IS -other world order-   作:3×41

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第5話 夜空

 1900時

 

 

 

 訓練試合を終えた後、飛行艦はシンガポール南海を経由して航行を続け、1900時の現在、夜のインド洋に差し掛かる洋上を航行していた。艦の状態は安定的、巨大な飛行艦の周囲に異常は感知されない。

 

 IS学園とシチリアIS学園の両生徒は巨大な飛行艦内の食堂で夕食を楽しんでいた。

 大人数収容のホールでは生徒たちが談笑しながらひしめいていた。

 緩やかにながれるBGMもかききえてしまいそうににぎやいでいる。

 その人だかりの中でセシリアもまた夕食の皿を手にとっていた。

 

「今晩のディナーはカレーライスですの?嫌いではありませんが、わたくしたちは小学生ではありませんのよ?」

 

 セシリアはカレーライスの皿を片手にもって非難めいた声色でつぶやいた。

 臨時航行、他校の生徒を招いている、この状況で、カレーライス。

 セシリアの感覚からすれば、フルコース料理であってもさしたる不思議はないのだった。

 

 アレクサンダーの食堂は1000人以上が入れる大ホール型になっており、窓からは外の空中デッキにもでることができた。

 窓から外を見ると、ライトで照らされた公園の木々を望むことができた。

 現在飛行艦はインド洋南部を飛行しており、食堂の窓から出た空中庭園デッキからはインド洋上空のふるようなきらめく星空が一望できた。

 そのさらに遠方の空には少しかけた月が青白い光を夜の空に広くおろしていた。

 

 生徒たちには空中展望デッキで食事をするものや、それぞれの学園の生徒が混ざって談笑しているものたちもいる。二校の生徒たちは徐々に打ち解けてきてもいるようだった。

 

 セシリアはIS学園の生徒たちのテーブルに混ざって、少し興をそがれたようにカレーを口に運んでいると、テーブルの向こうから、シチリア学園の生徒、サラ=ハースニールと昼間の双子、白髪のレミー=マグラスがこちらに歩いてくるのが見えた。

 その中のサラがセシリアのほうを見て朗らかに笑ってセシリアに声をかけた。

 

「こんばんはセシリアさん。このカレーライスという日本の食べ物はとてもおいしいね。もう三杯もおかわりしちゃったよ」

 

 サラ=ハースニールが笑顔で言った。

 

「食べ過ぎですサラさん」

 

 その後ろで髪が赤いほうの双子がサラに言った。

 そういえば、カレーライスは大体は日本の料理だと言ってもいいもので、シチリアではないメニューなのだろう。

 

「お、お口にあったのでしたらなによりでしたわ」と、セシリア。

 

 次にサラはほかの女生徒に手をやっていった。

 

「セシリアさん、私たちのシチリアIS学園の生徒を紹介させてもらってもいいかな。こっちのレミー=マグラスは昼間に紹介したね」

 

 あの好戦的な白髪の少女だった。レミー=マグラスは、興味がなさそうにそっぽを向いていた。

 

「それでこちらの双子、赤い髪のやつがアルジャー=アウシェンビッツ、黒い髪のほうがハリー=アウシェンビッツだ。IS機動のコンビネーションではシチリアIS学園で二人の右に出るものはいない。それでウロボロスの双子と呼ばれたりもしてるんだよ」

 

 紹介された双子は二人とも身長160cmくらいで、前髪はパッツンにきっており、後ろは肩にかかるくらいで真横に切ってある。双子がセシリアに挨拶した。

 

「アルジャー=アウシェンビッツです。アルジャーと呼んでください」

「ハリー=アウシェンビッツです。みんなにはハリーと呼ばれています」

 

 二人は声まで同じで顔もほとんど見分けがつかない。唯一二人を見分けることができるのは赤と黒の髪の色の違いだけだった。

 

「あらためて、わたくしはセシリア=オルコットですわ。よろしくお願いいたしますわね。アルジャーさん、ハリーさん」

 

 二人の紹介をうけて、セシリアはほほえんでいった。

 

 挨拶を交わしたあと、セシリアたちは談笑を続けていた。

 その中で双子が昼間のISの模擬訓練を興奮気味に振り返った。

 

「昼間のIS機動はすごかったですね。私たちのコンビネーションをさばけるのはシチリアIS学園ではサラさんとレミーさんだけですよ」とハリー。

 

「まさかライフルの反動を利用して高速反転されるとは思いませんでした。してやられました」とアルジャー。

 

「おほめにあずかり光栄ですわ。お二人のコンビネーションもすばらしかったですわよ。あれほどのコンビネーションは日本のIS学園でも見たことがありませんもの」

 

 セシリアも最初は半分遊びのつもりだったが、最後はほとんど本気になってしまっていた。

 セシリアに言われて双子が照れてまったく同じ動作で右手で頭をかいた。

 すると照れる双子の隣でレミーが鼻をならしていった。

 

「フン、ユーロガイツⅡ5機を撃墜したからっていい気になるなよ。そんなのはサラさんのグラビティカなら30秒で全機撃墜するさ」

 

 そうこぼすレミーの隣の双子がそれを受けていった。

 

「いや、その話もどうなんでしょう」とアルジャー。

 

「ユーロガイツⅡに搭乗してるのは私たちですよ?」とハリー。

 

「うるさいね、私は事実を言ったまでだ」

 そう双子に言われてレミーがかえした。

 

 

 その後も話していると、サラがセシリアに切り出していった。

 

「そうだセシリアさん、このあと何か予定はあるかい?」

 

 サラにいわれて、セシリアは少し考えた。

 この後の予定といえば、何もなければ兵器ドックのアルバニに会いにいくとか、あるいは談話室で紅茶を飲みながらかための本でも読もうかと思っていた。

 しかしそれらは特別な用事ということでもなかった。

 

「いいえ、特にこれといっては。何かありますの?」

 

 サラがセシリアに答えて言った。

 

「ああ、聞いた話なんだけどさ。ここには露天浴場があるんだろう?一緒にどうだい?裸の付き合いってことでさ」

 

 

 

 

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 サラの聞いた話は正しく、飛行艦アレクサンダーには大浴場が備えられている。

 左舷側にある食堂の反対側の右舷にある大浴場だが、こちらからもまた室内の巨大な浴場の外には露天浴場に出ることができる。

 

 セシリアとサラたちは、その露天浴場に向かい、途中でトレーニングルームで、腕立て、腹筋、スクワット500回を終えて体から湯気をたてていたラウラもつれて、飛行艦の大浴場に来ていた。

 

 大浴場の外にある露天浴場では、サラとセシリアとラウラが湯船につかり、アルジャーとハリーはお湯をかけあい、レミーは浴場の外で体を洗っていた。

 

 彼女らが入っている湯船からは、外のインド洋が黒く波打っているのが一望でき、その上の空では光る星々がふるようにおおっていた。

 

 湯船につかったサラが一息ついてつぶやいた。

「いやー気持ちいいね。ここに来てよかったよ」

 

「ええ、本当に。それに見てくださいな。星がきれいですわね。あれはベテルギウスではなくて?」

 

 セシリアは湯船にいっそう肩を沈めて続けた。

 

「イギリスや日本ではこんなにはっきりと星空が見えることはありませんわね」

 

 サラは湯船につかるさっきまでトレーニングをしていたラウラの体をまじまじと観察していた。

 

「ラウラさんはトレーニングの習慣があるのかい?ちょっと見ただけでもよく鍛えられてるってわかるよ。でもそれにしては筋肉がつきすぎてないしなやかな体をしてるよね」

 

 サラに言われてラウラが気がついたように答えた。

 

「ああ、女性用のプロテインなどで栄養補助をすればな、適度な脂肪をのこしたまま肥大化させずに筋力を鍛えることができる。少々手間だがな」

 

 ラウラは普段からかなり強度の強い筋力トレーニングを行っていたが、サラが指摘したとおり、腹筋などは割れておらず適度に脂肪がついたなめらかな曲線をしている。

 なぜラウラが少々手間だといったことをやるのかというと、以前はそのようなことはまったく気にしていなかったが、千冬に少女はかわいくしていろといわれてから、気をつけるようになっていたのだった。

 

 ふと、三人に湯船の外でペタペタと足音が聞こえた。

 そちらを見ると、レミー=マグラスがタオルを肩にかけて、室内に戻っていくのが見えた。

 彼女の後ろ姿もまた鍛えられたしまりのある体をしているのが容易に見て取れた。

 

「レミー、一緒にはいりなよ」

サラが声をかける。

 

 すると、レミーが肩にタオルをかけ、振り返らずに言った。

「いいえ、湯船に入るのはやめておきます。そんなよそものの『ダシ』が出た湯船になんて入れませんよ」

 

「なんだと?貴様…」

 

 そのまま室内に歩いていくレミーにラウラが言って立ち上がる。

 その立ち上がるラウラをセシリアがなだめた。

 サラの静止を聞かずレミーは更衣室に入っていってしまった。

 

 

 

 

「あいつにも困ったものだよ。レミーはトルコ東部の出でね。治安なんてものはないところだったらしい。あの好戦的な性格もそれでかな、それでISの腕をかわれてシチリアIS学園にきたんだ」

とサラ。

 

 サラは湯船に入ったままタオルを頭にのせて、遠くきらめく夜空を眺めながら続けた。

 

「セシリアさん、18世紀のフランス革命のことは知ってるかな」

 

「ええ、存じ上げておりますわ。当時のイギリスはフランスの混乱を封じ込めようと苦労していたとされていますわね」

 

「そういうことだね。当時、しいたげられた第三市民が、武器をとって独裁的な王政からの解放のために立ち上がった。各国もその勇敢な戦いに熱狂したとされているね」

 

 サラは湯船の中で一息ふーと息をついて続けた。

 

「しかし、イギリスの哲学家、エドモンド・バークはその熱狂の中で、フランス革命が始まる前から、それはフランス内の内乱になり、軍事独裁政権によって幕を閉じると予想し、実際に歴史はそのとおりに動いた」

 

「軍事独裁政権とはナポレオンのことだな。結局数万人の血が流れることになった」

と、ラウラ。

 

「それはフランス革命にだけ当てはまることなんだろうか。現在の中東の情勢はどうだい。国とはまさしく飢えた狼だよ。きれいごとではまったく解決できない。高説も虚飾も通用しない。あそこでは日常的に国境で紛争が起こり、それぞれの国が食いあっている。あれの終着点はどこにあるんだと思う?バークの推察を借りるなら、中東地域は結局闘争でドロドロに溶け合ったあと。一人の英雄が現れ、また数十万人の血を流すことになるかもしれない」

とサラ。

 

 ラウラがうなずいて続けた。

「そうかもしれんな。今のところ出口が見えているようには思えない」

 

 セシリアもそれに加える。

「そのようなことにならぬよう。我がイギリスも秩序の安定のためにつとめております」

 

 二人の話を聞いてサラが言った。

「そうだね、でもフランス革命のときはISはなかっただろう?今は核兵器のプレゼンスは下がってISがそれを代替するようになった。だから自分たちがその力を使うことによってその流れる血が減らせるんじゃないかって、私は期待してるんだよ」

 

 そこそこに重い話だった。

 シチリアと中東は、そこそこに近い。

 彼女の話からは強大な兵器を扱うIS乗りの自意識が染み出しているようだった。

 

 そしてサラは二人のほうに向きなおっていった。

 

「まぁそれはそうと、二人は好きな男性なんているのかな?」

 

 その言葉をゴングに、セシリアとラウラがしばし口論を続けたあと、5人は湯当たりする前に浴室を出て、それぞれ寝室に向かった。

 

 

 

 

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2200時 飛行学園艦内談話室

 

 セシリアとラウラはサラ達とわかれたあと、寝室に行く前に談話室で紅茶を用意し、ソファに座ってインド洋を航行するアレクサンダーの窓から揺れる海とギラつく星空を眺めていた。

 

 窓の外を見ながらソファに座るセシリアがポツリと口をひらいた。

 

「朝飛行艦への搭乗をつげられて、今はもうインド洋ですわ」

 

 朝に日本をたって、今はインドの南部、地球をすでに1/4回っている。

 

 セシリアの向かいのソファに座っているラウラが腕を組みながら言った。

 

「ずいぶん遠いところまで来たものだ。明日にはシチリア島だ。そういえばドイツから日本に来たときにもこんな気分になったな」

 

「そうですわねぇ…」

 

 セシリアはそうつぶやいて、テーブルのアールグレイを一口飲んだ。

 イギリスから日本に留学した自分が、日本からイギリスに近づいてむしろ遠くに来ていると感じていた。

 セシリアが日本に来たとき、友好を深めようなどとは思っていなかった。

 英国のISの技術力の高さをIS搭乗者の実力を広くしらしめようと思っていた。

 しかしいつのまにかその学園と生徒たちに親しみをさえ感じている。

 少々不可思議な感覚だった。

 セシリアの口の中にアールグレイの芳香が転がっている。

 

 しばらくの気の置けない沈黙のあと、ラウラが思い出したように喜色めいていった。

 

 

「そういえばさっき兵器ドックでアルバニたちがこんなに遠くに来たのははじめてだと騒いでいたよ。遠出で興奮する兵器なんて聞いたことがあるか?」

 

「ふふふ、本当にそうですわね。機会があれば一度わが英国にも連れて行ってさしあげたく思いますわ。きっと卒倒しましてよ」

 

「それならばドイツが先だ。やつらはまだ故郷である我がドイツの土を踏んでいないのだからな」

 

 ラウラがそう口を挟んだ。試験運用で6機だけ作られ、今飛行艦に同乗している自律思考戦車について取り合っている格好だった。

 

 言って二人は笑った。

 

「それにしても」

 

 ラウラがセシリアの用意した紅茶を口に運んで続ける。

 

「今回の航行はやはり不可思議な点が多いな」

 

「やはりラウラさんもそう思われますか?わたくしもそう思って織斑先生に尋ねたのですけれど、答えてはいただけませんでしたわ」

 

「フン、上官に向かって部下が質問をするとは耳を疑うが、それは私の神経過敏ということにしておいてやろう。しかし、シチリアIS学園からのオファーがあったとして、それだけでアレクサンダーが出るとは思えん。おそらく、まだ何かあるだろうな」

 

「委員会の思惑でしょうか?アレクサンダーの航行は、それだけで軍事的示威行為になりますし、他国への牽制として選択肢のひとつになりうると思いますもの」

 

「どうかな、それは選択肢になりうるが、それにしても急すぎる」

 

 いずれにせよ、教官のお考えだ。結局ラウラは答えの見えない推論にそう結論つけた。

 

 

「そういえばラウラさん、アルバニの自由思想の話はお聞きになりまして?」

 

 セシリアは話題を変えて言った。

 

「ああ聞いた。二つの相対する自由思想、フリーダムとリバティだったな。なかなか面白い切り口だった」

 

「あの子たちはどこからああいう影響を受けてるのでしょうかしら。戦車なのに、ゆくゆくは哲学家になるのではないかと思いますわ。とても有望な子たちですわね」

 

 セシリアは冗談めかして言った。

 ラウラは十分にありえる、ドイツが作った兵器だからなと郷土びいきをまじえて答えた。

 

 

 しばらく話が続いたあと、セシリアはアールグレイを飲みおえると、ソファを立った。

 

「それではわたくしはそろそろ就寝いたしますわ。おやすみなさいラウラさん」

 

「ああ、おやすみセシリア」

 

 セシリアはラウラにそう告げると、談話室を出て寝室へと向かった。

 

 

 

 

 

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2300時

 

 インド洋から遥か遠方、地球を1/3ほどまわったカナダ南部の草原に、一人の少女が座っていた。

 メイド服のような姿で、頭にはウサギの耳のようなカチューシャ、その機械的なウサギの耳がピコピコ動いた。

 

「束様、どうやら動きがありました」

 

 世界から狙われる自他共に認める天才科学者、しののの束は、その声のするほうを振り向いた。

 彼女が向いたほうには、夜の闇をさらに黒く切り取る人型の暗闇がたっていた。

 

「ありがとう、内なるソフィア。結局動いたんだね。それもひとつのコマの結論だよ」

 

 束は声のする主にお礼を言うと、頭のうさ耳をピコピコ動かして、夜空を見上げた。

 空には輝く星空にすこしかけた月が青白い光をおろしている。

 

「さぁて、どう転ぶかなぁ。ねぇ?遥かなるダハク?」

 

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