「俺だってチートが欲しかった〜ブサイクデブなおっさんの魔法陣」   作:雨天 蛍

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 逃げる。それは俺の人生そのものだった。

 

 中学生時代から、俺は逃げてばっかりだ。容姿を意識し始める年代。それは、明確な格差と差別を生み出し始める。

 

 当時ブサイクデブだった俺は、当然の如くいじられ、いじめられ、笑いものにされてきた。

 

 クラスカーストなどが生まれて、俺が最下層。からかわれて、馬鹿にされて、散々な生活だった。

 

 体育着に着替えればズボンを脱がされてパンツを晒される。酷い奴はパンツごとずり下ろした奴もいた。

 

 そして、晒しあげた奴ではなく、俺が怒られて嫌われるのだ。教師は、ズボンを下げた奴を叱りはするが、被害者の俺にまで呼び出しをする始末。

 

 構われていたのが、まだいい方だったとは、今思い返した時の記憶だ。

 

 高校に上がれば、少しは大人になり、周囲の目を自覚してくる。将来に意識を向ける。

 

 そうすると、俺を相手にするメリットなど一切無いことに気付く。そこから始まるのは、陰口や無視の日々だった。

 

 俺自身は相手にされない。だけど、裏では馬鹿にされていた。幼馴染がモテ始めた辺りから、俺の排除が始まった。

 

 社会的信用を奪うような行為。インターネットを利用した晒しあげ。

 

 晒したあいつは上手くイジメの事実を隠して立ち回った。結果的に、俺は学校に行くことは無くなった。

 

 逃げ出したのだ。

 

 引きこもりデブのまま、大きくなって、社会に出た。流石に親のスネをいつまでも齧り続ける訳にはいかない。

 

 しかし、そこで待っていたのも、理不尽な縦社会。年功序列と社会的ステータスが全てを支配する日本の古き会社。

 

 俺は、そこでも嫌がらせの標的だった。パワハラは日常。外見弄り、セクハラ。上司という明確な立場の差が、抵抗を奪い、集団を作り上げた。

 

 それでも何とかしがみついて、たどり着いたのは中間管理職。上司のサンドバッグで、部下の目の敵。

 

 一人を生贄にした一致団結。

 

 結局のところ、俺はそんな世界や状況に抵抗をせず、逃げ惑い、ただ無力に生きていただけだった。

 

 嫌われながら歩んだ日々に、俺の心はねじ曲がった。

 

 ネット小説を読んで妄想する毎日。現実逃避をして異世界で無双する夢を見る。

 

 そうしてやってきた世界で、今もまだ、俺は現実を見つめることが出来ない。

 

 物語の主人公を真似して、意識して、主役になったつもりで動いて、勝手に問題を引き起こす。

 

 自分自身の身の丈を知らずに、盾を構えて不格好に突進する。

 

 俺は、俺自身が大嫌いだ。

 

 

 

 

 ぬかるんだ道を進む。既に遠くから小さくポツンと見える程度にまで街から離れた。

 

 何をすればいいんだろう。俺なんかを庇って逃がして、あのおっさんは何がしたいんだろう。

 

 俺に出来ることなんて何も無いというのに。

 

「くそっ。どうにか手段は無いのか?」

 

「……」

 

 こういう時になると、妙なやけっぱち感に、気分も無理やり上を向くようになる。

 

 完全に遅刻した時に、いっそゆっくり準備して行こうかと開き直るような。そんな感覚。

 

 俺に出来ることなんて無いんだから、別に逃げてもいいんじゃないかなって思えてくる。

 

 あのおっさん強いし、大丈夫だろ。

 

 逃げたって、いいじゃないか。

 

 俺は主人公になれないんだし。

 

 チートなんか持ってないし。

 

「う……ん……?」

 

 その時、幼女エルフが遂に目を覚ました。眠そうに目を擦った後、キョロキョロと周囲を見渡して、俺の顔を見上げた。

 

「ここは?」

 

「街の外ですよ」

 

「そう……。何か手段が見つかったのね?」

 

 明るく幼女エルフが尋ねる。その無垢な信頼を、なんで俺に向けてくるんだろう。

 

「大丈夫よ! あなたはいざという時に立ち向かえる人なんだから! 私をカエル犬から助けてくれた時、あなたは戦えなくても、死ぬかもしれなくても、私を庇ったでしょう?」

 

 不安そうな表情を見抜かれたのだろう。幼女エルフが俺を励ましてくる。

 

 あの時は、幼女が襲われていたから勝手に体が動いただけなんだ。

 

 俺自身に明確な意図を持って動いた結果じゃない。

 

「いざという時、自分の危険が迫っている時に、誰かの為に動ける人っていうのが、ヒーローなんだって、お母様が言ってたわ」

 

 俺をいつまでもずっと信じていたのは、幼女エルフだけで。

 

「私も、おっさんなら何か出来ると思ってるぜ! 魔王が来た時は陽動くらいならやってやるよ!」

 

 トールさんもいた。

 

 そうか……。俺は、異世界に来て、色んな人に支えられている。

 

 おっさんだったり、美少女だったり、トカゲだったり、ミイラだったりするけど、誰もが俺という人と面と向き合っていてくれた。

 

 ブサイクだとか、デブだとか、そういうところで何かを言われたわけじゃない。

 

 亜人扱いはされたけど。

 

 そう、ふと思い返したら、なんとなく、気分が湧いてきた。

 

 それはいつもの蛮勇。主人公になったつもりの気分。

 

 少しくらい、救ってみてもいいんじゃないかな。

 

 俺にチートは無いけれど。

 

 励ましてくれる、一緒に立ってくれる仲間がいる。

 

「……はい。大丈夫です」

 

 覚悟、決めますか。

 

 壊れた擬人化銃。魔力によって作り替えられたシステム。

 

 機械文明の遺産。過去へ巻きもどる装置。

 

 まあ、思いつくのは、案外普通の事で。

 

 俺に特別な主人公は向いていないなって思った。

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