IS -other world order-   作:3×41

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第11話 三日目の午後

 昼下がり。

 

 シチリア沿岸のエーゲ海が初夏のひざしを反射している。

 その広くすんだ洋上に5つのクルーザーが浮かんでいた。

 セシリアがマッツィーニに用意されたものである。クルーザーにはIS学園の生徒やシチリアIS学園の生徒でごった返してちょっとしたお祭りのようになっていた。

 

「きれいな眺めですわね」

 

 その喧騒をバックにして、セシリアがクルーザーのはじで洋上を眺めながら言った。

 クルーザーの下の海では青と黄色の熱帯魚が遊泳している。

 5隻のクルーザーの上では、ベンチの上で読書をするものや歓談するもの、あるいは炭火を使ってバーベキューをするものや、テーブルを囲んでインディアンポーカーで盛り上がるものなどさまざまだった。

 

 ずいぶんと遠くまできたものだ。セシリアは改めてそう思った。

 このシチリアはだいたいはオーケーだ。いいところだと、セシリアには感じられる。

 シチリアIS学園もそうだ。錬度が高く、学生たちの意欲も高い、専用IS搭乗者、サラ=ハースニールを中心にしてよくまとまっているようにも思う。みんなIS学園に入るくらいだから当然といえば当然だが、努力家だ。それを束ねることができるサラの人望もたいしたものだと思う。それに彼女には学園コミュニティにたまにありがちな、いわゆる学校の女王様のようないやらしさは微塵もなかった。仲間意識の厚い好人物。シチリアの生徒たちは運がいい。まったく、どうすればああもまっすぐ人間が育てるのか疑問だ。

 

 セシリアが青く揺れる波間を眺めていると、セシリアの眼下の澄んだ海中を遊泳する熱帯魚が、突然モリで突かれ、海面から飛び出してきた。

 

 セシリアが驚くと、モリを刺した先にいるのは、ウェットスーツに身を包んだサラ=ハースニールだった。まったく、『これ』だ。

 

「セシリアさん。魚をそこそことったんだけど、食べないかい?フライもおいしいんだよ」

 

 サラはモリで魚を突き刺したまま、反対の手をセシリアに振って朗らかに笑って言った。

 セシリアはサラに笑い返していった。

 

「では遠慮なく、ありがたくご相伴にあずかりますわね」

 

 大型のクルーザーの甲板の上でバーベキューの炎がパチパチと音を立てている。

 そのバーベキューの網の上で肉をひっくり返すサラがセシリアたちに言った。

 

「あさっての調査の大筋は大体決まったよ。研究都市のほうからもだいぶ注文が入ったけどね」

 

 他方ラウラはというと、近くでベンチに座ってISの雑誌を読み込んでいた。

 

「ラウラさんはここでもISの本をお読みになるんですのね」 

 

 それを見たセシリアが少しガックリするように言った。

 

「ふむ、情報は兵站の基本だからな。なかなか興味深い記事もある。セシリアもどうだ」

 

 セシリアが丁寧にことわると、ラウラはそうかといって再び雑誌に目を落とした。

 ラウラのこういう趣味が彼女の深い知識につながっているのだが、こういうときくらい違うことに目をむければいいのにとセシリアには少しもったいなく思われた。

 

「サラさん。たくさん魚をとられましたのね」

 

 テーブルの上には焼き魚やフライされた魚とが並べられている。

 しかしこれだけの量は結構に時間がかかっただろう。

 

「ああ、そうだね。ダイビングしてたらつい夢中になっちゃってさ。とりすぎちゃったよ。まぁ楽しかったよ」

 

 あははとサラは笑った。

 

「こんなにとるなら買ってきたほうが早かったかもしれないですね」

 

 とアルジャーが口に肉をほおばりながらいった。

 

―そうかもしれないけどさ。とサラが言って、おもむろに彼女の左手に彼女の専用ISグラビティカの左腕だけを展開し、海に向けた。

 

 すると海面がゆらいで、無重力状態になった数十匹の魚たちがいっせいに海面から飛び出して海の上に浮かんだ。

 色とりどりの魚たちは空中でピチピチと動くと、また重力にしたがって海面に落下して泳ぎ始めた。

 

「一度にとることもできるけど、ダイビングで魚を追う行為が楽しいわけさ」

 

 と、グラビティカを解除したサラが言って魚の身をほおばった。

 その光景を見ると、彼女の言葉はえらく説得力をおびていたのだった。

 

「そういえば、狙撃大会はどうだったんだい?」

 サラがアルジャーにたずねた。

 

「ええ、結局ダンバルさんがまた優勝されてました。もっともダンバルさんは少し複雑そうでしたが」

 

 そうアルジャーが言って、次にハリーが言う。

 

「それはそうかもしれないですね。セシリアさんとの勝負には負けていたわけですし、ちょっと複雑な心境でしょう」

 

 サラがアルジャーの成績はどうだったのかと聞くと、アルジャーは少しはずかしそうに頭に手をやって言った。

 

「私ですか?私は、その、4位でした。精進します」

 

「4位でもすごいよアル」

 とハリー。

 

「狙撃は経験による部分も大きいですから。回数を重ねていけばもっと精度も上がりますわよ」

 とセシリア。

 

「アルジャーが優勝するのはまだ先のことになりそうだね」

 サラがカラカラとした口調で言った。

 

 その後もたわいない会話で日が落ちるまで歓談が続いた。

 

 

 

   #

   

   

   

 1900時

 

 ネッド・ヴァルツの家では、ネッドとクロエが準備に取り掛かっていた。

 ヴァルツ家の地下室には、壁に銃が並んでいる。

 ネッドはその部屋の鏡の前で、目のまわりを黒く塗っている。迷彩効果を上げるためである。

 

 他方クロエは、ナイフを研ぎ終えるとそれをホルスターにしまった。

 次に穴があいた布で目を覆う。

 

 この地下室の部屋にはもうひとつ部屋があった。そこには人が入れるポッドがおいてある。

 ネッドの妻、ケイトリン・ヴァルツの残した医療用ポッドである。

 ネッドとクロエの強化骨格への改造手術はこのポッドで、人体工学の研究者であるケイトリンの残したプロセスデータにしたがって行われた。

 知覚能力、筋力ともに常人の数倍、彼らの強化骨格は、マグナム弾でもなければ貫通することはできない。

 為すべきを為すべしたるエリュシオンの教えにしたがってネッドは動いていた。実のところ、彼の娘であるクロエまでもがネッドの知らないうちに強化手術をほどこしていたときには驚いた。

 しかしクロエはネッドとケイトリンの気質と似ていて、しかもエリュシオンの教えにしたがっていると思い直した。

 今夜、ケイトリンが消息を絶ったゲッペンファミリーの屋敷を襲撃する。彼女を取り戻すためだ。

 

 ネッドは目のまわりを黒く塗って、黒い仮面をつけると、近くで狙撃用のライフルと、対物マテリアルライフルにその銃弾類をまとめ、近くで壁にたてかけた銃を服のホルスタにしまっていくクロエに行った。

 

「クロエ、準備はできたか?」

 

 クロエはネッドの声に振り向くと、目を細めて笑っていった。

 

「はい、いつでもいいわよ父さん」

 

 外に車を止めてある。

 ネッドはクロエにうなずくと、地下室の扉のノブに手をかけた。

 

「それじゃぁ行こう。帰るときは、母さんを連れて3人で帰る」

 

 ネッドとクロエは地下室を出た。

 地下室の扉が閉じられると、自動で部屋の電気が消え、扉にカギがかかった。

 

 

 

 #

 

 

 

 アルバニ3号は再び研究都市の街を歩いていた。

 ヴァルツ家への道である。

 昼間のクロエの口ぶりが少し気になったのと、またクロエと話せたらという希望的観測でアルバニはコンクリートの道をホイール走行していた。

 

 と、アルバニの音センサーに、路地裏から少年の声が聞こえた。

 

 アルバニが聞き覚えのある名前にそちらにいくと、路地裏ではレザードが少年たちに袋叩きにされているところだった。

 

 レザードはジャンクショップからの帰りに彼らにつかまったのだった。

 少年たちは今度は少女たちも連れているようで、少女たちはおっかなびっくりにまるで剣闘士の戦いでも見るように少年たちが床でうずくまるレザードを蹴るのを見ていた。

 剣闘士の戦いといっても、いつものように一方的にレザードが蹴られているだけだったが。

 

「こらー!君たち!何をやっている!!」

 

 少年たちがビクッと路地の表通りのほうを振り向いた。警官然とした声だった。次にパトカーのサイレンが聞こえてくる、少年たちは急いでそれぞれの少年たちの顔を見やった。

 

「やべぇ!ポリ公だ!逃げるぞ!!」

 

 少年たちが我先にと反対方向に駆け出すと、それを追うように少女たちが走っておいかけた。

 彼らがいなくなると、そこにはうずくまったレザードだけが残った。

 

 警官の声がした表通りのほうから、アルバニ3号が車体を出した。

 アルバニが警官の声を作り、パトカーの音を鳴らしたのである。実際にそこにはパトカーはおろか、警官すらいなかった。ここの警官はどうやらこの程度のことでわざわざその「重い腰」を上げることはないらしいのである。

 

『ねぇねぇ、大丈夫レザード君』

 

 アルバニが心配そうにレザードにかけよる。

 レザードは仰向けになって、ゴホゴホと咳き込むと、アルバニを確認してお礼を言った。

 

「ああ、ありがとうアルバニ。助かったよ」

 

『まったく!あの子たちもしかたがないなぁ!』

 

 アルバニが少年たちが逃げていったほうを見てプリプリしたような口調で言った。

 

「ごめんよ。僕、弱いから」

 

 レザードが力なく立ち上がっていった。

 

『ところで、これからクロエちゃんの家に行こうと思うんだけど、レザード君も一緒にこない?』

 

「クロエと、ネッドさんなら。たぶんいないと思うよ」

 

『えぇ~っ!?そっかー。じゃぁ無駄足だったね』

 

 残念そうにするアルバニにレザードが力なく言う。

 

「うん。クロエたちは、きっとゲッペンの屋敷に乗り込んでるんだと思う。ケイティおばさんの消息を確かめようとしてる」

 

 レザードの言葉に、アルバニは両手を上げていった。

 

『えぇ!?だいじょうぶなの!?危ないんじゃない!?』

 

「うん、きっと危ない。クロエたちなら大丈夫かもしれないけどね。警察に言おうにも、警察はマフィアの味方だし…」

 

 そういってレザードはうつむいてしまった。

―僕はガレージで二人の帰りを待つよ。そういったレザードにアルバニが言った。

 

『うーん。心配だなぁ』

 

 アルバニは表通りのほうにちょっとガシャンガシャンと方向転換して、白い単眼をレザードにやって言った。

 

『ちょっと僕は様子を見に行ってみるよ。もしよかったら、レザード君も行く?後ろのポッドが空いてるんだけど』

 

 アルバニがレザードを見てそういった。

 レザードは土のついた服のまま、少しよろめきながらちょっと考えて。

 

「うん、行くよ」

 

 と言って。アルバニに説明されながらアルバニの後部のポッドに乗り込むと、アルバニはホイール走行で加速して裏通りを飛び出した。

 

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