「俺だってチートが欲しかった〜ブサイクデブなおっさんの魔法陣」   作:雨天 蛍

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 武器屋を見つけた。

 

「……いらっしゃい」

 

 チビでハゲた筋肉質のおっさんが無愛想な態度で俺を一瞥した。

 

 無骨な職人って感じがする。

 

 チビでハゲの癖に格好いい。

 

 俺も筋肉があったら格好よくなれただろうか。

 

 そんなことより、武器だ武器。

 

 剣とか槍とか色々売っている。店頭に飾られたそれらは、ゲームで見るような背景絵にそっくりだったが、実感がすごい。

 

 値札もある。銀貨十枚とか、それ以上の値段ばっかり。

 

 高い。高いぞ異世界装備。

 

 俺の所持金銅貨二十枚。全然足りていない。

 

 銅の剣とか百五十枚くらいで買えるだろ。

 

 それでも俺の手持ち足りてないや。買えるのは上毒消し草とかだったはず。

 

 錆びたインテリジェンスソードとか安売りしてないかな。

 

「あの、すみません」

 

「あ? んだよ」

 

「銅貨二十枚で買える装備ってありますか?」

 

「武器屋にそんな安いもんは売ってねぇよ。矢束の矢一本すら買えねぇわ」

 

「あ、そうだったんですか……」

 

「チッ冷やかしかよ。帰れ」

 

 追い出された。貧乏が辛い。

 

 未だにホームレスだしな。俺。

 

 晩飯をトールさんに奢ってもらってる状況。

 

 朝食は自腹。一食銅貨五枚也。

 

 意外と野良犬も悪くない。ヘルシーな肉だと思うこの日頃。

 

 せめて、外に出る為に防具は欲しい。

 

 布の服くらいなら、買えるかも。おなべのふたとか。

 

 時代は堅実。武器より防具の時代。

 

 ネット小説でも、防御系主人公は人気が出る。

 

 俺も敵にダメージ与えられる盾欲しいな。三つ首のドラゴンがある盾とかドロップしないかな。

 

 人間から嫌われ者でいいから、奴隷に好かれる盾が欲しい。ケモ耳美少女に好かれたい。

 

 どうせ普段から嫌われているし。

 

 武器屋の隣は防具屋と相場が決まっている。意気揚々と隣の店に入った。

 

「いらっしゃいませー!」

 

 可愛い店員さんが出迎えた。地獄の隣は天国だった。天国と地獄。

 

「防具買いに来ました」

 

「あー……ここ、防具屋さんじゃないんですよ」

 

 違かったらしい。ゲームファンタジーの敗北。

 

「よろず屋といえば聞こえはいいですけど、雑貨屋さんやってます! 一般人向けですよ! 防具は売ってないけど、丈夫な服くらいならあります!」

 

 まさに俺が求めていた店だった。

 

「野外活動用ナイフとか武器に出来ますよ! 銀貨二枚です!」

 

 鉄製装備は高かった。

 

「予算、銅貨二十枚ですけど、何が買えますか?」

 

「えっ……二十枚ですね。……少々お待ちください!」

 

 非常識な予算なのかもしれない。

 

 色々雑多に置かれている棚を漁りまくって、少女は道具をカウンターに並べた。

 

「まずは丈夫な紐ですね! 銅貨十枚で、崖上りとかに使える程度には丈夫です」

 

 首をくくるのに向いていそうな緑色の紐を最初に紹介された。

 

「次は、魔術師の杖! ……に、見立てた、それっぽい装飾の入った杖です。魔法効果とかはありませんが、登山とか歩行の補助に使えますよ!」

 

 手に持つ部分に鳥の頭の装飾が彫られている杖を渡された。

 

「これはかの有名な魔術師ギルドの副リーダーであるエルフが使っていた筆。と同じ筆です」

 

 知っていそうな人の道具を見せられる。確かに同じものを持っていた。

 

「あとは、王国の守護騎士の筆頭騎士様が使っていた剣のレプリカです! オマケに彼女が愛読しているという噂の男色物の本もセットです!」

 

 商才がありそうななさそうな微妙すぎるラインナップを紹介される。笑顔と一緒に買いたいのだが、今は金銭に余裕が無いのだ。

 

 でも、この笑顔を曇らせたくない。

 

「紐、買います」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 背負った箱が肩にくいこんで痛いので、それを軽減できそうな紐を買うことにした。途端に嬉しそうな顔で頭を下げる美少女さん。

 

 いいね。この店。常連になろう。

 

 ブサイクにも優しくしてくれる店は貴重だ。品質より人間の質。

 

 こういう人は失いたくない。

 

 店を潰さないように、少しくらい俺も貢献するのだ。

 

 結局、紐は中途半端な長さで、上手く体に結びつけることが出来なかった。

 

 とりあえず、綺麗に纏めて、普段は枕にすることに決めた。

 

 

 

 仕事も終えて、夜の街を歩く。

 

 そろそろ宿に泊まりたい。いつまでもホームレスっていうのは心が軋む。

 

 適当にぶらつく。街の灯りが水路に反射してキラキラと光っている。

 

 水の音が聞こえる。

 

 騒がしいのに、どこか距離が遠くなるような気分だ。

 

 画面の向こうにある光景を眺めているような。そんな気分。現実との乖離感。

 

「ちょっと、そこの寂しそうなお兄さん」

 

 不意に、声をかけられた。少しだけブサイクよりな女の人だった。服の露出が多かった。

 

「今晩どうだい? 男の胸の隙間を埋めてあげられるよ」

 

「いえ……間に合ってますので」

 

 素人童貞でも卒業したい。でも、せめてお金を払うなら、自分の好みの女の子がいい。

 

 それ以上に、病気が怖い。

 

「なら、休憩だけでもどう?」

 

「大丈夫です。結構ですので」

 

「そう言わずに」

 

 近寄ってくる女性を手で制していると、その腕をとって、強引に店へと引きずり込まれた。

 

 酒場だった。薄暗いムーディーな雰囲気だけがある。

 

 会社の接待で、こういう場所に来たことはある。

 

 自分は基本ピエロ役だった。上司が自慢するために使う、自分を上に見せるための駒。

 

 こいつは出来ないやつでしてね。俺が毎日扱いてやってるんですよ。あ、下の方は自分で扱いてますよ。こいつ、もてなさそうな顔してるでしょ?

 

 キャバクラは嫌いだ。俺は客じゃない扱いなのに、きっちり金を持っていくから。

 

 適当に、愛想も悪く、少しだけ酒を飲む。飲みなれていなくて、クラクラする。

 

 異世界の酒は、不味かった。

 

 そして、十五分くらいで店を出た。

 

「お値段、銀貨十五枚と銅貨一枚になります」

 

「え?」

 

 お酒は、銅貨一枚分だったのだが。

 

「お客さんメニューに書いてあったでしょ」

 

 そう言って、会計の人はメニューを取り出す。

 小さく、白に極めて近い灰色の文字で『席代として銀貨十五枚いただきます』

 

 異世界でも飲み屋はこんなふうなのか。少しだけ、日本を思い出した。

 

 しかし、これは払えない。

 

 まごついていると、会計の人は、奥から人を呼んできた。

 

 ハゲの巨漢だ。二人組。

 

「お客さん。金もないのに飲みに来たのか?」

 

 無理やり連れてこられた。とは言えない雰囲気。

 

「あるもん全部もらおうか」

 

 奥の部屋に連れ込まれて、金から服から奪われて、ボコボコにされて店の裏に捨てられた。

 

 ミイラの入った箱は、残された。死体を運んでいるってことで、気味悪がって、残して貰えた。

 

 汚いデブのおっさんがパンツ一丁で生ゴミまみれ。一応、丁寧にコンが入っている箱だけは無事に地面に置かれた。

 

 地面に書いた回復魔法陣で、怪我は治した。泣きそうになりながら一発抜いた。

 

 服も無いから表に出られない。最高にスラムの人間っぽくなっている。いや、オヤジ狩りされたおっさんだろうか。

 

 なんだかなぁ。吸ったことは無いけど、無性にタバコが吸いたかった。

 

 やるせなくて、笑えてくる。

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