ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊   作:HAY

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第94話 “麦わらの一味のフルコース”

かくして、サンジは会場の調理場に立った。

華琳は来賓席に座り、流琉は調理作業を見たいと言って、調理場の椅子に座っている。

 

「では船長(キャプテン)、何かご注文(リクエスト)はございますか?」

 

「じゃあ、おれ達の好物全部作ってくれ!」

 

「かしこまりました」

 

返事をするなりサンジはさっそく調理にかかる。

 

肉や野菜、魚などを吟味して調理台へ運ぶ。

具材を切り、下ごしらえを済ませ、鍋に火をかけ、調味料を作り、生地をこね、焼き、炒め、茹で、煮る。

 

(すごい…!あれだけの作業を平行に、滞りなく行うなんて…!)

 

流琉を始め、多少なりとも料理の心得がある者達は、その手際の良さに思わず見とれる。

 

「驚いたわね…」

 

その様子を見て華琳が呟く。

 

「はい。あれだけの調理をそつ無くこなすとは…」

 

隣にいた秋蘭も料理の心得があるため、サンジの腕前に驚く。

 

「それだけじゃないわ。あの男、ルフィが『自分達の好物を作ってくれ』と言ったら、それだけで調理を開始した。

そして作っている様子を見て、ルフィ達は誰も文句や不満を言わない。

仲間の好みや食事の事情を、完全に知り尽くしているんだわ」

 

「華琳様…」

 

「私はあなた達に何度か食事を作った事はあるけど、何を食べたいかなんて訊いた事、一度もなかったわね…。

所詮は自分を着飾る為に身に付けただけの技術…自分が嫌になるわ…」

 

目を閉じ、俯く華琳。

 

「しかし華琳様、我が軍の場合…

 

 

 

 

 

『華琳様の手料理であれば、何でも構いません!』

 

『華琳様の手料理は全て私の好物です!いえ、華琳様自身が私の一番の好物です!』

 

『ボク何でも好きですから!』

 

『華琳姉の料理、全部美味しいっすから何でも良いっす!』

 

『か、華琳お姉様に料理を作って頂けるだけでも恐縮なのに、ちゅ…注文を付けるだなんて…!』

 

『お姉様の手料理なら、何でも構いませんわ!』

 

『うーん…シャン何でも好きだから何でもいい』

 

 

 

 

 

…と、なるかと…」

 

「そ…そうかもしれないけれど、作る側の心得としてはね…」

 

「よし!出来上がりだ!」

 

そんな会話をしている間にも料理が完成し、サンジは皿に盛りつけてルフィ達と桃香達、華琳達や後ろにいる流琉にも運ぶ。

 

「まず一品目、船長(キャプテン)の好物“厚切りローストビーフ”でございます」

 

「んまほーーー!いっただっきまーす!」

 

ルフィはほとんど切られていない状態で出されたローストビーフにかぶりつき、他の者達も飾り切りされた肉を口に運ぶ。

 

「うめェ~!」

 

「これが天の国の料理か…」

 

「このお肉すっごく美味しいのだ!」

 

「ステーキとどっちにしようか迷いましたが、ナイフが見当たらなかったので、食べやすいこちらにしました」

 

「成程…用意された食器を見て、食べる側の事にも配慮したのね」

 

華琳は感心するのだった。

 

 

 

 

 

 

「“白米のおにぎり” でございます」

 

「中に具はなしか…まァ美味いからいいか」

 

「ただご飯を握って固めているだけなのに、こんなに美味しいなんて!」

 

「きっとお米を炊くときに、お酒やお出汁を混ぜたんだと思います」

 

 

 

 

 

 

「“アユの塩焼き” でございます」

 

「この焼き魚も、侮りがたい味と焼き加減ですね!」

 

「鍋越しではなく、直に火で炙ったのがよかったのでしょうねー」

 

『いいなーお前ら…おれも食ってみたいぜ…』

 

 

 

 

 

 

「“魚介の辛口スパゲッティ”でございます」

 

「天の国には汁のない麺料理が存在するのか…(果たしてこれはメンマに合うのか?)」

 

「か、華琳様の…もぐ…作った物に…あむ…に比べれば…むぐ…お、美味しくなんか…あぐ…」

 

「ほかいいああら、はっひはらへがおまっへいらいほへいは(とか言いながら、さっきから手が止まっていないぞ桂花)」

 

「姉者…口に物を入れたまま喋るな」

 

 

 

 

 

 

「“玉子サンドイッチ”でございます」

 

「いいな~!兄ちゃん達ずっとこんな美味しい物食べてたなんて~!」

 

「この茹でた卵の味付けに使っているの…お酢と油と卵でこんな調味料が作れるんですね…」

 

 

 

 

 

 

「“豚肉のハンバーガー”でございます」

 

「こういうジャンクフード懐かしいぜー!」

 

「この“さんどいっち”と“はんばあがあ”食べ易いし美味しいっすね~!」

 

「このおかずを挟むのに使っているコレ、お饅頭の皮に似ているけど違うわね。何ていうのかしら?」

 

 

 

 

 

 

「“牛挽肉と香辛料のドライカレー”でございます」

 

「この料理、私の好みだな」

 

「手掴みで食べたり、ご飯におかずをのせたり、変わった料理が多いんやな~…美味いからええけど!」

 

「悪いなブルック、ちょっと香辛料が足りなかったから、代わりの物でごまかす形になっちまって…」

 

「いえいえ、とても美味しいですよ~!」

 

 

 

 

 

 

「デザートには“オレンジを中心としたマチェドニア”と“わたあめ”をどうぞ」

 

「さすがサンジ君!美味い!」

 

「わーい!わたあめ久しぶりだ~!」

 

「きゃあああ⁉香風さんどうしたんですのその顔⁉」

 

「この“わたあめ”…ふわふわしてると思って顔つけてみたら…すごくベタベタしてた…」

 

「この果物、盛り付けがすっごくお洒落なの~!」

 

その後も、次々と出されるサンジの料理に皆舌鼓を打つのだった。

 

 

 

 

 

 

「私の料理、いかがでしたでしょうか?」

 

食後、サンジは華琳に感想を求める。

 

「大満足よ。どれも素晴らしかったわ」

 

「当たり前だ!不味いなんて言ってらぶっ飛ばすぞ!」

 

「ほんと…あなた程の料理人を手に入れられたルフィが羨ましいわ」

 

華琳がそう言ったその時…

 

「きゃあああ⁉」

 

「「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」」

 

貯蔵庫の方から悲鳴と何かが壊れるような物音が響く。

 

その直後、慌てた様子で侍女が一人出てきた。

 

「曹操様大変です!食材として用意していた牛が数頭逃げ出して…!」

 

「何ですって⁉」

 

「「「モォ~~~ッ!」」」

 

そう言っている間にも貯蔵庫から3頭の牛が飛び出してくる。

 

「「「モォーーーッ!」」」

 

3頭の牛は調理場にいるサンジに狙いを定め、突進していく!

 

「サンジさん!」

 

桃香達は思わず身を乗り出す。

 

 

 

 

 

…と、次の瞬間―――

 

「“反行儀(アンチマナー)キックコース”‼」

 

「「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」」

 

3頭の牛はサンジに蹴り飛ばされ、轟音と共に宙を舞った。

 

「…ったく、行儀の悪い牛共だ。ホコリが立つだろ」

 

「う…牛を……鞠でも蹴るみたいに…」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

愛紗達は茫然として、牛が地面に落ちていくのを見ていた。

 

が…

 

「モォーーー!」

 

「⁉もう一頭いたのか⁉」

 

別の牛が現れ、今度は流琉に狙いを定める!

 

「しまった!」

 

サンジも反応が遅れ、牛は流琉に向かって突進していく!

 

「典韋殿!」

 

愛紗達だけでなく、今度はルフィ達も身を乗り出す!

 

 

 

 

 

が…

 

「きゃーーーっ!」

 

「モッ⁉」

 

「「「「「「「「「「ええっ⁉」」」」」」」」」」

 

流琉は悲鳴を上げながらも角を掴み、突進を真正面から受け止め…

 

「い~~~や~~~!」

 

「モ~~~ッ⁉」

 

「「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」」

 

叫びながら空高く放り投げた。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

「……あ~びっくりした~…」

 

「「「「「「「「「「だあああァァァっ⁉」」」」」」」」」」

 

季衣以外の全員がズッコケた。

 

「さっすが流琉、相変わらずの怪力だね」

 

「そ…そういえばさっき季衣、あの子と腕相撲で賭けしてたって言ってたっすよね…」

 

「季衣さんとの腕相撲で賭けが成立するって事は…」

 

「当然、季衣さん並みの腕力という事になりますわね…」

 

「いや~…料理人をやっていると、中華鍋とか重い物を持ち上げないといけない事が多かったので…」

 

「いや…今のアレはそういう次元の腕力じゃないから…」

 

呆れるサンジであった。

 

 

 

 

 

 

「ええっ⁉私を曹操様の部将に⁉」

 

その後、流琉は華琳からの勧誘を受けていた。

 

「ええ。(いにしえ)の“悪来(あくらい)”にも匹敵するあなたの怪力、このまま野に放っておくのは勿体ないわ。

是非、私に仕えて貰えないかしら?」

 

「私なんかには勿体ないお話ですけど…今働いているお店の事もありますし、急には…」

 

「勿論、返事は今すぐでなくて構わないわ。

店の主人とよく話し合って決めるべき事だし、あなたにも色々都合があるでしょうからね」

 

「曹操様…」

 

「そうしようよ流琉!」

 

「季衣」

 

「流琉、昔から言ってたじゃん。

『もっと色んな人に自分の料理を食べて貰いたいし、料理以外の事でも、沢山の人の役に立ちたい』って。

華琳様の所でなら、それができるよ!」

 

「…わかりました!曹操様、店長に話してみます」

 

「そう、いい返事を期待しているわ。

実を言うと、前々から料理について私と語り合える相手が身近に欲しいと思っていたのよ。

残念ながら今の我が軍には、その様な者がいなくて…」

 

(ええっ⁉か、華琳様!私が…私がいるではないですか!)

 

桂花は身振り手振りで必死に自己主張するが、華琳は気にも留めない。

 

実の所、華琳は自分の料理を褒める事しかしない桂花の事は、料理について語り合える相手とは考えていなかったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして美食の会は終わり、ルフィ達と流琉は華琳達に見送られ、宮殿を出ようとしていた。

 

「それじゃあ曹操様、今日はこれで失礼します」

 

「ええ。あなたが我が軍に加わる日を楽しみに待っているわ」

 

「それじゃあまたね流琉」

 

「はい。……所で…」

 

「ん?」

 

そこで流琉は隣にいたサンジの方を向く。

 

「えっと…サンジさんでしたよね?もし機会があれば天の国の料理、私に教えて頂けないでしょうか?」

 

「それは是非、私もお願いしたいわね」

 

華琳もサンジの方に向き直る。

 

「了解しました。おれで良ければ料理についてお教えしましょう」

 

「そう、楽しみにしているわ」

 

「ありがとうございます!それであの…サンジさんも私の事は“流琉”って呼んで下さい!」

 

「それじゃあ、そうさせて貰うぜ“流琉”ちゃん」

 

「はい!」

 

(あ~いいな~♡ナミさんとも再会できたし、流琉ちゃんや曹操ちゃんみたいなお綺麗なレディ達とお近づきになれた~♡

あのオカマに付きまとわれた時はマジで地獄だったけど、それを乗り越えて天国へと到達したんだおれは~♡)

 

上機嫌になるサンジ。

 

「よ~し、ナミさ~ん♡早速出発しようぜ~♡」

 

「待ってサンジ君、まだみんなの挨拶が終わってないから」

 

「?挨拶?」

 

…と、サンジがルフィ達の様子を見てみると…

 

「それじゃあお前ら、しっかりやれよ」

 

「はい!お世話になりました。…所でアニキ…」

 

「その…何となく機会を逃していたんやけど…」

 

「沙和達の事…真名で呼んで欲しいの…」

 

「おお、そうか!そう言って貰えると嬉しいぜ!」

 

「それでは…!」

 

「ああ!元気でやれよ“凪”!“真桜”!“沙和”!」

 

「はい!」

 

「おう!」

 

「兄貴も元気でなの~!」

 

「…………」

 

「郭嘉、これ出血を抑える特効薬なんだ。渡しておくよ」

 

丸薬を差し出すチョッパー。

 

「チョッパー殿、私が常に鼻血を噴ていると思っていませんか?」

 

『その通り以外の何でもねェと思うぞー』

 

「これ宝譿、本当の事だとしてしても言って良い事と悪い事がありますよ」

 

「………っ!」

 

「師匠!ご指導ありがとうございました!今後も日々精進いたします!」

 

春蘭はゾロに頭を下げる。

 

「ああ…まァ頑張れよ…」

 

戸惑いつつも返すゾロ。

 

「それと、私の事はどうぞ真名で“春蘭”とお呼び下さい!」

 

「いいのか?」

 

「はい!師弟関係であるならば、それくらいの礼儀は当然ですから!」

 

「いや、弟子にした覚えはねェんだが…」

 

「諦めてくれ。こうなった姉者は止まらん」

 

「おめェも大変そうだな…」

 

「慣れればどうという事もないさ。ああそれと、私の事も真名で“秋蘭”と呼んで構わぬぞ」

 

「お前まで預けていいのか?」

 

「姉者が預けたからな。私も預けておいた方が、色々と都合が良いのだよ」

 

「そうか。わかった」

 

「それじゃあ兄ちゃん、翠さんにも宜しく言っておいてね」

 

「おう、お前も達者でな」

 

「~~~っ!」

 

「それでは曹操殿、縁があればいずれまた」

 

「元気でな!」

 

「ええ。今度はちゃんと張飛も満足する料理でもてなすわ」

 

「ええっ⁉また良いんですか⁉」

 

「楽しみにしてるのだ!」

 

「私も、今度は曹操殿がお作りになられたメンマを食べてみたいですな」

 

「できれば男達にはもう二度と来て欲しくないけどね(ま、華琳様がそう言うなら歓迎してあげるわ)」

 

「荀彧さん…本音と建前が逆ですよ…」

 

苦笑いする朱里。

 

「また遊びに来るっすよ~!」

 

「道中の安全をお祈りしています」

 

「今度は戦とは縁のない場所でお会いしたいですわね」

 

「お兄ちゃん、今度はもっと沢山遊ぼうね~!」

 

「ぐぎぎぎぎぎ…!」

 

「皆さん、結構お付き合いが長いみたいでしたから、思う所があるのでしょうね~」

 

心中に憎悪、憤怒、嫉妬、悲哀など様々な感情が渦巻いていくサンジに、ブルックが言う。

 

「長い…お付き合い…⁉」

 

ゆっくりと首を動かし、言葉を絞り出すサンジ。

 

「ええ。一緒にいたのはそこまで長くないみたいですけど、出会ってからは一年以上経過しているそうで…」

 

「一年以上…⁉」

 

サンジの中の何かが限界点を超えた。

 

「き…」

 

「?サンジさん?」

 

「ギザマ゛ら゛ァァァ~~~~~‼」

 

「「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」」

 

「おれが…!おれがあのオカマから必死の逃亡生活を送っている時に…!

てめェらは…!揃いも揃って…!麗しきレディ達と…!う…ウオオオォォォ…!」

 

両手と両膝を地面につき、滝のように涙を流すサンジ。

 

「?どうしたんだサンジの奴?」

 

「いつも通りアホやってるだけだろ」

 

何はともあれ、サンジとの再会を果たしたルフィ達は、華琳の城下町を後にし、桃花村への帰路につくのだった。

 

 




第六席編完結です。

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