ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊 作:HAY
ルフィ達が水鏡の庵を出て、数日後の桃花村。
義勇軍の拠点である屋敷は、桃香が来る少し前に本来の持ち主である張世平が出て行き、村に家を持たない兵達も供として同行した為、ほとんど人が居ない。
「う~ん…!」
現在の屋敷の住人の内、一番早起きなのは紫苑である。
主婦としての習慣が身についており、誰よりも早く起きて顔を洗い、朝食の準備を始める。
「ふあァ~…」
その次に起きるのは璃々。
「お母さ~ん…おはよ~…」
「おはよう、璃々」
起きると真っ先に紫苑がいる台所に向かい、朝食の準備が一段落した紫苑に手伝って貰って顔を洗う。
「あ~…良く寝た~…」
3番目に起きるのはウソップ。
「あ!ウソップお兄ちゃん、おはよう!」
「おう、おはよう」
すっかり目を覚まして遊んでいる璃々と挨拶をし、洗面所に向かう。
そして、一番遅くまで寝ているのは翠である。
「ふわああァァァ~~~…」
大きなあくびをしながら、寝巻のまま自室を出る。
「お、ウソップ、紫苑、おはよー」
そして洗面所に向かう途中、2人に会い挨拶するが…
「おー翠、おは……ぶっ!」
「あら、翠ちゃんおはよ……ぷくくっ!」
「?」
何故か2人共、翠の顔を見るなり笑い出す。
「どうしたんだよ二人共?」
「い、いや…何でもねェぞ……ぶくくっ!」
「す、翠ちゃん…朝ご飯の用意できてるから…早く、顔洗ってらっしゃい……くくくっ!」
「?」
▽
この屋敷では、洗面所と厠は家屋の外に、隣接する形で作られている。
厠は個室式のが3つあり、翠は先にそこで用を足した。
「ふー…すっきりした」
そして顔を洗おうと洗面台に向かい…
「ん⁉」
そこで鏡を見て気がついた。
「“脳”…“筋”…⁉」
左右の頬に一文字ずつ、大きくそう書かれていた事に。
▽
数分後、屋敷の食堂で皆は食事をとっていた。
「ふー…ごちそうさま」
「ごちそうさまでしたー」
「璃々、お口の周り綺麗にしましょうね」
食卓の一角で、ウソップ、璃々、紫苑は仲良く食事をし…
「…………」
翠は少し離れた席から、ご立腹な様子である一つの席に視線を送る。
「…………」
視線の先には、彼女の従姉妹である蒲公英がいる。
彼女は、ルフィ達が留守の間に桃花村を訪ねて来て、それからこの屋敷で一緒に暮らしているのである。
因みに、翠が真名を預けているなら良いと、蒲公英はウソップ達にも真名を預けた。
「ごちそうさま~♪」
食事を終えた蒲公英は、そそくさと食堂を出ようとするが…
「ちょっと待てたんぽぽ」
(ぎくっ!)
翠が呼び止める。
「お前…“脳筋”ってどういう意味だ⁉」
「“脳筋”っていうのは~『脳みそが筋肉』の略で~…」
「そういう事を訊いてるんじゃない!何であんな悪戯したりするんだ⁉」
ドンと食卓を叩いて怒る翠に、蒲公英は若干怖気ずく。
「な、何でって~…
それは今朝、ウソップが起きた後、翠が起きる前の事。
蒲公英と璃々は翠の部屋の前に来ていた。
『皆様お待たせしました!西涼の馬騰が一族馬岱による、恒例の寝起き拝見のお時間です!』
…と、レンゲをマイクの様に手にし、蒲公英が言う。
『わ~~~!』
ぱちぱちと拍手する璃々。
『璃々ちゃん、静かにね』
『!』
蒲公英に言われ、璃々は慌てて拍手を止めて、口を両手で押える。
『さァ、それでは早速参りましょう』
『ねェ蒲公英お姉ちゃん、そのれんげなに?』
『ウソップさんがこうすると雰囲気が出るって言ってたんだよ』
そして2人は静かに翠の部屋の戸を開け、中に入る。
『抜き足…差し足…忍び足…』
そーっと翠が横になっている寝台に近づく。
『頭は見事に枕から落っこちて、お布団もぐちゃぐちゃですね~。相変わらず寝相が悪い様で…』
寝ている翠を観察して蒲公英が呟く。
『むにゃむにゃ…も~食べられね~よ~…』
『うわァ…なんてベタな寝言…ベタ過ぎてツッコむ気にもなれません…』
若干引き気味になる。
『寝相といい寝言といい、涼州にいた頃と全く変わっていないですね~…。しかし…』
…と、蒲公英は翠の体の一部を凝視する。
どこかはご想像にお任せします。
『こちらはだいぶ変わっていますね…。璃々ちゃんのお母さん程ではないですが、中々成長しているようで…。
寝る子は育つと言うますが、少々育ち過ぎではないでしょうか…?
こういったキョウイの格差社会が多くの人を苦しめている事を、もっと理解して頂きたいものですなー…』
そこまで言うと、自分の身体と見比べる。
『まー確かにたんぽぽも、鶸に比べれば育っている方だけど…』
▽
同刻、涼州。
『…………』
『どうしたの鶸ちゃん?』
『何だかよくわからないけど、今一瞬もの凄く腹が立った…!』
『?』
▽
再び桃花村。
『さて、それでは本題である、お漏らしの確認に参りましょう!』
蒲公英がそう言い、2人は翠の股付近の布団をめくり、顔を近づける…
『緊張の一瞬です…!』
『わくわく…!』
そしてクンクンと匂いを嗅ぎ…
『……どうやら今朝は漏らしてはいないようですね。安心した様な、残念な様な…。
昨夜、水菓子を沢山食べていたので、もしやと思っていたのですがねー。
それでは、お姉様が起きる前に我々は退散……おおっとォ⁉』
見ればいつの間にか、璃々が一本の筆を手にしていた。
先にはちゃんと墨汁が付いている。
『何て物を用意してくれたんですか璃々ちゃん⁉』
『えへっ♪』
璃々はイタズラっぽく笑う。
『困りましたね~…こんな物があっては、例えその気がなくとも、何か書きたくなってしまうではないですか~♪』
蒲公英はやる気満々の様子で筆を受け取る。
『う~ん…なーんて書こうかな~?』
しばし考えた後…
『やっぱコレにしよっと♪』
翠の左右の頬に“脳筋”と書いた。
『なんてかいたの~?』
『後で教えてあげる~♪』
そして2人は部屋を後にしたのだった。
…と、いう訳で…」
「何が『と、いう訳で』だ!―――ってかお前、今朝そんな事してたのか⁉」
「まァ確かに、寝ている奴がいて、近くに書く物があるのなら、顔にラクガキするしかねェな。おれもよくやったし…」
腕を組み、うんうんと頷くウソップ。
「何お前も納得してんだ!
あのなァたんぽぽ!お前が西涼から出て修行したいって言うから、ここに置いてやってんだぞ!
なのに毎日毎日くだらない悪戯ばっかりして!今度やったら西涼に強制送還だからな!」
「えェ~~~っ⁉」
「まァまァ翠ちゃん、蒲公英ちゃんは璃々の良い遊び相手になってくれているし、少しくらいは大目に見てあげても良いんじゃないかしら?」
「今朝のアレもか?」
「まー本当の事だし…」
「ウソップてめー!」
「だよねー」
「ふんっ!」
「いだっ⁉何でたんぽぽだけ殴るの⁉」
「ぷぷっ…!た、確かにアレはやり過ぎだったかもしれないけれど…悪意がある訳じゃないんだし…」
「そーそー。可愛げのある悪戯なんだから、広い心で許してよ」
「自分で言うな!」
▽
朝食後、翠と蒲公英は修行で近くの山に来ていた。
「よし!それじゃあまず、準備運動から始めるぞ!」
「はい!」
▽
「まずは重りを結び付けて、斜面を兎跳びで登るんだ!」
「はい!」
▽
「次は木の枝にぶら下がって腹筋!」
「はい!」
▽
「重りを背中に乗せて腕立て伏せだ!」
「はい~!」
▽
「素振り!」
「はい~!」
▽
「異国から伝わった、腰を落として足を交互に突き出す舞踊!」
「はい~…!」
▽
「よし、じゃあ準備運動はここまでだ」
「は…はあ~い…!」
すでに蒲公英は少々へばっている。
「今日は特別な特訓をするからな、付いて来い」
「?“特別な特訓”?」
▽
そして、蒲公英が翠に連れてこられた場所は…
「……ねェ翠姉様…」
「何だ蒲公英?」
「ここどこォーーーっ⁉」
2人が移動したのは大渦が巻いている湖だった。
「見ての通り、湖だ」
「どうやったらあの村の近くに、こんな場所を見つけられるの⁉」
「……そんなの、あたしが訊きたいぐらいよ…」
遠い目をする翠。
「…ひょっとしてここ、ゾロさんが一人で歩いてる時に見つけたの?」
「まァそんな所だ…」
「やっぱり…」
「それはさておき、早速特訓だ!」
そう言うと翠は縄を取り出し、片方の端を蒲公英の腰に、もう片方の端を近くの木に結び付ける。
「いいか?激しい渦の中で耐える事で、どんな動きにも対応できる身体能力を養うんだ!
危なくなったら縄で引き上げてやるから、安心して行ってこい!」
「ええ~~~っ⁉過酷過ぎるって!」
「つべこべ言わずに行けェーーーっ!」
「きゃーーーっ⁉」
そして蒲公英は翠に突き落とされ、渦の中へと落下していった。
▽
絶壁での特訓を終えた後、2人は再び移動した。
そこは…
「……ねェお姉様、もう一回訊いても良い?」
「何だ?」
「ここどこォーーーっ⁉」
「見ての通り火山の噴火口だ」
「何であの村から歩いて行ける場所に火山があるの⁉」
「ゾロに訊いてくれ…」
「訊いてもわかんないと思うけど…」
「まァとにかく、修行を始めるぞ」
そう言うと翠はその場で逆立ちする。
「いいかたんぽぽ、今からここを逆立ちで十周する。そうする事で、腕力だけでなく痛みや熱にも動じない、耐久力を身に付けるんだ!」
「わかったけど…」
「どうしたたんぽぽ?」
「良いの?お姉様?」
「何がだよ?」
「たんぽぽは平気だけど…お姉様丸見えだよ?」
「っ⁉」
そう、蒲公英はズボンを穿いていたが、翠はスカートだった為、下着が丸見えだった。
「い、いいから早くやれェ‼」
「は、はいっ!」
翠は顔を真っ赤にし、早く終わらせようと躍起になるのだった。
▽
火山での特訓を終えた2人は桃花村の近くに戻って来た。
そこで蒲公英はバッターボックスにいる打者の様に、木の棒を手に、キャッチャー代わりに置かれた丸太の前に立っている。
「それじゃあ、行きますよ!」
遠く離れた場所から、紫苑が丸太に向かって矢を撃つ。
「でェい!」
蒲公英は飛んで来た矢を撃ち返す様に棒を振るう。
しかし、蒲公英は空振りし、矢は丸太の真ん中に突き刺さる。
「目を閉じるなたんぽぽ!どんなに早くても、目を開いて見ていれば、動きは必ず見える!」
「はい…!」
隣で見ていた翠からの助言を受け、蒲公英は再び棒を構える。
「行きますよ!」
紫苑は再び矢を撃つ。
「ふん!」
蒲公英が振るった棒は矢をかすり、棒に僅かに傷がつき、僅かに弾かれた矢は中心よりもやや上に突き刺さる。
「それじゃあ駄目だ!芯で捉えろ!」
「はい…!」
三度棒を構える。
「行きますよ!」
紫苑が矢を撃つ。
「おりゃァーーーっ!」
蒲公英が振るった棒は的確に矢を捉え、矢は棒の真ん中に突き刺さった。
「や…やった…」
「よし!じゃあ次の段階だ!」
「次?」
蒲公英が首をかしげていると、紫苑と入れ替わりにウソップが現れる。
「ほら、たんぽぽ」
蒲公英は翠から新しい棒を受け取り、構える。
「行くぞ!」
今度はウソップが2発の鉛球を放つ。
「⁉」
鉛球は軌道を変えながら飛び、丸太に当たる。
「あの…翠姉様…今二発同時に、曲がりながら飛んで来たけど…」
「当たり前だ!戦場では何本の矢がどこから飛んでくるか、わからないんだからな!
どんな状況でも対応できるように、より多くの物の動きを的確に捉えるんだ!」
「よォし!もう一発行くぞォ!」
▽
午前の修行が終わり、昼食をとった後、蒲公英は自分に充てられた部屋で休憩していた。
「は~~~…どうしてこんな事になっちゃったんだろう…?」
寝台の上で寝っ転がりながら、蒲公英は呟く。
実を言うと、蒲公英が修行の為に来たというのはただの口実であり、本当の目的は別にあったのである。
▽
それは数ヶ月前、涼州での事。
『蒼~?蒲公英~?どこ~?』
隴西郡にある宮殿の中を、鶸が彷徨っていた。
『…で、そのままお姉ちゃんは押し倒されて…』
『すっごく良いねそれ!じゃあ逆に、お姉様が攻めの場合は⁉』
『!二人共ここにいるの?』
近くの部屋から声がしたので、鶸は戸を開けて中に入る。
『あ、鶸ちゃん』
『どうしたの鶸?』
『うん、ちょっと二人に相談が……?』
部屋の中に入った鶸は、蒼の手にどこなくゾロと翠に似た人形が握られている事に気づく。
『何してたの二人共?』
『お姉ちゃんとゾロさんが、どんな夜の営みをしてるか妄想していたの♪』
『⁉』
『蒼の妄想力って本当に凄いよね~。言動が本人そっくりに再現されていてさ~』
『えへへ~!それ程でも~!』
『ふ、二人ともなに破廉恥な事やってるのよ⁉』
鶸は顔を真っ赤にして叫ぶ。
『だってお姉ちゃんが男の人と一緒にいるんだよ⁉どうなっているか気になるでしょ⁉』
『そうだよ!あの翠姉様が男の人とだよ!鶸は気にならないの⁉』
『…………』
鶸は顔を赤くして俯き…
『……なります』
『『でしょ~!』』
返事を聞き、二人は心底嬉しそうだった。
『でもお姉ちゃん、あんまり上手く行ってない様な気がするな~…』
『そうだよね~…。あ、そうだ!ねェ、たんぽぽも武者修行に行ってもいい?』
『え?』
『ちょっと蒲公英、何を考えているの?』
『やっぱり姉様の事だから、あまり進展していないんじゃないかって思うんだよね~。
だから~たんぽぽが行って、お姉様達と合流して、二人をいい感じにしてあげようかな~って!』
『いいねそれ!面白そうだし賛成~!』
『でしょ~!』
蒲公英と蒼は盛り上がるが…
『蒲公英…』
『『⁉』』
鶸の低い声が響く。
鶸は俯いており、表情は確認できない。
『る…鶸ちゃん…?』
『や…やっぱり駄目…?』
『…………』
鶸は無言で俯いたまま、蒲公英の両肩に両手を置き…
『……良い知らせを期待しているわ』
『任せて!』
やはり姉の恋愛事情は気になる様だった。
▽
そして蒲公英は一人涼州を出発し、翠とゾロの目撃情報を聞きながら、二人の後を追って来たのだが…
(…いざ来てみれば、こんなお邪魔虫だらけの状態で、おまけにゾロさんは翠姉様を置いてどっかに行っちゃってるし…。
あ~も~!これじゃあたんぽぽが来た意味ないじゃ~ん!)
間の悪い事に、蒲公英が桃花村に着いた時、ゾロは丁度ルフィ達と涼州の月の下を去った頃だったのだ。
「たんぽぽ!午後の修行に行くぞ!」
蒲公英が唸っていると、部屋の戸を開けて翠が入って来た。
「え~…たんぽぽ今日はもう疲れたよ~…」
わざわざ涼州からやって来た苦労が空振りなった事を考え、憂鬱になっていたせいか、蒲公英は駄々をこねる。
「何言ってんだたんぽぽ!お前修行の為に来たんだから、これぐらいで音を上げてちゃ駄目だろ。
武術っつうのは日々の鍛錬が一番大切で、どんなに辛くてもそれを我慢して耐え続けて、初めて身に付くものなんだぞ!」
「……『我慢』とか『耐える』とか、お漏らしっ子の姉様に言われたって全然説得力ないんですけど~」
嫌味っぽく言い返す。
「なっ⁉だ、誰がお漏らしっ子だ!」
「だって翠姉様、たんぽぽ達の中で一番お漏らしが治るの遅かったじゃん」
「で、でも今はもうしてないんだから関係ないだろ!」
一番遅かった事は否定しないらしい。
「へ~じゃあ今はちゃんと我慢できるんだ?」
蒲公英の目が怪しく光る。
「当たり前だ!」
「じゃあ証拠見せてよ」
「証拠?」
▽
2人は屋敷の厨房に移動した。
「この水を全部飲んで……夕飯の前までおしっこ我慢出来たら、お漏らしっ子じゃないって信じてあげる」
そう言って蒲公英は、自分の腰ぐらいまである大きな水瓶を示す。
中には水が半分程入っている。
「望む所だ!」
翠は水瓶を持ち上げ、中の水を飲み干す。
(しししし…♪)
その様子を見て、蒲公英は怪しく笑う。
「ぷはーっ!飲んだぞ!これで良いな?」
「うん!我慢するのは晩御飯の時までだからね。それまでは絶対に厠に行っちゃ駄目だからね」
「ああ、わかった」
こうして、蒲公英の口車に乗せられ、翠のプライドを懸けた戦いが始まったのであった。
長時間の外出から帰って来た。
腹が減った。
のどが渇いた。
眠い。
でも何よりもまずはトイレに行きたい!
尿意や便意に勝る欲求はないですよね…。