アクタージュ 暗殺者(になるはずだった)ルート   作:朕好こう

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死に逝く者と生きて行く者

 俺は、巌裕次郎は、ろくでなしだ。

 

 演劇をやるためだけに生きてきた。芝居に熱中して、家族に愛想を尽かされた。俺を恐れて辞めていった奴らは数え切れない。俺の舞台を最後に役者を辞めた女優も居た。

 

 それでも尚、俺は演劇を続けた。それしか道が無いから。それが俺の生きる意味だから。

 

 半年前に膵臓に悪性の腫瘍が見つかった。まだまだあいつらに教えていないことがある。まだまだあいつらには人生(みらい)がある。だから俺の死を使ってでもあいつらに、星アリサに遺さなければいけない。

 死ぬのは怖くなかった。演劇の道を志した時から、ろくな死に方はしないと思っていた。だけど心残りなのはあいつらの事とアリサのことだ。俺が集めた俺を慕ってくれる馬鹿野郎共(やくしゃたち)。俺のせいで女優を辞めてしまった(星アリサ)

 

 だから最期の作品は“銀河鉄道の夜”にした。俺の伝えたいこと全てが込められた、宮沢賢治の傑作であり遺作。

 

 その為に必要な奴は揃えた。

 源真咲。今にも死にそうな臭いがした馬鹿野郎。手前を殺す演技を何処からか学んでしまった馬鹿。でも、演技に真摯に必死にしがみついていた。だから教えてやった。役ってのは自分を殺すことじゃなくて新しい自分を知ることなんだってことを。格好いいだけが演技じゃねぇってことを。センスがねぇから何度も怒鳴った。でもあいつはへこたれないで付いてきた。

 亀と同じダサいからこそ、他人を輝かせる“脇役”って奴だ。他人を慮る才能はあった、でも自分を大切にしていいことに気付いてねぇ馬鹿。だから拾ってきた。

 

 夜凪景。阿良也と似た演技をする馬鹿野郎。そしてあいつらを導く為の役者。あいつらに銀河鉄道に乗せるための切符。あいつなら俺の言いたい事を全部あいつらに伝えてくれる筈だ。俺の死を喰らって、もっとあいつは飛べる。黒山の思惑に乗るのは癪だから利用させて貰う。

 

 芝居は独りじゃ出来ない。スタッフだとかそういう演劇関係だけじゃなくて友人、恋人、家族、他人が居るから、いいこともいやなこともあるから出来るんだ。

 

 死人に口なし。まさにその通りだ。俺が死んだら、あいつらに何も言ってやれない。つまらない老人のくだらない言葉も、クソみてぇな芝居を怒鳴ることも、「ありがとう」すらも。

 

 だから生きてる奴らが気づくしかないんだ。俺が言葉で伝えるんじゃなくて、あいつらが“本当の幸い”に気づかないとダメなんだ。

 

 

 

「おい、何見に来てんだ。商売敵だろお前」

 

 何処から入り込んだのか、稽古場を少し離れた所から見つめる、黒山に見せられた映像より髪の短くなった背の小さなガキ。阿良也と張る、いや阿良也以上の演技をする怪物。“銀河鉄道の夜”に合わせて“星の王子さま”を公演させた張本人。

 

「初めまして、頭鬼恋歌です。今日は敵情視察ってやつですかね」

 

 夜凪と阿良也の稽古から目を離さないまま、返してくる。どちらかがいい演技をしたら、それを逃さずに観察する。俺は杖を鳴らし、俺の話を聞かせる。

 

「許可してねぇぞ。帰れ」

「…ケチ」

「誰がケチだ。お前の稽古はどうなってんだよ」

「私なら成功させられるので抜け出して来ました」

「随分な余裕だな?足掬われても知らねぇぞ。夜凪はお前を軽く超える。」

 

 こいつが何ヶ月かけて稽古したのか知らないが、素晴らしい演技をしようが演劇は独りじゃ回らない。それを知らない奴の言葉だと思った。

 

「大丈夫ですよ、今私の役者(こま)を頑張って育成してるので。絶対、成功させられます。それに進化するのが天才の特権だと?」

 

 薄く笑う。そしてこちらを向いて言い放つ。

 

「ところで、死ぬってどんな気持ちですか」

 

 心臓の鼓動が跳ねた気がした。黒山か?夜凪か?いやあいつらは他人に告げ口するようなタマじゃない。なら誰だ。誰がこいつにあの話をした?

 

「脅したりしませんよ。安心してください。ただ聞きたかっただけです」

「…手前、何処でそれを」

「天知心一ですよ。私と彼はビジネスパートナーなので」

「…ろくでもねぇやつと関わってんな」

「そうですね。でも私自身ろくでなしですし、お似合いでしょ?それで、死に対する感情を教えてくれませんか」

「それを教えて何になる」

 

 こいつの意図が掴めない。俺の死をネタに週刊誌に売り出すでもなく、揺するでもなく、感情を聞きに来たのは何故だ。

 

「私、景ちゃんに会うまで、死ぬって虚無だと思ってました。でも違うんですよ。死ぬって他人に影響を与えるんです。凄いですよね?人って他人に死なれたら悲しかったり、嬉しかったり、怒ったりするんですよ。だから知りたいんです。死ぬ側の心を。それはまだ知らないから」

 

 頭鬼恋歌は淡々と言葉を並べていく。頭のおかしい戯言だ。だが、俺は返答する。こいつは俺で何かを掴もうとしている。偶には敵に塩を送るのも悪くは無い。

 

「死ぬのは怖くねぇな。痛みはこいつらで紛れた…っても、心残りだけはあったかもな。だからこの公演でその心残りも無くすつもりだ」

「…あぁ、なるほど」

 

 俺をじっと見て、何かが腑に落ちた顔をする。その姿を黙って見ていると急に頭を下げる。 

 

「不躾な質問をすみませんでした。でも私が知りたいことは知れました。ありがとうございます」

「ふん…だったらもう帰れ。他の奴らにバレたら不味いからな」

「はい。本当にありがとうございました」

 

 頭を上げて満面の笑顔で去っていく。それを見送って溜息を吐く。きっとあいつはいつか大きな壁にぶち当たる。今回は俺という死に近い人間が居たから乗り越えられた。そしてあいつ自身が理解出来るものだったから掴めたのだろう。だからもし、あいつに理解出来ないものが現れたらその時は…あいつが気づくしか無い。自分の“本当の幸い”に。

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