「俺だってチートが欲しかった〜ブサイクデブなおっさんの魔法陣」 作:雨天 蛍
魔力を注ぎ込まれ、遺跡が起動する。ポーンという軽快な機械音と共に、アナウンスが流れた。
『中に時間を巻き戻したい物を入れて、蓋をすると、過去の姿に戻ります』
すごい簡単な説明だった。とりあえず、必要な物を入れていく。銃を遺跡の中に入れた。
「わっ! 起動したわ!」
「おっさんにはなんて言ってるのか分かるのか?」
「ええ、恐らくはですが」
識字チートの制度などは不明だが、今のところ不便は無いので、多分正確なのだろう。それを信じて行動するしかないのだ。
『蓋をしてください』
アナウンスが再び流れる。中に入れても動かない。自動で蓋は閉まらないらしい。
何度も流れるアナウンスを聞いて、気が付いた。
多分、扉部分が一切無いのが問題なのだろう。元々そこには扉があったはずなのだが、時間の流れで外れてしまったという感じか。
そこで、ふと、俺の持つ盾を思い出した。
店員さんに盾だと言われて買ったのだが、思い返せば、これは扉だったのでは、という話もしていた。
そこで、遺跡のドアがあったであろう場所に合わせると、見事サイズがピッタリだった。
これ、扉だったのか。
「ちょうどいいサイズなのね」
「……あー」
関心した幼女エルフとは対照的に、呆れたような納得を見せたトールさん。俺と同じことに気付いたらしい。
銃を入れてドアを閉めようとする。その瞬間、俺の脳裏に邪な感情が走った。
これは、俺のヒロインを復活させることも出来るのではないか?
いそいそと、箱ごと遺跡の中に入れる。
「それ、あの時の箱よね?」
「おっさん、中身開けないで入れてもいいのか?」
中身の知っている幼女エルフは、少しだけ怖がった様子。トールさんは、俺が後生大事に背負っていたことしかしらない。
まあ、見せるものでもないと思う。ミイラだし。
死体背負って常に生活していたとか、怖すぎるだろう。
俺なんだけどさ。それ。
必要な物を全部入れて、蓋を閉じた。
『歴史的物体を確認。復元には数分かかります』
アナウンスと共に、ウィーンと機械が動く音がする。
「これで、しばらくの間待っていればいいのかしら?」
「そうだと思います」
「そうか……だけどよ。来ちまったみたいだぜ」
バサリと羽ばたく音がする。それは徐々に大きくなり、空を隠す巨大な竜が飛んでいる姿だということに気付いた。
魔王である。Sランク冒険者のおっさんはやられてしまったのだろうか。
「くそっ! 遺跡の作業が終わるまでは逃げられないぞ!」
ゲームでいう、耐久戦である。俺達が時間まで、魔王の攻撃を凌ぎきれば勝ち。遺跡を破壊される。全滅した時点で敗北である。
「グルウアアアアア!!!」
「くるぞ!」
トールさんの掛け声と共に、飛びかかってくる魔王。狙いは幼女エルフ一択である。
理性が吹きとんでそうなようすだが、それでも憎い対象の姿は見失わないらしい。
「ミトさん!」
幼女エルフは動けない。多分運動神経悪いんだと思う。そこに俺が割って入った。
魔王の突進を受けて吹き飛ぶ。まるでダンプにでも轢かれたような感触だった。視界がチカチカと明滅する。
いっつもワンパンで倒されるなぁ。
それでも、今回は一撃で死にかけているからか、痛みは今まで以上にない。意識が若干怪しい程度だ。
これで、数分も守りきれるのだろうか。
「おっさん! くそっ!」
トールさんは、魔法を使わない。魔力を操る亜人は強く、迂闊に使えば、魔王を強化させてしまうかもしれないのだ。
幼女エルフに、魔王の鉤爪が迫る。
「おらぁ!」
ガインと、剣で軌道を逸らされた。伸びた鞭のような斬撃は、ジャラララと音を立てて、一振の直剣に姿を変える。
「待たせたわね! パーティーメンバーのピンチに駆け付けてやったわよ」
そこに、遅れてネヴィアさん達がやってきた。
ネヴィアさんが抱えた幼女エルフを俺に渡してくる。
「ハナダさん。ここは大丈夫だから、そこのエルフと一緒に遺跡の様子を見てきてくださいな」
「それは……」
遺跡はすぐ近くにあるが、どれくらいで出来上がるかの確認でもありそうだ。というか、それが目的だろう。
幼女エルフがいれば、何らかの操作も行える。
「……すみません、ここは任せました」
ネヴィアさん達に頭を下げて、遺跡を戻る。
数分じゃあ間に合わない。一瞬でも早く完成させなければ。
コンソールはどこにあるのだろうか。
……内側で見た気がする。本来の想定された使用方法とは何だったのだろうか。
「出力上昇! 中断! 開始!」
音声入力もあることに賭けて、声を出した。
すると、アナウンスが流れる。
「認証コード確認。出力上昇。一時中止」
プシューという空気の抜ける音を立てて、遺跡の扉が開く。
「──カカッ! 妾を復活させるとは、お主も」
そこには、人がいた。潤沢な狐の尻尾と耳がある。とても美しい女性だった。
彼女が話している最中に、アナウンスが続けた。
『運転を再開します』
「え? あ、ちょ──」
そして閉まる扉。
バンバンと内側から扉が叩かれる。
上昇する出力。古くなった機械。外側に走る電流。
これは、壊れるやつだ!
「のおおおおお!?」
可哀想な狐さんの悲鳴が聞こえる。爆発を起こした遺跡が吹き飛ぶ。
「ちょっと! 何してるの!?」
ネヴィアさんからも、お困りの声がかけられる。
爆発し、完全に壊れた遺跡からは、新品のような輝きを取り戻した銃と、プスプスと煙を上げて倒れる狐の幼女が残された。
さっきの一瞬で若返り過ぎたらしい。
とりあえず、これで銃は手に入れた。今度こそ、勝てるはずだ。