ONE PIECE エピソードオブ恋姫†無双 無双の姫たちと九人の海賊 作:HAY
今回でロビンが登場することを期待していた方が多いと思いますが、その前に数話別の話を投稿することにしました。
ロビンの話は十数日ほどお待ちください。
時は少々遡り、ある日の洛陽。
「ああ主上様…こちらのお召し物も良くお似合いですわ」
「……そう」
長安でルフィ達が李傕・郭汜を討伐してから数日後、空丹らは無事宮殿に戻り、元の生活を送っていた。
今はある部屋で、山の様に積まれた新しい服や装飾品を次々と試着している。
「こちらの金の冠もいかがでしょう?きっと良く似合いますわよ」
黄は冠を手に取り勧める。
「……ええ、素敵だわ」
しかし、空丹はどこか興味がなさそうに返事をする。
「…………」
「失礼します、空丹様」
「あら、瑞姫」
「これは何太后様」
「あらまァ!凄い数のお召し物や装飾品ですね!」
「はい。大陸各地より取り寄せまして、試着していた所なのですよ」
「そうだったの。どれもこれも素晴らしい物ばかりですわね」
「……瑞姫はこれが気に入ったの?」
「はい!可能ならば自分の物にしたいぐらいで…」
「!か、何太后殿!」
黄は顔をしかめる。
「……だったらあげるわ。ここにあるの全部」
「「え⁉」」
空丹の一言に二人は驚く。
「え、えっと…空丹様?本当によろしいのですか?」
あまりにも予想外の言葉だった為、瑞姫は喜びよりも驚愕の方が勝り、恐る恐る訊ねる。
「ええ。なんか…いらないわ。これ全部」
「さ…左様でございますか……趙忠殿?」
「しゅ、主上様がそう仰るのであれば、私は構いませんが…」
「じゃあいいわね。私、部屋に戻るわ」
「ああっ!お、お待ち下さい主上様!」
さっさと部屋から出て行く空丹を追って、黄も急いで部屋を飛び出していく。
「…………」
残された瑞姫は、しばらく呆然と立ち尽くしていた。
▽
また別の日、大広間で大宴会が開かれていた。
宴席の真ん中では踊子が舞を披露し、周りでは歌妓が楽器を奏でている。
「さァ主上様、もう一杯どうぞ」
「空丹様、本日のお料理はまた一段と豪勢ですわね」
その上座に座っている空丹の隣で、黄は酒を注ぎ、瑞姫は空丹に寄り添いながら料理を食べている。
「…………」
しかし、空丹の反応は薄い。
にこりともせず、むしろどこか不機嫌そうにさえ見える。
「…………」
その日の宴席は、空丹が終始無言のまま終わった。
▽
その翌朝。
「主上様、本日の宴席では西方より取り寄せた、葡萄で作ったお酒が出されるそうで。楽しみですね」
朝食を終えた空丹に黄が話しかける。
「……ねェ黄」
「?何でしょう?」
「私、庭の池に行きたいわ」
「ああ、確かに今日は良い天気ですし、舟遊びも良いですね。ではすぐに遊宴船の用意を…」
「そうじゃなくて、私は今日は宴じゃなくて池で遊びたいの」
「え⁉」
空丹の言葉に黄は驚く。
「……駄目かしら?」
「い、いえ…主上様がお望みならば、本日の宴は中止にしますので、別に構いませんが…」
「そう。それじゃあ私、池に行くわ」
そう言って空丹は一人で部屋を出て行ってしまう。
「く、空丹様!お待ち下さい!」
黄は慌ててその後を追いかけた。
▽
「………♪」
「…………」
庭園の池に来た空丹は楽しそうに歩き回り、黄はその様子を不思議そうに見ている。
「これは空丹様」
「あら瑞姫」
「何太后様、ご機嫌麗しゅうございます」
「趙忠も、今日は空丹様とお庭遊び?」
「はい。……ああ、何太后様」
「なあに?」
「本日の宴席の事ですが、主上様のご要望で中止になりましたので…」
「え?」
黄の言葉に瑞姫は驚く。
「ちょっとそれどういう事?まさか空丹様が、自分で宴会が嫌だって言ったって事⁉」
「はい。それよりも庭の池で遊びたいと言い、一人で部屋を出て行ってしまいまして…」
「えェ⁉」
瑞姫はますます驚く。
「おや瑞姫。趙忠も」
「姉様」
「これは何進将軍」
「どうしたんだ?二人で何か密談か?」
「空丹様の事よ」
「主上様がどうかしたのか?」
「朝食をとった後、今日は宴席を取り止めにして、池で遊びたいと言い出しまして…」
「…は?」
傾も2人と同じ様な反応をする。
「それは冗談では…」
「ありませんよ」
「そ、そうか…。しかし、空丹様が他者の意見に同意せず、逆に同意を求めるなど、にわかには信じ難いが…」
「それだけじゃないわ。昨日の宴の時もそうだったけど、空丹様最近、不機嫌そうな顔をする事が増えてるのよ。
今まではそんな事なかったし、そもそもそこまで表情が変わる事自体なかったわよね?」
「……もしかして…」
「趙忠?」
「何か心当たりがあるのか?」
「心当たりというよりかは…」
「…そういえば二人共」
「「?」」
黄が口を開こうとした時、傾が辺りを見渡しながら話を遮る。
「その主上様はどこにいるのだ?」
「「え⁉」」
傾の言葉に2人も辺りを見渡すが、空丹の姿が見当たらない。
バシャーン!
「「「⁉」」」
その時、3人の耳に水音が聞こえた。
「い、今のは…?」
「い、池の奥の方からよね…?」
「何だか、
嫌な予感を覚えた3人が奥の方に向かうと…
「待ちなさいっ!」
服を着たまま池の中に入り、泳ぐ鯉を捕まえようとしている空丹の姿があった。
池はわりと深いらしく、空丹の腰辺りにまで水がある。
「きゃあああああっ⁉」
「く、空丹様⁉」
「な、何をしているのですか⁉」
「何って、魚を捕まえようとしているのよ」
「お、お止め下さい!お召し物が汚れます!」
「良いじゃない別に」
「良くありません!池からお上がり下さい!」
「え~…」
空丹は思いっ切り不満そうな顔をしながらも、池から出て来る。
「空丹様!危険ですから池に入ったりしないで下さい!」
「は~い…」
黄にしては珍しく、強めの口調で空丹に言い聞かせた。
「そのままでは風邪をひいてします。すぐに代わりのお召し物を用意させましょう」
傾はそう言って、すぐに侍女を呼び寄せた。
▽
「肝が冷えましたわ…」
「び、びっくりしたわ…まさか池に入って魚を捕まえようとするなんて…」
「一体どうしたというんだ…?あんな事をするなど、今までの主上様では考えられんぞ?」
空丹が服を変えた後、3人は庭園の円卓に着き、再度空丹の変化について話し合っていた。
空丹はその近くで遊んでいる。
「そういえば趙忠、あなたさっき空丹様の変わり様に心当たりがあるような口振りだったけど…」
瑞姫が訊ねる。
「心当たりというよりは、少々気になっていた事があったのですが…」
「何だ?」
「数日前、空丹様を長安で保護した帰りの馬車の中で、空丹様が『自分が退屈していたみたいだ』と口にしていたのです…」
「退屈…?」
黄の言葉に傾は首をかしげる。
「しかし、主上様は様々な贅沢や遊びを与えられていたであろう?」
「はい。それらに空丹様が不満を申した事は一度もございません」
「やはりそうだよな?それなのに何故退屈などと…」
「ひょっとして…
「「?“あの男”?」」
瑞姫の言葉に2人は声を揃える。
「ほら、長安で李傕に捕まっていた空丹様を助け出した男がいたじゃない」
「そういえば…」
「まさか、あの男が空丹様に何か余計な事を吹き込んだと?」
「吹き込んだかどうかはともかく、あの男空丹を連れて、森の中を歩き回ったそうじゃない。
今まで一度も宮殿から出た事がないんだし、出たとしても、実際にやる事自体は何も変わらないんだもの。
それで影響されちゃったとしても、不思議ではないわよ。
それに空丹様からしてみれば、今までは一方的に与えられていたから、選択肢がなかっただけでしょ?
実際、それが好みかどうかなんて、問われた事なかったじゃない」
「成程…」
「確かに…」
「空丹様、あの男と一緒にいた時間が、よっぽど楽しかったんじゃないの?」
「…………」
瑞姫の言葉に黄は考え込む。
「……ん?」
…と、傾が辺りを見渡す。
「どうしたの姉様?」
「主上様はどこだ⁉」
「「え?」」
傾の言葉に2人も見てみると、またもや空丹がいない。
「しゅ…主上様ー?」
「何ー黄?」
「「「⁉」」」
黄が呼んでみると、上の方から空丹の声が聞こえ、3人が上を見ると…
「しゅ、主上様⁉」
近くの木に空丹が登っているのが見えた。
すでに自身の身長よりも、だいぶ高い所にいる。
「な、何をしているのですか⁉」
「何って…木に登っているのよ」
「な、何故その様な事を⁉」
「鳥がいたから捕まえようと思ったの」
「あ、危ないですから降りて下さい!」
「はーい」
空丹は返事をするなり、いきなりその場から飛び降りる。
「「きゃあああああ⁉」」
「しゅ、主上様ァーーー⁉」
3人は慌てて木の根元へ走り、自分達がクッションの代わりになり、空丹を受け止める。
「いたた…」
「しゅ…主上様……大丈夫ですか…?」
「ええ。ちょっと体が痛いけど平気よ」
「さ…左様でございますか…」
「空丹様……高い所から落ちると痛いですから……高い所に登るのはお止め下さい…」
「わかったわ」
瑞姫の言葉に空丹は素直に返事をする。
「あら?」
何かを見つけたのか、空丹は今度は近くの茂みに近づいて行く。
「主上様、どうなさいました?」
「ねェ黄、これは何ていうの?」
そう言う空丹の手には…
「「ヒィッ⁉」」
一匹の大きなクモが握られていた。
「放せー!」と言わんばかりに足をばたつかせるクモを見て、黄と瑞姫は悲鳴を上げ、傾も顔を引きつらせる。
「?どうしたのよ?」
「い、いえ…。主上様、それは蜘蛛という虫でございます…」
青ざめながらも黄は答える。
「へーあなたは“くも”っていうのね」
「しゅ、主上様…その蜘蛛も困っている様ですし、放してあげた方が良いかと…」
「そう?それじゃ放すわね」
黄に言われ、空丹はクモを茂みに帰した。
クモは茂みに戻ると、枝葉に登り巣を作り始める。
「…………」
空丹はその様子を瞬き一つせずに見つめている。
「……この子凄いわね」
「主上様?」
空丹の言葉に黄は訊ねる。
「この糸、とても細くて綺麗だわ。こんな物を作れるなんて凄いじゃない。私、この糸が欲しいわ」
「主上様、その様な糸でしたら、主上様はすでに沢山お持ちですよ」
「あら、そうなの?」
「はい。主上様のお召し物は、その糸を沢山紡ぎ合わせて作っているのです」
「そうなの?こんなに細い糸からこの服は作られていたの?」
「はい。ですから服を作るのはとても大変なのです。だからあまり汚したり、破いたりしない様に気を付けて下さいね」
「そう、わかったわ」
(これで水遊びや木登りは控えて頂けそうですね…)
黄は安堵の息を漏らすのだった。
「ねェ黄」
「何でしょう?」
「私の服に使われている糸って、この蜘蛛が作っているの?」
「いいえ、作っているのは蚕という虫です」
「“かいこ”?それはどんな虫なの?」
「小さくてウネウネしている虫の事です」
「ふーん…」
▽
翌日の昼間、黄は王宮の廊下を歩いていた。
(昨日はびっくりしましたわ…空丹様があんな事を、それも心底楽しそうになさるなんて…。
しかしどうしたものか…空丹様にあまり危険な事はさせたくないですが、機嫌を損ねたくもない…)
「あ、黄!」
「!これは主上様」
一人で考え込んでいると廊下の向こうから空丹がやって来た。
空丹は小さな箱の様な物を手にしている。
「ねェ黄」
空丹は手にした箱を黄に突き出す。
「?」
黄が箱の中を覗いてみると…
「⁉」
チョウやガ、ハチや甲虫類、ハエなどの青虫、イモムシ、毛虫、ウジ虫系の幼虫。
さらにダンゴムシやワラジムシ、ムカデ、ミミズ、ナメクジなどが大量に這いつくばっていた。
「“かいこ”ってどれ?」
「イヤアアアァァァーーーッ‼」
王宮中に黄の悲鳴が響き渡った。
▽
「アアアァァァ…」
「⁉い、今のは…?」
黄の悲鳴は、王宮の書庫の前にいた白湯と兵士達にも聞こえていた。
「ちょ、趙忠殿の悲鳴みたいでしたが…?」
(な、何があったんだろう?)
「そ、それはともかく劉協様、部屋にお戻りください」
そう言って兵士は白湯を中へ入れまいと、書庫の入口に立ち塞がる。
「で…でも…」
「お召し物が汚れますし、ここの書物は劉協様がお読みになる様な物ではありません」
「そ、それは読んでみないとわからない筈…」
「いえ、わかります…」
「い…いいからどいて!」
「っ!」
白湯はやや強めの口調で言い、兵士達も気圧されそうになるが…
「劉協様」
「「「⁉」」」
そこへ何者かの冷たい声が響く。
「こ、これは
現れたのは、以前宮殿内で空丹と白湯を連れ戻す算段を話し合っていた際、皆が大笑いする中一人だけ顔をしかめていた男―――張譲であった。
「ここにあるのは国の政治に関わる重要な書物。
いかに皇帝陛下の妹様といえど、何の政治的な権限も知識もないあなたが、勝手に触れて良い物ではありません。
これ以上の我儘を言うのであれば、我々も政務官として対処しなければなりません」
「っ!」
張譲は冷酷な眼光で白湯を睨みながら言い放つ。
「おい」
「「はっ!」」
張譲が声をかけると、兵士達も白湯に手にしていた槍を向ける。
「うう…!」
「お引き取り下さい」
「…わかった…」
白湯は渋々その場を離れた。
▽
「はあァ~~~…」
しばらく歩いた後、白湯は大きなため息をついた。
(今日も何もできなかった…やっぱり駄目なのかな…)
がっくりと肩を落としトボトボと廊下を歩く。
宮殿に戻った後、白湯は改めて国政について学ぼうと意気込んだが、宮中にはそれを邪魔する者が多く、中々思い通りにいかなかった。
(ううん!弱気になっちゃ駄目!こんなんじゃまたルフィに怒られちゃう!頑張るって決めたんだもん!)
自分に言い聞かせると顔を上げ、元気よく歩き出す。
(ルフィがあの時言っていた事…)
―――――偉い奴のせいでひどい目に遭って、苦しんでる奴がこの国にはたくさんいるんだ
(あれはやっぱり本当だと思う…。それで…『偉い奴』っていうのはきっと私やお姉様、何進や何太后、張譲や趙忠達の事…)
歩きながら白湯は考えをまとめる。
(お姉様や張譲達は、色んな人達からお金とかを沢山貰って、いつも贅沢ばかりしていた…。
それを諫める人達もいたけど、いつの間にかみんな居なくなっていた…。
何の根拠もないけど、みんなが苦しんでいるのは、たぶんそのせいだと思う…。
そして同じ様な人がこの国には沢山いる…。
その人達を何とかしないと苦しんでる人達を助ける事は出来ない…。
その為にどうすれば良いのか知りたいけど…教えてくれる人はいないし、張譲達がそれを邪魔する…。
張譲の仲間でない人が居てくれれば良いんだけど…)
「全く忌々しい奴らだ!」
「?」
廊下の角に差し掛かった所で何者かの声が聞こえ、白湯は覗いてみた。
そこでは2人の男がひどくイライラした様子で会話していた。
(あの二人は確か…よく張譲と一緒にいる
「宮中にあんな忠義ぶった奴らがまだいるとはな…!」
「“
(皇甫嵩と盧植って……確か中郎将の…)
「何進の奴も何故未だに奴らを採用しているんだ⁉あいつらのせいで思い通りに賄賂が貰えないのは同じだろう⁉」
「部将として優秀だから、自分の身の安全を守る為に置いてるんだろ。あいつ、おれ達に命狙われているのに勘付いたみたいだからな」
「くそっ…どうにかならねェかな?」
「何進が大将軍として兵権を握っている内は、おれ達では左遷も解任もできねェな…。
何進が大将軍の任を解かれるか、あの二人が遠征…それも余程遠くへ行く事になれば…」
(遠くへ行く………それだ!)
白湯の目が輝いた。