ファイトステージから出てきたシノンは血で真っ赤だったが、表情はいつもと変わらないものだった。
「シノンちゃん!大丈夫なの?」
出口のすぐそばで待っていたリンがシノンに駆け寄った。
「大丈夫よ。血もリィから動ける程度にはもらったわ」
「なら大丈夫…かな?」
「いやぁ負けちまったなぁ…」
歩いてきた牙王は負けたにも関わらず笑顔だった。
「ファイト、楽しかったわ」
シノンが手を出しつつ言った。
「ああ!俺もだぜ!」
牙王はシノンが伸ばした手を握り、握手をした。
『シノーン!』
牙王の横にいたバルがシノンを呼ぶ。
「何かしら?」
バルに気付いたシノンは、屈んでバルに目線を合わせた。そして、バルは1枚の落書きされたカードを渡した。落書きのようだが、リィが大きな爪で敵を攻撃している絵だと分かる。
『ファイト楽しかったバル!だからこれ、お礼バル!』
「何これ?ただの落書きじゃ…うっ!」
シノンが何かを言いかけた時、落書きされたカードから光が放たれ、リィの必殺モンスターカードになった。
「これは…必殺モンスター?」
「んじゃ、俺たちはもう帰るぜ、じゃあな!行くぜ!バル!ドラム!バッツ!」
『早く帰ってピザを食べたいバル!』
『だったらオイラはプリンだ!』
『俺様はたこ焼きだぁー!』
牙王とそのバディたちはキャッスルを後にした。
「いいなぁシノンちゃん、それシノンちゃんしか持ってないって事でしょ?私もファイトしたら貰えたのかなぁ?」
「どうかしら。これ、リィの必殺モンスターよ?バディの。
「うぐっ…、それもそうかも…。それより、今からどうする?」
「私は帰る予定よ。元々リンに付き合わされて来たんだから」
「…だったら、私の家に来ない?」
「リンの家に?構わないわよ」
2人はリンの家に向かって歩き始めた。
〜リンの家〜
「結構大きいわね。リンの家」
「そうかな?とりあえず入って入って」
リンがシノンの背中を押して家に入っていった。
玄関には掃除をしている金髪の若い大人の女性がいた。星形のあほげはないが、リンにとても似ている。
「リン、おかえり」
「ただいま母さ〜ん!」
リンの発言からして彼女はリンの母親らしい。
「リン、その子は?血だらけだけど…」
リンの母親は少し引き気味で尋ねた。
「この子は前から話してたシノンちゃん!」
「あなたがシノンちゃんかぁ。リンが話してた通り可愛いね。入って入って。あ、でもシャワーは浴びてね?そこの階段を上がってすぐ左にあるから」
リンの母親はすぐ後ろの階段を指差した。
「分かりました。お邪魔します」
「敬語なんていいんだよ?それとリン、ちょっといい?」
リンの母親はリンに手招きした。
「ん?どしたの母さん?」
「ゴニョゴニョ…」
「本当に!?シノンちゃん!」
「何?」
「今日泊まっていかない?」
「……リンがそう言うなら、そうしようかしら」
シノンは少し考えてから泊めてもらう事にした。
「やったー!」
「良かったねリン。シノンちゃん、遠慮はいらないからね?」
「分かったわ」
シノンとリンは階段を上がっていった。
「リンから話は聞いてたけど、血だらけの状態で平気な顔してる女の子のインパクトは凄いなぁ」
2人が階段を登り切るのを見たリンの母親が感銘を受けた。
数分後、風呂から上がった2人はスッキリしていた。
「気持ちよかったね〜シノンちゃん」
「えぇ。それよりいいの?服借りて」
「いいよいいよ。シノンちゃんならオッケー!」
「そ、そう…」
「こっちに私の部屋があるから来て来て!」
シノンはリンに言われてついていった。2階の廊下はそれなりに広く、扉が左右に3つずつ存在している。風呂場の扉は階段を上がってすぐのところにあり、それを含めれば左側の扉は全部で4つである。リンが誘ったのは右側の奥から2番目の部屋だった。2人はそのまま中に入っていく。
「はい!ここが私の部屋でーす!」
リンの部屋は、全体的に青白く、家具は机や棚といった一般的に部屋にあるようなものだった。ただ何故かベッドは2つあった。
「……リン、なんでベッド2つあるの?」
「やっぱりそこ気になるよね〜!理由はたった1つ!いつか泊まるであろうシノンちゃんのため!」
「……もしかしてそのためにわざわざ買ったの?」
「うん。母さんに頼んだら買ってくれた!」
「そこまでするのね……。で、何するの?」
「もちろん、バディファイトだよ!」
『なァ、シノン』
シノンのデッキから現れたリィがいつも通りシノンの頭の上に乗って聞いた。
「何?」
『思ったんだけどよォ?ルミナイズしなけりゃオマエは別に出血する必要ねぇから、リンとも全然ファイトできたんじゃねぇかァ?』
「………言われてみれば」
「じゃあ私、何のために今まで我慢してたの〜!?」
「今からできるからいいじゃない」
「そうだけど…」
「とにかく、やるんでしょ?」
「あ、うん!」
お互いにデッキを取り出し、準備する。
「リィ、開始宣言して?」
『おう、いいぜェ。じゃ、バディーファイッ!』
「「オープン・ザ・フラッグ!」」
「ダークネスドラゴンワールド」
「スタードラゴンワールドー!」
〜数時間後〜
「エーヴィヒカイトでリィをアタック!」
「キャスト、魔狂の血鏡。攻撃を無効にしてリンにダメージ1」
「え、ちょ…」
リン
【ライフ 1→0】
「私の勝ち。これで20連勝ね」
「強いなぁ、シノンちゃんは」
「ねぇリン、デッキ見せてくれない?」
「私の?いいよー」
シノンは受け取ったデッキを綺麗に広げる。
「……やっぱり」
「やっぱりって何が?」
「リン全然モンスター入ってないじゃない…」
「エーヴィヒカイトでライフを沢山払うから回復系の魔法を結構入れてるんだよ!」
「そのエーヴィヒカイトの能力でモンスターが出る確率考えた?」
「………か、考えた事も…あった、かなぁ…?」
そうシノンに返答したリンはすかさず目を逸らした。
「リン、カードはある?」
「あるよー。えーっとたしかこの辺に…あったあった。はい」
リンは棚から大量のカードを出した。
「これだけあれば十分ね。リンのデッキはエーヴィヒカイトでモンスターを大量に出す、というのがメインなのよね?」
「そうだよ」
「ならまずはモンスターをある程度入れるところからね。さすがに魔法38、モンスター12はまずいわ…。最低モンスターは半分以上の25枚は欲しいわ。だからこのカードを抜いて、かわりにこのカードを……」
リンのデッキ改善はまだまだ続くのだった。
その頃、相棒学園のとある廊下。
『ま、迷ったゲー…。学園内では姿をあんまり出すなって孫六に言われてたからロクに道を覚えてないゲー…』
赤いマフラーをして、浮遊する小さなガイコツが困っていた。
『俺は道を覚えるという事は興味無くてな…。今になってダビデに教えてもらえばよかったと思っている』
隣にいた赤く光る1つ目を持つ、鎌のように鋭利な腕の小さなドラゴンも同じく困っていた。
『はぁ…一体孫六はどこに行ってしまったんだゲー…ん?……!隠れるゲー!』
ガイコツが前方を見た後、慌てて隣のドラゴンを押して教室に隠れようとする。
『おい何故だ。説明を…』
ドラゴンは最後まで言う事なく教室に押し込まれた。2匹は入った教室の窓から少しだけ顔を出して廊下を確認する。
『すぐに分かるゲー…』
ガイコツがそう言うと2匹が入っていた教室の横を、左右に4つずつ緑の目が付いている巨大な竜型機械が通り過ぎて行った。その目はギョロギョロとあらゆる方向を確認していた。
『何だ今のは?』
ドラゴンがガイコツに聞いた。
『あれは少し前に孫六から聞いた恐ろしいモンスターだゲー。見つかったらとんでもない目にあうらしいゲー…』
『…お互い早いところバディを見つけた方が良さそうだな』
時が少し経ち、リンのデッキ改善が終わりそうだった。
「あとは…これを入れれば終わりね。ほら、できたわ」
シノンが完成したデッキをリンに渡す。
「これが私の改善されたデッキ…!ありがとうシノンちゃん!このままファイトしてもいいけど、ちょっと休憩。テレビでも見よ?」
「いいわよ。自分のならともかく、他人のデッキの見直しは大変ね…」
リンはシノンの話を聞きつつ、近くにあったリモコンを操作してテレビをつけると、あるニュースがやっていた。普段なら他に何か面白い番組がやってないか一通りチャンネルを切り替えるのだが、丁度やっていたニュースに目が止まったためそうしようとは思わなかった。
“本日、カードショップ『キャッスル』にてファイティングステージで行われたある1試合が話題となりました。”
「キャッスルって帰りに寄ったカードショップじゃん」
「そうね、何かあったのかしら」
“その内容は『ファイター自身が血を流す』というものでした。試合を見ていた人たちにインタビューをしたところ、こんな声が聞こえました。
「あれな〜、最初はマジでビビったけど途中からすげぇー!ってなったんだよな!」
「あの子、すごい量の出血でしたけど平然としてました。私には何がなんだか…」
以上、話題となった試合についてでした。次は…”
「「……………」」
2人はしばらくの間、お互いを見つめ合い黙りこんだ。
「………ねぇリン」
「何?シノンちゃん」
「どう考えてもこれ私の事よね」
「そうだね…」
「今日の出来事よ?ニュースになるの早すぎよ…」
「それくらいシノンちゃんのファイトがすごかったんだよ。私もびっくりしちゃったもん。ん?ニュースになったって事は……シノンちゃん有名人じゃん!」
「こんな形で有名になっても嬉しくないわよ…」
「だよね〜」
「ファイト、しましょうか」
シノンが自分のデッキを見せながら言った。
「そうだね…」
【シノンの4ターン目】
「リィでファイターに2回攻撃」
リン
「あぁ!」
【ライフ 2→0】
「これで24連勝」
「また負けかぁ。でも今までより追い詰めたと思う!」
「そうね。今回は危なかったわ」
「ホント、惜しかったな〜…と、もうこんな時間かぁ」
リンが壁にかけられた時計を見て言った。時計の短針は6の文字を過ぎていた。
『zzz……』
リィも疲れたのか、静かに寝ていた。シノンの頭の上で。
「今更なんだけど、シノンちゃんは家族に『お泊まり会する〜』みたいな連絡はしなくて良かったの?」
「私、1人暮らしよ」
「あ、そうなんだ。…え、1人暮らし?」
「えぇ。でも生活とか苦労はしてないわ。それに…」
シノンが頭の上で寝ていたリィの頭を撫でながらこう続けた。
「今は、私が心から愛している家族がいるから寂しくも無いわ」
「シノンちゃんにとっては大事な家族なんだね。あ、私は?」
リンが大人しく聞いていたかと思えば、話が終わった途端に目を輝かせて聞いてきた。
「友達」
「即答!?」
「嫌なら赤の他人で」
「違う!そういう事じゃない!」
「…分かってるわよ」
コンコン
「ん?どぞー」
ガチャ
「そろそろご飯にしようって呼びに来たんだけど、聞いちゃった。1人暮らしの話、詳しくいい?」
扉を開けたのはリンの母親だった。
「いいわよ」
「それじゃあ遠慮なく」
と言って、リンの母親は部屋に入る。
「…私が1人暮らしっていうのは、捨てられたからよ」
「捨てられた!?」
「ひどい話…」
「捨てられたのはその辺じゃなくて、ダークネスドラゴンワールドなの。理由は謎だけど」
「「ええ!?」」
シノンの衝撃の発言に2人は驚きを隠せなかった。
「そもそもダークネスドラゴンワールドってそんな簡単に行けるの!?」
「知らないわよ。で、案の定ダークネスドラゴンワールドのモンスター達に襲われ…」
「死んだの!?じゃあここにいるシノンちゃんは!?もしかしてユーレイ!?でも触れるし…」
「最後まで聞きなさいよ。襲われたけど、2体のモンスターが助けてくれたのよ」
「人間を庇うなんて優しいモンスターだね」
「どんなモンスターだったかしら…。たしか……蛇みたいなモンスターと、角が生えてヒラヒラしたものを身につけてたモンスターだったような……とにかく助けてもらったのよ。お礼くらい言いたいわ」
「その時に言ってないの?」
「言ってないわ。あまりに怖かったものだからすぐにその場から去ったわ」
「そうだよね…」
「それと前言ってた家庭の事情の事だけど、私は人を信用できなかっただけ」
「シノンちゃんが出会ってる人はシノンちゃんを捨てた最低な人だけだもんね。無理ないよ。母さんみたいないい親だったら良かったのになぁ…」
「過去の事を何言っても仕方ないわ。今を生きていかないと」
「シノンちゃんは前向きだね。偉い偉い」
リンの母親が笑顔でシノンの頭を撫でた。照れ隠しか、すぐにシノンはリンの母親の腕を払った。
「モンスターは人より信用できたからリィをバディにしたの。そしたら驚く事に、大勢の生徒が急に話しかけてきて…。それで話して分かったわ。人は信用していいんだ、って」
「シノンちゃんにはそんな過去があったんだね。もしかしてその目も…」
「いやこれは生まれつき。捨てられたのはこれが原因なのかもしれないわね」
こうしてシノンの過去の話は終わり、3人はリビングで夕飯を食べたのだった。
「はぁ…」
翌日、シノンは登校中にため息をついた。
「シノンちゃん、朝からため息ついてどうしたの?」
「昨日寝たはずなのに疲れてるのよ…」
それは今朝の出来事だった……
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「ふぁぁ…リンおはよ…」
「今日もおお!!一日いい!!頑張ってええ!!いきましょおおーーー!!!」
寝起きのリンの声が部屋中、いや家中に響き渡る。
「ひゃう!?……………急に大声出さないでくれるかしら?」
「いやぁごめんごめん、私朝に大声出さないと気持ちよく起きれないんだよね〜」
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「思わず変な声出しちゃったじゃない。責任取りなさいよ」
「まぁまぁそんな事言わずにさ〜」
2人が話していると、相棒学園校舎前にあるエスカレーターのところでビラ配りをしている三つ編みの女生徒がいた。
「さぁさぁ!ネオABCカップ開催するよー!興味ある方ー!詳細が気にならなーい?」
『ネオがつくほど気合を入れているらしいのだー!』
生徒だけではなく、緑の体色の小さな人型モンスターも一緒にビラ配りをしていた。
「ネオABCカップ?」
「ABCカップとは違うのかな?」
「そのABCカップは?」
「シノンちゃん知らないの?」
「興味無かったし」
「ならば教えてあげよう!ABCカップとは、この相棒学園で年に一度行われる初等部と中等部の生徒で行われるバディファイト大会の事なのだ!」
「年に一度の大きな大会って事?」
「そう!でもネオは知らなーい」
2人は配られていたビラを受け取った。それをエスカレーターに乗りながら確認した。
「え〜と…なになに?ネオABCカップはABCカップとは違い、バディを所持していないファイターも参加できる…だってぇ!?」
「良かったじゃない。バディがいない人は大会用のコアデッキケースを配布されるらしいわね」
「うんうん!もうコアデッキケースは貰いに行けるみたいだから早速行く事にするよ!」
リンは目を輝かせていた。
「受け取り場所、うちのクラスよ」
「え?……本当じゃん」
「手間が省けたわね」
〜教室〜
「来たぞマイクラスルーム!」
「いつも以上にやかましいわね」
「Oh〜!リンガ〜ル!マイ◯ド・スキャン!ユーもこのネオABCカップ用コアデッキケースが欲しいと見えマース!」
担任のベガカス・B・ブラフォード先生が教卓から1つのコアデッキケースを取り出し、教室に入ってきたリンに言った。
「さっすがベガカス先生!まるで人の心が読めるみたいです!」
「当然デース!ではユーにプレゼントー!」
「ありがとうございます!」
「開催は来月。その間に正式なバディファイターになれれば尚良いわね」
「バディ欲しいよぉー!」
「ファイナルフェイズ…」
中庭から声がした。
「ん?何だろ?」
気になったリンが中庭を覗くと、ファイトが行われていた。ファイトしているのは先日シノンとファイトした未門牙王ともう1人、紫の髪の少年だった。
「センターに必殺コール…。ゲージ3を払い、アビゲールを…必殺モンスターに!」
すると、センターとライトにいた頭上にブラックホールを浮かばせた黒いドラゴンが破壊され、1つ目の巨大な球体が現れた。
「アンリミテッド・デスドレイン!」
球体が相手のデッキのカードを吸い込む。
「貴様のデッキを10枚破壊!これで貴様のデッキは尽き、俺の勝ちだ」
デッキアウトによりファイトは未門牙王の敗北に終わった。
「くぅ〜!いいファイトだったぜ、ガイト!」
「私、あの人とファイトしたい!」
「してくれば?すぐそこに中庭に繋がる通路があるじゃない」
「よし!シノンちゃんも行こうよ!」
「私も?別にいいけど」
2人は中庭に出た。
「牙王。お前も参加するのだろう?ネオABCカップに」
「ああ、もちろんだ!」
「おーい!牙王くーん!」
「ん?おお!お前ら!」
「知り合いか?牙王」
「ああ!こいつらは昨日キャッスルで出会ったんだ!」
「
「
「黒渦ガイトだ」
『そして俺がガイトのバディのアビゲールだ』
「ガイト!さっきのファイト見てたよ!そしたらファイトしたくなっちゃってさ!ファイトしようよ!」
「いいだろう。お前の挑戦を受けるのが俺の運命だ」
ガイトとリンが中庭にあるファイティングステージに立った。
「こんなところにファイティングステージなんてあったかしら?」
「最近建てられたらしいぜ」
「中庭なんて行かないどころか、見もしないから知らなかったわ」
次回はリンとガイトのファイトです。はてさてどんなファイトになるのか!?次回をお楽しみに!