「俺だってチートが欲しかった〜ブサイクデブなおっさんの魔法陣」   作:雨天 蛍

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 夜。幼女エルフも泣き止み。むしろ泣き疲れて眠る時間。俺は橋の下で、穏やかに流れる川を眺めていた。

 

「邪魔するぞ。旦那様」

 

 そこに、コンちゃんがやってくる。

 

 かつてはミイラだった俺のヒロインも、今ではすっかりケモ耳美少女になっている。

 

 全裸だったはずが、いつの間にか復元されていた赤い和服が、彼女を彩る。見た目と裏腹に、彼女の雰囲気は、妖艶だ。

 

 こういう夜に見かけると、特に感じる。一度死を超越したからだろうか。彼岸花を彼女に幻視する。

 

 死に、魅入られている。

 

「どうしましたか? 眠れないのでしょうか」

 

「思えば、あまり旦那様とは語らってこなかったと思ってな」

 

 そういえばそうだ。肉体を得たコンちゃんとは、短い付き合いながら、二人きりで会話とかしたことが無いような気がする。

 

 心の内側ではいつも喋っていたし、なんならこっちに来てずっと一緒にいた人だから、俺としては親しいつもりでいた。

 

 死んでいた記憶が無いのなら、彼女はなんで俺を旦那様と呼ぶのだろうか。

 

「妾はミイラだった時の記憶もある」

 

 あるようだった。

 

「まあ、突然動き出したミイラに、旦那様と呼ばれるのも不気味かと思ってな。妾も少しだけ、こうして話してみたかったのだ」

 

 そう思ってくれることが、嬉しいことだ。

 

 歳を取るほど、人というのは見向きもされなくなってくるからね。そこに魅力が無いのだから。

 

 だからこそ、こうして話したいと思ってくれること自体が、貴重であり、大切なことなのだ。

 

「旦那様は、初めて出会った時からずっと、妾と一緒にいたからな。それこそ、寒い夜も共に眠ったし、一人情事にふける旦那様も見てきた」

 

 バッチリ見られている俺の性事情。

 

 世の中のカップルが、エッチな事をする時はぬいぐるみを対面させる理由がよくわかる。

 

 いつどこで見られているか、わかったもんじゃない。

 

「旦那様の寂しさも、喜びも、共に過ごしてきたつもりだ。今でこそ、こうして生きて呼吸をしているが、そうでない時も、旦那様は妾を背負ってどこへでも行き、たまに、妾が生き返らないか試してくれたのを見た」

 

 炭治郎気分でやっていた事である。ぶっちゃけそこにコンちゃんを復活させようという強い意思はなかった。

 

 ただ、自己満足でやっていたことだ。

 

「大層なことはしていません」

 

「そう謙遜するな。妾にとっては、助けられたことなのだ」

 

 そう言われてしまえば、これ以上否定する必要はない。

 

「ありがとうございます。私も、コンさんとこうして、話すことができるのを、夢に見てましたよ」

 

「旦那様も、そう思ってくれていることが、妾にとっても嬉しいことだ」

 

 少しだけ恥ずかしそうに、コンちゃんは微笑んだ。

 

「夜は長いですし、色々話たいこともあります。どうでしょう。毎晩少しだけでも、少しづつ、これからお互いの事を知っていくというのは」

 

「フフッ……焦れったいのう。旦那様はもっとこう、肉体的な夜を過ごしたいのかと思っていたぞ」

 

 ええ、めちゃくちゃ過ごしたいです。

 

 ケモ耳美少女と、童貞卒業。いいじゃんね。男なら一度くらい夢に見るでしょ。

 

 騎乗位がいいです。

 

 だけどまあ、プラトニックな関係を少しだけ続けていくのもやってみたい。

 

 失われた青春の時間を埋め直すように。

 

 センチなおっさんの心を癒してほしい。

 

 旦那様と呼んでくれる幼女とは、ただの肉体関係だけで終わりたくないのだ。

 

 本当の旦那様に立候補させてください。

 

「こんな場所では、ムードもないので」

 

「それもそうじゃな。せめて雰囲気だけでも作らねばな」

 

 クツクツと笑うケモ耳美少女との夜は更けていく。

 

 俺は、この夜初めて異世界キャバクラにでも来た気分になった。

 

 聞き上手だった。

 

 

 

 

 翌日、箱の中にいる幼女達は日がそれなりに昇らないと起きない。

 

 そんな時間によく会うのが、トールさんだ。

 

「よう! 今日も来たぜ」

 

 俺の現在の住所である橋の下にまでやってきた。ここは権利持っていないので、通報されたら本気で詰んでしまうために来て欲しくはない。

 

「少しだけ、歩きませんか?」

 

 必然、この場を離れることになる。

 

「しっかし、最近は色々あったな。私もそれなりの人生送ってきたつもりだけど、おっさんと会ってからはそれ以上に変わった生活してるぜ」

 

「そうですね。私も、この街に来てからは、大変な目に遭いましたよ」

 

「最初はなんか評判悪いから、色々確かめようとした時に、声をかけたのがきっかけだったよな」

 

 トールさんは、最初こそ強気に絡んで来たが、あっという間に善人気質が顔を見せた人だった。

 

 この人の性格と付き合いの良さと強引さに、割と助けられてきた。

 

「あの時はすみませんでした」

 

「気にすんなって! 私も嫌なこと言っちまったし、おあいこだよ」

 

 この人の気前の良さか、器の大きさか、並んで歩いても気後れしないのが、不思議だった。

 

「……あんま、エルフとか亜人だとか、一人で背負い込むなよ」

 

 ここ数日の絡みは、これが目的だったのだろう。少しだけ真剣な雰囲気で、トールさんが言った。

 

 まあ、今後は幼女エルフの目的の解決だとか、魔王様の事で、色々あるとは思う。それを相談してくれってことなのだろう。

 

 本当に、この人は優しい。

 

「奴隷がどうのこうのって言う話も、エルフを助けたいってところから来たんだろ? 私にもやれることあるんだし、相談してくれよな」

 

 ごめん。奴隷は俺が欲しいんだ。欲しかったんだ。

 

 エルフも魔王も関係無い。おっさんの野望である。

 

「ありがとうございます。それでは、早速ひとつ相談があるのですが」

 

「おう! どうした?」

 

「冒険者になろうと思うんです」

 

 これは、元々考えていたことだ。

 

 国からの事業だとか、色々制約はあるのだが、機械文明の遺跡等に関わっていくのならば、恐らく冒険者になる必要が出てくると思うのだ。仮になる必要が無かったとしても、冒険者は、幼女エルフの問題を解決するのに、一番の近道だとも思う。

 

「これは、ミトさん達には話した事です。既に同意も得ており、私達は、四人でパーティーを組もうと思っています」

 

 だけど、そこには問題が出てくる。

 

 俺は、弱い。幼女エルフは機械を使えれば強いのだが、基本的に無力だ。狐耳幼女は戦闘向けでは無いとのこと。

 

 魔王様しかぶっちゃけ冒険者としてやっていけそうにないのだ。

 

「そこで、トールさんも一緒に冒険者になりませんか?」

 

 魔法が使えるトールさんが居てくれたら、結構ありがたいのだ。俺達の事情も知っているトールさん辺りしか、ここは頼れない。

 

 断られると、今後は新規メンバーも増やせずにやっていくことになるだろう。

 

「……ああ、いいぜ!」

 

 きょとんとした顔の後に、花が開いたような笑顔を浮かべてくれるトールさん。

 

 しっかりと手を握ってくれた。

 

「これで、おっさん達と私は一心同体だからな! これからはちゃんと私も仲間に入れてくれよ?」

 

「はい。もちろんです」

 

 これで、今後の予定もどうにかなりそうだった。

 

「さあ! 朝飯食べて、魔術師ギルドに行くぞ!」

 

 今日もトールさんに引っ張られて、一日が始まった。

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