「俺だってチートが欲しかった〜ブサイクデブなおっさんの魔法陣」 作:雨天 蛍
天候が崩れた。山は天気が変わるのが早いと聞くが、それでも異常だと思うくらいに一瞬で天気が変わった。
雨が降り始める。視界が悪くなる。
「ナタリアさん! これは、どこか雨を凌げる場所を探しましょう!」
「そうする」
慌てて避難場所を探し始める。土地勘も無いので、とりあえず来た道を戻りながら洞窟などが無いか探してみた。
「風の音……こっちにあるかも」
すると、ナタリアさんが何かを見つけたらしく、フレイ君を抱えて茂みの奥へ進んでいった。俺もトールさんを連れてそちらへ向かう。
蔦が隠すようにして、洞窟の入口を塞いでいた。身を隠すのにも向いていそうなので、そこに入り込む。
身体は既に冷えきっている。
「ぶぅえくっしょーい!」
トールさんがおっさんくさいくしゃみをして目を覚ました。
「ん……うお、洞窟!?」
「おはようございます。酔いは覚めましたか?」
「あ、わりぃ。頭がガンガンする……」
戦力外のままだ。とりあえず自力での移動は可能らしいので、トールさんを置いて、洞窟内を見回す。
入口は少しだけ大きい。隠すように蔦が入口を塞いでいて、これは気付かなかったと思う。
足元にある土は、見ても自分達の足跡くらいしか分からない。
素人だからね。俺。見ただけで何かが洞窟にいるとか分からない。
このままじっとしているだけでは体温が奪われていくだけなので、箱に詰めた荷物を取り出す。そこには、あのよろず屋で売っていた野外調理セットもある。
焚き火の材料も売ってもらったので、それを使って火を起こす。
「……なんで焚き火?」
「お店で売っていたんです。野外調理セットでした」
「携帯コンロあるよ?」
携帯コンロあったらしい。店員の美少女に思いっきり騙された。ファンタジーっぽくて購入したんだ。
とりあえず、火を起こしたので、各々がそれを囲んで暖を取る。
その瞬間だった。ヒタヒタと何者かが近付いてくる足音が聞こえた。
「……っ!」
「こんな時にっ!」
「……コレハ、ニンゲン!!」
いつぞやのトカゲさんだった。警戒状態のナタリアさんとトールさんに制止を呼びかける。
「待ってください! 彼女の事は知っています。敵ではありません!」
「オマエ……アノトキノ!」
白磁の鎧に身を纏った騎士風のトカゲさんに手をあげて挨拶をする。
「あの時はどうも。助かりました」
「……オタガイ、ブジニアエテヨカッタ。ダガ、ナゼニンゲントイッショニイル?」
「私は人間ですよ」
そう伝えると、トカゲさんは驚いた様子でじっと俺とトールさん達を見比べた。
「……ソウイウコトニシテヤル」
勘違いはおさまらなかったっぽい。どこにそんな俺と異世界人の違いがあるんだ。
顔か? 顔だな。この世界の人間はほぼ全員美形で俺と同じブサイクは見たことがない。
亜人寄りの顔つきってことなんだろう。APPでいうと3。せめて5は欲しかった。
「ところで、どうしてこんな所に?」
「モトモト、ココガワタシタチノスミカダ。ニンゲンノサクセンガオワルマデハ、オトナシクシテイヨウトキメタノダ」
なんと。亜人討伐作戦は成功しそうだったのか。
まあ、軍隊動かすからね。確定した情報でも得られないと動かさないよね。
それでも大人しくじっとしているのは俺がもたらした情報故か。
この調子で生きてて欲しい。
「そうだったのですか」
「アア。……オマエタチ、チョウロウガオヨビニナッタ。ツイテキテモラオウ」
何かテレパシーでもあるのか、突然雰囲気を変えて切り出した。特に逆らう理由も無いので、俺はついて行こうとした。
そこで、ナタリアさんに引き止められた。
「そこの亜人の言うことを信用するの? どこかに連れ込まれて殺されるかもしれない」
想像以上に亜人と人間の確執が深いのだと知れる言葉だった。
「私としては、命の恩人でもあるので、信用出来る相手なのですが……」
「……私はついて行くぜ」
トールさんは、警戒した様子を隠さないものの、着いてきてくれるようだ。
「私は、ここで二人を介抱している。悪いけど、ついていけない」
「そうですか。その方がいいです」
ナタリアさんは、適当な理由をあげて残ることにしたようだ。まあ、無理に来てもらう必要もないと思う。
「マア……イイガ。ソコノアジンイガイハオマケラシイカラナ」
「私を呼んでいるのですか?」
「ソウダ、ツイテコイ」
なぜ自分なのだろうか。このトカゲさんとならつい先日交流はあったが、それ以外に亜人との接点はない。
トールさんは肩を射抜かれていたが、別にそれは俺と関係ないだろうし。
よくわからないままに、トカゲさんに連れられて、洞窟の奥へと進んだ。
洞窟の奥、そこにはかなりの大きな空洞があった。
ここで本当に生活していたのだろう。床には毛皮がそこかしこに敷かれている。かがり火などが等間隔に置かれている。様々なカラーのトカゲさんがトールさんを警戒している。俺に関しては、子供であろう小さなトカゲさんが指をさしてさけんでいる。
「ミテママー! アノヒトニンゲンミタイダヨー!!」
「シッ! コンプレックスカモシレナイデショ!」
確かに俺の顔はコンプレックスの一つだ。だけど、トカゲに哀れまれるほどのものでは無いと思うのだが。
ブサイクって辛い。
そんな風に、注目を集めながらさらに奥へと進んでいく。
空間が尻すぼみになっていく。ついに高さが俺の頭ひとつ分くらいになった時に、トカゲさんが立ち止まった。
「ココダ」
奥からしわがれた声がかけられる。
「おお……よく来たな。我らの始祖に限りなく近い者よ」
他の亜人とは違って、はっきりと聞き取れる声だった。
「亜人を導きに来たのか……破滅を謳いに来たのか……。我には見通せる目は無い。だけど、まずは我らの歴史を知ってからでも遅くはないだろう。人に育てられた亜人の子よ」
「……なあ、おっさんって実は亜人だったりするのか?」
「いえ、そんな事ないですよ。私はれっきとした人間です」
耄碌しているのか、人様を亜人呼ばわりする長老様が、俺達を出迎えたのだった。