IS -other world order-   作:3×41

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第3話 使者達

 

 飛行学園艦アレクサンダーの艦隊は全長800Mである。

 教室へ移動するのもそこそこ歩くことになる。

 

 千冬が集合を告げた0102教室は500人収容の大教室である。備え付けの机とイスがあり、多段的に床が上昇し教室の前方を見やすくすることができる丁寧な機能がそなえられている。

 教室の窓の外には、やはり海が続いており、飛空艦にあわせて白い鳥が飛んでいるのが見えた。

 

 セシリアとラウラを含む編成クラスの生徒はすでに全員教室に入り、席に座っていた。

 千冬が集まるように告げたのだから、まもなく何かの説明があるのだろう。

 もしくはいつもどおり授業がはじまるかもしれない。

 

「あまりに突然の搭乗命令でしたから、それらの説明でしょうか」

 

 セシリアがラウラにたずねた。

 ラウラはうなずいて答えた。

 

「おそらくそうだろうな。今回はシチリアのIS学園に向かうということだが、そのシチリアIS学園の生徒がこの飛行艦に搭乗しているらしい。ドックにユーロガイツⅡと見慣れないISがあったから、それだろうな」 

 

 近くに座っていた別の少女が尋ねる。

 

「ラウラさんでも見慣れないISって、もしかしてシチリアIS学園の専用ISかな?ラウラさんはどんなISか知ってる?」

 

 たずねられてラウラは首を振った。

 

「いいや、基本的に専用ISは秘匿性が国家機密並みに高いからな。そのあたりはシチリアIS学園に到着してもわからないかもしれないな」

 

 生徒たちがざわつきながら話している。

 するとふいに教室の扉が開き、千冬がはいってくるのが見えた。

 生徒たちはそれを見ると波がうつように教室の前から後ろへ静かになっていく。

 千冬は教壇の前まで歩くと、生徒たちを一望して口を開いた。

 

「うん、全員そろっているようだな」

 

 千冬が言って続ける。

 

「では今回の臨時航行の説明をする。現在、この飛行学園艦アレクサンダーは九州南部洋上を航行中だ。これから東南アジアを迂回し、シンガポールの南を通ってインド洋、中東地域を横切って、地中海を経由しシチリア島のシチリアIS学園に向かう」

 

 千冬が教壇のマニピュレータを操作すると、千冬の背後の巨大な黒板に世界地図が投影され、飛行艦の現在位置と予定航路が点線で表示された。

 

「シチリアIS学園では先方の生徒たちとの交流、共学によって切磋琢磨の精神を養い、IS能力の向上の糧としろ。あくまで授業の一環であるということを忘れるなよ」

 

 生徒たちがまるで小旅行のように浮かれているのを見透かしたように千冬が言い含める。

 セシリアは千冬の説明を聞きながら少し疑問を感じていた。なるほど留学の形をとること自体は不思議なことではないが、あまりに急すぎる、しかも、なぜこの日本の兵器の秘中の秘たる、飛行艦アトモスには及ばないとはいえ、飛行艦アレクサンダーまで出したのか。

 

 セシリアの疑問をよそに千冬が続ける。

 

「そして、もう知っているものもいるかもしれないが、今回シチリアIS学園からホストとしてむこうの生徒にも来てもらっている。ハースニール、入れ」

 

 千冬がそういうと、教室前方のドアが開き、見慣れない制服、シチリアIS学園の制服だろう、の生徒が8名教室に入ってきた。

 

 教室に着席していた編成クラスの生徒たちはその先頭の女生徒を見ていろめきだった。

 彼女は165cmと千冬と同じく長身で、ゆるくウェーブした黒髪に、アッシュグレーの褐色の瞳の女生徒だった、目の下には薄くアイシャドーのようなクマがかかっていて、それが白い肌と対照的でむしろエキゾチックだった。ゆるくウェーブする髪は途中で一本にまとめられ、肩から前にかけられている。

 

 ほかにも白髪ショートの少女や、髪の色がそれぞれ違う双子の生徒もいるようだった。

 

 そのシチリアIS学園の女生徒たちが教室に入り終わると、全員が千冬の教壇の前に並び、千冬にうながされて先頭の女生徒が口を開いた。

 

「今回はわれわれの招待を快く受けてくださったことに感謝します。われわれはシチリアIS学園の生徒、私はシチリアIS学園の専用IS搭乗者、サラ=ハースニールです。以後お見知りおきを、よろしくお願いします」

 

 少女は透き通るような白い肌にウェイブした黒髪で、胸元まである黒髪を束ねて肩から前方におろしている。彼女が右手を胸にあてて頭を下げると、束ねられた黒髪が小さく揺れた。

 彼女のふるまいにIS学園の女生徒たちがうれしそうにいろめきだった。

 彼女があいさつすると、千冬が説明を再開した。

 

「アレクサンダーは夜間に成層圏を加速して、明日の朝にはシチリア島に到着する。それまでの間、交流もかねて彼女らと共同生活を行う。まぁ、短い間だがな」

 

 千冬は教室の生徒たちを見回して続けた。

 

「では、お互いに代表としてハースニールに艦内の説明をしてやれるものはいるか?」

 

 千冬がたずねると、生徒たちがざわつきはじめた。

 仲良くはしたいが、急に話すのは少々気恥ずかしい、そういう相反する感情が彼女らの中にあった。こういうときにはずいぶんと大和なでしこな少女たちであった。

 

 と、その生徒たちの中から白い手が挙がった。

 

「では、そのお役目はわたくしにお任せいただけますか?」

 

 千冬がそちらに目をやると、手を挙げたのはセシリアだった。

 千冬が認めると、セシリアはサラ=ハースニールに微笑んでいった。

 

「わたくしはイギリスから日本のIS学園に留学してきておりますセシリア=オルコットですわ。よろしくお願いいたしますわね」

 

 

 

 

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飛行艦はフィリピンの北部に差し掛かり、青いインドシナの洋上を全長800Mの巨大な艦体が航行している。

 その飛行艦の中の小さく揺れる巨大な廊下を二人の少女が歩いていた。

 一人はゆるくウェーブした黒髪の長身の少女、サラ=ハースニール、もう一人は腰まで伸びる金髪を揺らす英国少女、セシリア=オルコットである。

 セシリアは、サラに廊下を歩きながら飛行学園艦アレクサンダーの説明を続けていた。

 

「…というわけで、この飛行艦アレクサンダーはIS技術を転用した浮遊動力炉を監の左右に3つずつ、計6つの浮遊動力装置を搭載することで安定的に浮遊、飛行することが可能になってますの」

 

 セシリアが飛行艦の説明を続ける。

 その説明を聞きながら、サラは感嘆して言った。

 

「いや、本当にすばらしい兵器だね」

 

 アレクサンダーの廊下を歩きながらセシリアの横顔を見て続ける。

 

「これまでの空母は基本的に海でしか動けないという制約があったけど、この飛行艦は海だけでなく陸にまで航行距離を広げて、空母とは比べ物にならない速度で移動することができる。そこから常に整備された戦闘機やISが即時発進できるなんて、まさしく移動する基地だよ」

 

 二人は学園艦の各施設をまわったあと、今は兵器ドックに続く通路を歩いていた。

 寝室や談話室、食堂や大浴場やトレーニングルーム、アレクサンダー後部のIS訓練ドームは野球ドームのような観戦席で囲まれ、中央は吹き抜けでウォーターフィールドを設置することができる。

作戦室と司令室は縦構造で司令室はかなりの広さがあり、司令室中央には巨大立体ディスプレイがある。

 その司令室のイスはそのままエレベーター式に司令室下部の作戦室に移動することができるようになっている。

 それらの設備を説明して今は兵器ドッグに向かっているのだった。

 

「ええ、アレクサンダーのバリアーと『羽』に加え、ミサイル攻撃に対してもISの高い防衛能力が併用できますわ」

 

 とセシリア。飛行艦の説明を付け加える。

 

「日本は現在3つの学園艦を所持しており、ひとつはこのアレクサンダー、そのほかに飛行艦トール、飛行艦アトモスがありますわね。IS学園の管理下にあるのがこのアレクサンダーですのよ」

 

「あのアメリカでさえ二隻しか保有しない飛行艦をひとつの国が三つも所有しているなんて率直にいってえらく脅威だよ。さすがIS発祥の国といっていいだろうね」と、サラ。

 

「その点は認めざるをえませんわね。イギリスも飛行艦ヴァリアントを運用しておりますし、アメリカの巨大飛行艦バハムートや潜行型飛行艦リヴァイアサンもパワーバランスの一翼ですわね」

 

「アメリカのIS艦体だね」

 

 サラが受けて続ける。

 

「私もアメリカIS艦体の第3艦隊隊長と模擬試合をしたことがあるけど、とんでもない強さだったよ。なかなか苦戦させられたよ」

 

 朗らかに話すサラにセシリアは驚いて聞いた。

 

「アメリカのIS第3艦隊隊長というと、専用IS搭乗者のアルトリア=アルバトロスですか?」

 

「そういうことだね。いやほんと、お互い無事ですんでよかったよ。アメリカのIS艦体は近々いま試験運用中の第三世代型標準ISナインボールまで投入されるというじゃないか。まったく、正体不明の脅威があるといっても、世界征服でもたくらんでるんじゃないかと思うよ」

 

 サラはそういってハハハと笑った。

 二人があれこれ話しているうちに、兵器ドックの巨大な扉の前についた。

 セシリアがサラに説明した。

 

「こちらがアレクサンダーの第一兵器ドックですわ。ここではIS学園のISをつんでおり、自律思考戦車や戦闘機もこちらで管理してますのよ」

 

 セシリアが扉を開くと、兵器ドックの扉がプシュっと音がして開き、涼しい風とかすかななじみのある油のにおいが二人を向かえた。

 

「本当に広いね。基地の格納庫並だ」

 

 ドックを見回すサラにセシリアが中央のエレベータつきの巨大な四角い柱を指差して説明した。

 

「この中央柱はエレベーターになっていて、この上のアレクサンダーのカタパルト甲板につながってますわ。出撃時には中央柱のエレベーターからISを甲板に移動して、カタパルトで第二速度までISやもちろん戦闘機もですが加速して発進させることができますわ」

 

 説明して、セシリアはかすかな違和感とともにサッサと広い兵器ドックを見回した。

 さっきはアルバニがやってきたが、逆に今は静かなものである。シチリアIS学園の生徒をつれているのにも関わらず、である。

 セシリアがアルバニたちのドックのほうに歩いていくと、ドック内で5機のアルバニはまったく動かず静止状態で、1機はどこかにいったのか見当たらなかった。

 アルバニたちは同期しているのだろう。

 

 セシリアは中央柱に歩きながら説明を続けた。

 

「あそこでじっとしているのが自律思考型戦車アルバニですわ。このアレクサンダーに6機搭載されております。…今は1機いないようですけど。そして現在IS学園の標準ISチハ38式が10機搭載されていますわね」

 

「チハ38式!小回りが利いて整備姓が高い信頼できるいい機体だね。話は聞いたことがあるよ」

 

 セシリアが壁に設置されたISの前を歩きながら説明を続ける。

 

「その通りですわ。こちらがIS学園で運用されている標準ISチハ38式」

 

 セシリアは歩きながら、チハ38式の隣に設置されたISにサラを促した。

 

「こちらがわたくしが搭乗しております我がイギリスがほこる専用ISブルーティアーズですわ」

 

 セシリアに促されて、サラはそのスリムな青い全身鎧のようなISに見とれるように見入った。

 ブルーティアーズは数度の再設計により、そのフォルムはセシリアの体型に薄くフィットするように設計されている。

 ところどころブースターやIS回路でゴツゴツとしている金属質のつくりで、背中には4機のビットが、腰の部分にはライフルと近接戦闘用のエネルギーカッターが装着されていた。

 その優雅な概観にして、獰猛といっても足りないほどの強力な戦闘能力をそのうちに秘めている。 イギリスがその技術の粋をさらに結集させた兵器である。

 

「とてもきれいなISだね。吸い込まれるみたいだ」

 

 サラがブルーティアーズの機体をまじまじと見つめながら言った。

 セシリアが説明を続ける。

 

「デザインだけじゃありませんのよ。出力、戦闘能力ともに標準ISのそれとは比べ物になりませんわ。ちなみに、この隣にあるのがラウラ=ボーデヴィッヒさんが搭乗する専用ISシュヴァルツェア・レーゲンですわね。現在このISは整備中ですけれど。こちらの説明は後ほどラウラさんにお任せいたしましょう。ところで」

 

 セシリアは、話題を変えて、ドックの端の壁面に設置されたシチリアIS学園の5つのISのほうを向いた。

 そこにはシチリアIS学園の標準ISユーロガイツと、黒い見慣れないISが設置されているのが遠目に見えていた。

 

「サラさんも専用IS搭乗者なのでしょう?あなたの専用ISもご紹介いただけませんこと?」

 

 セシリアがサラの瞳を見つめながらそういうと、サラはそのアッシュグレーの褐色の瞳でセシリアの視線を受け、次に朗らかに笑った。

 

「ああ、かまわないよ。ではこちらにきてくれるかい」

 

 サラはそういって快諾した。

 サラに導かれて、セシリアは壁面の5体のISに向かって歩いていった。

 

「こちらの4体のISがシチリアIS学園の標準ISユーロガイツⅡだ。あとの3体のユーロガイツⅡはこの飛行艦の第二ドックに収容してもらってるんだよ。このISはイギリス出身のセシリアさんなら見たことがあるんじゃないかな」

 

「ええ、イギリスでも運用されている機体ですわね」

 

「そうだろう。チハ38式だっていい機体だけどユーロガイツⅡもすごい機体だよ」

 

 二人はユーロガイツⅡの列にそって歩いていき、サラがその隣のISを指さした。

 

「そしてこれが私が搭乗している、シチリアIS学園の専用ISグラビティカだね」

 

 サラがさした専用ISは吸い込まれるような黒いISだった。

 それはサラの長身にそった黒い全身鎧のようなつくりで、外骨格の人工筋肉の規格が大きいのかスリムながらもマッシブな形状をしており、背中には6つの球体が半分うめこまれるように搭載されている。

 セシリアはこの黒い専用ISをながめてあることに気がついた。

 

「サラさん?この専用ISには飛行用のブースターが見当たりませんわね。故障でもいたしましたの?」

 

 セシリアの言うとおり、この黒い専用ISにはブースターが見当たらなかった。もしかしたら飛行するタイプではないのだろうか。そんなISはセシリアは今まで聞いたことがなかった。

 

「あ、それか」

 

 サラは気がついたようにつぶやくと、続けて説明した。

 

「セシリアさんが言った通り、この専用ISグラビティカには飛行用のブースターは搭載されてないんだよ。あ、だからって飛べないわけじゃないんだよ。ブースターの機能を別の機能にまわしてるのさ」

 

 セシリアとサラが話していると、近くからガシャンガシャンと音がしてきた。

 二人が音のするほうを振り向くと、近づいてきたのは自律思考戦車アルバニだとわかった。

 アルバニは両手をせわしなく動かして、足早にセシリアにかけよってきていた。

 

『ねぇセシリアちゃんセシリアちゃん』

 

「あらアルバニ、どうかいたしましたの?」

 

 セシリアが尋ねると、アルバニ3号は両手を上げ、車体を左右にゆらして驚いた。

 

『えぇぇ~!?セシリアちゃん知らないのかい!?』

 

 驚くアルバニを見て、サラが興味深そうに言った。

 

「驚いたよ。これが自律思考戦車かい?こんな風にしゃべる兵器なんてはじめてみたよ」

 

 それを聞いて、アルバニ3号がサラのほうを向いた。

 

『いやー、お褒めにあずかり光栄です。僕の名前はアルバニ3号。よろしくねサラ=ハースニールさん』

 

 アルバニはどこから仕入れたのかサラの名前を呼んで挨拶をした。

 

「で、いったいどうかいたしましたの?」

 

 セシリアがアルバニに促して尋ねた。

 するとたずねられたアルバニがセシリアのほうに向き直っていった。

 

「あっ、そうだったそうだった。大変なんだって、今やってるんだよ!」

 

「やってるって、一体何をやってますの?」

 

 セシリアがきょとんとしてアルバニに尋ねた。

 アルバニは両手を振って続けた。

 

「ラウラちゃんとシチリアの生徒さ!今ISでやりあってる最中なんだよ!」

 

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