アクタージュ 暗殺者(になるはずだった)ルート   作:朕好こう

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【幕間】十六夜/悪魔の集会

 公演から3日後、巌さんが乗った霊柩車を見送る。

 見送ったあと、葬式場の中で皆とお話をしていると恋歌の所属するスターズの社長がやってきて、私に忠告していく。そして、彼がやってきた。

 

「はじめまして。私は色々な才能を導くという…ふわふわしたことを生業にしている者です。プロデューサーの天知心一と言います。良い話を持ってきました、夜凪景さん」

 

 スターズの社長に先程忠告されたばかりの良い話を持ってきた男はにこっと笑う。それに何故か鳥肌が立つ。

 

「本当に良い見世物…失礼…良い舞台でした。私これでも、“星の王子さま”の方もプロデュースさせて頂いたんですがそれと同等の利益が出ていた。さて、次は私の見世物になりませんか、夜凪景」

 

 恋歌も出ている“星の王子さま”をプロデュースしたのがこの人?それよりその手にあるのは、雑誌か?雑誌にはつらつらと、私が不幸だと言うことが書かれていた。

 

「どうして…」

 

 私は彼に問う。彼はにこやかな笑みを崩さないまま、語る。

 

「私の仕掛けた記事です。これを皮切りに君をスターにしたいと思っています。一緒に頑張りましょう。夜凪景(しょうばいどうぐ)さん」

 

 七生ちゃんが怒り、それを真咲君が止める。でも真咲君も天知心一のことを睨んでいる。私が悲劇のヒロイン、か。彼は私のことを知らないのだろう。私が今、どれだけ満たされているのかを。

 

「これは来週発売予定の文秋ですが、心中お察しします。売れ始める芸能人はまずそこで苦しむ。自分の売れ方に。でもね、夜凪さん」

 

 彼は大量のお金を私にばら撒く。私はその札の多さに震える。こんな大金を彼は何処から出したのだろうか。

 

「悲劇のヒロインは金になる。それでいいじゃないか。芸能もビジネスであることを忘れてはいけません」

 

 まだまだお金が出てくる。私は腰を抜かして、倒れてしまった。

 

「こんな額は貴女ならすぐに小銭になる。私が君を輝かせよう。この芸能界の誰よりも、君の不幸を武器にして」

 

 ……私は不幸じゃない。劇団天球の皆、茜ちゃん、武光君、黒山さん、雪ちゃん、レイとルイ。そして恋歌。おまけだけど千世子ちゃんとアキラ君だって居る。恋歌とレイとルイが居れば満足だけど。でも皆大切な人達で、私はとても恵まれていると思う。

 

「他人の人生を手前の物差しで測ってんじゃねーぞ。守銭奴天知君」

 

 黒山さんが歩いてくる。天知さんも立ち上がって2人で睨み合う。

 

「黒山、君はどうせ夜凪の心を尊重しろなどとその悪人面に似合わぬ善人のような言葉を宣うのだろう。だけど、私も何より心を最も大切だと考えている」

 

 彼は脳を指さして、言い放つ。黒山は嘲笑するも彼はまた語る。

 

「ビジネスは人の心の売買だ。彼女がそれを証明した。人の心は買える。簡単に上書き出来ると」

「お前のキャラ設定なんざ、毛ほども興味ねぇよ。何が目的だ?」

「野蛮な話し方をするな、黒山。私は夜凪さんを引き抜きに来ただけだ」

「質問を変える。お前にしてはやり方がみみっちいんだよ」

「…なんの事ですか?」

 

 私は起き上がる。彼に言わなきゃならないことがあるから。

 

「ペンあるかしら」

「えぇ、勿論。ビジネスマンですからね」

 

 ペンを渡される。雑誌を手に持ち、皆に聞く。

 

「私と皆って友達よね」

「え?妹みたいに思ってたんだけど」

「ペットだろ。チワワみたいな」

「……こういうのは時間が大切って言うからね」

「阿良也さん、何言ってんすか…?」

 

 私は嬉しくて雑誌に書き込む。孤独に線を引いて修正する。私には恋歌が居る、ルイとレイが居て、皆が、友達が、いっぱい居るのだから。

 

「真咲君、私ってオシャレよね?」

「え?…ユニークではあるけどあれはオシャレというか」

「オシャレよね?」

「…おう」

 

 恋歌も大絶賛の私のファッションセンス。もしかしたら私はモデルなんかにも向いてるかもしれない。役者の方が好きだからやらないけど。

 

「黒山さん、ルイとレイ…恋歌はもちろん可愛いけど。うん、可愛いわよね?」

「頭鬼は全然可愛くねぇよ。いや見た目は可愛いかもしれねぇけど。…まぁ、あいつらは寝てりゃ可愛いんじゃねぇの」

 

 恋歌は毎日可愛いのに何を言ってるのだろうかこのヒゲ男は。見る目が無いわ。弟妹のためにという部分を消す。恋歌やルイ、レイの為ではある。特に恋歌の目を私だけに向けていたいから。私が彼女の隣に立っていたいから。だけど今はお客さんの為にも演じている。

 

「黒山さん、私って不幸かしら」

 

 答えは当然Noだ。だって恋歌と居れる今が不幸な訳無いもの。

 

「知るか。それはお前が決めろ」

 

 黒山さんがそう言ってくれる。だから私は大きくとても幸せと雑誌に書き込む。そして天知さんに見せつける。

 

「私は幸せ。貴方なんかに私が不幸かを決められたくないわ。私は、私の好きな役を演じるの。だから貴方とは手を組めないわ」

「…なるほど」

 

 彼は頷くと、手を開く。そこにはドッキリ大成功と書かれている。私は呆然としてしまう。

 

「…は?」

「だからドッキリですよ。別に企画でも無いですが。お金は本物なので回収します。手伝っていただけませんか。ドッキリですから記事は偽物ですし、彼女が推す女優をからかいに来ただけです」

 

 皆が困惑するのを余所に、天知さんは帰っていく。その後彼に会うことは無く……

 

 

 

「恋歌お姉ちゃん、帰って来ないねぇ」

「アメリカに帰っちゃったんだって。前もあったけど今回は長いね」

 

 “銀河鉄道の夜”と“星の王子さま”は大成功を収めた、金額的には負けてしまったが、それ以上に得られるものが多かったし、私の認知度は大きく向上して行った。だけど、公演が終わると、恋歌は毎年のこの時期と同じようにアメリカに一時的に帰国してしまった。以前から理由を聞いても秘密だとはぐらかされてしまう。私も付いていくと言っても断られてしまうのだ。千世子ちゃんと一緒だったら絶対に許せない。

 

 会いたい。彼女が居ないと寂しい。心に穴がぽっかり空いたようだ。■してるのに、■してるからこそ彼女とずっと居たいのに。

 

 それだけでは無く、私も最近おかしいのだ。精神に違和感を覚える。ルイとレイが写真のように、まるで過去の出来事かのように感じてしまう。スターズの社長から忠告されたようなことが起きているのか。銀河鉄道の夜で死の体験をし過ぎたが故に、おかしくなっているのか。

 

 でも、それでもいい。恋歌が私を見てくれるなら。それで私の演技が進化するなら。早く仕事が欲しい。芝居をしていないと私は駄目なんだ。彼女の隣に居るには女優でなければいけないから。

 

 立ち上がって、ルイとレイを連れて事務所に向かう。仕事を貰いに行く為に。恋歌に私を■して貰えるように。

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 ヘリに乗り込む。向かいの席には、制服姿の彼女が座っている。私の大切な商売道具(ビジネスパートナー)の頭鬼恋歌が。

 

「ねぇ、景ちゃんに余計なちょっかい出したよね」

「これは耳が早い。もしかして見ていたんですか?」

「景ちゃんを輝かせてとは頼んだけど、あのやり方は気に食わないな」

 

 相変わらず闇の深い目だ。それで覗き込まれると引き込まれそうだ。相手は人を殺す術を持っている。というか殺さなくても人心を掌握する怪物だ。私は大袈裟に肩を竦めて許しを乞う。

 

「勿論、記事の差し替えと回収はしますよ。こちらも酷い出費だ。ヘリに印刷、彼女の過去を調べるまで至る所に金を使った」

「当たり前だよ。罰金だと思って反省してよ。それに私が“星の王子さま”で成功したからプラマイゼロ所かプラスでしょ?」

「お陰様で。星アキラにも主役のオファーの準備、和歌月千にも仕事を用意しています。まぁ、もうあの劇団は使い物になりませんが」

 

 スターズの俳優以外の劇団から収集した者たちは皆演技に取り憑かれ始めた。現実と芝居の境界を失い始めた。全て彼女が行ったことだ。彼女は大切では無いものを容赦無く使い捨てる。だが星アリサとの約束を守るために星アキラを引き戻した。悪魔のように契約は律儀に守るのだ。

 

「ところで何故彼を使い捨てにしなかったんですか?まさか情が湧いたとか?才能至上主義の貴女が、才能の無い星アキラを元に戻すとは思いませんでした」

「…」

 

 彼女は黙って、私を見る。否定しないのを面白がって私は言葉を重ねる。

 

「そのまさかでしたか?いや驚きましたね。貴女が夜凪景や百城千世子以外の人間を大切にしようとするなんて。熱愛でしたら任せてください。お金になりそうであれば売り出します」

「そんな訳無いでしょ。アリサさんにスターズの看板を汚さないって約束したのと、いつか彼でも役に立つかもしれないから残しただけ」

「そうですか。残念だ。炎上商法は意外と売れる」

 

 その分飽きられるのも早く、嫌われるだけというリスクもあるが。

 

「…そう言えば、私、公演が終わったらアメリカに少し戻るから、飛行機の手配よろしくね」

「おや、生まれ故郷に?なにか?」

「そろそろ命日なの。でも多分その日に行けないからちょっと早く行こうと思って」

 

 彼女の家族は誰もまだ死んでいない。彼女の親類も夜凪家以外存在せず、命日が近い者もいない。疑問を口に出してみる。

 

「誰のですか?」

「分からない」

「…?」

 

 分からないとはどういうことなのだろうか。顔を覚えていない親類か?いや、だとすれば彼女は容赦無くそれを切り捨てるだろう。そんな情を彼女は持っていない。それに覚えていないのでは無く、分からないと彼女は言った。

 

「取り敢えず学校に休みを取る根回しよろしくね。心一さん」

 飛び立つ前にヘリから降りて、去っていく。後で彼女のマネージャーをアメリカに追わせておこうと心にメモし、新しい事業を考え始める。彼女の演技は非常に金になるし、今回の件で認知度を高めた。

 

「楽しみだ」

 

 飛び立つヘリで笑みを浮かべる。

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