アクタージュ 暗殺者(になるはずだった)ルート   作:朕好こう

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百合描写あり。苦手な方は気をつけてください



【幕間】愛の天使

 収録が終わった後、私はマネージャーの車に乗って、足早に帰宅する。今日は恋歌ちゃんがアメリカから帰って来る日だから。彼女を私の家に呼んだのだ。夜凪さんの家に帰る前に寄るように言い含めた。

 

「…まぁ、少しの抜け駆けくらい許されるよね」

 

 気分が高揚しているのが感じられる。マンションの前に彼女を見つけて、私の気分は最高潮に達する。

 

「恋歌ちゃん」

 

 浮かれた気持ちのまま、話しかける。彼女と今日は何しようか、なんて浮かれる。彼女は私の呼び掛けに気付くと顔を向ける。その顔を見た途端に私は浮かれていた気持ちが急速に沈んでいくのが分かる。どうして、泣いているのか。沈んだ気持ちが怒りへと変わる。彼女を泣かせた奴がいる?…私の恋歌ちゃんを?

 奥歯を噛み締めて、ギリッと音が鳴る。そんな不埒者が居るなら始末しなきゃね。

 取り敢えず、ハンカチで彼女の涙を拭いてあげつつ、理由を問う。

 

「どうしたの?その顔」

「…千世子ちゃん」

 

 唐突に抱きつかれる。今までの親愛からのハグでは無く、縋るようなハグ。まるで自分の存在を確かめるかのようにぎゅっと強く抱き締められる。

 …こんな状況なのに頼られて嬉しい自分が居て、最悪だと思う。泣いている彼女を見た時に怒りだけじゃなくて可愛いと思った私は最低だと思う。

 優しく抱き締め返す。頭を撫でて、部屋に行こうと促すと彼女は頷いて手を握ってくる。可愛い、襲いたい、この気持ちにつけ込めば私を見てくれるんじゃないか。

 

 彼女は玄関でまた抱き着いてくる。私も抱き返しながら鍵とチェーンを掛けておく。この後の展開を予想し、私の理性と本能が争い始める。私の理性がこう言う。

 

『襲うのです、千世子。彼女の心につけ込むのです。彼女が夜凪景の家に帰ってしまえば、このようなチャンスは二度とありません。さっさとキスして押し倒すのです。玄関でやりなさい』

 

 …却下。可愛い彼女を私の部屋でめちゃくちゃにしたいのは同意できるけど、玄関は恥ずかしい。というか、心につけ込めるのかどうかも分からない。私の本能に聞いてみる。

 

『…恋歌ちゃん凄くいい匂いするねこれ最近新発売した香水の匂いだよねいつもは子供っぽい彼女が香水っていう少し大人なアイテムを使ってるのに胸が高鳴るって言うかこの香水を付ければ彼女とお揃いじゃない?泣いてる恋歌ちゃん凄く可愛いいつも笑顔で私を幸せにしてくれるけど泣いてる彼女は新鮮味があるし性癖だよね好き大好き襲いたいこの体勢ならいけるキスしてベッドに連れ込もう彼女の傷を癒しながら愛してあげようよ』

 

 駄目だ、私の本能は使い物にならない。オタク特有の早口になってる。句読点が無いだけで本当に文章って読み辛い。

 まずは話を聞こう。もし彼女を泣かした奴がいるならお仕置が必要だ。まさかとは思うけどアキラ君とかだったらどうしようか。もしそうだったら、どんな殺り方でお仕置しようかな。

 

「恋歌ちゃん、落ち着いた?」

「…ん」

 

 彼女が離れるのが名残惜しい。彼女の顔を見ると、まだ少し涙が出ているみたいだ。…おかしいな、胸が高鳴ってしまう。好きな子の笑顔が好きなのは勿論だけど、泣いてる好きな子は…凄く可愛い。守りたくなるし、虐めたくもなる。愛が抑えられなくなりそう。私の理性も本能もGOサインを出し始める。

 

『行くのです、千世子。ほら押し倒すのです。この部屋の防音対策は完璧です。玄関ですから少し音が漏れるかも知れませんがそれもまたオツと言うもの…』

『可愛い虐めたい夜凪景に渡したくないこんな状態で帰したらあの女に食われちゃう私が先に彼女の初めてを貰うんだからダメ早くしようよこれはマーキングだよ恋歌ちゃんに私の匂いを擦り付けてあげよう』

「うーん…我ながら酷いなぁ」

「…?千世子ちゃん?」

 

 ずっと黙っていたからか、不安そうに手を握ってくる。…え、可愛い。あざと過ぎるくらいに可愛い。

 私は高鳴る鼓動を抑えつつ、笑顔で部屋に連れていく。これもしかして誘われてるのかな、据え膳食わぬは男の恥ってやつなのかな。

 ソファに座らせて、彼女に聞いてみる。

 

「それで、どうしたの?泣いてたみたいだけど」

「…あのね。分からなくなっちゃったの」

「…?」

「私の中にあった望みが消えたの。景ちゃんと同じ舞台に立つのが望みだった筈なのに、彼処に行ったら無くなっちゃった。王賀美陸に会ったら、“私”が保てなくなったの」

 

 辛そうに、吐露する。夜凪景と同じ舞台に立つのは聞き捨てならないが、それより今は彼女だ。彼女はこんなに幼い顔立ちだったか?確かに元気で自由に振る舞う姿は幼い子にも見えなくはなかったけど、今の彼女は本当に小学生の様だ。

 

「千世子ちゃん、どうしよう。私どうすればいいの?このままじゃ、愛されない。千世子ちゃんにも景ちゃんにも愛されないよ…わかんない、私ってどうやって笑ってた?私じゃ、愛されない。早く“私”にならなきゃ行けないのに思い出せないの」

 

 私の手を握って青褪めた顔で聞いてくる。私は何も答えられない。あぁ、やっぱり彼女も仮面を被ってたんだ。私とは違う。強くある為のものじゃない、弱いのを誤魔化す為の仮面。これは似ているようで違う。だって彼女は自分の弱さから目を背けた。弱さを背負うのではなく、目を逸らしてしまったのだ。

 

「アメリカで王賀美陸にまた出会って、分かったの。“私”じゃ敵わないって。だってね、私偽物だから。今までそれでいいと思ってきたのに、思い知らされたの。あれが(スター)なんだって。ひと握りの選ばれた人なんだって。景ちゃんも千世子ちゃんもきっとそういう人たちなんだ。私はいつも…出来損ない」

 

 彼女は苦しそうに胸を押さえる。悲痛な表情を浮かべる。これが本当の彼女、か。私は黙って彼女の言葉を聞く。

 

「私は今まで人の望みを聞いていれば良かった。産まれた時からずっと、ずーっと。だって都合のいい存在なら皆に好かれるから。なのに急に望みが分からなくなったの。これからどうやって生きていけばいいの?どうすれば愛されるのかな……」

 

 …私は何も答えられない。だって私は彼女じゃないから。痛みを和らげることは出来るかもしれないけど、根本的に治すことは出来ない。

 

「…もう、演じられないの。だから役者を辞めるね。私なんか居なくても、さほど変わりないから。景ちゃんと千世子ちゃんはきっと愛され続ける。でも私はもう愛されな┈┈」

「巫山戯んな」

「…え?」

 

 腹が立つ。私にも彼女にも。もっと早く彼女に出会っていれば良かった。もっと早く彼女のこころを理解していれば良かった。

 私から突然飛び出た言葉に惚けた彼女に告白する。

 

「私は貴女が好きだよ」

「それは“私”でしょ?私じゃないよ」

 

 違うんだよ、恋歌ちゃん。貴女の言う“私”も含めて貴女が好きなの。だって人間は誰しもが仮面を被ってる。醜い心を見られたくないから、綺麗な自分を見て欲しいから。社交性仮面だったかな。そんなことはどうでもいいけれど。

 

「知ってたよ。貴女が仮面を被っていることくらい。でもね、そんなの本当にどうでもいい。元気な貴女も好き、悲しむ貴女も好き、演技している時の貴女も全部ひっくるめて愛してる」

「ぇ…知ってたの…?ていうか…その、あ、愛してるとかそういうの…恥ずかしいからダメ……」

 

 凄く顔を赤らめて、あたふたし始める。

 それに私はまだあの時の借りを返せていない。初めて激しい怒りを感じ、愛した貴女に。

 

「役者を辞める?本気で言ってるの?こんな道半ばで?」

「そう…だよ。私の中にもう望みが無いから。誰にも必要とされてないから」

「じゃあ、私が必要とする。夜凪さんと同じ舞台?それもまだ叶えてないでしょ。だからそれに追加して。私とも同じ舞台に立つ」

「千世子ちゃんと同じ舞台に…」

「そう。だから辞めないでよ。私、まだ貴女の視線を釘付けに出来てないの。この愛も貴女に伝え切れてない」

 

 まだ愛があるの…?と彼女は赤面する。そういう所が凄く好き。無自覚で私達に愛を与えてくる癖に、与えられると弱い所とか、なんでも好きって言いながらも、野菜を食べる時は顔を顰めていたり、チョコを食べる時は幸せそうにするとか…本当に大好き。

 

「恋歌ちゃん」

「は、はい…?」

 

 恋歌ちゃんを押し倒す。今日は夜凪さんも居ないし、誰の邪魔も入らない。たっぷり彼女に私の愛を伝えてあげよう。二度と役者を辞めるとか、愛されてないなんて言わないようにその身体に刻みつけてあげる。

 

「ち、千世子ちゃん。これはどういう状態でしょうか…!?」

「んー…教育?」 

「何の!?」

「さぁ…?これから身を以て体験させてあげるね」

 

 首筋にキスをして、彼女の服に手を掛けようとするとインターホンが鳴る。…配達は頼んでいない。無視して彼女の服を脱がそうとする。

 

「誰か来てるよ!?ふぁ…!?そ、そこダメ」

「ふーん…ここ弱いんだ」

 

 ピクっとして可愛い。首筋、本当に弱いんだなぁ…力が抜けているから、服は殆ど脱がすことが出来た。インターホンが何度も鳴らされる。ドアをガチャガチャする音が聞こえる。煩い人も居るものだ。

 

「ぅ…あ、だ、ダメだってば!」

「あ」

 

 顔を真っ赤にさせた彼女が服を掴むと走って玄関に逃げていく。鍵とチェーン掛けてるし、逃げるのに手間取る。それに上は裸同然だから逃げるに逃げられない。逃げたお仕置しなきゃ。

 そんな楽観をしていたが、あまりにも動揺していたのだろう。上の服も着ないで外に出ようとする。持ち前の器用さで鍵とチェーンを驚きの早さで開けていく。

 

「…恋歌?」

「…け、景ちゃん?」

「…夜凪さん?」

 

 ドアの前には夜凪さんが立っていた。彼女は恋歌ちゃんのあられもない姿を見て、すぐこちらを向く。

 

「どういうことかしら?」

 

 戦争の火蓋が切られた…気がした。

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