「俺だってチートが欲しかった〜ブサイクデブなおっさんの魔法陣」 作:雨天 蛍
逃げたフーリーさんを追いかけて、階段を上る。
「ぐすっ……ひっく……」
泣きじゃくる幼女エルフは今は少しだけ落ち着いているものの、先程までかなり深い絶望に包まれていたので、俺が抱き上げて運んでいる。
イケメンは置いてきた。とりあえず連れて行っても話が拗れるだけだし、トールさんにもそう言って納得してもらった。
前に幼女後ろに箱。右に美少女左に盾という四方を囲まれたフォーメーションだ。
いつかはこれを全部女の子に変えてみせる。
「それでさ、あいつ追いかけてどうんだ?」
「とりあえずあの銃だけは回収します」
あれは絶対欲しい。
「そうか……まあ、危険だしなぁ。一発で相手を無力化出来る上に、魔法と違って詠唱とかそういう準備も無しで撃てるからな。量産は難しいだろうけど、数があるなら絶対脅威になるし」
擬人化は性癖を歪ませるからな。世界が変態に満ちてしまう。
それを防ぐにもやっぱり擬人化銃は俺の手元にあるべきだよな。
「とはいえ、無策で挑んでも返り討ちにあいます。どこかから手助けを貰う必要があるでしょう」
人海戦術なら多分勝てるのだが、それだけの伝手も無い。
やるなら奇襲だろうか。
……盾構えて突っ込んだらどうにかならないかな。
結論が出ないまま魔術師ギルドの外に出た。
「きゃあああああ!!!」
悲鳴が聞こえた。見ると、フーリーさんが巨大なトカゲさんに掴みあげられていた。
その体格差はさながらドラゴンボールの大猿。ゴジラとかに例えた方がいいのだろうが、流石にそこまで大きくない。
十メートルとかそこら辺の大きさ。
それでも二足歩行している。あれも多分亜人なのだろう。
彼の足元では、何人もの人が倒れている。血は流していない。
多分、トカゲさんじゃなくてフーリーさんが倒したのだと思う。そこにトカゲさんがやってきて。掴まれたと。
「な、なんでこんな所に魔王が……!」
魔王様だったらしい。そりゃあ魔王と呼べるだけの風格あるわ。
俺少し漏らしたもん。ジョロっときた。
「ククク……人間どもが! 我は遂に見つけたぞ! 憎きエルフを倒せる始祖の気配を持つ者をな! 後を追えばこの街に入っていった!」
俺のせいだった。
なんか、疫病神みたいだな。俺。
幸運の数値がマイナスになるかもしれない。
俺も美少女の尿飲みたいなぁ。
でも回復魔法もファイアボールも使えない。
というか、どこかで俺見つかっていたみたいだな。やっぱり頂上にいた時だろうか。
「我は始祖の気配を持つその箱を奪い取り、エルフ達を完全に無効化出来る力を得るのだ! 亜人達の世界を生み出すのだ!」
フーリーさんを掴んで宣言している。そして、ゆっくりと俺の方を向いた。
「居たな。亜人よ」
やっぱり俺亜人なの?
「貴様には悪いが、後生大事に背負うその箱を貰い受ける」
と、俺の腕に抱いている幼女エルフに気付いた。
「ヌ……その子供、エルフか」
幼女エルフは魔王の姿に怯えて泣くのもやめている。
「ああ……そうか! こんな所にエルフがいたのか! 殺してやる! 殺してやるぞおおおお!!!」
「ヒッ……」
猛る魔王。威圧されて幼女エルフが俺の胸にしがみついた。
フーリーさんを投げ捨てて鉤爪を振るう魔王。どうにか初撃は防いだが、続く攻撃で尻尾が振られる。
「グウゥゥゥゥ!」
盾が尻尾を受け止める。だが、攻撃は止まらず、尻尾は振り抜かれ、俺は横に飛ばされた。
どうにか幼女エルフを庇い、俺のヒロインも庇う。俺の側面が削られた。めちゃくちゃ痛い。
トールさんは鉤爪の攻撃の時点で距離を取っていた。色々抱えて鈍重になっ俺が動けなかったパターンである。
「おっさん! クソッ!」
魔法は即時発動が出来ない。トールさんが詠唱を開始した。
既に俺にしか目が行っていない魔王が迫る。
「死ね! 糞エルフ!!」
鉤爪が振り下ろされる。これまでかと思い、目を瞑った。
「……よう、おっさん。冒険者にはなれたかい?」
声がした。目を開くと、大剣を構えたおっさんが魔王の鉤爪を止めていた。
俺は、このおっさんを知っている。
「あなたは……!」
「嗚呼、残念だな。俺はお前さんがSランクになってから会いたかったんだがなぁ。夢半ばに倒れてしまうなら、助けるしかないな」
ヘッと笑うおっさん。
俺が女の子だったら絶対惚れてた。こんなおっさんになりたかった。
この街に来て最初に俺を導いた、冒険者ギルドを教えてくれたおっさんが、魔王の攻撃を押し返した。
「ぬうぅ!?」
強い。あの巨体を押し返すステータス。立ち振る舞い。全てが強者だ。
大剣を肩に乗せたおっさんが凄惨に笑う。歴戦の漢の笑みだった。
「こいよ、トカゲ野郎。Sランク冒険者様が相手になってやるよ」