「俺だってチートが欲しかった〜ブサイクデブなおっさんの魔法陣」 作:雨天 蛍
大きな揺れが収まる。石のような材質で出来ているこの街は、耐震構造など出来ていないらしく、窓の外を見ると、いくつもの建物が倒壊していた。
魔術師ギルドの最上階であるここも、少しだけホコリか粉が天井から降ってきている。
崩れそう。
「クッ! このままだと地下が危ない」
そういえば、イケメンは地下に何かあるって言ってたな。
遺跡があるんだろうけど、それを気にしているのだろうか。
「何をボサっとしているんです! あなたも着いてきなさい!」
イケメンに引っ張られて、俺も魔術師ギルドの階段を駆け下りた。
デブというのは、つまり体重が重いわけでありまして、結論から言うと、膝が割れそうになった。
「どうしました?」
急に立ち止まった俺。不思議そうに振り返ったイケメン。
そこにあるのは若さの差。体重。日頃の習慣と生活。
「私の事はいいです。先に行ってください」
階段を駆け下りるとか随分無茶な事をしたので、膝が痛くてしょうがない。股関節にもきている。
「そうか……。すみません、ここは任せました!」
なんか勝手に納得してイケメンが降りていった。なんだったんだろう。
イケメンにあとを任せて廊下で休憩していると、ぴちゃぴちゃという濡れた足音が聞こえた。
廊下の手前から現れたのは、おなじみのカエル犬。実は俺一人で勝てたことの無い相手。
そもそも、今までの俺の戦歴を思い出す。
カエル犬対幼女エルフと俺。結果は引き分け。
カエル狼対均衡の首輪。結果は勝ち。俺は足を引っ張った。
傭兵対亜人と俺とトールさん。俺は一撃で戦闘不能。
明確に戦ったと思える状況ですらこれである。戦闘参加で経験値が貯まらない方式なら俺は未だにレベル1だろう。
ぶっちゃけ勝てる気がしない。
盾を構える。タワーシールドとあって、俺の幅よりも大きく、俺よりも高いその盾は、構えるだけでも安心感を与えてくれる。
普段は箱と一緒に結びつけているが、いざと言う時外れやすいように工夫もしているのだ。
そのせいでこれを持ち運ぶの超大変。
飛びかかってきたカエル犬を盾で受け止める。ズシリと来る衝撃。だが、受け止めきれた。
そのまま前身。壁にカエル犬を挟み込む。
「うおおおおおお!!!」
デブの突進をくらってカエル犬が潰れる。グチャって感じの感触があった。
盾の向こうはミンチだろう。グロい、グロいぜ。
だけど、これでようやく初勝利だ。経験値だって結構はいったんじゃないかな。レベル上がっているといいんだけど。
「おっさん! いたのか!」
「これは、トールさんもご無事だったようで」
カエル犬を倒した後になってトールさんがやってきた。ここは一階なので、外から戻ってきたことになる。
「今街が地震でやばいことになっている。壁がぶっ壊れて、カエル犬がどこからかすごい数集まってきてんだよ!」
さっきもここに現れた。そして、壁のシミをトールさんが見つけた。
「おっさん一人で勝てたのか!」
やはりくそざこだと思われていたらしい。
「魔術師ギルドって名前は魔術師だけど、実際は戦闘出来る強さのあるやつ少ないからな。おっさんもその類だと思ってたわ」
研究者が多いらしいからね。そりゃあ本職ほど戦えないだろうね。
「戦える魔術師とかはいないんですか?」
「そういうのは冒険者ギルドの方に行くからな。金もそっちの方が稼げるし、自力で金稼いで自分の好きな事勉強していく方が賢いだろ?」
そういうことらしい。
「ってかおっさんは今まで何してたんだ? いつもの定食屋にいるのかと思いきや、いつまで経っても来ねぇし、何してたんだよ」
「少し、ギルドマスターと話しておりました」
「ギルドマスター? あの堅物か?」
意外と面白い人だと思う。おっさん的には不憫枠だろうなぁとか勝手に思ってる。
「あいつ噂じゃロリコンだっていう話だぜ」
同類かな? 親近感感じるわ。
まあ、幼女エルフのフィアンセだって言いまくったんだろう。
次からは俺がその役目を果たそうと思う。
あわよくば既成事実になってくれないものか。幼女エルフなら大歓迎である。
盾の勇者でも、亜人達の神となれたとしても。
トカゲの顔は、嫌だ。
せめてもう少し人間っぽい要素持ってきて欲しい。鱗が顔にあるとかなら萌え要素だから。
せめてサーナイト辺りの人外になって欲しい。ジュプトルは嫌だ。
あれじゃあ亜人の神じゃなくてトカゲの神だよ。
「まあ、そこは後ででもいいと思います」
「そうだな。今緊急事態だったし。でも基本的にこういう時は冒険者ギルドが対応するんだよなぁ」
資格持ちだもんね。こういう時にこそ動くのだろう。
「とりあえず、私達は魔術師ギルドの地下を目指しましょう。ギルドマスターがそこに向かいました」
「了解!」
トールさんと一緒に地下へと降りる。今度は膝を大事にしてゆっくりと。
地下、というより水面下の階は、不思議な空間だった。
材質は上と変わらず石のような感じ。そこから一滴も水が漏れていない。窓も着いており、そこからはキラキラと水面の向こうにある太陽の光がカーテンを作る。
それも徐々に薄くなっていく。闇が辺りを包んでいく。
水面下二階に来て、ようやく階段は終わった。
そこには重厚な鉄っぽい扉がある。鍵穴などは見当たらない。両開きで引っ張れば開けられそうな扉だ。
これなら誰でも入り放題に見えるんだけど。
「ここか?」
「他に道などは無かったので、多分ここだと思います」
厳重に管理してたわけじゃないのか。地下に遺跡があっても動かせないなら封印する必要は無いのかもな。
トールさんを俺の後ろに立たせて、扉を押しあける。
「やあやあ。遅かったね」
そこに居たのは、幼女エルフと、イケメンギルドマスター。
そして、普段と変わらない様子で気だるそうにしているフーリーさんだった。