「俺だってチートが欲しかった〜ブサイクデブなおっさんの魔法陣」 作:雨天 蛍
「我らは人間よりも長く生きる。それ故に、真実を知っているのだ……」
トカゲの長老が語った内容は、こうだった。
かつて、機械文明がまだ生きていた頃の時代。当時星を支配していた知的生命体は、ある実験に手を出した。
それは、生命の組み換え。犯してはならない禁忌。それに手を出した存在は、今なお残る生命体を生み出した。
カエル犬。カエル狼。トカゲの亜人。それらは、世界に嫌われる存在だ。自然のルールを無視して作り出された存在なのだから。本能によって嫌われるのは当然だ。
強靭な肉体と生命力を持たせるために生み出されたトカゲの亜人達は、機械文明では奴隷と同じような扱いを受けていたらしい。そして、いつの日か反乱を起こした。
彼らはモチーフとなった存在である龍の力を使い。機械文明を全て水で流して沈めたのだ。
しかし、それだけでショートするほど雑な作りではなかったらしく、防水耐性はばっちりだったようだ。そこから始まる亜人と支配者の戦争。
知性により世界を支配した種族は伊達ではなかった。徐々に劣勢になっていく亜人達。
そこを救ったのが、原初の亜人と呼ばれる存在。愛玩用として作られた魔力を操れる存在だ。原初の亜人は、愛玩用故に支配者達から愛されており、それを利用して、機械文明の中枢を奪い、彼らが使えない魔力で動く物へと作り替えたのだ。
知性があれど、使える道具の無くなった支配者達は、一気に巻き返されて、今は散り散りになっていった。そうして今の時代が出来上がる。
支配者達は、自然と数を増やした知的種族たる人間の社会に紛れ込み、虎視眈々と世界の支配を取り戻そうとしているとのこと。
「……そう言われても、はいそうですかとは言えねぇよな」
トールさんの言う通りである。そもそも俺はトカゲさん達に嫌悪感など抱いていないのだ。
まあ、トールさんやらナタリアさんの反応を見る限り、特におかしいところもないと思うが。
ネット小説っぽくて俺は好きだと思う。
それ以上にチートハーレムが好きだけどな。
「というか、そこになぜ私が始祖に近しい存在になるのですか?」
「そんなもの、気配でわかる」
理屈で説明しろよ。
その説が正しいなら亜人の元はブサイクデブの遺伝子ってことになるぞ。
数多のイケメン美女の優性遺伝子をなぎ倒すブサイクの遺伝子。
亜人はブサイク成れの果てだった……?
辛すぎる事実だぞそれは。
「まあ、確かにおっさんは亜人みてーな顔をしているけどな。おまえらみたいな人間と違う部分なんて見当たらないぞ。強いて言うなら目くらいだ」
トールさんがキツイ一発を俺に入れる。言葉の暴力だ。
俺の一重はやはりトカゲ並らしい。
「大事なのはそこではないでしょう」
顔よりも性格を大事にして。
「そうだな。目に見える証など無くていい。だが、確かに我はそこのあなたに始祖の気配を感じるのだ」
「はいはいそーかい。で、それで?」
どっかりと長老の前に座りこむトールさん。その目は長老を強く睨みつけていた。敵意や警戒とは違う、威圧するだけの目だ。
「そのおっさんに何をさせようって言うんだ? 亜人を嫌わない人間だからって上手く人間との関係を取り持ってもらおうとか、同情を誘って騙し討ちにしようだとか考えてんなら、今ここで焼き殺してやるからな?」
「ふん……そう威圧するな。何よりこれは。我らだけでなく、貴様ら人間達にも関わってくる問題だ」
長老は、ゆっくりと話した。
「いいか? このままだと、貴様ら人間は、支配者達に上手く乗せられて我らを始末するだろう。そして、龍の加護を失った世界は再び機械文明へと戻っていく。その先に待ち受けているのは、ただの奴隷以下の扱いだ」
「それを信じろってのか? そして、おっさんに何をさせるつもりなのか、返事が聞けてねぇな」
「焦るな。人間の小娘。別に貴様が大事にしている亜人の祖を奪おうとは思ってない」
「べ、別に大事だとか思ってねぇよ! ただ、こいついっつも不運な目にあってるから、こういう時くらい私がしっかりしなきゃだなって……」
はっきりと強く否定されて、空気になっている俺が傷付いた。
二人の俺を巡る会話でどうして俺が傷付くのだろう。まるで親権を押し付け合う若い離婚しようとする夫婦みたいだ。
「別に、その亜人に何かをさせる気は無い。出来れば、我らを導いて欲しいとは思っているが、無理強いはできないからな。そして、人間達は、これ以上不毛な争いをやめて欲しいとは思っている」
「ハンッ! 結局は自己保身に走っているじゃねぇか!」
「それを成し遂げろとまでは言わないさ。だが、我らの住処だけは、討伐隊に晒さないで欲しい。どうか、この通りだ」
深々と頭を下げる長老。俺は元から話すつもりは無かったし、トカゲの土下座を見ても興奮しない。
美女の土下座は興奮する。あの屈服させている感じのシーンは大好きだ。
「頭をあげてください。別に私は話そうとは思ってませんでしたし、ところで、少しだけ気になるところがあるんですが、その支配者とは、どういった種族なんでしょうか」
「ああ、それはだな──」
「チョウロウ! チョウロウ!」
肝心な時に、慌てた様子でトカゲさんが入ってくる。
「どうした?」
「ウチノムスコガ、イナインデス! アジントウバツタイノソンザイヲキイテ、ジブンガカエリウチニシテヤルトイキマイテドコカヘイッテシマイマシタ!」
「なんだと!?」
立ち上がる長老。しかし、無理をしたのか、腰を押さえてうずくまった。
「あたたた……腰が……」
「大丈夫ですか?」
「ぶっちゃけ死にそう」
わかる。ぎっくり腰とか、息が出来なくなるもんな。あれはめちゃくちゃ辛い。
まともに動けなくなるからな。日常生活に支障をきたす。
「これでは、動けそうにない……そうだ。イタよ」
「ハイ、ナンデショウ」
イタと呼ばれたのは、白磁の鎧を身につけた藍色のトカゲさんだ。俺の命の恩人である。
「洞窟を出て、シタを探して来てくれ」
「ハッ! カナラズヤ、コノイノチニカエテデモ」
「うむ、期待している」
「ちょっと待ってください」
長老とイタさんを止める。
俺は長老たちがどうなってもあんまり気にしない。だけど、イタさんが危険な目に会うとしたら別だ。
このトカゲさんに命を助けられたんだ。人間に殺されるのはあまりにもしのびないだろう。
「私にも、参加させてください」
だから、これは一回だけの人助け、いやトカゲ助けだ。
子供くらい、すぐに探せば見つかるだろう。