アクタージュ 暗殺者(になるはずだった)ルート 作:朕好こう
頭鬼恋歌と出会ったあの日から俺、源真咲の人生は全て変わった。誰よりも努力するなんて生半可な気持ちじゃ駄目なんだ。死ぬ気でなんて中途半端じゃ、あいつらには追いつけない。ひとつひとつの演技を丁寧に演じろ、そして源真咲なんて必要のない人間は殺してしまえ。その役に成りきれ。技術も大事だが、小手先で演じることに意味は無い。誰もそんなところ見ていないからだ。
「…飯、食ってなかったな」
演技法や最近の有名な俳優、作品、脚本家、演出家は大体チェックするようにした。朝昼夜の殆どをそれに費やして、偶にバイトをして飯を食う。最近ではその飯すら忘れがちになるし、バイトすら辞めて演技に集中したいがそれでは食い扶持が無い。
「時間が足りないな…才能も無いから笑っちまう」
自分で言っておいて悔しさが湧き上がる。けどこれが俺の原動力だ。才能も無いくせに演技が上手いなんて思い上がっていた自分を思い出す度に殺したくなる衝動に駆られる。羞恥ではなく憎悪だ。
飯を食べに、電車に乗り込む。その間もスマホでオーディション関連の検索は欠かさない。すると百城千世子の動画が急上昇に乗っているのを見かけた。試しに押してみようと画面をタップする。
「スターズ主催映画『デスアイランド』は24名の若手俳優を起用する予定です。うち12名は私を始めとしたスターズの俳優が務めさせて頂きます。残り12名は一般オーディションから募ります」
「私達と一緒に映画を作りませんか」
「スターズはまだ見ぬ才能を求めています。私はあなたとの共演を楽しみにしています」
あぁ、天啓というのはこのように来るのか。神様なんて信じていなかったけど信じてしまいそうだ。スターズの引き立て役?上等だ、お前らからひとつでも多くの技術を盗んでやる。それに、あいつも居る。俺をこの地獄に突き落とした頭鬼恋歌も必ずこの映画に出る。勇んで応募をしにいく。その時にはもう飯を食うのを忘れていて、帰りの電車で地獄を見たが。
そして1ヶ月後、俺の心を折ったもう1人、シチューの女である夜凪景の起こしたオーディションでの事件で、別の意味で心を折られそうになるが、それは後で話そうと思う。
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星アキラに主役の才能は無い。それは芝居に精通していたら抱いてしまうものだ。もし他の役を演じる才能があっても、それは未だ埋もれている。
星アキラに見た目以上の価値は無い。それは応援する層にミーハーな女性が多く、評論家には演技をつまらないと称されることからそう揶揄される。
星アキラは親の七光りと称される。スターズ所属だから、星アリサがゴリ押しして起用させているのだと。大衆の評価が彼に下している評価は、スターズと星アリサ、百城千世子のお零れだと。
「…はっ…ぐっぅ」
自宅のトレーニングルームで汗を流す。いつもは1人で筋トレしているのだが…今日は来訪者がいる。チラッと目を横に動かすとベンチプレスを大量の汗をかきながら持ち上げる黒髪の少女が見える。彼女の名は頭鬼恋歌。僕の後輩で、僕が追いつくことの出来ない天才の1人。
「あの、頭鬼君。なんでナチュラルに君は僕の部屋でトレーニングしているのかな」
堀先輩が筋トレしてるので、と何処かズレた回答をする。こういう所も夜凪君を思い出させ苦手だし、意外と自由な所も千世子ちゃ…千世子君を思い出させる。あと僕の名前は星だ。
そもそも彼女をここに連れてきた経緯からして自分でも首を傾げる。昨日、事務所に仕事から帰ってきたら、珈琲を啜っていた彼女が筋トレ用具について聞いてきたのが会話の始まりだったのは覚えている。女性で筋トレ用具について聞いてくる人はあまりいなかった…というかスターズで余計な筋肉を付けかねない筋トレをする人は居なかったから調子に乗って語り過ぎてしまったのが間違いだったかもしれない。
「じゃあ、明日堀先輩の家で筋トレ良いですか?明日、休みですよね」
あまりに自然に問われ咄嗟に、あぁ、と返してしまった。いや、僕が悪いんだが。喋ることに夢中で彼女の質問もろくに聞いていなかった自分を殴りたい。この現場が、もし他の人に見つかったらスキャンダルだ。星アキラ、新人を自室に連れ込み、夜のトレーニングなんて冗談じゃない。筋トレで出た汗より、冷や汗が体を伝う。デスアイランドを前にそんな不祥事を起こす訳にはいかない。
1度息を吐いて冷静になると、汗だくできつそうな彼女を見て、休憩にしよう、と止めておく。筋トレは適度な負荷をかけるものだ。細い彼女の体では明日に支障が出る可能性もある。身体が資本の役者が体調を崩す訳には行かない。
だが筋トレをしなくなると妙な静寂が訪れる。いつもお喋りな彼女にしては珍しく喋らず、変な緊張を覚える。
「堀先輩は、私の事嫌いですか?」
「うぇッ!?い、いや…別にそんなことは無いが。後、星だ。いい加減覚えてくれないか頭鬼君」
唐突に投げ掛けられた質問に僕らしからぬ声が出る。そう、嫌いでは無いのだ。苦手なだけで。勿論、恋愛感情としての好きを持つことも無いし、同僚としては芝居に対する姿勢のみ好ましいとも思う。先輩に対する敬意は皆無だが。
「堀先輩って私の事、どう見えてます?」
「どう、とは?」
「…うーん、みんな、私の事避けるんですよ。だから演技も含めて私がどう見えてるのかなって」
それはそうだ。スターズの中でも君は異色。夜凪君寄りの演技でありながらここに所属し、自分達の演技まで殺しかねない俳優を好き好むわけない。彼女を避けないのは、オーディションで彼女に敵わないと悟った僕や和歌月君、千世子君くらいだろう。
「君、本当は理解しているんだろう?千世子君と同じ技術を持つ君が自分の置かれている状況を分からないはずない」
そう、千世子君と同じ、他人の視点を理解してそれを自分の演技に応用している彼女がこんな事に気づかない筈がない。
「理解はしてます。けど皆誤解しているんですよ。私に景ちゃん程の才能は無い、成長も無い。千世子ちゃん程の技術は無い、経験も無い。私、中途半端なんです」
僕の部屋の窓から彼女は下に居る人々を眺める。彼女が中途半端?なら自分は一体なんなのだ。君より、才能も技術もない自分はなんなんだ。
「星先輩、私の本当の演技見てくれませんか。誰の真似もしていない私の演技を」
「君の、本当の演技…?」
彼女は頷くと、演技をし始める。デスアイランドでの一幕を。その演技はいつもの彼女じゃない。まるで、星アキラ自身の演技を見てるかのようだ。模範解答であるが故につまらない、誰の目にも止まらないそんな演技だ。
「私、主演を張れる演技を持ってるわけじゃないんです。助演すらまともに出来ない。誤魔化しなんです、私の演技は全部。景ちゃんの真似、千世子ちゃんの真似、王賀美陸の真似」
自嘲するように語る。それを僕に語ってどうしたいのか、理解出来ない。自分も演技出来ない仲間だと言いたいのか。それなら、違うと答えよう。僕は“本物の役者”になりたい。君とは違う。そう言おうとすると。
「でも、そんなことどうでもいい。私は真似でもいい。偽物でいい」
雰囲気が変わる。いつもの彼女だ。先程と同じ台詞、所作をしている筈なのに人を惹きつけ、作品をより良いものとへと昇華するそんな演技。僕が恐れ、敵わないと思いつつ、見惚れて、愚かにもそうなりたいと手を伸ばそうとしてしまった演技。それが終わると彼女は僕に手を差し出す。
「先輩、私と手を組みませんか。私が貴方を“本物の役者”にします。その代わり、スターズで私を自由にさせてください。他の先輩、邪魔なんです」
悪魔の囁きだ。自分に彼女を自由にする権限は無い。けど“本物の役者”というのは自分にとっての最大の願いで。
いつの間にか、彼女が差し出していた手を握っていた。これが星アキラの分岐点と言ってもいいだろう。主役を引き立てる“
「僕は“本物の役者”になる」
いつもの楔としての決意じゃない。何度も絶望すると覚悟の上の決意だ。
今宵、七等星は僅かに光を増した。