「俺だってチートが欲しかった〜ブサイクデブなおっさんの魔法陣」 作:雨天 蛍
土砂降りの雨の中、山を歩く。
元々水の多い世界の山は、かなり水はけが良いのか、足元はぬかるんでいない。
砂利が多い。足場はどっちにせよ悪い。
「ワタシハスイリュウノケンゾクダカラヌレテモモンダイナイガ、オマエタチハチガウノダロウ?」
「人手があった方がいいと思っただけです」
「ソウカ、カンシャスル」
イタという藍色のトカゲさんは、それだけ言うと、周囲を見渡した。何かを探しているようにも見える。
「……オマエタチ、ニンゲンノトウバツタイハドコニムカッテイタ?」
「山の上、恐らく頂上を目指していたと思います。それと、私は花田です」
「トールだ」
その言葉に、イタさんは頷くと、頂上を見上げた。
山の上は、暗雲に覆われていて、見えない。
雷鳴がとどろく。そこに向かうには、かなりの準備が必要そうだ。
ゲームでいう。ボス戦前みたいな。
選択肢によって未来が変わるような。
そんな、重大そうな雰囲気を感じるのだ。
「ヤマノウエニハマオウガイル」
「魔王? 以前も聞いたことがあるのですが、魔王とはなんですか?」
亜人のボスにはトカゲ長老がいるだろうに。
なら、魔王とは何者なのだろうか。
その言葉を聞いて、イタさんが説明してくれた。
曰く、亜人の中でも特に強力に作られた個体だとか。支配者に与する人類に対して、穏健派が長老だとすれば、過激派が魔王ということになるらしい。
人間も支配者も全部滅ぼして、自分達の楽園を作るのが目的だとか。
まあ、わからなくもなかった。亜人達は、生理的嫌悪を抱かれるというのなら、人間はいずれ亜人を迫害していたと思うから。
彼らは自分達とは違う存在を嫌うのだ。
それは、白人黒人という、大まかに言ってしまえば色が違うだけで差別するように。
亜人など、同じ生存圏で生きられるのだろうか。
というか、仮にも魔王と名のつく存在相手に軍隊を差し向けたのか。
負けフラグじゃん。俺知ってるよ。ネット小説とかだと、こういう世界の戦闘は量より質だってこと。
じゃないとチート無双できないもん。
「このまま頂上に向かって合流するのか?」
「はい、そのつもりなのですが……」
「あん? なんだよ」
トールさんをちらりと見やる。その動きに疑問を持ったのか、トールさんは首を傾げた。
「はっきり言います。トールさんは引き返していいです。これは大きな問題になると思います。それが、亜人に手を貸すとしても、人間に味方をするにしても」
俺は異世界人だ。だから、亜人の味方をしてもあまり問題は無い。
彼らも俺を人間とは認めてくれないし、人間側にいても、特に影響を与えられそうにないただのおっさんなのだ。
だけど、トールさんは違う。
元からこの世界の住人である彼女は、人間の味方をするならまだしも、亜人の味方をした場合の影響が大き過ぎる。
彼女には、家族がいるだろう。持ち家とかもあるかもしれないし、愛する人だっているかもしれない。
職にだってついているし、友人もいるのだ。ここで亜人の味方をする理由は彼女には無い。
俺は別だ。就職したといっても、入ってすぐだし、住所も不定だ。家族はこの世界にいないし、友達だっていない。
だから、ここで離れて貰った方がいいのだ。
俺は、トカゲさん達の味方をするのだからして。
「──馬鹿言うんじゃねぇよ」
低く唸るように言った。
「私みたいな魔術師ギルドにいる奴らは、友達なんて作ろうとも思わない奴らばかりだし、家族だって問題ねぇ。家も別にそこが全てな訳じゃねぇんだ」
近寄って、俺の手を取る。
何十年かぶりの、女の子の手だった。
日本とは違う、少し硬い手のひら。だけど、華奢で、小さな手。
「別に研究だってあそこでしか出来ないわけじゃないんだよ。だったら、私はおっさんみたいな……。友達と思える奴と一緒にいる方がいいと思うぜ」
握る力は、強かった。俺の身の丈など超えてしまうくらいに。
力強い。離さないとでも言うような握り方だった。
「トールさん……」
返す言葉が見つからない。
正直告白されたんじゃないかって思った。だけど、俺はブサイクデブのおっさんだし、トールさんは俺をはっきりとお友達宣言していた。
勘違いするなよ。どれだけ言っても俺とお前は友達だからな。
そう言外に言われた気分だ。
嬉しいのに悲しい。
「ありがとう、ございます」
「いいってことよ! 私とおまえは相棒だからな! よろしく!」
もしかして男なのだろうか。そう思うほどに男前だ。
「ソロソロチョウジョウダ。キヲヒキシメロ。マオウガドウナッテイルノカ、ニンゲンガイルノカハワカラナイガ、シタハチカクニイル」
やはり、亜人同士の何かがあるのだろう。ここに来て、イタさんは探していた子供が近くにいると言い出した。
雲が晴れていく。雨があがっていく。
悪くなっていた視界が、一瞬で晴れた。
「これは……?」
トールさんが突然変わった天候に驚いて足を止めた。
確かにこれは異常だろう。山の天気は変わりやすいといっても、そんな一瞬で晴れたり曇ったりはしないはずだ。
「……ん?」
トールさんが突然走り出す。
慌ててあとを追いかけると、トールさんは小さな穴に手を突っ込んでいた。
「何しているんですか?」
「いや……ここで声がしてな。よっと!」
スポーンと勢いよく小さなトカゲさんが穴から抜けた。
鱗の色は緑色。子供だからかふっくらとしていて、どことなく緑色の恐竜を思い出す。
配管工の相棒のあいつだ。
「シタ!」
「ウエエエン! イタオネエチャアアアン!!!」
イタさんが、暴れてトールさんの手を離れたトカゲさんを抱きしめる。
どうやら見つかったようだ。
「アリガトウ。ナゼカココニマオウモニンゲンモイナカッタガ、イツクルカモワカラナイ。サッサトハナレヨウ」
「おっと、待ってくれよな〜」
イタさんを引き止めるかのようにかけられた声は、俺達のものではなかった。
茂みから二人の男が現れる。見覚えは無いが、槍を持っている様子からして、傭兵だろう。
「亜人のガキを使えば亜人が釣れると思ったんだよ」
「ここまで来て成果は無しでしたってのはまずいからな。天候の変化によって帰ってった本隊の奴らを見返してやるのに必要なんだよ。お前達も傭兵だろ? 金貨三十枚やるから、そこの亜人を俺達によこせ」
ニヤニヤと笑いながら近付いてくる。
俺は、距離をとって盾を構えた。
「すみませんが、私はどれだけ金貨を積み上げても渡せない理由があるのです。ここで、彼らを裏切ってしまったら、きっと私は後悔するでしょう」
ぶっちゃけ、ここまで俺が彼らの味方をしているのは、恩四割のネット小説の主人公みたいな展開六割である。
愛玩用亜人とかいるらしいし、可能性として見るなら奴隷としているかもしれない。
俺は美少女と仲良くなれる可能性のある道を選ぶんだ。
目指せ盾の勇者。
「ハン! 亜人みてぇなツラしてると思ったが、本当に亜人の味方をするとはな! やってやるぞ!」
傭兵達が槍を構える。
戦闘開始だ。