「俺だってチートが欲しかった〜ブサイクデブなおっさんの魔法陣」 作:雨天 蛍
「駄目よ」
魔術師ギルドの一室。いまだに自分に与えられた部屋という自覚を持てない三階のその部屋で、緑髪のエルフは強い意志をたずさえて言い切った。
「それが亜人なり、私のようなエルフなら助けて欲しいとは思うのだけど、生活も安定していないのにそんなこと認められないわ!」
幼女エルフがまくしたてると、わんわん泣き出した。
「私にはもう家族がいないけど、それでも家があったのよ! 帰って、ふかふかのベッドで眠れて、暖かいご飯が作れたの! それが今になってどうなったと思ってるのよ! ホームレス生活よ!?」
甲斐性が無くて本当に申し訳ない。
俺も一攫千金とか狙いたいんだけどな。でも、おっさんがそういう事する訳にもいかないだろう。
パチンコに通うおっさん達を見てきた俺としては、ギャンブルで一発稼ごうとは思えないのだ。
手堅く、堅実に稼いでいきたい。
でも、奴隷も欲しいんだ。
「おうちかえりたい! ベッドでねたい! ごはんおなかいっぱいたべたい! ふくせんたくしたい! からだあらいたい!」
机に伏せきって泣きわめく幼女エルフを見ていると、それもどうかと思えてくる。
確かに俺は服もほぼ一着のみで、他の住人にも同じ生活をしいている。だけど、ご飯と寝床の提供は十分じゃないか。
身体だって、石鹸とかお湯は無いけれど、川の水がある。
多分、これがダメなんだろうな。こういうところが。
ブラック企業でめちゃくちゃな生活していると、色々ないがしろにして、その状態に慣れきってしまうのが問題だな。
ご飯は一日三食、お風呂は毎日入る。
当たり前だけど、大事なこと。
人間性に必要なものである。
おっさん、ホームレス生活長くなって、そこら辺いいかなってなってきてるよ。
「実際旦那様は犬みたいな匂いするしのう」
鼻も良さそうなコンちゃんに言われると凄いグッサリくる。
「妾は別に今の生活でもいいけどな? 今までそんなに苦労してもいないしの」
それでも野生幼女はワイルドだぜ。
「我も別に水浴び出来ればそれで十分だしな。外敵に怯えない生活が送れて、明日に困らない食事があれば、それで幸せだろう」
魔王様も理解を示してくれている。
トカゲさん達洞窟生活だったしね。そりゃああまりいい生活を送れてきたとは思えない。
質素に暮らしているイメージがあるエルフが、この場で一番世俗的だった。
まあ、機械文明を築いた先輩なのだから、仕方のない事だとは思うが。
要は俺たち日本人みたいなものだろう。
米にこだわり、風呂を作り、味噌や醤油を求める。
塩分を気にするお年頃としては、既に恋しいという感情とは無縁だ。
まあ、見かければ少しだけ関心を持つとは思う。おぉー。って感じ。
そういえば、俺以外の日本人っていうのも見たことないな。
居ても、ここで上手く活躍するのは難しいのかもしれない。チートがあるなら別だけど。
無かったらほぼ活躍できないのが俺達無能のおっさん達だ。
内政チートも知識チートも、この世界では難しい。
ボードゲームとか普通にあるし、オセロや囲碁なら似たようなものが既にある。
食文化は日本製が受け入れられる土壌かどうか不明。犬食うし。
砂糖塩胡椒関係に加えて、発酵食品の発展は、実は結構著しいものがあったりする。
水多いからね。この世界。農作業もそれなりに進んでいるし、保存技術もそこそこだし、その経緯として、発酵技術は既に見つかっている。
酒とか美味しいからね。この世界。
ともかく、どうやら俺の奴隷購入の夢は潰えたようだった。
泣き続ける幼女エルフをコンちゃんに任せて、俺は魔王様と一緒に部屋を離れた。何となく、稼がないといけない気分になってくる。
「そんなにあのエルフが大事か?」
「そうですね。命をかける価値はあると思います」
おっさんなんかよりも、何倍も価値がある。
幼女ってだけで百倍。エルフで更に倍率ドン。おまけに将来を約束された美少女。処女。
おっさんなんぞ塵にも失礼だ。
童貞卒業させてくれたら、一生涯忠誠を誓うレベル。
「そうか。そうやって、好かれているだけ、エルフは幸せだな」
ひとりごちる魔王様。
そういえば、魔王様って魔王のくせに、配下の一人も連れずに襲撃してきたよね。
割と同族にも嫌われ気味だし。
おっさんとしては、親近感湧くよ。
ただ、立ち位置的には、魔王様は学校の不良で、おっさんは机に突っ伏して寝たフリし続ける陰キャだが。
「魔王様も、私にとっては大事ですよ。ミトさんと比べられない程度には」
「……フン」
なんて言うか、擬人化してから魔王様
は大人しい。エルフと一緒でも怒らないし、人間相手に暴れようともしない。
かといって、誰かと特別親しい訳でもない。
何考えているか、ちょっと分からない。
「……お前と我は似ているな。姿形はそれなりに似ているが、確実に人間や亜人とは違う」
少しだけ、憂いた様子で魔王様が話し始めた。
「我も、亜人と同じ扱いではあるが、化け物として生まれた身だ。人にも亜人にも近しく、それでいてどっちでも無いようなお前もまた、必ずどちらにも混ざりきることは不可能だろうな」
「私は、人間ですよ」
「ははっ。ぬかせ」
いや、人間だよ。
いくら顔面亜人だとしても、そこまで言い切るなよ。泣くぞ。
「少しだけ話し過ぎたな。我はもう戻る」
箱の中に帰っていった魔王様。
俺ってそんなに亜人っぽいのだろうか。
……毎日鏡見て、身だしなみとか意識するべきだろうか。