IS -other world order-   作:3×41

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第16話 研究都市郊外にて

 2000時 大空洞内

 

 

 セシリアたちは武装した集団に鹵獲された後、その洞窟の奥の装甲車でもってしばらく運ばれ、その後洞窟内の一室に入れられていた。

 部屋には明かりはなく、セシリアたちが持っていたライトでなんとか部屋を照らすことができた。

 その部屋は、四面ともコンクリートで固められており、入ってきた扉は鉄製である。今の状態で脱出するのは難しいように思われる。

 

「みなさん、お怪我はありませんか?」

 

 セシリアが先発調査チームの皆に尋ねた。するとちらほらと返事が返ってくる。

 

「うん。私は怪我はないよ…」

 

「私もです。ですが、ISはやはり機動しませんね。こうなると重い拘束具のようです」

 

 とユーロガイツⅡの搭乗者の少女が右手を重そうに持ち上げていった。

 

 一同に怪我がないことが確認され、セシリアは一息つける心地だった。そしてそれはアルバニ4号の貢献でもあった。もしアルバニがいなければ、少なくとも2、3人の被害がでたであろうことはほぼ疑いのないことだった。

 あのアルバニ4号を大破させた、「アレ」はいったいなんだ?セシリアは考えながら数日前のことを思い出していた、ラウラが言っていた、路地のとおりで襲われかけたという壁の赤熱は、「アレ」だったのではないだろうか?

 そしてアルバニ4号が破壊されたあとに現れた集団、そちらは間違いなく人間の集団だった。

 となると、やはりあの怪物たちは、コントロールされていると考えることができる。しかし、「コレ」は一体なんのために?

 

 他方で、別の洞窟を調査していたアウシェンビッツ姉妹とアルバニ2号のことが気にかかった。彼女らのほうは、この部屋にはつれてこられていない。

 もしかすると、鹵獲されずにまだ洞窟内にいるという可能性は考えられなくはない。

 彼女らの動きに期待することはできる。救出されなくても、少なくとも外部に情報を送ることができれば…

 

 

 

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 同時刻 アレクサンダー内

 

 

 シチリアのエーゲ海上空に浮かぶ巨大な飛行艦、アレクサンダーの司令室では、千冬が思考をめぐらせながら、目線を指令室内の中央ディスプレイにやっていた。ディスプレイは、いまだ砂嵐のようにノイズで通信ができなかった。

 司令室の椅子に座り、黙って考えをめぐらす千冬に山田がたずねる。

 

「織斑先生、ISが機動しないというのは…」

 

「ふむ…」

 

 その点については、大空洞外部で待機していた後発隊の通信からも、ISが機動しないという報告は受けている。

 ウィルスという可能性もあった。しかしそれならばアレクサンダー付近のISが機動している点に説明がつかない。

 であれば、やはりその現象は大空洞の付近でのみ起こっていることと考えるべきだろう。

 

 一方、大空洞内部で連絡を絶ったセシリアたちの安否が気にかかった。

 もし襲撃を受けたとしても、自律思考戦車がいれば撃退できるだろう。しかし、途切れる通信からはモンスターだ、と。

 

 やはり大空洞内には何かあるようだった。

 そして先発隊であるセシリアやアウシェンビッツ姉妹を救出することが急務である。

 ISは使えず、歩兵だけで捜索隊を組まなければならない。それでも、大空洞内のセシリアたちを救出することは容易ではないかもしれない。

 

 司令室には重く、剣呑な雰囲気に包まれていた。

 そしてその一方、研究都市の郊外でもうひとつのことが発生していることは彼女らに知る手段はなかった。

 

 

 

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 同時刻 ヴァルツ家

 

 

 ヴァルツ家では、相変わらずクロエがソファーの上でネッドの帰りを待ち続けていた。

 日はとうに落ち、あたりに人の気配はない。クロエ以外にはただ一人、向かいのソファーで寝息をたてるレザードだけである。

 

 レザードはさきほどまでまたうなされていたが、今はまた穏やかな寝息を立てていた。もうそろそろ目を覚ましそうだった。

 

「まったく…」 

 

 クロエはレザードの寝顔を見て、少しあきれたようにため息をついた。

 もしケイトリンがレザードの両親のようであれば、クロエはわざわざこのような事件に身を投じてはいなかっただろう。

 クロエの両親はともにエリュシオンを卒業し、ケイトリンは研究者、ネッドはエンジニアとして活動をしていた。

 エリュシオンを卒業し、名実ともに素晴らしい実力を発揮していたケイトリンとネッドは、企業体や地域に対して多大な貢献をもたらし、またいくつもの命を救いもしていた。

 二人の娘であるクロエは、その話を世間話からもれきき、また実際に自分の目でも見ていた。

 それはクロエにとって、強烈な憧れをもたらし、エリュシオンを登る動機の一つだった。

 家族だからではない。一個人として強くつながりを感じているのだ。

 

 そしてそのケイトリンが一月前に姿を消し、今ネッドも家に戻らなかった。 

 ならば、次は二人を探すのみである。そしてその相手にしかるべき報いを与える。

 クロエの心境には寂寞の思いこそ去来していたが、それが次の意思にもつながってきている。

 

 と、レザードがソファの上で首を振り始めた。やっと起きたようだ。このモヤシ野郎。

 そして、そのほんの数瞬あと、ヴァルツ家の扉が開く音が聞こえた。

 

 ネッドが帰ってきた。その可能性をクロエも考えなかったわけではないが、同時にその可能性はあまり高くないとも感じていた。

 玄関から足音が続き、そしてクロエたちのいるリヴィングの扉のところに人影があらわれると、それは顔にマスクをして右手に銃を持ったネッド以外の誰かだとわかった。

 

 その男が、リヴィングのソファに座るクロエに右手の銃を向けた。クロエの瞳孔が急激に収縮する。

 

「撃つな!撃たないで!!」

 

 そのとき、男とクロエの射線上に、レザードが立ち上がって叫んだ。

 両手を男のほうに向けて、口を開いて叫んだ。

 

「……」 

 

 男はレザードを視野に入れ、数拍おいて、右手の拳銃のトリガーを絞った。

 

 ガウン!!

 

 銃声が響き、大口径のマグナムライフル弾がクロエに疾走した。

 だがその前に、クロエの前に立ったレザードの肩口に着弾、貫通する。

 レザードの肩口から血が吹き出し、レザードが体をくの字に折った。

 

「あああああぁぁぁぁあああああっっ!!!」

 

 銃弾はレザードの肩口でそれて、クロエの後ろの壁を貫通した。

 クロエはレザードにも防弾チョッキを着せていたが、男の大口径のマグナムライフル弾はそれもえぐりとっていた。

 レザードは激痛に血が吹き出る右肩を押さえ、叫びながら体をくの字におり、

 意を決したように男のいるドアの反対のキッチンへのドアへと走って行った。

 

 クロエはその瞬間にも、ソファの中に押し込んでおいた拳銃とカタナを手にとって男に向かって疾走していた。

 

 走りながらチラっと考える。レザードは逃げたようだ。それはあのモヤシ野郎にしてはいい判断だった。

 おそらく、あの男はマフィアとのつながりがあるだろうから、警察がここに駆けつけることはないだろうが、レザードが無駄に死ぬこともない。

 

 クロエが男に向かって走っていると、男がクロエの額に向けてライフル弾を撃ってきた。クロエはそれを超反応で首を横にそらしてかわす。そして男の右腕にクロエの右手に持った拳銃を発射した。

 

 次の銃弾を撃とうとしていた男の右腕にクロエの銃弾が着弾し、男の右腕が真上に跳ね上がった。

 しかしクロエの目に男の出血は見られない。やはり防弾着は着ているようだ。

 

 そのままクロエはよろめく男に向かって疾走し、そのまま男に向かってジャンプすると、左手に持ったカタナをひらめかせグルリと一回転して、そのカタナを男の右手の肘部分にたたきつけた。

 銃を持った男の右腕が切り飛ばされ、男はうめき声を上げながら床に倒れこんだ。

 

「はっ、はぁっ…」

 

 クロエが息を整えて、男が立っていた扉から玄関に続く廊下に出ると、そこにはすでに先頭に1人と、その後ろに2人が銃をかまえてにじりよってきていた。

 

「クソ野郎どもが…」 

 

 うめくクロエに、先頭の男が撃ってきた。クロエはその銃弾を首をひねってかわすと同時に、左手のカタナを先頭の男に投擲した。

 閃きながら空中を飛んだ刀が男の首に突き刺さり男はビクンと震えるともんどりうって倒れた。

 

 先頭の男が倒れると、その後ろの二名の男が撃ってきた。

 クロエは急いで廊下からリヴィングに入ると、廊下をいくつもの弾丸が通り過ぎた。

 

 そしてそれと同時に、リヴィングの向かいの窓が割られ別の二人の男が侵入してきた。

 

 

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 レザードは、撃たれて血が流れる右肩を抑えながら、キッチンから続く扉を抜けて、ガレージの扉をくぐっていた。

 右肩はまるで燃えるように痛む。いつも蹴られている痛みの何倍も痛んだ。

 ガレージには、今も銃撃の音が響いていた。クロエと襲撃者たちが撃ち合っているのだ。

 

 レザードはいつも使っているガレージのいっかくに走って行った。

 ケイティおばさんが与えてくれたガレージである。孤児院で暮らしていたレザードに研究都市からレクリエーションに来たのがケイティだった。そのときケイティの話はレザードにはとても興味深く、またケイティもレザードに興味を持ってくれたのだった。

 

 そのケイトリン=ヴァルツが一月前に姿を消し、そして数日前ネッドがいなくなり、そして今、クロエまでもいなくなろうとしている。

 

 それはレザードにはひどく嫌なことだった。

 レザードはこれまでこのガレージにいるか、もしくは外で少年たちに蹴られているかだった。そんなことはレザードにはどうでもいいことだった。しかし、これは許せない。 

 レザードはガレージの片隅に置かれているものの前に立った。ネッドとケイティに学び、彼女の研究資材ルートも使わせてもらい、ジャンク屋にかよって、これを作っていたのは、あくまで興味本位だった。だが、これを使うとしたら今だ。右肩は燃えるように痛いし、心臓は飛び出してしまいそうなほど脈打っている。

 部屋の外では銃声が響いている。つまりクロエはまだ生きているということだ。レザードは急いでボタンを押してハッチを開けた。

 

 

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 ヴァルツ家のリヴィングでは、4人の武装した男が部屋の中の一人の少女に銃弾を掃射していた。

 その銃弾がクロエのそばの花瓶や家具を切り裂いた、クロエはそれにかまわず中腰に銃弾を打ち返す。

 しかしその銃弾は男たちの防弾チョッキにはばまれ致命傷にできなかった。だからといってカタナで切り込めばその隙に集中砲火を受ける、そうなれば防弾服と強化骨格も持たないだろう。

 

 クロエはジャンプしてソファの後ろに逃げ込んだ。さっきまでクロエがいた空間を銃弾の掃射が通り過ぎる。

 クロエは装甲板を打ちつけたソファの後ろに隠れた。男たちの発射する銃弾の嵐がソファの装甲板にはばまれる。

 

 男たちはソファになにか仕込まれていることを看破し、4人で手振りで合図をすると、ジリとソファーの後ろに歩をつめはじめた。

 

 クロエはソファーの後ろに立てこもり、右手だけソファから出して男たちに威嚇射撃すると、左手で急いでソファの後ろの床を開け、その中から対物マテリアルライフルを取り出した。

 

 男たちがソファに近づこうとすると、そのソファの裏から少女が顔を出し、強化筋肉で持ち上げた、少女と同じくらいの長さがある対物マテリアルライフルを男の一人に発射した。

 

 爆音が轟きマテリアルライフル弾が男の一人の腹部を防弾着ごと貫通した。

 室内の男はあと3人、それ以外にあと何人いるのか。

 

「クロエ!」

 

 そのとき、クロエを呼ぶ叫び声が聞こえる。それは、意外なことに彼女の父親、ネッドのものだった。

 クロエは目を見開いた。クロエの強化された聴覚では、ネッドの声はクロエの向かいの壁の向こうから聞こえる。

 

 そして同時に、クロエがいるソファの反対側の壁が壊れ、そこから1機のアーマードスーツがリビングに侵入してきた。

 

「よけろクロエ!!」

 

 そのASから、ネッドの叫び声が聞こえる、そのASは、右手に対物マテリアルライフルを携帯していた。

 その対物マテリアルライフルがクロエのほうを向き、ASの太い指がトリガーを引いた。

 

「!?」

 

 クロエはそれを強化された視力で見ると、すぐ首をひねった。先ほどまでクロエの首があった場所を、マテリアル弾が轟音をたてて通過していった。その弾はクロエの後ろの壁をやすやすと貫通していった。

 

 クロエは混乱しつつも、そのASに向かって対物ライフルを撃ち返した。

 ASの装甲なら、対物マテリアルライフルでやすやすと貫通されることはない、しかし、そのASは横に飛んでマテリアル弾を交わすと、飛びながら左腕部に内臓された重機関銃を掃射してきた。

 

 クロエは混乱しながら急いでソファにしゃがみこんだ。

 重機関銃がソファの装甲板に突き刺さり、その装甲板を激しくゆがませる。

 

「クロエ!逃げろ!!」

 

 そのASは、叫びながらクロエの隠れたソファに銃弾を掃射し続けた。

 

 クロエはソファの後ろで考えた。あのASから聞こえてくる声は、間違いなくネッドのものである。

 そしてあのASが装備している対物マテリアルライフルは、強化されたクロエの視力から見て、間違えなくネッドのものだった。そしてASの機動でクロエの弾丸をよける動きのクセ、それもネッドのクセそのものだ。

 

「クロエ…」

 

 ASが重機関銃を掃射しながら間をつめてくる。

 

「なんで父さんがASに!?」

 

 クロエはソファの後ろで叫んだ。

 ASからネッドの声で返事が返ってくる。

 

「クロエ、逃げるか、私ごとやれ… やつらは、思考誘導装置を実用化している!体が、言うことを聞かない!」

 

 思考誘導装置!?そんな馬鹿な。クロエは重機関銃の轟音を背にすばやく考えた。

 

 エリュシオンのデータベースでも、人間を意のままに操作する思考誘導装置が実用化したという情報はない。情報はない、が、やつらはどうやらそれを可能にしたらしい。ネッドは今、思考誘導装置で攻撃タスクに従わされ、そして声だけは、おそらく自由に出せるように設定されているのだろう。

 なぜか。それはクロエの戦意をくじくためだと思われる。そして、それは本当に効果てきめんだった。

 

「父さん、私にはできない…」

 

 クロエは、仰向いてソファの後ろで床に座り込んでしまった。

 ASの重機関銃がソファの後ろにうたれた装甲板の端をベキンと引きちぎった。

 

 できるわけがない。クロエの脳裏に再びそうこだました。自分に、ネッドを殺すことなど。

 

 では逃げることはできるか?それも難しい。ASの機動性の前では、人間など戦車の前の蟻のようなものである。

 逃げ切れるとは思えない。

 

 ソファの向こうからASの足音が近づいてくる。

 クロエは荒く息をして、ソファの後ろに背中をぶつけた。

 

『クロエ!!』

 

 またしても別のクロエを呼ぶ声。それはクロエの幻聴ではなかった。

 今度は、声がクロエのいるほうの壁の向こうから聞こえてくる。それはレザードの声だった。

 

 そして次に、クロエの目の前の壁が壊れ、そこから2mほどの1機の小型のASが飛び込んできた。

 

「なっ!?」

 

 クロエはそれを見て目を丸くした。新手のAS。ゲッペンの屋敷では3機のASがいた。

 ネッドが乗せられたAS以外のASがいるのはむしろ当然だった。

 

 そのクロエのそばの壁を壊して現れたASは、しかしクロエには銃口を向けず、背理ぎわに目の前のネッドのASに両腕の重機関銃を掃射した。

 

 ネッドのASに重機関銃が殺到する、しかしその装甲を貫くことはできない。

 

 その2mのASは、すぐにオーバードブーストを起動して、ネッドのASに高速で突進すると、そのまま体当たりをぶちかました。

 ネッドのASが吹き飛ばされ、リビングから外に吹き飛ばされる。

 

 リビングに残されたのはクロエと2mのAS、そして3名の武装した男たちだった。

 その男たちに向かって、2mのASが両手を向けた。

 

『うわああああああぁぁぁ!!』

 

 数拍おいてから、そのASから叫び声、同時にそのASの両腕から重機関銃のライフル弾が掃射され。

 リビング内の3人の武装した男たちをズタズタに引き裂いた。

 

 クロエはソファからそのASを見てそんなバカなと思った。

 そのASから聞こえてきた声は間違いなくレザードのものだった。

 

「レザード!?」

 

 クロエはしかめ面でその2mのASに向かって叫んだ。

 そのASは、ASに見えたが、ところどころずんぐりとしていた。

 ASの装甲板はところどころ溶接されているし、中に乗っているのがレザードなら、納得もいくがかなり小型である。

 

 武装も両腕の重機関銃だけじゃなく、そのほかにもいろいろとゴテゴテと取り付けられている。

 右肩には可変迫撃砲が、左肩には、垂直多段型スティンガーランチャーが取り付けられている。

 ブースターは背部だけではなく側部にもついているし、いったいどのようなアルゴリズムでそのすべてを統制するというのか。

 

 以前のネッドはこのことを知らないようだった。ケイトリンならあるいは知っていたかもしれないが、レザードが一人でこのつぎはぎのASを作ったのだとしたら、まさしく天才だった。

 

『クロエ!!』

 

 そのASのスピーカーからレザードがクロエの名前を呼んだ。

 

『クロエ!今のうちに君は逃げてくれ!!』

 

「はぁ?」 

 

 レザードの言葉に、クロエは眉をひそめた。

 

「あんた馬鹿?そんなこと、とてもできない。相手はASなのよ!?それも相手は私の父さん。特殊な装置で操られてる!」

 

 そして、クロエはあのASに乗っているのがネッドとわかった以上、もう動けると思えなかった。

 さっきネッドに追い詰められたとき、そのままクロエは、自分が殺されていたとしても、半分は納得していたことだったのだ。

 レザードのASは数拍何か考えるように沈黙し、そして言った。

 

『なら僕と一緒に戦ってくれ!クロエ!!ビクビクするのはやめる!クロエ!!僕と生きてくれ!!』

 

 レザードは叫んで、ASの背部のオーバードブーストを機動して壁の穴から外に飛び出した。

 

 

 

 

 レザードが家から外に飛び出して、クロエが後から追いかけると、家の外には、郊外の広い草原にネッドのマテリアルライフルを持つASのほかに5機のASが家を取り囲んでいた。そして家の玄関の前には6名の武装した歩兵が随伴している。

 

『ああああぁぁぁぁっ!!』

 

 家から飛び出したクロエの耳に再びレザードの叫び声が聞こえる。

 レザードはASの両腕の機関銃で固まっていた6名の歩兵をなぎ倒した。

 ASの腕部に内臓された重機関銃は歩兵が装備している防弾着もやすやすと切り裂いた。

 

 そして家の周りには5機の敵ASがとりかこんでいた。対してレザードのつぎはぎのASは1機である。

 しかし敵のAS群は突然現れた正体不明のASに一瞬把握しそこなった。

 

 レザードのASの右肩の迫撃砲が変形し、右肩から突き出る。

 そしてそのまま前方40Mの位置にいる敵ASに右肩の迫撃砲で砲撃した。

 

 超高速の大口径榴弾が回転しながら疾走し、その1機の敵ASに着弾。轟音とともに爆発し成型炸薬弾がASの装甲を突き破り、そのパイロットごとASを大破させた。

 

 その爆音に反応したように、付近の2機の敵のASが反応、レザードに重機関銃を搭載した両手を掲げる。

 レザードのASは、前面装甲は厚かったが、側部と後部はやや薄く、多方面からの攻撃に弱かった。

 

 レザードは2機のASから重機関銃のライフルが疾走すると同時に、レザードのASの背部のハードポイントから複合装甲で作った盾を左手で掲げ。

 そのままサイドブースターを起動して複合装甲の盾で片方のASの重機関銃を受けながらすばやく横方向に疾走した。

 

 

 

 

 レザードのツギハギのASはサイドバーニアで横方向に加速、疾走すると、そのまま体の向きをかえ、さっきの2機のASにの射線に複合装甲の盾が構えられるように走った。

 

 その近くの2機のASは、物量で圧倒しようと、レザードのASに向かって重機関銃を掃射しながら走った。

 夜の闇に重機関銃の銃弾が赤い射線を描いてレザードの高速疾走するASのそばを通り過ぎる。

 

 レザードはそのときにはすでに横向きに疾走しながら、数瞬前に左肩の垂直多段型スティンガーランチャーを発射した。

 上空に打ちあがった2つのスティンガーが、レザードに向かって走る1機のASの真上からそのASに突き刺さった。

 

 次に爆音。スティンガーの指向性の爆風がそのASを大破させる。

 

 同時に、ネッドとは別の携行戦車砲を携えていた敵のASが、レザードのASにその戦車砲で砲撃していた。

 

 レザードはAS内のレーダーでそれを確認すると、そちらに複合装甲の盾を向けた。

  

 ASの戦車砲が複合装甲の盾に突き刺さり、爆発する。しかしレザードはそのときすでに盾を手放してサイドバーニアで横に高速移動していた。同時にその戦車砲をもったASに左肩のスティンガーミサイルを発射した。

 

 その敵ASは盾の影になって横に疾走するレザードのASと、同時に上に撃ちあがるスティンガー弾等を確認し、そのASの背部のオーバードブーストを起動すると、レザードのASに向かって加速した。

 

 加速するASの背後でスティンガーミサイルが地面に突き刺さり爆発する。

 そのときレザードのASは同時に加速する敵ASに向かって。背部のハードポイントからヒートブレードを抜いて、同時に背部のオーバードブーストで加速していた。

 

 不意を突かれた敵ASの右腕部をレザードのASのヒートブレードが叩きつけられ、中ほどまでヒートブレードが突き刺さる。

 その熱気がASのコックピット内を焦がし、そのASのパイロットは悲鳴を上げた。

 

 レザードのASがすれ違いざまに反転し、そのASに向かって右肩の迫撃砲を叩き込んだ。

 次に轟音。赤い炎を吹き上がらせて、そのASは大破した。

 

 その迫撃砲を発射する一瞬の隙を、2機目の敵ASが横から狙っていた。

 レザードのツギハギのASに向かって両手を掲げるそのASに、横からマテリアルライフル弾が突き刺さる。

 見ると、それを打ったのはクロエだった。

 家から持ち出したマテリアルライフルを構えてクロエが草原に立っていた。

 

 クロエの立つ場所からレザードのASが見える。

 レザードのASはこちらを確認して、そして次にオーバードブーストで突っ込んできたネッドのASに体当たりを食らって吹き飛ばされた。

 

 レザードのASが重量において上回る通常規格のASの衝撃力で空中に弧を描いて上昇する。

 

「レザアアァァァァァド!!」

 

 その光景を見て、クロエは自然にそう叫んでいるのに気がついた。

 

 レザードのASが空中でゆっくりと弧を描く。

 その空中に滞空するASを、ネッドのASのマテリアルライフル弾が直撃した。

 

 レザードのASの前面装甲で榴弾が爆発し、レザードのASが爆風で吹き飛ばされる。

 吹き飛んだASがそのまま草原に落下し、突き刺さると、そのまま動きをとめてしまった。

 おそらくレザードは死んではいないかもしれないが、うごけそうにはなかった。

 

 クロエはそれを見て、後ろ向きに地面にしりもちをついた。

 

 暗い草原は3機の大破したASの炎に照らされ、前方からは3機のASが腕を掲げながらゆっくり近づいてくる。

 

 と、一番クロエに近かったASから音声が聞こえてきた。

 

「クソッ、手間取ったが。チェックメイトだ。動くなよ、動いたら殺す」

 

 その言葉には、殺意がありありと浮かんでいた。

 

「クロエ…クロエ…」

 

 一番後ろのネッドのASからはつぶやくような音声が聞こえてきた。

 クロエに近いASが続けた。

 

「生け捕りにできるなら生け捕りにしろと、そういわれている。お前は重要参考人だ、一緒に来てもらう」

 

 自分は連れ去られるのか、クロエはぼんやりと考えた。もしレザードが動ければ死に物狂いで自分を追ってくるかもしれないが、あの様子ではそこまで動けはしないだろう。

 クロエは自分の心臓が強く収縮するのを感じた。その勢いでゴホゴホとセキが出てくる。

 

「さぁ来い。クソガキ。抵抗すれば殺す」

 

 どうせ殺すのだろう。

 この状況では、クロエの強化骨格も、強化筋肉も、知覚神経も無力だった。

 クロエの目の前でASの巨大な手が開かれクロエのほうに伸ばされる。

 クロエは唇を突き出し立ち上がってうめいた。

 

「んうううぅぅぅぅっ!!」

 

 そのまま伸ばされたASの右手に左手で殴りかかる。

 巨大な金属質のASの手にクロエの左手が直撃した。

 

 ペチン

 

 力のない音が響くのみだった。

 しかし、そのAS搭乗者の男はそれを「抵抗」だとみなした。

 瞬時にASのもうひとつの重機関銃が内臓された右手がはねあがる。

 しかしクロエは動きをやめなかった。

 遠くでレザードが自分の名前を叫ぶ声が聞こえる。

 

「うあああああああぁぁぁぁっ!!」

 

 そのまま体を逆回転させて、振りかぶった右手をASに突き出した。

 次に、轟音。

 

 クロエが右手をASの胴部に突き刺すと同時に、そのASが巨大な衝突でも食らったかのようにひしゃげ、腹部装甲がつきぬけ、貫通しそのままはるか後方に吹き飛ばされた。

 はるか遠方に吹き飛ばされたそのASは、腹部装甲がくりぬかれたように吹き飛ばされ中のパイロットごと絶命していた。

 

「なっ!?」

 

 その後ろの敵ASが驚き、しかし俊敏にクロエに向かって両腕を掲げASの重機関銃を掃射した。

 草原の上で立つクロエにあまたの大口径ライフル弾が疾走する。

 

 クロエはそちらのほうに右手を掲げた。

 するとその大口径ライフル弾がすべてクロエの前方で停止し、バラバラと地面に落ちて行った。

 

 クロエは、その動作を行いながら、困惑に押し流されそうになりながら声を聞いた。

 

『どうやら起動したのねクロエ』

 

 それは、クロエの母、ケイトリン・ヴァルツの声だった。

 その声はクロエの頭の中で響くように続いている。

 

『音声容量がとれなかったから、簡潔に、この声を聞いているってことは、あなたは自分の体に改造手術をほどこしたのね。だろうと思ったわ』

 

 最後のケイトリンの声は少しいたずらそうな様子が混ざっていた。

 

『もし発動しなければ、あなたがエリュシオンに帰って、そのあとエリュシオンがあなたの体内のコアに気づいたでしょう。願わくばそれがよかったのだけれど。どうやらあなたは窮地にあって、しかもコアの発動を成功させたようね』

 

 その声がしている間も遠方のASはクロエに嵐のように大口径ライフルを掃射してきた。

 クロエはそちらに右手をかざし、クロエの眼前でその銃弾をすべて停止させた。

 体内のコア?発動?

 

『もう察しがついてるかもしれないけど、あなたの体内には、ISコアが内蔵されてるわ、そしてそれが生身で発動したということは、あなたは世界で始めて生体ISの完全起動に成功した人間ということになるわ。これは誇っていいことよ。それじゃぁねクロエ。愛してるわよ』

 

 短く言って。音声は途絶えてしまった。

 クロエの目の前では、ASから射出された重機関銃のライフル弾がすべてクロエの掲げた右手の前で停止し、バラバラと地面に落下していく。それはまるで、ISの空間シールドのようだった。 

 

 ISコア!?私の体に? まったく。台無しだわ。

 クロエは頭の中で一人ごちた。

 しかし、少し命をひろうことはできた。

 

 クロエは目の前で重機関銃を掃射するASを見て、右手を振りかぶった。

 そのまま、全力で目の前の空間を殴りつける。

 

 瞬間、クロエの右手から疾走した力場が遠方のASに疾走、衝突し、正面からASをペチャンコにひしゃげさせ、吹き飛ばした。

 

「はぁっはぁっはぁっ…」

 

 クロエはその動作だけで、とんでもなく消耗していた。

 心臓は爆発しそうで、脳は焼き切れそうだった。

 クロエの右の鼻の穴から赤い鼻血の線がつーっと伝った。

 

 瞬間、知覚した、正面から銃弾の嵐。

 

 クロエはそちらに両手をかざして、大口径ライフル弾の嵐を防いだ。

 その向こうには、こちらに歩いてくるネッドのASがあった。

 クロエはそちらを見て顔をしかめた。

 

「クロエ、やりなさい。その力で、私を!」

 

 ネッドがASの重機関銃をクロエに掃射しながら言った。

 ネッドにかけられた思考誘導装置は、ネッドにはどうすることもできなかった。

 そしてそれはクロエにも同じだった。

 ネッドはクロエを殺すまで、動きを止めない。

 そしてクロエの力も、すでに限界が近かった。

 銃弾のとまる位置が、だんだんとクロエに近づいてきている。

 

「できない、父さん…」

 

 クロエは両手をかざしながら首を振った。

 

「やるんだクロエ!私にお前を殺させるな!!」

 

 ネッドがクロエを殺せば、そのあとネッドも殺される。

 ならば、理屈の上ではネッドの言葉は正しい。

 

「できない!」

 

 クロエが叫んだ。ネッドのASはすでに25m前方まで迫っている。

 

「クロエ!このままでは全員死ぬだけだ!!」

 

「う、うううぅぅぅぅっ!!」

 

 はーっ、はーっ。クロエは荒く息をすると、右腕を振りかぶり、目の前を殴りつけた。

 

 瞬間前方のネッドのASに力場が疾走し、ネッドのASの腹部が軽くひしゃげる。

 しかし、それでもタフに作られたASの機動は停止しない。

 

「その調子だクロエ」

 

「ぬううぅぅぅぅっ!!」

 

 うめき声を上げると、クロエは左手を振りかぶって、次の力場を疾走させた。

 その力場はネッドのASの左部分をひしゃげさせたが、ASはとまらない。

 

「いいぞクロエ、さすが私の娘だ」

 

 クロエは次に右手を振りかぶり、目の前に振りぬいた。

 

 クロエの右手から放たれた力場が、空中を疾走してネッドのASの胴部に着弾し、装甲を貫き。

 ASの背部から力場が抜け、後ろに装甲が飛び出した。

 ASは動力を停止し、仰向けに倒れた。

 

「あ、あああああぁぁぁああああ!!」 

 

 あたりにはクロエの叫び声以外何もなかった。

 クロエは前のめりに草原に突っ伏して叫び声を上げ続けた。

 

 

 遠くからレザードの叫び声が聞こえる。

 

「クロエ!ネッドさんの生体反応は消えてないよ!!」

 

 同時に前方のASのハッチが開く音が聞こえる、クロエはその音を聞いて顔を上げた。

 前方の倒れたASの前部のハッチが開き、そこから人影が立ち上がる。

 

 それはネッドだった。ASの前方から後ろへと貫いたクロエの発した力場は、しかし、ネッドの体を通り過ぎていた。それはまるでその力場自体が意思を持つかのようにである。

 

 ネッドの頭には、なにやらカチューシャのようなものが取り付けられている。おそらくそれが、思考誘導装置だったのだろう、それはいまや衝撃でヒビ割れている。

 

「クロエ、2-4-3298番地に向かいなさい。そこがこれを仕掛けたやつらの拠点だ」

 

 クロエは顔を上げて、おそるおそるたずねた。

 

「父さん?」

 

「クロエ」

 

 ネッドはぶるぶると震える右手をクロエに向けた。その手には大口径のマグナム銃が握られている。

 

 遠くでレザードが叫ぶ。

 

「クロエェェ!!装置がまだ生きてる!!」

 

 クロエは地面にへたりこんだまま、その銃をただ見つめていた。

 ネッドの銃を持った右手は、ブルブルと震え、右手を上げると、その銃をネッド自身の頭に向けた。

 

「クロエ…」

 

 ネッドの声と同時に銃声が響いた。

 大口径マグナム弾がネッドの頭部を貫通し、ネッドはそのまま意識を失って仰向けに倒れた。

 

 ネッドの行動を支配していた思考誘導装置はまだ生きていた。

 しかしそのノイズの一端をとらえてネッドは強引に自分の意思で体を動かしたのだった。

 

 クロエは倒れるネッドを見て、ネッドが地面に倒れると、今度こそ叫び声を上げた。

 

「あああああっ!!ああああぁぁぁあああああっ!!」

 

 その叫び声は、静かな夜の空に吸い込まれて行った。

 しばらく、それが続いた。

 

 レザードは、遠巻きでクロエを見て、しかしそれをどうすることもできなかった。

 かなりたって、レザードがおそるおそるクロエのそばに近寄った。

 

「クロエ…」

 

 一体何を言えばいいのだろう。何も言うことはできない。

 レザードにはそう結論づけることしかできなかった。

 

「まだだ。レザード」

 

 地面に倒れ付していたクロエが、しばらくしてそういった。

 

「私の、私の力が足りなかった。だから父さんは死んだ」

 

――でも。

 クロエが続けて、芝生に顔をうめたままいった。

 

「まだこれをやったやつらがいる。私はそいつらをこのままではおかない」

 

 クロエが顔を上げた。レザードが見るクロエのその目は、意思の光にギラついて見えた。

 

 

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