IS -other world order-   作:3×41

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第7話 学園と研究都市とクロエ・クリストフ・ヴァルツ

 早朝。太陽がエーゲ海からシチリア島に刺し込み。白い太陽光に対照的な黒い影がビル群から伸びていた。シチリアIS学園に併設されたIS研究都市では人々や車の往来がすでに激しくなっており、通りは話しながら、あるいは新聞を読みながら歩く人、往来する車でまるでヘビがうねるようだった。

 その往来する人々に天高く伸びたビル群が白い陽光を反射させていた。

 

 と、急に道が黒くそまり、ビル群の光の反射が途絶え、街を黒い影が覆った。

 

 何事かと、人々が上を見上げると、そこには何か巨大な建造物がはるか上空を横切るのが見えた。

 

 それは全長800Mの飛行艦、アレクサンダーの姿だった。

 昨日の朝日本を出発した飛行艦がほど中東地域を横切り、地中海を越えてシチリア島に到着したのである。

 

 街から見上げた飛行艦の幾何学的な艦体は、しかしその長旅を思わせなかった。一般人が、これが日本から航行してきたのだといわれても、にわかに信じることはできないだろう。

 

 飛行艦は、ゆっくりとした速度で、進路をシチリアIS研究都市を横切りその先のシチリアIS学園に向かっている。

 

 

 

 

 

 

「あれがシチリアIS学園ですのね?」

 談話室から窓の外を見てセシリアが言った。

「海がきれいなエメラルドグリーンですわね」 

 

 まるで宝石を見るようにそうつぶやいた。

 シチリアIS学園はエーゲ海に隣接して運営されているのである。

 セシリアの視点からは巨大なIS学園の全貌や、海上の訓練場、近くの宿泊施設、これは海上コテージが延びているのが確認できる、などが見えていた。

 

 談話室の生徒たちもその様子にざわついているようである。

 

 セシリアが近くの生徒に言った。

「天気も快晴でよかったですわね。これで雨でしたらせっかくの到着に水をさされるというものですもの」

「そうね、天気予報では1週間ほどはずっと晴れるらしいから、ちょうどよかったね」

 と別の女生徒。

 

「ISの教練が主であるとはいえ、自由時間もあるといいですわね」

「そうだね~。でも千冬先生。厳しいからな~」

 

 談話室で生徒たちがいろめきだっていると。天井のスピーカーから艦内放送が聞こえてきた。

 

『アレクサンダー司令室の織斑だ。本艦は目的地のシチリア島に到着した。長旅ご苦労だったな。各員、速やかに艦を降りた後、整列するように。以上だ』

 司令室の千冬がそう告げると。生徒たちはあわただしく移動を始めた。

 

 セシリアが荷物を持ってアレクサンダーの昇降口から出た。

 昇降口はまだかなりの高度があり、高い階段を下りていくと、彼女の目の前にカモメたちの鳴き声とともに紺碧の海と抜けるような空が開けた。湿気のない乾いた気持ちのよい風が彼女らを迎える。そしてそこからはるか眼下にはシチリアIS学園が見えた。

 

 

 #

 

 

 セシリアたちがアレクサンダーから降りたあとシチリアIS学園の校庭に整列すると、しばらくしてから千冬たち教師が降りて来て、ホスト側のシチリアIS学園の生徒と関係者たちの列の前に並んだ。

 

 そのホスト側の列からサラ=ハースニールが歩み出てきていった。

「ようこそシチリアIS学園へ、みなさんの来訪を心から歓迎いたします」

 

 サラがそういったあと、彼女の後ろからサッと一人の男性が現れた。

 年齢は40前後だろうか、180cmほどの長身でゆるくウェーブした髪が肩から腰の間くらいまで伸びている。

 男性がIS学園の生徒の前に立っている千冬の前まで歩いてきた。

 

「IS学園のみなさま。ようこそシチリア島へ。私はシチリアIS研究都市市長のウィリアム=バークレーです。皆さまを歓迎いたします」

 

 市長は短く自己紹介すると、千冬に右手を差し出した。

 千冬は快く応じた。

 

「IS学園指導教員の織斑 千冬です。こちらこそ、光栄です。短い間ですがお世話になります。よろしくお願いします」

 

 ウィリアム市長と千冬が握手を交わした。

 握手を終えると、次にウィリアムはおもむろに上空を見上げた。

 するとそこには飛行艦アレクサンダーの巨大な艦体が浮遊している。

 ウィリアムはそれを見て両手を軽くもち上げていった。

 

「飛行艦アレクサンダー。実にすばらしい飛行艦ですな。実際にこの目で見るのははじめてですよ。しかし1日で日本からシチリアまで航行するとは、にわかには信じられませんな。いや、恐ろしいほどですよ。この飛空艦が地中海に一艦でもあれば地中海のパワーバランスはすぐにも大きく変化することでしょうな」

 

 ウィリアムの手放しの賞賛に、しかし千冬は抜け目のないままの表情で答えた。

 

「ありがとうございます。我が日本ではこの飛行学園艦アレクサンダーならびに飛行艦アトモス、トールを運用し、自国の防衛、脅威への対処ならびに世界秩序の形成に寄与しています」

 

「その名声は、さすがですよ。シチリアIS学園の生徒たちも学ぶものは多いでしょう」

 

「われわれもシチリアの生徒たちの錬度の高さはすでに承知しています。こちらこそ勉強させていただきますよ」 

 

 千冬はウィリアム市長に言うと、次にIS学園生徒たちの列に向き直った。

 

「よく聞け!航行の疲れも鑑みて、本日は自由行動とする!学園の見学やシチリアIS研究都市等の観光に時間をあててもいい。シチリアIS学園都市はここから南へ7キロほどだ。そちらに向かうものはここから出ている電車等を活用しろ。では一時解散!1800時までには戻るように!」

 

 そういわれて、IS学園の生徒たちは見るからに喜ぶと、ざわつきながらバラバラと移動を始めた。

 

 千冬はそれを見おくって小さく息をつくと千冬を呼ぶ声に気がついた。

 

『教官きょうかーん』

 

 千冬がそちらを見ると、千冬を呼ぶのはアルバニだとわかった。

 

「お前はアルバニ3号だな。私のことは先生と呼べ。それでどうした?」

 

 自分のことを教官と呼ぶのは誰の影響か。いちいち考えをめぐらせるまでもなかった。あとでこの情報は並列化させておこうと千冬は考えた。

 

『あのー。僕たちも観光してもいいでしょうか~』

 

 アルバニは、機械の両手をすり合わせながら千冬を見上げる。

 千冬は少し考えてからこの自律思考戦車に答えた。

 

「いいだろう。ただし観光にいっていいのは1機だけだ。あとのものはあとで並列化しておけ。加えて兵器系統はロックをかけておく。問題が起こるとは思わないが一応の措置だ」

 

『え、いいんですか!?いいいやったああぁぁぁ!!』

 

 アルバニ3号は両手を上げて喜んだ風にすると、では教官、と短く言ってそそくさと駅に向かったのだった。

  

 

 

 #

 

 

 

 セシリアは荷物をシチリアIS学園に併設された海上コテージにうつしたあと、電車でシチリアIS研究都市を訪れていた。

 研究都市には研究施設以外にも観光施設等々見る価値のあるものは多い。    

                 

 セシリアは白いワンピースに身をつつみ、はの長い白い帽子をかぶり、IS学園の女生徒たちと電車でシチリアIS学園都市に訪れ、午前はシチリアIS学園都市を観光した後、午後は地中海が一望できるカフェで紅茶とスコーンを注文していた。     

 

 坂の中腹にあるカフェの店内からは眼下に青く光る地中海が一望できた。

 カフェの丸テーブルを囲んだ中で、セシリアが一口紅茶のカップを傾けた。

        

「すばらしい眺めですわね。地中海はなんど見ても心をときめかせますわね」

 

 その眺めにセシリアがうっとりしたように言うと、次にセシリアと一緒に丸テーブルに座っていた女生徒がセシリアに尋ねた。

 

「ほんとにいい眺めだねー。ねぇあとで海岸までいってみない?セシリアは何度か地中海にきたことがあるの?」       

 

「ええ、シチリアはヨーロッパで有名な観光地でもありますから。パレルモの大聖堂は歴史的な価値がありますし、ファヴィニャーナ島の海はとてもきれいですわよ。あとでそちらに向かってもよいかもしれませんわね。それに夜には劇場のオーケストラがおすすめできますわね、こちらのサレルノ楽団のヴィヴァルディは傾聴の価値がございましてよ」

     

 セシリアはイギリスから近くはないが、遠くもないシチリアの思い出を振り返りながら、白い帽子を軽く傾け、紅茶を一口飲んだ。

 

「セシリアはいろいろ知ってるんだねー。じゃあその大聖堂にいってみない?いいお土産話になるかも」  

 

「ヨーロッパのことでしたら土地勘というものがありますわ。でもわたくしは日本のことはまだまだ知らないことばかりですから、そちらのことはいろいろと教えてくださいね」       

               

 セシリアは殊勝にほほえんで話を続けた。                   

                         

   

                                 

 #

 

 

  

 IS研究都市の郊外、その河原で二人の男女が立っていた。

 男女といっても、一人は40を超えた男、そしてもう一方はおおよそ10歳ほどの少女だった。

 サラサラと穏やかに流れる川のそばで、二人の男女が20Mほど離れてお互いに向かい合いながら立っていた。

 あたりに人気はなく。川のせせらぎだけが静かにあたりに響いている。

 

 ふと、男が右手に何かを握って少女に尋ねた。

 

「クロエ、これは何だ?答えなさい」 

 

 言われて少女は速やかに答えた。

 

「はい父さん。その銃はコルト・パイソン。使用弾薬は.357マグナム弾のシングルアクション。拳銃の中では最も威力が高いタイプの拳銃です」

 

「その通り」 

 

 そういって、男はその銃を持った右手を娘のほうに向けて、次に引き金を引いた。

 

 バァン!!

 

 辺りに轟音がとどろき、クロエと呼ばれていた娘が後ろに吹っ飛んで仰向けに倒れた。

 

「・・・」

 

 男が倒れた娘のほうをじっと見ていると、しばらくして少女がゆっくり起き上がった。

 

「っつー…」 

  

 少女は起き上がると銃弾を受けた胸元を探り、防弾チョッキに突き刺さったマグナム弾を抜いて、近くの芝生に投げ捨てた。

 

「これがマグナム弾の威力だ。強烈だろう?しかし防弾チョッキを着ていれば致命傷にはならないし、反撃だってできる」

   

「でも、すごい衝撃だわ父さん」    

 

 クロエと呼ばれた娘が父親に不満たらしくいった。

 

「たしかにそうだ。しかし衝撃になれておけば反撃にうつるのもたやすくなる。では次だ」

 

 父親は次に左手に銃を持って娘に尋ねた。

 

「この銃はなんだ?答えなさいクロエ」  

 

 少女はそれを見て的確に答えた。

 

「はい父さん。それはグロック17。複列弾倉で17プラス1発の装弾ができるセーフアクションです」 

「その通り。いいぞクロエ。ではこの銃とさっきのマグナムとの威力の比較は?」

 

「さっきのマグナムにくらべてグロックの口径は9mmで、9mmパラベラム弾の衝撃エネルギーは.357マグナム弾のだいたい半分です」

 

「その通り。コングラチュレーション」

 

 男はそういうとグロックを娘の額に向かって発射した。

 

 バァン!!という轟音のあと、9mmパラベラム弾がクロエの額に着弾した。

 少女はその衝撃にのけぞり、後ろにたたらを踏んで後退した。

 しかし、ただそれだけだった。

 

「いったー・・・」

 

 少女は弾丸が命中した額をさすった。彼女の額は少し赤くなっていた。

 

「驚いたようだな。実際に銃弾を受けた想定の訓練もしておいたほうがいい。グロックで強化骨格を貫くことはできない。安心していいぞクロエ」

 

「でも、びっくりしたわ父さん」 

 

 少女は父親に軽く不満を言った。

 

「そう言うなクロエ。アレクサンダーが到着したのは知ってるだろう?作戦開始は近いんだ。そうだ、帰りに何か食べて帰ろう。なんでもいいぞ」 

 

 そういうと、クロエの顔がパッと明るくなった。

 

「それじゃぁパフェがいい!トッピングもたくさんつけていい?」

 

「ああかまわないぞ。それじゃぁあと10発練習したら、帰りにカフェに寄ろう」

 

 その後もひとけのない河原に銃声が響いた。

 

 

 

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 セシリアたちが地中海を望む坂の中腹のカフェで話していると、隣に誰かが立っているのに気がついた。

 セシリアがそちらを見ると、身長の高い男たちがテーブルに向かって立っている。

 男たちはいかにも軽そうなノリで、軽快に言った。

 

「ねぇねぇセニョリータたち、シチリアへの旅行かい?もしよかったら俺たちと一緒に観光しない?」  

 男たちがセシリアたちに話しかける。同級生たちはどう答えたらいいのかわからず困っている様子だった。こういう強引なノリはあまり経験がなく無理のないことだった。

 セシリアは紅茶を一口飲んで答えた。

 

「もうしわけありませんがお断りいたしますわ。わたくし自分より弱い男性には興味がありませんの」                

 セシリアがそういうと、男たちの後ろから別の男がわけいるように前に出てきた。

 

「なんだってぇ?誰が弱いだってぇ?けんかぁ売ってんのかじょうちゃん?」             

 その男は2mはあろうかという大男で、腕は丸太のように太い。

 大男はセシリアの言葉に少し高ぶった様子で、その丸太のような腕でセシリアの腕をつかみギリギリとにぎりしめた。

 

「なにをされますの?その手をおはなしになってくださいな」

 とセシリアが困り顔で言う。   

 

 その様子に気づいたカフェの定員が、あわててセシリアと男たちがいるテーブルへやって来た。

「お客様、店内でのもめごとはおやめになってください」           

 厳密には、注文をとっていない男たちは客というわけではなかったが、店員は穏便にすませようといさめようとした。

 その定員に向かって大男が顔を向けると、弾丸をうけて大きく右ほほがえぐれた顔をすごませて言った。

「あぁぁっ!?なんだてめぇ?俺たちの邪魔をすんのか?俺たちトラキアファミリーに文句をつけようってのか?あぁっ!?」

 大男は穏便にすませようという気などは微塵もないようだった。しかもどうもマフィアのような名前も出して店員にすごんだ。

 店員はそう叫ばれると、小さい声ですみませんといって店のうしろに下がっていった。

 大男はそれを見て軽く満足したように軽薄な笑みを浮かべると、再びセシリアたちに向き直った。

 

(困りましたわね。これはどういたしましょうかしら)                

                  

 セシリアが逡巡する。セシリアとしては、大事にはしたくなかった。だからといってこの男たちに付き合って観光して回るのも論外だった。                 

                  

 困り顔で逡巡するセシリアに大男が何か言おうと口を開いた瞬間、突然その大男を含む数人の男たちが地面につっぷした。

 地面にしたたか頭をうちつけた大男がうめいた。

 

「なぁっ!?なんだ、こりゃ、お、おもいいいぃぃぃ」

 

 男たちは、まるで地面に吸い寄せられるように、カフェの店内の床に貼り付けられるように倒れこんでいる。

 突然のできごとにセシリアと同級生たちがびっくりしているところに、店先から女性の声が聞こえた。

 

「きみたち。私の友人に何をしてるんだい?」

 

 セシリアが声のするほうを見ると、そこには専用ISグラビティカの黒い機体に身を包んだサラ=ハースニールがこちらにゆっくり歩いてきているのがわかった。

 男たちはなおも、地面に貼り付けられ、じたばたともがこうと体を動かしている。

 それはサラが男たちをグラビティカの極小の加速重力場で地面にはりつけたのだった。

 サラは頭を露出した黒い全身鎧の姿で言った。

 

「彼女らは、私の友人だ。セシリアさんたちに手を出すってことは、私に手を出すということなんだけど、そういうことでいいのかな」 

 

 そう言って。サラはグラビティカの重力加速場をさらに加速させ、男たちはさらに強力に地面にプレスされた。男たちからはメキメキと音が聞こえてきそうだった。

 

「いいいっ、いだいっ、いだいいいいっ、やめてくれっ、ハースニールさん!やめてくれっ!あんたの友人だと知ってたら手を出さなかった!!」

 

 大男が痛みにうめきながらそう叫んだ。

 しばらく男たちが地面に貼り付けられていると、カフェの前に黒塗りの車が止まり、中から数人の男たちが店内に入ってきた。

 

 その中の車から降りてきた黒いスーツを着た長身の男がいった。男は180cmほどと長身で、髪は黒く短く切っており、左目に眼帯をしている。

 

「ハースニールさん。申し訳なかった。うちのものが何か粗相をやらかしたようだ」

 

 サラはその眼帯をした男のほうを向いていった。

 

「ああ、マッツィーニさん、きたのかい。困るよ、部下の教育はしっかりしてもらわないと」

 

 つぶやくように言うと、サラはグラビティカの重力加速を停止した。地面に貼り付けられていた男たちがよろよろと起き上がる。

 大男がマッツィーニと呼ばれた男にいった。

                   

「マッツィーニさん、ありがとうございます。お手数おかけしてすいませんでした」                     

 大男が言い終わる前にマッツィーニと呼ばれた男が大男の顔面を殴りとばした。

 大男が誰もすわってないイスに突っ込んで倒れる。

 

「馬鹿野朗!!ハースニールさんのご友人に手ぇ出してんじゃねぇ!!ぶっころされてぇのか!!」

 

 ぶっころされるとは、マッツィーニが大男をぶっころすという意味だった。どうやらサラはこのシチリアにおいて、相当の立場を占めているようだった。それもIS搭乗者の人間としてはむしろ当然といえるかもしれない。仮にマフィアが一個師団レベルで集まっても、サラのグラビティカに傷ひとつつけることができずに壊滅するに違いなかった。

 

「すまなかったハースニールさん。ところで」

 

 マッツィーニがサラに向き直って続けた。

 

「ところでうちのビックダディがあなたにあいたがってる。どうだい今週末、うちの屋敷のパーティに来てくれないか?海上クルージングでもいい」

 

 マッツィーニがサラに持ちかける。

 このマフィアたちはサラと良好な関係を保ちたがっているようだ。

 それもそのはずだった。もしグラビティカの能力を意のままにあやつることができれば、それは地中海の勢力を握るのと同義といっていいだろう。

 

「シチリアIS学園の生徒がマフィアのパーティに出席するのかい?それはまずいだろう。悪いけどおことわりするよ」

 

 サラが答える。

 

「そこをなんとか、ダディが楽しみにしてるんだよ」

 とマッツィーニ。

 

「聞こえなかったのかな?私はことわるといったんだけど」

 

「そうか、わかったよ。今回は本当にすまなかった。どうか許してほしい」

 

 マッツィーニがうめくようにいった。

 しばらくした後男たちはカフェから出て行った。

 

 

 サラがグラビティカを転送して私服になるとセシリアたちに尋ねた。

 

「だいじょうぶだったかい?乱暴はされてない?」

 

 セシリアが微笑んで答えた。

 

「ええ、大丈夫ですわ。ありがとうサラさん、たすかりましたわ」

 

「みんなで休憩してたんだね。よかったら私も加えてもらっていいかな?」

 

 彼女の申し出に、誰も異論はないようだった。

 

「ええ、もちろんですわ。どうぞおかけになってくださいな」

 

 

 

 #

 

 

 

 シチリアIS学園都市の地中海が展望できるカフェテラスで紺碧に輝く地中海を背にセシリアたちが話を続けていた。

 

「神隠しですの?」

 

 セシリアが同じテーブルについたサラの話に驚いて聞き返した。

 

「端的に言うとそういうことだね。最近IS学園都市内で女性がいなくなる事件が頻発してるんだよ」

 

 とサラ。サラの前のテーブルにはオレンジジュースとハニートーストを注文してテーブルに運ばれている。

 サラが説明を続ける。

 

「それに1月ほど前シチリアIS学園都市の生徒も神隠しにあったみたいで、行方不明になってるんだよ」

 

「それは大変ですわね。警察の捜査は進んでおりますの?」

 とセシリア。サラの口調には心配そうな色がありありとにじみ出ていた。

 

「警察は一応捜査してるみたいなんだけど、あてにはならないのさ。シチリアの警察はマフィアと癒着してるし、だからってわけじゃないけど、まともに捜査されてるのかすらあやしいものなんだよ」

 

 残念な様子で言って、サラが続ける。

 

「それで私たちも独自に何か調べられないかと思ってるんだけど、シチリアIS学園都市側の許可が下りない。どうもこのシチリアIS学園都市からずっと南の地下研究施設建設予定地があやしいんじゃないかと思ってるんだよ」

 

 サラが丸テーブルにシチリアの観光地図を取り出して丸テーブルに広げる。

 研究都市の南東を指さして続けた。

 

「ここだよ。3週間前にもこの近辺で女性が行方不明になってる。ここは地下研究施設の建設予定地でね、でもその計画は途中で凍結されたみたいで、ここの巨大な地下空洞内は警察も把握していないんだよ」

 

「それは調べてみる価値がありそうですわね。シチリアIS学園都市を中心に行方不明事件が相次いでいる以上、どこかになんらかの原因があるはずですし」

 とセシリア。

 

「そういうことだね。だからそこでIS学園のみんなにお願いしたいことがあるんだ。われわれがここを捜査するといっても市長の許可が下りない。でもIS学園側が独自に調査を申し出れば話は別だ。織斑先生にはすでに話をしてある」

 

 IS学園に急な要請があったのはこのことがあったのだろうか。

 頭の片隅で想像しながらセシリアが言った。

 

「そうですわね、私はぜひ協力させていただきますわ」

 

「ありがとうセシリアさん。あなたたちにお願いしてよかったよ」

 

 セシリアが言うと。サラは顔をほころばせた。

 

「調査が始まるなら早くて5日後くらいになると思う。その間もよろしく頼むよ」

 

 

 

 #

 

 

 

 アルバニ3号はIS研究都市にほど近い繁華街をローラーで歩行速度で移動していた。

 あたりには商店街やアミューズメント施設があり、人々の往来も盛んだった。

 普段飛行艦のドックだけが自分たちの世界だった自律思考戦車にとってそこは文字通り新世界だった。

 

『うわー。こりゃすっごいなー。みんな並列化してあげたら喜ぶぞー』 

 

 商店街も目を引いたが、とりわけ機械類のジャンクショップは興味を引いた。

 アルバニ3号はそれらを長々と見たあとも、道なりにそって街をサーチしながら大通りを移動していた。

 

「ねぇあなた。軽戦車でしょう?シチリアじゃみない型だけど、もしかしてドイツと日本の試験運用機じゃない?」

 

『へ?』

 

 アルバニが少女の声に振り返ると、そこにはカフェでパフェを食べたあと、父親のネッドと分かれて一人大通りを歩いていたクロエの姿があった。

 クロエは両手を組んで、ややふてぶてしそうにアルバニ3号を見上げていた。

 

『きみすごいねー。シチリアの兵器について全部わかってるの?』

 

「ああうん、だいたいね。それにその返事の仕方。やっぱりドイツと日本が試験的に開発した自律思考戦車でしょう?アレクサンダーに同行してたのね」

 

 10歳前後の少女にそこまで看破されて、アルバニは感心しきりだった。

 

『ご明察。でも僕の名前はアルバニっていうんだ。アルバニ3号。君の名前は?』

 

「ふぅん。アルバニねぇ。なんだかウサギみたいな名前ね。私の名前はクロエ。クロエ・クリストフ・ヴァルツよ」

 

 少女は言って、アルバニの車体をゴンゴンと叩いた。

 

『クロエかー。いい名前だね。よろしくクロエちゃん!』 

 

 アルバニは、青い車体の前部の白いボーリングの球状の目をクロエに向けて言った。

 

『ところでクロエちゃんは、どうして硝煙の匂いをさせてるの?』

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