お前ら、何か物騒なモン持ってるけど、まさか賊の仲間じゃないだろうな?」
「賊?」
愛紗は思わず、少年達に訊き返す。
「“黒髪の山賊狩り”が賊と間違われるとは、皮肉なものだな」
「“黒髪の山賊狩り”?」
星の言葉に、少年達は黒い髪をしている愛紗をじっと見る。
「嘘つけ!“黒髪の山賊狩り”は綺麗な黒い髪をした、すっげー美女だって話だぞ!」
「そうだ!お前なんかのワケないだろ!」
「…………」
少年達の言葉に青筋を立てる愛紗。
「愛紗、落ち着け」
「愛紗さん、子供の言う事だから」
「ああ…わかっている…わかってはいるが……!」
星とナミになだめられ、愛紗はもう少しで出そうになる拳を必死に抑え込むのだった。
「おいお前、アニキ達を呼んで来い!」
「わかった!」
片方の少年が、村の奥へと消えて行った。
「こうも敵意をむき出しにされるのは久しぶりだな」
「むぐー!むぐー!」
ルフィの口を抑えたまま、ゾロが呟く。
「何だか、随分警戒しているみたいですね」
「たぶん、ここ数日の内に賊に襲撃されたことがあるのでしょう」
そんな会話をする桃香と朱里。
「だからって、鈴々達を疑うなんてひどいのだ!」
「おれ達はこういうの慣れてるけどな」
…と、チョッパー。
「うーむ…愛紗が噂通りの絶世の美女ならば、疑われることもないのだろうにな…」
「星、私が悪いのか?」
「関羽さん、充分お美しいと思うのですが…」
「たぶん期待値のせいでしょうね…」
ナミがそう言った時、村の奥から2人の女の子が走って来た。
2人とも愛紗よりはやや年下で、鈴々よりは年上に見える。
「真桜ちゃん!きっとあの人達なの!」
「おっしゃ!覚悟せいや!」
片方の少女がそう叫び、抱えた筒をルフィ達に向ける。
ポン!と音がして、筒の中から小さな弾が飛び出し、ルフィ達の頭上に跳ぶ。
「?何だ?」
弾はルフィ達の真上で大きな網に変わり、落下してくる。
「へっ!」
「ヨホッ!」
「むっ!」
「ふんっ!」
「「⁉」」
しかし、すかさず得物を構えたゾロ、ブルック、愛紗、鈴々によって、網は見事に切り裂かれてしまった。
「ま、真桜ちゃん…この人達強いの…!」
「せ、せやな…せやけど、せめてアニキ達が来るまで…」
「沙和ー!真おーう!」
「おう!お前ら大丈夫か⁉」
「凪ちゃん!」
「アニキ!」
そこへさらに何者かが2人、村の中から走って来る。
「ん?」
片方の声に聞き覚えがあったルフィ達が目を凝らしてみると…
「おや?」
「あー!」
「あ!」
「お?」
「フランキー!」
「おー!お前ら!」
「「「「「「「「?」」」」」」」」
▽
その後、フランキーの知り合いということでルフィ達は村に入れてもらい、フランキー達が寝泊まりしている家に上がらせて貰った。
「こちらの早とちりでご迷惑を掛けてしまい、誠に申し訳なかった。真桜も沙和も、決して悪気あったワケでは…」
ルフィ達に深々と頭を下げる凪。
「いえ、誤解が解けたのであればそれで十分ですから…」
「頭を上げて下さい、楽進さん」
「おれ達の方は、賊と
愛紗、桃香、ルフィの言葉に凪は頭を上げる。
「沙和、あんたが賊が来たって大騒ぎしとったから…」
「だって…門番の子が賊の手下が来たって走って来たから…」
「ゴホン!」
「「っ!」」
凪のわざとらしい咳払いに、二人は思わずビクッと体を震わせ…
「ほ、本当にごめんなさいなの…」
「まさか、アニキのお仲間だったとは…」
凪と同じ様に深々と頭を下げるのだった。
「ところで、随分と賊を警戒しているようでしたけど…」
「何かあったのか?」
「ああそうだ、丁度良かった!そのことなんだが、おめェらちょっと手ェ貸してくれねェか?」
▽
「成程、そういうことだったのですね…」
フランキーはルフィ達に、近くに賊が潜伏し村を占領しようとしている事態を説明した。
「賊のくせに生意気な奴らなのだ!」
「ルフィ」
「ああ。フランキーが戦ってんだ、おれ達も手伝おう!愛紗達もいいよな?」
「当然だ」
「私もお手伝いします!何ができるかわかりませんけど、莚を織ることなら自信があります!」
「それじゃあ鈴々は、その莚で賊を簀巻にしてやるのだ!」
ルフィをはじめ、愛紗や桃香、鈴々もやる気を見せる。
「しかし、聞けば賊はかなりの人数…。しかも元々兵として勤めていたため、戦略や戦術もある程度心得ているとか…」
「久しぶりに手ごたえがありそうだな」
心配そうにする星に対し、ゾロは少々嬉しそうにする。
「もし、私達が戦っている間に村の皆さんに何かあれば…」
「そう考えると、真っ向から勝負するのは避けた方が良いな…」
「そうですね。こちらも戦略を練って挑みましょう」
ブルックと愛紗の言葉に、朱里は頷くのだった。
▽
「これが、この辺りの地形を記した略地図だ」
凪が床に広げた絵地図を全員で覗き込む。
「ここが村で、この印がある山に賊の砦がある」
「これが村の前にあった橋ですね……!」
朱里が何かに気付いた。
「村の上に描かれているコレは湖ですか?」
「はい。“
村人の話では、昔はかなり大きな湖だったそうですが、今では水が枯れ、村の前を流れる川もすっかり細くなってしまったそうです」
「朱里ちゃん、何か思いついたの?」
「はい…龍神様のお力を借りられれば、何とかなるかもしれません…!」
「龍神様の…?」
「力…?」
「はい。まず、龍神湖の
水の量が少なくても、流れを止めていればいずれは水が溜まる筈。
それにナミさんさっき、『何時雨が降ってもおかしくないし、降り始めたら長くなる』って言ってましたよね?
だから、水が溜まるまでそんなに時間はかからないと思うんです。
湖に水が溜まったら、賊の砦に奇襲を仕掛けます。
賊が反撃してきたら、相手を引きつけつつ橋まで撤退。
こちらが橋を渡り終わったら、橋を落として賊を河川跡へとおびき寄せます」
「そして堰を開けて水を流し、賊を綺麗に洗い流してしまうというワケか」
作戦を聞き、フランキーの目が光る。
「面白れェじゃねェか!それじゃあ早速、明日から堰の建設にかかるか!李典、手伝ってくれ!」
「おう!任しとき!」
▽
3日後、フランキーと真桜が中心となって工事を進め、堰はあっという間に完成した。
「すごい!もうできたんですね!」
力仕事が必要なのでルフィとゾロ、様子を見るためにナミと朱里も現場に来ている。
「お二人は本当に物造りの天才ですね!」
「まァ、それほどでもあるかもな~!」
「いや~!そないなホントのこと言われると照れるで~!」
「堰の方はこんなもんでいいだろ。水を流す合図を伝達するための櫓も、もう少しで全部完成だし、あとは水が溜まるのを待つだけだな」
「お~い!もう運ぶもんねェか~⁉」
ルフィとゾロが運搬作業から戻って来た。
「はい!準備は完了です!ナミさ~ん!空の方はどうですか~?」
「この様子だと、たぶん今夜から降り始めるわ!数日は降りやまないと思う!風はほとんどなさそうだから、堰や櫓が壊れる心配もなさそうよ!」
「そうですか!どうやら龍神様の力を借りられそうですね」
「そういや、龍神様いうたらな…ほれ、見てみィあの岩」
そう言って真桜は、湖尻付近の岸に立っている巨大な卵型の岩を示す。
「でっけー岩だな~」
「堰を造るのを手伝ってくれた村人に聞いたんやけどな、アレ“龍の卵”らしいで」
「“龍の卵”?」
「ああ…そういや『割れると龍が生まれる』とかいう言い伝えがあるとかって、村の連中が拝んでいたな…」
フランキーが呟く。
「面白そうだなソレ!割ってみるか!」
拳を握るルフィ。
「アホか!あくまで言い伝えだ。それにそういうのは、時期が来れば自然と割れるモンなんだよ」
ゾロは呆れ気味に言うのだった。
▽
それから数日、ルフィ達は村の警備をしつつ、ダムに水が溜まるのを待った。
「えー⁉お兄さんが張三姉妹の歌を作っていたの⁉」
「ええ、まァ」
「于禁さんも張三姉妹が好きなんですか?」
「うん!旅の途中で一度舞台を見たことがあるの!それで大好きになったの!」
「私もです!この間舞台を見てすっかり好きになっちゃって!」
「歌も踊りもすっごく可愛いの!」
「衣装も素敵ですよね~!」
「そうなのそうなの~!」
同じ張三姉妹のファンということで、桃香と沙和は意気投合していた。
「みんな~!」
ダムの様子を見に行っていたナミが戻って来た。
「たぶん明日の夕方には水が一杯になるわ!明日の夜には作戦を決行できそうよ!」
「いよいよだな…!」
▽
その夜―――
「かーっ…」
「ぐーっ…」
「むにゃむにゃ…」
「すう…」
翌日に備え、皆が寝静まる中…
「…………」
桃香は一人、眠れずにいた。
―――――阿備や…私は昔からあなたに教えてきましたね?
―――――あの宝剣は私達の先祖、劉勝様のさらに前、漢の礎を築いた“
―――――たとえ貧しい庶人に身を落としてしまったとしても、その剣と劉邦様の御心は受け継ぎ、絶やしてはならないと…
―――――時が来たら剣を手にし、世のため人のために戦わねばならぬぞと…
「…………」
「劉備殿、眠れないのですか?」
「!関羽さん…」
隣で寝ていた愛紗が声をかけて来た。
「なんか、宝剣のことを考えていたら、目がさえちゃって…」
「宝剣のことを?」
「母がよく言っていたんです。『私達のご先祖は立派な方が多く、この宝剣を手に民のために尽くしてきた。だから、お前もこの宝剣を受け継ぐからには、そうした気構えを持て』と。
けど私、それがどういうことなのか、全く理解できなかったんです。
莚織りしかしたことないし、自分のことも満足にできないのに、民のため尽くすなんて、って…」
「…………」
「でも、関羽さんやルフィさん達と旅をして、この村の人や袁術さんの所のみなしご達、長安にいた人達を―――たくさんの苦しんでいる人達を見て、何ができるかわからないけど、自分も何かしたい、しなきゃいけないって、そう思ったんです」
「そうですか……では劉備殿」
「!」
「我々は今まで“宝剣を取り戻すための旅の仲間”でしたが、これからは“世の中を変えるための仲間”として、ともに戦っていきましょう…!」
「はい…!」