7月に更新する予定だったのに8月にまでもつれ込むとは…!
はい、お得意の言い訳です。すみません。……ぐすん。
頭に手を入れられ、直接かき混ぜられているような思考。
正常に働かない頭の隅で、単純な疑問が断片的に浮かび上がった。
『(怪我…?我が?)』
いくら本来の姿で無いとはいえ、この体の硬度は高い。
それこそ、並大抵の攻撃ではかすり傷一人つかない程には。
それに、攻撃を食らう前のあの感覚…。
『く、ククッ、ハハハハハ!』
あぁ成る程、合点がいった。
我もそうだったのだ。そういう奴もいるだろうよ。
一人納得し、口角を上げて牙を剥き出した。
『随分な挨拶ではないか!』
姿の見えない虚空に向かって叫ぶ。
一拍の間を置き、小さな笑い声がその場に響いた。
「あはは、キミが弱くなっただけじゃな……がっ、」
『そこか』
未だに我の目は相手の姿を捉えきれていないが……声が聞こえれば十分だ。
紅雷を全身に纏い、全力でその空間を振り抜いた。
確かな手応を感じるとほぼ同時に、直線上の壁が轟音を立てて崩壊した。
「痛ったた…」
勿論、あれだけで終わる奴ではないのは承知済みだ。
僅かにただよう煙の中から、黒い影がゆらりと立ち上がった。
「ちょっとさー、喋ってる時に攻撃するなんて性格悪いんじゃない?」
『生憎と育ちの良い生活をしていないのでな』
「アハ、それは偶然。僕もだよ!」
仕返しとばかりに我が居た地面に焼け焦げたクレーターが出来上がる。
空中に跳んで躱せば追撃に蒼い雷が迫り、紅雷で相殺した。
衝撃の余波は払いのけて地面に着地し、ようやく全貌が見えた相手に笑いかけた。
『挨拶はこれぐらいで良いだろう?なぁ――――麒麟』
そう言葉を投げかけると、アイツの殺気が僅かばかりに和らいだ。
「えー?折角楽しくなってきたところだったのにー!」
『貴様はいつも間が悪い。だから仲間外れにされるのだぞ』
「僕は戦いが好きなだけだよ。弱い奴らが悪い」
獰猛な笑みを浮かべながら、堂々と胸を張る。
相変わらず露出の激しい服だ。確かに動きやすそうではあるが。
懐かしさに興奮していたが、段々と熱も冷めてきた。
思考の方も冷静さになってきましたね。
危ない危ない、あのまま暴れていたら取り返しの付かない事態になっていました。
『それより、どうしてアナタがここに?』
「ありゃ?もう戻っちゃったか。残念。」
『質問に答えてもらえますか?麒麟』
「はいはい。分かりましたよー」
おどけた様子で両肩を竦めた麒麟が諦めたように語りだす。
どうやら麒麟は数日前に突然この大陸に来たらしく、原因も不明。
強い人を探していたら偶然にも私の気配を見つけ襲撃した、と。
『麒麟はここがどこか分かっているんですか?』
「全然。でもチラホラと強い気配はあるし、どうでもいいよ」
強者がいるという理由だけであっさりと元の場所への未練を捨てる麒麟。
楽な性格してますね。ある意味羨ましい限りですよ。
「で、ルーツはここで何してる訳?」
すでに興醒めしたらしく、周りをキョロキョロと見渡しながら聞いてくる。
麒麟のその行動に、私も疑問を感じた。
『今ギルドに所属しているのですが…』
「えっ、ギルド?キミが?………ブフッ」
アナタはしていないのですか?
そう言おうとした矢先、麒麟に遮られた。
それも抑えきれていない笑い声で。
「アハハハハッ!ギルド!ギルドだって!?あれだけ人との関わり合いを避けていたキミが!?」
完全に冗談だと思われたらしく、お腹を抱えて笑われる始末。
最後の言葉に苛立ちを感じながらも、麒麟の笑いが治まるまで黙った。
しばらくすると、喉からヒュウという音を出しながら涙目で私を見返してきた。
いや、何軽く呼吸困難になりかけてるんですか。
『言っておきますけど、冗談じゃないですからね?』
「はぁ…はぁ……ぶふっ…」
『聞いてます?』
「あはは、聞いてる聞いてる」
顔が笑ってますが、まぁいいでしょう。
これ以上付き合っていたら時間の無駄になりそうです。
一応疑問も解決しましたし。
『麒麟はギルドに所属していないんですね』
「あのさ、ルーツは僕を笑い殺す気?」
『そんなつもりは毛先程もありません』
ばっさりと言葉を切り捨て、踵を返す。
だいぶ時間を許してしまいました。ナツさんの方は大丈夫でしょうか?
「あれ、もう行っちゃうの?僕全然
『アナタに関わっている暇はありませんので』
最初はファントムに所属しているから攻撃してきたのかと思っていましたが、違うのならもう用はありません。
ここに現れたのもお得意の空気を読まない行動のせいでしょうし。
「ふーん。ま、別に良いけど。ここにはルーツ以外の強い奴いなさそうだし」
麒麟は肩を竦めると、何でもなさそうに言葉を続けた。
「あ、そういえばアイツも来てるよ。ほら、ルーツの大っ嫌いな赤い…」
『黙れ小僧。殺すぞ』
「こっわーい!あはは!」
放った殺気をさらりと受け流され、面白そうに笑われる。
そのまま蒼い雷撃で近くの壁を破壊すると、崩れた瓦礫に足をかけながら振り返った。
「また来るねー!」
『出来れば二度と会いたくありません』
「いやん。ルーツのいけず!」
私が苛立ちを感じる頃に麒麟はすでにいなくなっていた。
相変わらず素早さに関しては私を超えますね。
だからこそ捕まえられずに厄介なのですが。
流石は麒麟の王とでも呼びましょうか。
『……少々厄介なことになってきましたね』
小さく溜息を吐き、麒麟とは逆方向にその場を駆けた。
今はギルドのことだけを考えましょう。
ガチ戦闘は無しです。
ちなみに作者の中では麒麟さんは戦闘狂のイメージ。
闘技場にまで出てくるなよ…。