「俺だってチートが欲しかった〜ブサイクデブなおっさんの魔法陣」   作:雨天 蛍

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 ここの土地は森や運河などがあり、傾斜は非常に穏やかで、まず平坦だとしか感じられないような場所である。

 

 水が多いせいか、わりと地平線を見渡せる程度には周囲に何も無く、稀に野良犬が走っていくのを見かけるほどである。

 

 地面は粘土質であり、水はけが悪いところがどことなく日本と似ている。同時に、日中と夜間の気温差が激しく、夜中から明け方までずっと、周辺に霧がかかるのがここの特徴でもある。風が強い日等はその限りではないが。

 

 多湿な分、キノコ等の菌糸類の数や種類は豊富で、錬金術師等の道具を使った研究者が多いのがここの魔術師ギルドの特徴でもあるそうだ。

 

 その分魔術師ギルド全体は金欠気味でもあり、遺跡調査系等の、ここではあまり人気の無い分野は割を食っている。

 

 よって、俺しか遺跡調査はしないし、発掘依頼とかもないから冒険者はここら辺を掘り返して遺跡を新しく見つけたりはしないらしい。

 

 ぽつんと地面に若干埋まっている遺跡の一室に来た。相も変わらずここは何も無い。遺跡なのに盗掘するやつもいなければ、動物が根城にしている様子もない。

 

 不可侵。そんな言葉が脳をよぎった。

 

「相変わらずここはなーんにもないね」

 

 俺を連れてきたフーリーさんは遺跡をちらりと見ると、すぐに興味を失ったのか、周囲を見渡し始めた。

 

「さ、とりあえずレポートをかけるだけの調査をしときなよ」

 

「了解しました」

 

 レポートなど大学の時に書いたっきりだ。アレはどんな風に書いたのだったか。

 

 引用に次ぐ引用で誤魔化した記憶しかない。

 

 今度幼女エルフのレポートでも見せてもらおうと決めて、とりあえず調べることにした。

 

 荷物は全部持ってきているが、そこに調査で使えるようなものは一切ない。

 

 適当な壁に触れる。苔で覆われているそれを除き、本来の壁をむき出しにすると、何か文字が書かれているのに気付いた。

 

「……タイムマシン?」

 

 俺が唯一持っている識字チートが効果を発揮して、そこに書いてある文字を翻訳した。壁には時間遡行装置と書かれている。簡単に言えば時間の巻き戻しだけ出来る機械だと思われる。

 

 気になったので、壁にある苔を全部取り除くことにした。

 

「おや? なんか見つけたのかい?」

 

「ええ、まあ。少しだけ気になることがありまして。すみませんが手を貸していただけないでしょうか?」

 

「ん。いいよ」

 

 フーリーさんの手を借りて、遺跡にある苔やら何やらを雑にだが取り除いた。

 

 無機質な金属光沢が太陽を照り返す。

 

「おぉー。こうやって見るとまさに遺跡って感じになるね」

 

「遺跡とはこういうものなんですか?」

 

 ネット小説でもよくある設定だ。魔法文明の前は機械文明。ぶっちゃけどうしてそうなったのか理解が出来ない。

 

「まあ、今以上の文明や技術力があったのは確かだよ。かつては魔法を使う亜人と、機械文明の人間って感じに別れていた説があったり、エルフやビーストは機械文明で作られた遺伝子兵器だとか。色々言われているよ。まあ、確定した情報なんてないんだけどさ」

 

 フーリーさんが言っていたことが事実かどうかは分からないが、あながち決して間違いでもないような気がしてきた。

 

 この遺跡に書かれている文字が確かなら、この装置は時間を巻き戻すことが可能なのだから。

 

 外壁をぐるりと見回したが、それ以上に得られる情報はなかった。

 

 苔を取り除くのに時間がかかったので、残りはフーリーさんのフィールドワークをするために、遺跡を後にした。

 

 カエル犬がいる森とは別方向。そこは沼地だった。

 

 おそらく氷河期等が来なかったのだろう。巨大化した植物が独自の生態系を築いていた。蓮の葉っぱなど、俺が上に乗っても茎が折れなさそうだ。

 

「ここは魚やキノコが多い場所でね。より湿気もすごいからか、あまり人は来ないんだよ」

 

「確かに、凄いですね」

 

 霧雨だろうか、常に水が宙に浮いているとでも言わんばかりに服が濡れまくる。

 

 フーリーさんの白衣も濡れて、その身体のラインを浮き上がらせている。

 

 白衣を着た気だるそうな女性というキャラにしっかりあっていて、胸はしっかりと大きい。

 

 まったくけしからん! だらしない身体をしているな!

 

「視線うっとうしいよー」

 

「す、すみません……」

 

 ガッツリ視線を向けていたのがバレていたようだ。

 

「とりあえず私はここら辺にいるし、帰る時は呼ぶから中間管理職くんも色々探してみなよ」

 

 遠回しに私を見るなと言われて、とぼとぼとその場を離れることにした。

 

「しっかし、気持ち悪いな」

 

 来て一時間も立たないうちに魔術師ギルドで貰ったローブが水を吸いきった。

 

 裸にくっつくローブが気持ち悪い。

 

 体温が奪われる。

 

「誰も見てないし、脱ぐか」

 

 開放感に包まれる。大自然を前に生まれたままの姿。

 

 これは癖になりそうだ。

 

 全裸に箱を背負ったおっさんとか、絵面的にヤバすぎるだろうけど、ここにそれを見咎めるものはいない。

 

 気分があがってスキップしてみた。

 

「うわっ!」

 

 早速転んだ。泥まみれになる。

 

 もう最悪だ。人生はクソ。大自然もクソ。

 

 憂さ晴らしに全裸で水辺に行って泥を落としてやる。

 

 ちなみに、箱は無事だった。前からダイブしたのだ。

 

 箱は気密性もしっかりしているので、中にいるコンや今日買った雑貨の数々も濡れていることは無い。

 

 川に一回落としたけど、大丈夫だったからな。

 

 そういうことで、早速水浴びに向かった。

 

「ふぅー。気持ちええー」

 

 足元は泥だが、それなりに深くて泥が巻き上がっていない水辺はあっさりと見つかった。

 

 水が流れていないので思った以上に温かい。気分は温水プール。

 

 顔もしっかり洗い流したところで、沼から出ようと足を持ち上げる。

 

「……あれ?」

 

 足が上がらない。見ると、先程よりも深く、スネ辺りまで泥に埋まっていた。

 

 底なし沼ってやつか。動けない。

 

 …………。

 

「だれかぁぁぁぁ!! 助けてくださーい!」

 

 恥も外聞も無く全力で助けを求める。こんな死に方は嫌だ。

 

 しかし、どれだけ叫ぼうともフーリーさんから返事は来なかった。

 

 そういや思った以上に動き回ったからな。俺。

 

 なんか雨も霧雨からザアザア降る感じになってきているし、音が聞こえないのかもしれん。

 

 まずい。死ぬ。

 

「いやあぁぁぁぁぁ! だれかぁぁぁぁ!!」

 

 海外では助けてと直接声を上げると人は逃げていくと聞く。こういう時は火事だと叫んだ方がいいとか。

 

 裏声で助けを求める。気分は生娘。

 

「タスケヲモトメルコエガシタトオモイキヤ……。オマエ、ダレダ?」

 

 現れたのはトカゲさん。藍色の綺麗な鱗の二足歩行で歩くトカゲ。

 

 珍しいことに、白磁の鎧と直剣を持っている。

 

 ここに来て強そうな奴とエンカウントしてしまった。

 

「オマエ……ニンゲンカ? イヤ、デモ……メガホソイシ」

 

 この世界で醤油顔は珍しい。一重まぶたがここに来て輝いている。

 

「カミモハエテイルカトオモイキヤ、ニンゲンホドアルワケジャナイシ……テッペンモウスイ」

 

 おっさんになってくると、髪の毛も薄くなる。水に濡れればその薄さは隠しきれないほどに。

 

「オマケニフクヲキテイナイ。ニンゲンハフクヲキルカラナ。ドコノアジンダカシラナイガ、イマ、タスケテヤル」

 

 自分で納得して俺を助けてくれた。沼から一本綺麗に引っこ抜かれた。

 

 助かった。でも、何かを失ってしまった気がする。

 

 なんでだろう。涙が溢れて止まらないや。

 

「ダイジョウブカ?」

 

「はい……ありがとうございます」

 

 鼻をすすって感謝する。親切なトカゲさんは俺を励ますように肩を叩いた。

 

「キニスルナ。ワタシハ、ココニタマタマキタダケダ。ウンガヨカッタトヨロコンデオケ」

 

 そういえば、亜人がなぜこんな所にいるのだろうか。

 

 助けてもらったし、一応注意しとくか。

 

「あの……助けてくれてありがとうございました。お礼といってはなんですが、明後日、人間が亜人の大討伐を計画しているそうです。もしかしたらここも危険になると思うので、早く逃げた方がいいですよ」

 

「ナニ!? ソウダッタノカ……。ココニハセンシイガイノナカマモイル。アラソイニマキコマレテハタイヘンダ。ジョウホウ、カンシャスル」

 

 トカゲさんは、少しだけ急いだ様子でここを離れようとした。しかし、途中で俺を気にしたように振り返る。

 

「オマエハダイジョウブナノカ?」

 

「私には仲間もいますし、後でここを離れます。先に行っていいですよ。改めて、先程はありがとうございました」

 

「…………オタガイ、ブジヲイノロウ」

 

 足早にトカゲさんは去っていった。

 

 生きていてくれるといいんだが。

 

「おーい、おーい」

 

 遠くから、フーリーさんの声がする。

 

 ローブを着込むと、寒さに震えた。同時にフーリーさんが姿を見せた。

 

「あ、ここにいたのか。流石に声すら届かない場所に行かないでおくれよ」

 

「すみません。好奇心が湧いてしまって」

 

「まあ、見つかったからいいさ。私の方も十分な量を取れたし、帰ろうか」

 

 フーリーさんと連れたって街に戻った。

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