IS -other world order-   作:3×41

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第2話 臨時航行

 初夏の朝

 

 IS学園、女性にしか反応しない兵器、IS、インフィニットストラトスを運営するために設立された学園の、その広大な学生寮のすぐ隣には、広いプールが波打っていた。

 初夏の日差しを白く発射する水面を一人の少女が波を分けるように泳いでいた。

 

 ゆったりとしたクロールのフォームでゆっくり泳いでいく。

 三つ編に束ねられた金髪がクロールのフォームにあわせて水の中で左右にたゆとっている。

 それは休日である土曜の朝の軽い準備運動だった。 

 

 少女の名前はセシリア・オルコット。

 ISの運用技術、データ収集のためにはるか遠方、イギリスから日本のIS学園に留学している。

 一般的に運用されている、標準機とよばれる量産型のISと異なり、個人のために製造された専用ISに登場を許された数少ない優秀なIS乗りである。

 

 彼女は軽く30分ほど泳ぐと、プールの端から上がった。

 それからIS学園寮のシャワールームに向かって、熱いシャワーを浴びると、

 着替えて食堂で食事を取る、前に談話室に向かった。

 

 セシリアが談話室の入り口をまたぐと、オフィスビルの一室のような広い部屋の中に、

観賞用の植物や大きい水槽、それにソファーや重めの読み物などの備品が並ぶ空間が広がる。

 

 彼女は部屋を見回して、新聞のある棚に向かい、今日の新聞をとってから窓際のソファーに腰掛けた。ソファーの隣の大きな窓からはIS学園寮の外の広い庭が一望でき、窓からは初夏の太陽光がやわらかく差し込んでいた。

 

 少女はその太陽光に背中のなかほどまである金髪を柔らかく反射させながら、手元に広げた新聞に目を落としていた。そしてしばらく読んで、内容を確かめるようにつぶやいた。

 

「まだ中東の情勢があまりよろしくありませんのね」 

 

 新聞の内容は多岐に渡った。

 昨今の流行から政治状況や企業の動向、セシリアが興味があったのはヨーロッパの経済状況やヨーロッパやアメリカのISを含む兵器動向、世界情勢のほうだった。

 中東では国家間の小規模な武力衝突が繰り返され、激化傾向をたどっているようだった。

 ヨーロッパでは複雑に絡み合った経済の相互依存が、たった一箇所のひずみ、クラッシュによってシステミックにひずみが伝播しはじめているらしく、他方アメリカでは世界最大規模の軍事予算を背景にした兵器開発が進んでもいるようだった。

 とはいえ、新聞の書く内容は誇張や記者の個人的な政治思想が内容をゆがめていることも少なくないので話半分程度にしか受け取ってはいなかったのだが。

 

 セシリアが新聞の記事を読み進めていると、彼女の右側からセシリアを呼ぶ声が聞こえた。

 

「おはようセシリアさん。今日は早いのね」

 

 セシリアははっと顔を上げて、声のするほうを振り向くと、談話室の入り口から同級生の少女が入ってくるところだった。

 セシリアはすこし微笑んで彼女と軽く挨拶をかわした。

 

「おはようございます。せっかくの休日ですから、いつまでも寝ていてはもったいありませんもの、日本のことわざにもありますでしょ?早起きは三文の得、ですわよ」

 

「そういうものかなぁ。私は三文しか得しないなら、もう少し寝ておくほうを選んじゃいそうだよ」

 

「フフフッ、そうかもしれませんわね。でも気持ちがいいですもの、それだけでもわたくしには十分ですわよ」

 

 セシリアは同級生の少女から紅茶を入れようかと言われて、それに応じると、少女は談話室の一角にある棚で紅茶を準備して、熱いお湯をポットに注ぐと、そのティーセットを持ってセシリアが座っているソファーの向かいのソファーに腰掛けた。

 

「どうぞセシリアさん。アールグレイでよかったわよね」

 

 セシリアの紅茶の好みはもはや同級生のよく知るところになっていた。

 少女がテーブルの上においたカップに紅茶を注ぐと、朝の日差しがやわらかくさすテーブルに柔らかい紅茶の湯気がくゆった。

 

 セシリアはお礼を言ってから、紅茶を口に含むと、アールグレイの香りとほのかにあまい茶葉の味が口腔内に広がる。

 セシリアが紅茶を飲んでほーと一息つくと、同級生はセシリアの手元の新聞を見て言った。

 

「今朝の新聞を読んでたのね。どう?何か面白い記事とかはあった?」

 

「そうですわね」

 

 セシリアは聞かれて、記事の内容をはんぱくした。

 

「世界情勢が少しよくありませんわ。中東の武力衝突が激しくなっているようですし、中東の宗教原理団体のエルサレフやカザーフの動きも激しくなっているそうですわ」

 

「ふーん、大変なんだねぇ」

 

 日本に住む1少女としては、地球の反対側で起こっているような争いごとに対して抱く感想はこの程度なのが普通だった。そこに家族がいるわけでも、友達や関係者がいるわけでもない。近所で猫が惨殺されたという事件のほうが、より強く彼女の胸をうつだろう。

 

「そういえば、中東にはイギリスの軍隊も介入したことがあるんでしょう?」

 

と、同級生。

紅茶を飲んで、セシリアがうなずく。

 

「ええ、我がイギリスも先進国のひとつとして、女王陛下の名において世界秩序の形成に責任がありますもの。イギリス軍の介入と、保険をかねてIS師団も随行いたしましたわ。もっとも、ISが使用されることはありませんでしたが。イギリス軍のはたしたプレゼンスは非常に高いと評価されておりましたわ」

 

 IS技術が発達しても、それは兵器の枠を出ることはなかった。戦火の火種はいまだ世界各地でくすぶり、燃え上がっている。

 特に食糧難、資源高騰、思想対立、特に後進国がひしめく中東は戦火のるつぼだった。

 燃え上がった戦火の火が、うずまき、ひとつになり、また勢いを増して、るつぼの中ですべてを飲み込もうとするかのようにぐるぐるまわり続けている。

 

「その我がイギリスの師団においても、問題の根本的な解決にはいたっておりませんでしたわ。これは単に戦力の問題ではありませんもの。おぼれる二人の人間の間に、一人がつかまれる丸太しかない。そういう状況なのかもしれませんわね」

 

 セシリアは新聞記事をさらに追っていった。

 

「あとはアメリカの兵器動向ですわね。アメリカの標準ISナインボールが第三世代機として近々試験運転に入るそうですわよ」

 

「第三世代!?」

 

 セシリアの向かいのソファーで紅茶を飲んでいた同級生はそれを聞いて目を丸くした。

 

「それはずいぶんと進んでるわね。日本なんて、標準ISのチハ38式がやっと第二世代の標準運用に入ったばっかりなのに。もうアメリカは第三世代機なんて、チハも早く第三世代にならないかなぁ」

 

 少女はそういって少し部屋の中空にその未来像を描くように視線を泳がせた。

 

 彼女が言ったチハ38式とはIS学園でも運用されている標準ISで、高性能の指向性流弾ライフルや、多段ミサイル、複合装甲ブレードなどの装備を持っている。

 そのほかにエネルギーシールド、感性制御装置、多機能ブースターを備えるISはそれだけで強力な兵器だったが、IS同士ではまた差があり、標準ISの運用においてはアメリカが頭ひとつ先を進んでいるのが現状だった。

 

「その点は、さすが軍事的先進国のアメリカですわね。しかし専用IS運用に関しては日本がぬきんでていると思いますし、イギリスの標準ISも第三世代をにらんでいますわ」とセシリア。

 

 ソファの向かいの少女はため息まじりにつぶやいた。

 

「そもそも予算に差がありすぎるわよ。日本の開発予算なんて、カリフォルニア州よりちょっと多いくらいよ?アメリカのIS開発予算は日本とイギリスを合わせてもぜんぜん届かないんじゃないかしら。われながら日本もよくこれで開発が進むと思うわ」

 

 セシリアは同級生の愚痴をなぐさめるように笑っていった。

 

「フフ、日本の技術力と独創性には驚かされますわ。日本の技術者には頭が下がりますわよ。それにそれでこそわたくしも日本に留学してきているかいもあろうというものですわ」

 

 セシリアがそう言うと、同級生の少女はまるで自分がほめられたかのように、少しはにかんで笑った。

 

 

 

 

 その後もしばらく談笑したあと。セシリアは新聞をたたみ、席を立った。

 すると同級生が彼女に声をかけた

 

「セシリアさん」

 

 セシリアは呼ばれて彼女に振り返った。

 

「今日はどうすごす予定?もしよかったらだけど、私のISの模擬訓練につきあってもらえないかしら。あ、もちろんセシリアさんのブルーティアーズは1/3の出力でだけど」

 

 セシリアは少し考えると、笑顔にほころばせていった。

 

「ええ、では午後からでよろしくて?午前は研究都市を散策しようと思ってますの」

 

 それからセシリアは談話室を出て食堂に向かい、食堂で軽く食事をとってから、着替えるために自室に向かった。

 

 

 セシリアが自室への広い廊下を歩いていると、廊下での壁際に、IS学園の教師、織斑千冬が立っているのを見つけて驚いた。

 

「あら織斑先生、おはようございます。今日もお早いんですのね」

 

 千冬はセシリアに呼ばれて振り返った、その表情はいつものように抜け目のない顔つきをしている。

 

「オルコット、お前を探していたんだ」

 

「わたくしを?どうなさいましたの?」

 

 セシリアは驚いてたずねた。それに『昨日の今日』だから少し身構えてしまっていた。

 千冬が続ける。

 

「ああ、急な話だ。本日からオルコットを含め選抜クラスを作成した。お前たちには今からヨーロッパのシチリアに向かってもらう」

 

「えぇ!?ヨーロッパの、シチリアですの?」

 

 あまりに急な話だった。セシリアは驚いて目を丸くしてしまっていた。

 千冬が抜け目のない表情のままで言った。

 

「そうだ。形式としてはあくまで授業の一環ということになっている。編成クラスの学生は全員0900時までに飛行学園艦アレクサンダーに登場しておくように」

 

 それを聞いたセシリアは、今度こそ底なしに驚いた。

 

「アレクサンダーまで出しますの!?それは、また、ずいぶんと思い切った決定ですわね」

 

 セシリアの言も無理のないことだった。

 今朝にヨーロッパに行くことが決定して数時間後の0900時に出発するということである。

 いったい委員会でどのような決定がなされたのだろうか。

 しかも飛行艦まで出すということだからどうにもただごとではなかった。

 

 彼女らが搭乗する予定の飛行学園艦アレクサンダーとは、日本が所有する3つの飛行艦のひとつで、その全長は800M、IS技術の転用により浮遊動力を獲得しており、特定の空間に安定的に浮遊、航行することが可能になっている。

 この学園艦には艦の前方の200Mに及ぶ巨大なIS射出用のカタパルト甲板をはじめ、授業用の教室や、生徒の寝室、食堂、兵器ドッグ、屋上の空中庭園、学園艦後部のIS訓練ドームと、軍事設備のみならず、学園生活に必要な施設が広範に備えられていた。

 

「気持ちはわからんでもないが、なにぶん急な決定だ。学園艦への搭乗はスケジュールどおりに行うように」

 

 千冬がすこし疲れ気味にこぼすと、手渡した編成クラスの名簿を見ながらセシリアが青ざめた表情をしていることに気がついた。

 

「編成クラス!?シチリアに向かうのは編成クラスだけですの!?」

 

 IS学園に所属する専用IS乗りで、この編成クラスに選ばれているのは二名だけだった。

 セシリア=オルコットとラウラ=ボーデヴィッヒのみである。

 つまりそのほかのメンバーは日本に残るということだった。

 

 千冬はそれを聞いて、小さくため息をつくとあわてふためくセシリアに言った。

 

「落ち着けオルコット、IS学園は日本の防衛拠点としても重要な意味合いを持っていることは知っているだろう。ある程度の防衛能力を確保しておくというのが委員会の決定だ。ほかのやつらには抜け駆けせんように言っておくから、速やかに搭乗準備をすませろ」

 

 本当によく言い含めておいてくれとさらに念を押してくるセシリアを説得して、セシリアが自室に戻るのを見送ると、千冬はポケットから携帯電話を取り出した。

 

「…これでいいんだな?」

 

 千冬が携帯電話にそうささやくと、携帯電話の向こうから陽気な声が返ってきた。

 

『オッケー、オッケー♪迅速な対応に感謝感謝だよー。これも二人の愛のなせる技だねぇ♪』

 

 千冬はためいきをついて答える。

 

「そんなものは存在しない。微塵もだ。そもそも私単独の力でもない。委員会を抑えるのはお前の名前を出せばそう難しいことでもないしな」

 

 千冬が話す携帯電話の向こうの声の主は、世界有数の天才科学者といわれるしののの束である。

ISコアを世界で唯一設計できる人間であり。今は独自の科学力で世界中が血眼になって探しても見つからずにどこかに隠れているらしい。

 

 千冬が通話をきろうとすると電話から声が続いた。

 

『何もなく郊外授業がすむことを祈っているよ。あ、あと中東地域を横切るときは注意しておいてね。最近ぶっそうだからさぁ。くれぐれも、ね』

 

 

 

 

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 IS研究都市。昨日の喧騒などまるでなかったかのように、高層ビルがひしめくその間を自動車がぬうように走っていき、歩道を人々がせわしなく往来している。

 

 その人々や、車や、ビル群を、ふいに巨大な黒い影が覆った。

 

 道を歩く人たちが、自分たちを覆う黒い影に気づいて空を見上げると、

そこには全長800Mの巨大な飛行艦の艦隊が研究都市の上空を横切っていくのが見えた。

 

 艦体前部の200メートルのカタパルト甲板からはじまり艦体中部の空中庭園の緑の木々が通り過ぎ、艦体後部の吹き抜けで中央部が中空の訓練用ドームと続く。

 

 飛行学園艦アレキサンダーの姿である。普段はセキュリティ上の理由で海中をランダムに航行しているアレクサンダーが、今は地上に浮上しIS学園の生徒を搭乗させ、上空を浮遊しつつ航行している。

 

 セシリアはアレクサンダーに搭乗し、荷物を自室に収容すると、生徒の寝室区画へと続く通路の手前にある巨大な談話室のソファーに座り、編成クラスの生徒たちの話に耳を傾けていた。

 

 ふとセシリアが談話室の窓から外を見ると、飛行艦はすでに海上に出たらしく、波打つ海が横切るのが見えた。波間は白くぎらつくように波打っている。このまま飛行艦は上空にさらに浮上し速度を上げていくだろう。

 

 セシリアの近くの生徒たちがざわめきながらかしましく話している。

 

「それにしてもえらく急だったわよね。今日の朝に通達があって数時間後にすぐ搭乗よ?」

 

「なんでもシチリアのIS学園のほうからの要請もあったみたいよ。それで委員会がすぐ決定したんだってさ。上のことはよくわかんないね」

 

「シチリアっていうとヨーロッパの南部でしょ」

 

 彼女らの話では、シチリアで運営されているIS学園からも今回の要請があった、とのことである。

 一人の少女がソファの前の机に設置されたインターフェースに手を伸ばして操作しはじめた。

 するとすぐに机の上に立体映像のホログラムでヨーロッパと、シチリア付近の地図が投影された。

 

「温暖な気候、青いエーゲ海、私たちだけシチリア旅行なんて運がいいわね。自由時間なんてあるのかしら?海上クルーズなんてしてみたいよね!」

 

 ざわめく少女たちもそこそこに、セシリアはソファに座って紅茶を口に運びながらその立体映像を眺めた。

 長靴のような形のイタリア半島からつながるシチリア半島は、そのままヨーロッパの要衝であり、温暖な気候と美しいエーゲ海に面したリゾート地でもある。

 

 また別の少女が言った。

 

「シチリアIS学園っていうと、標準ISは何を運用してるんだっけ?」

 

「ちょっとまって」

 

 たずねられて、少女がインターフェイスを操作して情報を呼び出す。

 

「シチリアIS学園っていうと、えーと、これだ。第二世代標準ISユーロガイツⅡを標準運用してるみたいね」

 

「そうだ!」

 

 とまた別の少女。

 

「そういえばシチリアIS学園からホストとしてシチリアの生徒さんがここに来てるらしいわよ」

 

「あ、それなら私会っちゃったかも。すっごい美人の黒髪の外国人がいたけどあの人かな」

 

 セシリアはソファーに一緒に座っている女生徒たちの話をなんのなく聞いていたが、ふと周りを見回すと、談話室にラウラ=ボーデヴィッヒの姿がないことに気がついた。

 編成クラスのリストによれば、彼女もこの学園艦に搭乗はしているはずである。

 

「すいません。どなたかラウラさんがどちらにいらっしゃるかご存知ありませんこと?」

 

 セシリアがそう尋ねると、一人の少女がいった。

 

「ラウラさんなら、確か兵器ドックにいたと思うわよ。ほら、アルバニに合えるのが久しぶりだから」

 

「あら、飛んで行ったというわけですのね」

 

 学園艦の兵器ドックか、セシリアはお礼を言うと、ソファをたって談話室の出口を出て学園艦の兵器ドックへと向かった。

 

 

 

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長く広い学園艦の廊下を歩き、セシリアが兵器ドックの扉のハッチを開けると、ブシュっと音がして巨大な扉がひらき、広い兵器ドックが開けた。

 

 中央部と壁面ではISが設置されており、中央では巨大な四角い柱の周りを囲むようにISが設置されている。

 ここからISを装着して、中央柱のエレベーターからその真上のカタパルトに移動させ、そのカタパルトから高速でISや戦闘機を射出することができる。

 

 セシリアが広い兵器ドックに入り、並ぶ兵器を通りすぎてラウラを探していると、セシリアを呼ぶ機械音が聞こえた。

 

『アーッ、セシリアちゃんじゃないかー。ひっさいぶり~』

 

 セシリアが呼ばれて振り返ると、そこには全長2メートルほどの自立歩行戦車アルバニが、ガシャンガシャンと音を立ててセシリアに歩いてくるのがわかった。

 

「ごきげんようアルバニ。お久しぶりですわね。お体にお変わりはなくて?」

 

 セシリアが言うと、アルバニは車体全部の二本のアームを持ち上げていった。

 

『セシリアちゃん、それはいわゆるブリティッシュジョークってやつかい?もちろん変わりなんてないよ。機械の僕たちが体調に変化なんてあるわけがないじゃないか~』

 

「フフフ、そうでしたわね」

 

 セシリアは小さく笑った。

 

 セシリアが話しているアルバニとは、飛行学園艦アレクサンダーの兵器ドックに6体搭載されている自立思考戦車である。全長2メートルの体躯に、二本の機関銃付きの両腕と、四本の足とその足から出るホイールで移動する。また車体の前部には軽戦車砲を搭載しており、電子制御にも優れている。

 そしてその最たる特徴は、戦車それ自体が自立思考するという点である、無人機にできない人間に近い柔軟な思考。それがこの自立思考戦車の強みである。

 

「ラウラさん、こちらにいましたのね」

 

 セシリアがアルバニ3号と一緒に広いドッグ内を探していると、木の箱に座って一体のアルバニと話し込むラウラの姿を見つけた。

 さらりと伸びた銀髪に、赤みがかった褐色の瞳の片方には黒い眼帯をしている。抜け目のない目つきのドイツの代表候補生の少女である。

 彼女は彼女の元教官である千冬をほとんど信仰していて、そのせいもあって当時は多少のごたごたがあったものの、今はそのわだかまりもすっかりととけていた。

 ラウラはセシリアの呼び声に振り向いた。

 

「ああ、セシリア。来たのか」

 

 ラウラはセシリアのほうを向くと、隣で話していたアルバニの青い車体に手を置いていった。

 

「しばらく合わないうちに、こいつらはまたかしこくなったようだぞ。それに同期しているはずなのに個性のようなものまで伸びてきているようだ。まったく興味深い戦車だ。さすがは我がドイツと日本の共同製作した戦車だな」

 

「個性、ですか?」

 

 とセシリア。どこかほこらしげにしているラウラがおいたアルバニに目をやる。

 車体に5とナンバリングされた自立思考戦車アルバニ5号がセシリアにあいさつした。

 

『やぁセシリアさん久しぶりだね。ちょうど今ラウラさんとも話していたんだけどネットで見るところ世界情勢は混乱を極めてきているね。以前は核抑止力により大国間の戦争はもうないものと思われてたけど、今やISによって核ミサイルの攻撃力がほとんど無力化されてしまったのは、白騎士事件についても示唆しているところのものだと思う』

 

 アルバニ5号は車体の全部の両手を振って続けた。

 

『そこで思い出したいのがポランニーのエントロピーテーゼだよ。各国の抑止力が薄まり、戦争の可能性が強まるってことさ。まぁISが抑止力の代替をある程度はたしているし、正体不明の脅威や各国のある程度の経済依存が抑止力にもなっているとは思うけどね。逆に経済の相互依存が各国の摩擦を強めるという指摘もおもしろい思考材料だよ。それにしたってISの機体は絶対数が少ないし、僕たち戦車の重要性もまだまだ捨てたもんじゃないよね』

 

 アルバニ5号が右腕をあげてくるくるとまわした。

 

『しかし昨今のグローバリゼーションによってひとつのリスクがシステミックにほかの国までクラッシュさせるという弊害は指摘されるとおりさ。

その反省と、世界が以前の資本移動の規制時代の繁栄をかんがみて、ある程度の国家的な枠組みが見直されるというのはおもしろい検討材料だと思うんだよね』

 

 セシリアは戦闘とまったく関係ない話を興味深そうに話す自律思考戦車に目を丸くした。

 

「驚きましたわ。自律思考するといっても、こんなに人間らしくしゃべるようになっていましたのね」

 

 セシリアの隣にガシャンガシャンと音をたててアルバニ2号が歩いてきていった。

 

『もちろんさ!自律思考型たるわれわれはISみたいに戦闘力こそ上昇しないものの、思考能力は常に進歩するのさ』

 

 アルバニ2号は一人で自由思想について話はじめたアルバニ5号をおいて、ラウラのほうを向いていった。

 

『そのー、僕たちもう人間の仲間入りってできたのかな?』

 

 両手を目の前で合わせて、下を向きながら車体前部の球状の単眼を上目遣いにして質問される。

 ラウラはうつむき、少し考えていった。

 

「ふむ、どうだろうな。人によってはやはり機械は機械でしかないというものもいるだろうし、いくら人間のようにしゃべれたとしても人権や市民権が得られるわけではないだろう」

 

『そっかー、そうだよねー』

 

 とアルバニ2号、そばのアルバニたちも車体を前のめりにして残念そうにした。

 

「話は途中だ。しかしお前たちの多重的な思考回路が人間のものとどう違っているのかという問いについて、少なくとも私は否定したいと思わない。私はお前たちをただの機械だとは思っていないよ」

 

 そういわれると、アルバニたちは両腕を上げて喜んだ。

 

『やったー!戦車の夜明けだー!』

 

 口々に自律思考戦車たちが盛り上がっていると、館内放送で千冬の声が流れてきた。

 

 

『IS学園指導教員の織斑千冬だ。編成クラスの生徒は1145時までに0102教室に集合するように。速やかにだ』  

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