アクタージュ 暗殺者(になるはずだった)ルート 作:朕好こう
「源君さぁ、最近どうしちゃったのさ。君らしくない演技してさ。ちょっと迷惑だって言うのがね?来ちゃってんだよね」
「すみません…けど」
「けどじゃなくてさぁ。困るんだよねぇ、僕らみたいな普通の事務所の俳優が、大手の俳優を食うような演技をすると睨まれちゃうワケ」
「…」
「これ、今月分の給料だからさ。分かるよね?自主的なら君の経歴にも傷が付かないし、なんなら別の所に……」
「いえ、大丈夫です。お世話に、なりました」
その日、俺は事務所を辞めさせられた。原因は俺がスターズの奴らから学んだ演技と夜凪や恋歌を研究して引き出した感情的な演技だ。作品がめちゃくちゃにならないようには気をつけている。演技は上手くなったと思う。小手先を止めてから、のびのびと演技出来るようになった。だからこそ共演者の邪魔になりかねない。特にスターズの様な大手事務所には自分らの俳優より高いレベルになりかけているのは邪魔だろう。
「…今月分の給料これっぽっちかよ」
渡された封筒もすぐに尽きるくらいの金額。バイトもあまり行かなくなってしまったから、金が無い。あんなに頑張って演じたのに駄目だった。俺に最初から才能があればこんなことにはならなかったのかもしれない。
行くあてのないまま、東京の街を彷徨う。煩わしい人通りが多い道を避けて、小道を通ろうとすると通行人にぶつかってしまった。
「あ、すみませ」
謝ろうとしたら、胸ぐらを掴まれた。咄嗟のことで頭が真っ白になる。いや咄嗟じゃなくても知らない人に胸ぐらを掴まれたら頭が真っ白になるだろう。やばい人にぶつかったとパニックになっていると。
「おい、お前、名前は?」
慰謝料請求か?はたまた東京湾にコンクリ詰めか。どちらにせよ死に近い。
「み、源真咲…です」
胸ぐらを掴まれているので苦しげな声になる。自分の胸ぐらを掴んでいる通行人の顔をよく見ていると、あの著名な演出家、巌裕次郎に似ている気がする。
「そうか、お前。うちに来い。俺の名前は巌裕次郎だ。知ってるか?ま、知らなくても構わねぇ。行くぞ真咲」
おっさんでそんなに強そうにも見えないし、杖をついているのに抵抗出来ない力で引っ張られる。どうやら拒否権は無いらしい。
これが俺の“劇団天球”への所属の切っ掛けで、舞台俳優“源真咲”の原点だ。
「おいおい、真咲ぃ。お前、女慣れしてなさそうだな」
亀太郎がへらへらした顔で俺の肩に手を置いて話しかけてくる。俺は面倒臭いという表情を顕にさせて話す。
「いや、アンタほどじゃねぇよ。初対面でエクスタシーなんて演技した時点でお察しだよ」
「はァァァ!?バキバキ卒業してますがァ!?」
「その発言が童貞だって言ってんだろ!?」
「きゃあ、真咲ちゃん童貞だなんて破廉恥ね!」
「あぁ!?」
俺が童貞と言った瞬間に内股になって口に手を当てていかにも恥ずかしいと言ったように頬を赤らめる。無駄な演技力を発揮しやがって。軽く舌打ちすると、近くで稽古していた七生さんが冷たい目で俺らを見てくる。
「あっ、な、七生さん違うんすよ!?さっきのはこいつが言い始めて」
「真咲くん、人のせいするのは良くないと思いまーす」
「きっも…」
その一言だけ呟くと稽古に戻っていく。女性から気持ち悪いと言われるほど心にくるものは無い。苛立ちをぶつけるために、亀太郎の尻を蹴ると、あふんっと言って倒れる。取り敢えず、七生さんに弁解しに行く。
そう、デスアイランドの撮影からたった1ヶ月で俺の人生はまた更に激変した。街で突然ぶつかったのは、舞台演劇に於いて知らぬ者は居ない巌裕次郎。もし、俺が映画俳優のままだったら知らなかったであろう人物。彼の劇団には無名ながら俺なんかより優れた俳優が沢山居た。そしてその筆頭は明神阿良也。夜凪と似たような感情の出し方と千世子のような技術を併せ持った男版頭鬼恋歌。この場所で俺は本当の才能に気付かされることになる。
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「だからっ!格好つけてないって言ってるだろう!!」
「格好付けてるんですよ!あーやだやだ、無自覚な格好つけほどウザイものは有りませんよ」
「なっ…!?」
「自分がイケメンだからって調子に乗らないでください、堀先輩。貴方が主役になるにはまずダサさを身に付けてください。そこからなんですよ!」
「僕がイケメンだとか関係無いだろ!?後、星だ!いい加減覚えてくれ!」
誰も居ないスタジオを借りて、久し振りくらいに大きな声を出す。恋歌君との演技の指導だが、彼女は厳しい。少しでも気を緩めれば罵声を飛ばしてくるし、僕の演技の拙さを的確に突いてくる。図星だから頭に血が上って、喧嘩みたいになる。
「と言うかダサさってなんだ!?曖昧な言葉じゃなくて説明してくれないか!?」
「それを掴むのが堀先輩の仕事でしょうが!」
「ぐっ…」
その通りだ。役作りは他人からヒントを貰えても、本当に役に成りきるのは自分なのだから。自分が理解しないことにはダメなのだ。
「…2時間経ちましたし止めましょうか」
「…そうだね」
スターズの仕事やトレーニングの傍らにやっているこの指導は、僕らの睡眠時間を削って行われている。役者として無理なことは御法度だが、ここまでしないと僕の殻は破れない。
「送るよ」
もうだいぶ外も暗い、女の子ひとりでは危険だろう。そう思っていたら、スタジオの扉が開いた。もう殆どのスタッフは帰ったはずだが、と思って見ると、そこには笑顔の千世子君が立っていた。
「アキラ君、恋歌ちゃん、なにしてたの?」
いや長い付き合いの僕には分かるが、あれは作り笑いだ。よく分からないが怒っている。慎重に言葉を選ばなければ殺される気がする。先程の指導でかいた汗とは別に千世子君からのプレッシャーで更に汗をかく。恋歌君も気付いているようで冷や汗をかいている。何か言わなきゃと思ったのか彼女は口を開く。
「堀先輩に手取り足取り教えて貰ってたの。えっと…この業界での生き方みたいな?」
「それ、ここでやる必要あるのかな?しかも息絶え絶えだしなにか激しいことでもしてたんじゃないのかな」
「あ、いやぁ…その」
恋歌君は演技が上手いのに、絶望的に嘘が下手だ。あと、言葉の選択を致命的に間違える。千世子君に論破されると慌ててこちらを見る。止めてくれ、いま僕に振らないでくれ。僕も誤魔化すのは下手だし、殺されたくない。
この演技指導は内緒の指導なのだ。僕が後輩に演技指導をされているのも、夜に同僚とは言え女性と密室で2人っきりなのもあまり褒められたことじゃない。いくら察しのいい千代子君とは言え、密室で恋歌君と僕が2人っきりになって息も乱れているのはどういう状況だと思うだろう。
いや冷静になって考えれば、ちゃんと説明すれば聞いてくれる筈だ。嘘をつくのはよくないだろう。誤魔化す方に動きかけていた思考を元に戻す。
「…その、実は恋歌君に(演技の)指導してもらっていたんだ。何分、大声を出すほど熱中した(演技議論は)初めての経験でね。だが終わってみると(気分が)気持ちいいね。疲れはするが…いい経験だった。声が響いていたなら申し訳ない」
無理矢理言葉を繰り出す。千世子君がすっと目を細める。沈黙が重い。誰か助けてくれ…
「そっか、声は聞こえなかったから大丈夫じゃないかな。あ、車で送ってくれないかな?私も恋歌ちゃんも女の子だし、危ないでしょ?」
にこっと微笑む。どうやら助かったらしい。何が彼女の逆鱗に触れ、本当に助かったかは全く分からないが。
帰りの車で恋歌君と千世子君ばかり喋っていて、僕に一切話は振られず、なんとも言えない気持ちになっていた。
原作ではアキラくんが“劇団天球”に行きますが、今回はその枠を真咲くんに埋めてもらいます。
尚、アキラくんの言い訳は千世子ちゃんにはそういう意味で捉えられてます。完全にアキラくん敵認定です。対ありです。