「俺だってチートが欲しかった〜ブサイクデブなおっさんの魔法陣」 作:雨天 蛍
水の多い環境だからか、この世界の森は少し変わっている。背丈の高い薮などは無く、ツタ植物が多いのだ。そして、足元は泥っぽいのにも関わらず、何故か雑草が根強く生えている。
「ここは野良犬やカエル犬が多いから気をつけろよ」
トールさんが注意をしてくる。カエル犬は、おそらく幼女エルフと出会った時にいたあいつだろう。
若干トラウマだ。
「少し奥に入るぞ。見通しはいいから逸れないとは思うけど、余所見すんなよ」
「分かりました」
冒険者三人組を先頭に、森の奥へと進む。途中でキノコとかが生えているのを見かけて、トールさんに聞いてみた。
「あのキノコはなんですか?」
「あん? ……ああ、あれか。あれは香水とかに使われる奴だったはずだ。かさの中に水を貯めててな、それがすげぇ臭いんだよ。絶対踏むなよ」
臭いらしい。毒では無いらしいので、幾つか摘んで持っていく。香水の元なら売れるだろうか。
結構奥まで進むと、綺麗な花畑のある場所に着いた。ここが目的地のようだ。
「ここだよ。足元見てみな? いつの間にか緑色の水に変わってるだろ」
トールに言われて足元を見ると、いつの間にか水が緑色になっていた。藻だろうか。
「実はここライフポーションの原液が流れてんだよ。そこに生えている花が原因だと判明してるんだ。それで、どうにか人間の生存圏で栽培する方法がないか検証してるんだよ」
それが俺の研究だ。と言ってトールは花畑の方に向かった。
ライフポーション、名前からして生命力の回復に使えるのだろうか。
少し足元の水を掬いあげて、箱の中にかけてみた。
「…………」
「やっぱり死体には効果ないのかもな」
残念ながら、少しの液体ではなんの効果もなさそうだった。濡れたミイラを袖で拭いた。
俺も花を少しだけ貰っていいだろうか。許可なんてどこに取ればいいか分からない。もらった。
青白い花だ。匂いはしない。
「とりあえず今回の分は回収したぜ。おっさん。おまえはさっきのキノコだけでいいのか? 時間ならまだ余裕あるから、どこか散策するか?」
「いえ、大丈夫です」
戻りましょう。と続けようとしたところで、どこからか弓矢が放たれた。トールさんの肩が貫かれる。
「アァア!!」
「くっ! 敵襲!」
遅れて冒険者三人組が警戒に入った。遅い、遅すぎるぞ。だからCランクなんだ。
敵は、警戒に入った俺たちの元へあっさり姿を表した。
トカゲだ。トカゲの人間。リザードマンとか言いそうな奴。
「クロロ……ニンゲンダ! ニンゲンダゾ!」
「コロセ! ツカマエテオウサマニケンジョウダ!」
二匹現れた。どっちも石っぽい丸盾とククリナイフを持っている。
弓矢は装備していない。
「皆さん、まだ敵は隠れています! 弓矢を持った奴がいません!」
「おう! トール様とおっさんは先に逃げてくれ! ここは俺たちが引き受けるから! 応援を呼んでくれ!」
冒険者三人組に言われて、トールさんに肩をかして逃げることにした。
応援を呼ぶにしても、間に合うかどうかは分からない。無茶はしないようにとだけ願った。
適当なところで逃げていいから。
「グッ……私を置いていけ。肩の怪我くらい自分で治せる。お前一人で先行した方が早い」
肩に弓矢が刺さったままのトールさんを連れて森を出ようと急いでいると、トールさんが辛そうに言った。
「元は、私がここにおまえを誘ったのが悪いんだ……いいから置いていけ」
確かに、トールさんに肩をかして逃げている時点で進みは遅い。だけど、そもそも肩に怪我をしただけでこんなふうになっているトールさんを見捨てられない。
多分、毒塗られているだろうし。顔色も悪い。
「ケロケロ……」
「こんな時に……!」
犬の頭をしている癖にカエルみたいに鳴いたカエル犬が寄ってきた。
噛み付かれた記憶が蘇ってくる。
「あっち行けよ!」
地面の泥を蹴っ飛ばしても、カエル犬はひるまない。むしろ飛びかかってきた。
「うわあああ!」
トールさんを放り出して後ろに下がった。腰が引けて、地面に背中からひっくり返る。
その時、地面に転がり落ちたものをガムシャラに投げつけた。
「キャイン!」
キノコだった。それは強烈な臭いを放ち、たちまちカエル犬をどこかにやってしまった。
「トールさん!」
「いてて……。わりぃ。私、これ以上は動けなさそうだ。多分、矢に毒が塗られてたんだと思う。救助呼ぶにも、お前が一人で行った方がいい」
もう自力で立ち上がれなさそうなトールさんを見て、悔しさが溢れる。
俺にもチートがあれば、どうにか出来たんだろうか。トカゲを追い払って、トールさんの怪我を治せたんだろうか。
俺にチートは無い。今は出来ることを探さなければ。
毒があるなら、まずはそれを体から出さないといけない。トールさんには悪いが、上の服を奪い取る。
「ちょっと! な、何してんだよ!」
「救命行為ですので、我慢してください」
そして、肩に刺さった矢を抜く。返しもあったのか、少し肉がえぐれてしまった。
その傷口に口を押し付ける。一気に吸い上げた。
「うあっ!」
痛みに暴れようとしたトールさんを無理やり押さえつける。血を吸い出したら地面へ吐き捨てた。
これで多少は毒が抜けただろうか。こうするのが遅れたので、体に毒が回っているのだが、これ以上悪くはならないと思いたい。
「トールさん、魔法陣は分かりますか?」
「……魔法陣?」
痛かったのか、少し涙目で顔の赤いトールさんが首を傾げた。
「解毒の魔法陣があるなら、教えて欲しいのですが」
「ああ……確か、調べたことはあったな。紙あるか?」
先日回復魔法を使い白紙になった習得書のページを渡した。そこにトールさんは魔法陣を書き込んだ。
「だけど、触媒が無いだろ……? 時間の無駄だから早くいけよ……」
「一つだけ、思いついている方法があります。トールさんは後ろを見ててください」
それは命の交換。新鮮な俺のベイビー。
生命の危機と近くにあった美少女の体で既に俺の相棒は臨戦態勢だった。肩をかして前かがみになっていたのでごまかせただけだ。
「うおおおおおおおおおお!!!」
唸れ俺の右手! 生命錬金術! 触媒は既に目の前にある! 美少女の背中だ!
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!! ──ふぅ」
なにしてんだろ。俺。
魔法陣はホワイトソースで汚れていた。後は血があれば発動するかもしれない。
「すみません、トールさん。血を少しだけ貰いますね」
「ひゃん!?」
肩から流れている血を少しだけ貰う。驚いた時にあがった声で、相棒はまた元気を取り戻した。
だけど、それはまた今度だ。じゃあな。
相棒をしまう。魔法陣にトールさんの血を垂らすと、魔法陣が強い光を放った。
「……出来た。出来ちゃったよ」
「あ、動ける! 動けるぞおっさん!」
毒が抜けたのか、勢いよく振り向いたトールさんに、生返事を返す。
これは、世紀の大発見なのでは?