ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊 作:HAY
水を飲んだ後、翠は自室に戻り、寝台に腰を下ろしていた。
「…ったく、たんぽぽの奴…。何がお漏らしっ子だ。この年になって、おしっこぐらい我慢できない訳ないだろう」
しかし…
(あ…あれ?)
排泄というのは体の健康を維持する為の大切な機能である。
ならば、身体が正常に動いているのであれば、尿意が湧くのは当然である。
大量に水分をとった後なら尚更である。
「(ま、まずい…我慢しようと意識すればする程、厠に行きたくなってくる…)よし!ここは書でも読んで気分転換しよう!」
…と、書を手に取り朗読するが…
「『朋有り遠方より来たる、何とも悦ばしからずや』……だーーーっ!駄目だ駄目だ!こんなんじゃ全然気が紛れねェ!」
元々翠は読書をする様な性格ではないので、当然と言えば当然である。
「そうだ!こういう時は運動して汗をかいて、体内の水分を排出すれば良いんだ!」
▽
「ハッ!ヤッ!」
早速翠は外に出て槍を振り回す。
「ふー…これだけ汗を掻けば少しは……ぐうっ⁉」
一応運動して汗を掻く事で、尿として排出される水分は減るが、膀胱の筋肉に振動が伝わり、逆に尿意が増す場合もある。
翠の場合は後者であった。
「こ…効果ないのか…?むしろ…さっきよりも酷くなってきたかも…」
▽
「こっそり…こっそりと…」
耐えかねた翠は屋敷の厠にやって来た。
「……た、たんぽぽは居ないな…?」
周囲を見渡しながら真ん中の個室の戸を開ける。
「ここにいるぞー!」
「ぬあ~っ⁉」
次の瞬間、中にいた蒲公英が大声をあげる。
そもそも屋敷の厠はココにある3ヶ所だけなのだから、見張っていない筈がないのだが、その発想がない辺りがやはり脳筋である。
「因みに~右の厠には~…」
「ここにもいるぞ~!」
蒲公英が手で示すと、中から璃々が出て来る。
「そして反対側には~…」
「すまん…さすがに璃々に言われると断れん…」
申し訳なさそうにウソップが出て来た。
「ちっくしょ~!」
翠走り去っていった。
▽
翠は取り敢えず厠から離れ、屋敷の塀付近をウロウロしていた。
「く、くそォ~たんぽぽの奴~…。
そ、そうだ!裏の山の中でなら……いやでも、さすがにそれは……でも、旅している時は草むらとかでもしていたし……ぐっ⁉」
悩んでいる間にも尿意は増していく。
「だ、駄目だ…!四の五の言ってる場合じゃねェ~!」
翠は山の中へ走って行った。
▽
「……よし、今度こそ大丈夫だな…!」
山の草むらの中に身を隠し、翠は下着に手を掛ける。
「翠姉様~♪」
「だーーーっ⁉」
すぐ後ろから蒲公英の声が聞こえ、翠はとっさに手を止める。
「こんな所で何してるの~?」
「え…えっと…」
(にししししし…♪)
ニヤニヤする蒲公英に対し、翠は…
「(こ、こうなったら…!)あー!なんか空飛んでたら、びっくりする様な物が空を飛んでいるー!」
…と、若干訳のわからない誤魔化し方をし…
「え⁉」
(今だっ!)
蒲公英が反射的に余所見をした瞬間に、全力疾走で逃げ出す。
「あー!待てー!」
当然、蒲公英も追いかける。
▽
(くっそー!蒲公英の奴~!あたしが山の中で用を足す事も想定していたのか~!)
「待てー!」
(にしてもたんぽぽの奴、あんなに足速かったか⁉
涼州にいた頃はすぐに息切れして、全然あたしに付いて来れなかった筈…。
あ、そうか…こっちに来て特訓している間に、体力がついて足も速くなったのか!
特訓の成果、少しずつ出てきているんだな……ぐっ⁉)
走っている翠をまたもや尿意が襲う。
(か、感心している場合じゃなかった…!特訓の成果がこんな形で出るなんて~!でも……負けるかァーーーッ!)
「⁉」
そこから翠はさらに驚異的な加速をし、どんどん蒲公英を引き離していった。
「す、翠姉様⁉ちょ、何あの速さ⁉」
▽
「はァー…はァー…」
日がだいぶ傾いてきた頃、何とか蒲公英を引き離した翠は、未だに山の中を彷徨っていた。
(何とか距離を引き離す事は出来たけど…またいつ見つかるかわからないしなァ…。
それにもう本当に我慢の限界…!こ、このままじゃ…
―――――あー!姉様お漏らししてるー!
あたしはここまでなのか…?西涼一のお漏らしっ子として末代まで語り継がれてしまうのか…?)
翠は座り込み、悲しみに満ちた目で空を見上げる。
「いや!まだだ!」
そう力強く叫ぶと、翠は近くの木に拳を打ちつける。
「まだ何か打開策がある筈だ!諦めたらそこで敗け戦だ!考えろ!何か…!何かある筈…!」
その時、必死に考える翠の耳に小川のせせらぎが聞こえてきた。
「!そ…そうだ!木を隠すなら森の中、人を隠すなら人混みの中…尿を隠すなら…!」
そして翠は、小川へと走って行った。
▽
その頃。
「見えてきたな」
「みんな元気にしてっかな~?」
「やっと着いたのだ!」
「そういえば私、この辺りで関羽さん達に会ったんですよね」
「見た所、何か問題があった様子はなさそうですね」
「まァ翠達がいるんだ、当然っちゃ当然だろ」
「ロビンも来ていたりしないかしら」
「あれが桃花村か…」
「のどかな村ですね~」
「ウソップに会うの楽しみだな~」
「関羽ちゃん達の仲間の女の子達に会うの楽しみだな~♡」
旅に出ていたルフィ達は、桃花村のすぐ近くにまで戻って来ていた。
「あれ?あそこに誰かいるのだ!」
鈴々は少し先にある雑木林の中を指す。
「ちぇーっ…姉様完全に見失っちゃった…」
「村の人ではなさそうですね…」
「でも…どこかで見た様な…誰かに似ている様な…?」
朱里とナミが首をひねった時…
「ん⁉おーい!お前もしかして蒲公英か⁉」
ゾロがその人物に呼び掛けた。
「あー!ゾロさーん!」
蒲公英の方もゾロに気づいて駆け寄ってくる。
「こいつ知ってんのかゾロ?」
「翠の従妹の馬岱だ」
「へー!翠さんの!」
「それでどこかで見た気がしたのか!」
「確かに、どことなく似ていますね」
「おーい!ゾロー!みんなー!」
「「「「「「「「「「⁉」」」」」」」」」」
その時、さらにだれかの声が聞こえ、一同が振り向くと…
「翠ー!」
「やっと帰って来たのか!」
「ああ!」
「ただいまなのだー!」
「随分長かったな。それに見慣れない奴らが何人かいるけど、そいつら誰なんだ?あと、星の姿が見えないけど…?」
「色々あって、涼州まで行って来たんです」
「涼州まで⁉何があったんだよ⁉」
「詳しくは後で話す。星の事も後で話すが、あまり気にしなくて良い…」
「?まァ愛紗がそう言うなら、あまり気にしないようにするけど…」
「それから、この者達は皆ルフィの海賊仲間だ」
「ああ、紹介するよ」
「いや、後でで良いよ。ここで立ち話も何だし、みんな長旅で疲れているだろ?まず屋敷に帰ろうぜ」
「そうね。それじゃあそうしましょ」
「ところで、翠はどうしてずぶ濡れになっているのだ?」
「え⁉あーいや…さっき山の中で足滑らせて、川に落っこちまって…ははは…」
「なんだそりゃ…」
「間抜けなのだ…」
「ふーん…」
皆が呆れる中、蒲公英だけは疑惑の目で翠を見ていたのだった。
▽
「見ると密林の中から現れたのは、おれの何倍もの大きさがある巨人だったんだ!」
「そんなに大きなひとがいるの⁉」
その頃、ウソップは屋敷の門前で、璃々に自分達の冒険譚を話していた。
少し前から、ウソップは璃々にせがまれて、時間がある時に天の国の話を聞かせてあげていた。
「すぐさまおれは『仲間と船を守らねば!』と思い、武器を手にそいつと対峙し…」
「それはうそだよね?」
「……どうしてわかったんだ?」
「璃々ねーウソップお兄ちゃんがうそついてるときがわかるの」
「そうか…すごいな、璃々は…」
「えへへ…♪」
ウソップに頭を撫でて貰い、璃々は嬉しそうにする。
「璃々ー!ウソップさーん!」
屋敷の窓から紫苑が顔を出した。
「翠ちゃんと蒲公英ちゃんを知りませんか?屋敷のどこを見ても見当たらなくて…」
「昼頃までは一緒にいたんだけど、ちょっとわからなねェな。村か山にでも行ったのか?ちょっと見て来るか」
「それじゃあ、私は山の方を見て来るので、村の方をお願いして良いですか?」
「おう、任せとけ」
「璃々もいっしょにいくー!」
「え?」
「璃々?」
「璃々も翠お姉ちゃんたちさがしたい!」
「璃々…」
「……しょうがないわね。ウソップさん、申し訳ないですけど、璃々と一緒に行ってあげてくれませんか?」
「いや…璃々と一緒なのは構わねェし、それなら山より村の方がいいのはわかるけど、紫苑が一緒に行った方がいいんじゃねェのか?」
「ウソップさんでしたら信用できますし、璃々もすっかり懐いていますから。
それに、最近ちょっと体がなまってきてたので、こういう機会に少しは山歩きをしておきたくて…」
「そうか、わかった。璃々はおれと一緒でいいか?」
「うん!いこう
そう言って璃々はウソップの腕を引っ張る。
「よし、行くか!……ん?璃々、お父さんっておれの事か?」
「うん!ウソップお兄ちゃん、璃々のお父さんみたいだから!」
「そっかー…お父さんみたいかー…」
「…お父さんってよんじゃだめ?」
不安そうになる璃々。
「いや、そんな事ないぞ。じゃあおれは今日から璃々のお父さんだ」
「やったー!お父さーん!」
璃々は満面の笑みを浮かべてウソップに抱き着く。
「あらあら、良かったわね璃々、素敵なお父さんができて」
「うん!」
「おーい!ウソップー!紫おーん!璃々ー!」
「「「!」」」
その時、3人の名を呼ぶ声が聞こえ、見ると翠、蒲公英と合流したルフィ達が来るのが見えた。
「あ!お母さん、みんなかえってきたよ!」
「そうね。じゃあすぐに晩ご飯の支度を始めましょうか」
「おい、ウソップ!」
「会いたかったぞ~!」
「おう!元気だったか⁉」
「ウソップさーん!」
「サンジ!チョッパー!フランキー!ブルック!久しぶりだなー!」
「あの人たち、お父さんのなかま?」
「⁉」
「ああそうだ。みんな強ェし、面白ェぞ!」
その時だった。
「う…」
「「「「「「「「「「?」」」」」」」」」」
「ウソップテメエエエェェェーーー‼」
「⁉」
突然サンジが憤怒の形相を浮かべ、怒りの炎を身に纏い、もの凄い勢いでウソップに掴みかかった。
サンジはそのままウソップの胸倉を両手で掴み持ち上げる。
「てめェェェ!おれがオカマに追いかけまわされてる時に、こんな麗しい妻を娶って子供まで作りやがってェ!
どこまでヒトの不幸を嘲笑えば気が済むんだてめェはァ⁉」
「バカ!紫苑は妻じゃねェし、璃々はおれの子供じゃねェよ!」
「ウソついてんじゃねェぞ!このクソ種馬野郎がァ!」
「ウソじゃねェよ!おれがウソついた事あるか⁉」
「「「「「「「「「「うん。何度も」」」」」」」」」」
桃香以外の全員が首を縦に振った。
▽
その後、何とかサンジをなだめ、一同は屋敷の中に入り食卓に着き、サンジや翠らは自己紹介を済ませ、桃香との旅の行程を話した。
「それでは私は、夕食の支度をしてきますね」
「あ、私も手伝います」
「おれも」
そう言って紫苑に続いて、朱里とサンジも席を立とうとする。
「良いですよ。お二人は長旅で疲れているでしょうし、今日は私に作らせて下さい」
「そうですか」
「それじゃあお言葉に甘えて」
「璃々もてつだうー!」
「あ、そうだ!璃々これお土産」
そう言ってルフィは美羽の城下町で買った子宝飴を渡す。
「ありがとう!ルフィお兄ちゃん!」
「良かったわね璃々(将来は素敵な旦那さんと沢山の子供に恵めれるわよ)」
「うん!」
そして二人は厨房に向かった。
「ほんじゃ、夕食が出来るまで、改めてこれまで互いの身に起きた事を話しておこうぜ」
フランキーの発言を皮切りに場の空気が変わる。
「そうですね。道中でも簡単に話は聞きましたが、もう少し詳しく知っておきたいですし」
「そうだなァ…色々訊きてェしなァ…」
唯一サンジだけは、他とは違うどす黒い負の空気を纏っていた。
(な…何だあの気は…⁉)
(す、すごい威圧感なのだ…!)
(め、滅茶苦茶濁りを感じるけど、それ以上に恐ろしい何かを感じる…⁉)
(武の心得がない私でもわかるくらい恐ろしいです…!)
恐れ慄く愛紗達だった。
▽
「そんな事があったのか…」
「ですが、私達がこうしてここに来た事で、皆様の助けになれたようですし、良かったですね」
「一人不満そうな奴がいるがな…」
ゾロのその言葉に、思わず全員が未だにどす黒い空気を纏っているサンジの方を向く。
「ま、アホをまともに相手したら疲れるだけだ。こいつは放っとこうぜ」
「ウルセーマリモ!とにかくウソップ!てめェがあのレディの娘の父親だなんて、おれは認めねェからな!」
「何でサンジに認められる必要があるんだ?」
チョッパーがもっともな疑問を言う。
「ウルセェ!とにかくハッキリダメだって言ってこい!」
「いや、言える訳ねェだろそんなの…」
「そうよ!そんな事言う奴は人の皮を被った鬼よ!」
「そこまで⁉」
ナミは子供には優しいのであった。
「そうだぞ!想像してみろ!物心つく前に父親を亡くして…ようやく父親と思える存在に出会って…。
グスッ!それがどれだけ嬉しい事か考えてみろよ!」
そう言うフランキーの目には、どんどん涙が溜まっていく。
「………っ!」
サンジは未だに少々不満そうだったが、何か思う所があるのか、それ以上何も言わなかった。
「皆さん、晩ご飯ができましたよ」
丁度その時、戻って来た紫苑達が持っていた皿に盛られていたのは…
「おお!川魚の串焼きか!」
「んまほ~!」
「いい匂い、焼き加減も素晴らしいな!」
「今日の夕方、裏の川で釣って来たんです。新鮮さは保証しますよ」
「えっ⁉裏の川って…あの山の麓を流れている…?」
紫苑の言葉に、何故か翠は動揺する。
「ええ、そうですけど?」
「そ、そうか…あそこで釣ったのか…」
「「「「「「「「「「いただきまーす!」」」」」」」」」」
戸惑う翠をよそに、全員手を伸ばし魚を食べ始める。
「うめェ~!」
「美味しいのだ~!」
「旬の魚はやっぱりうめェな~!」
「塩加減が絶妙ですね~!」
「っ!」
桃香の言葉に、またしても翠はビクッとする。
「紫苑さん、何だか前と一味違う様な気がするんですけど、お塩でも変えたんですか?」
「いえ、別に変えていませんけど…」
(ひ、一味違う…)
「ま、料理の味ってのは、調味料だけで決まるもんじゃねェからな」
「そうなんですか?」
「ああ。例えば包丁の切れ味が悪いと、素材を無駄に傷つけて、そこから旨味が逃げちまうし、エサを食った直後や産卵前の魚は、栄養を蓄えてるから美味いんだぜ」
「知らなかったです」
サンジの説明に朱里は感心する。
「ん?翠、食わねェのか?」
焼き魚に全く手を付けない翠の様子を見て、ルフィが訊ねる。
「いや、その…今、ちょっと食欲なくて…」
「お主が?それは珍しいな…」
「おれ、診てみようか?」
「あ、いや…病気とかじゃないから…。大丈夫だから…。ははは…」
笑って誤魔化す翠であった。
自然の河川なんて、もともと