アクタージュ 暗殺者(になるはずだった)ルート 作:朕好こう
「今日も可愛いわ、恋歌」
朝起きたら、恋歌を抱きしめる。これはもう日課だ。恋歌は相変わらず慣れないのか照れている。
「け、景ちゃんの方が可愛いよ」
声が上擦っているのも可愛いわ。なんでこんなにも愛らしいのかしら。
朝食を作る前に、この行為をすることで料理が美味しくなったように感じる。本当はもっと愛を伝えたいけど、ルイとレイに見られるのは恥ずかしいから2人きりの時だけにしようと思っている。
朝食を食べ終わった後、服を着替える。今日は黒山さんに入ってきた依頼でとあるバンドのミュージックビデオの撮影をするのだ。久しぶりのお仕事で気分がいい。
「景ちゃん、お仕事?」
「うん、久しぶりのお仕事だわ。ルイとレイも連れていくのだけど…恋歌も来てくれるかしら」
「うん、行く!景ちゃんの演技、楽しみだなぁ」
私が誘うと、玩具を貰った子供のように嬉しそうに頷く。
…やっぱり、貴女が笑うと私も笑顔になる。これが好きだということなんだろう。
事務所には行かずに、駅のホームで待ち合わせする。雪ちゃんと黒山さんが連れ立って来る。黒山さんは恋歌のことを見ると顔を一瞬顰める。黒山さんは恋歌のことが苦手らしい。こんなに可愛い子の何処に苦手になる要素があると言うのだろうか?
「おい、お前が来るなんて聞いてねえんだが」
「墨字さんって私のこと嫌いすぎじゃないですか?」
「そりゃ、危険だって分かってるところに突撃するのはアホだろ?」
「2人とも、話は中でして下さい。入りますよ」
呆れた顔の雪ちゃんが、睨み合う黒山さんと恋歌を電車に押し込む。私達もそれに続いて、座席に座る。レイが黒山さんに疑うように聞く。
「クロちゃんが仕事するの?本当に?」
「本当に決まってんだろ。ほら、カメラもある」
「盗撮カメラですか?」
「おい、頭鬼。電車の中で盗撮とか危ねぇ単語出すなよ」
もしかして、ミュージックビデオは建前で恋歌や私を盗撮する気では…?このヒゲならやりかねないわ。
私は少し身構えると黒山さんは溜息を吐く。
少し電車に揺られていると黒山さんが口を開く。
「なぁ、夜凪」
「なによ、変態ヒゲ」
「なんだそのあだ名。じゃなくて、お前と、頭鬼、千世子だったら誰が1番芝居が上だと思う?」
「…私と恋歌、千世子ちゃんの中で…」
千世子ちゃんは私より芸歴が長くて、技術にも長けていて、努力だって常にしている。
恋歌は神に愛されていると思ってしまうくらい、演技力と技術力に長けている。
隣に座る恋歌の横顔を見る。彼女は何も喋らない。
私は…
「…芝居の上手さを決めるのは私たちじゃないと思う」
負けない。どれだけ劣る点が有ろうとも、私は必ず彼女達に追いついてみせる。恋歌の横に立ってみせる。
「ところで、変態ヒゲはなんで私を撮りたいなんて言い始めたのかしら。やっぱり盗撮…?」
「違ぇよ…お前を撮りてぇと思ったからだ」
「ふーん」
まぁ、それなら撮られてあげてもいいわ。別に嬉しくなんてないけど。
本当は少しだけ嬉しいけれど、絶対に黒山さんには言わないわ。絶対馬鹿にするもの。
駅のアナウンスが新宿に着いたことを報せる。それは本番の合図だ。私と黒山さんは席から立ち上がって、用意をする。
「準備はいいな?」
「勿論」
「お前の芝居を世界に届けるのは
カメラを持った黒山さんが、いつもより怖い顔で笑う。でも私は知っている。こんな顔をしているけど本当は優しい人だということを。
私も微笑んで、ヘッドホンを耳に当てる。
「よろしく、黒山さん」
雪ちゃんがカチンコを鳴らすと共に走る。風が心地いい、音に乗って私の気持ちを自由に表現する。悲しくなったら泣いて、楽しかったら笑う。ありのままの私を皆に見てほしい。本当の私を貴女に見て欲しい。
撮り終えると電車のホームで待っていたルイとレイ、雪ちゃんが褒めてくれる。でも、恋歌が俯いたまま、ずっと無言で不安になる。好き勝手にやり過ぎたのかしら。
「恋歌…その、どうだったかしら?」
恐る恐る恋歌に聞いてみる。恋歌は優しいから酷いことを言わないと分かっていても怖いものは怖いのだ。
「…綺麗、だった。なんて言えばいいのかな…頭悪くて言葉が出てこないや…無邪気に笑って、踊ってるみたいでさ。あぁ、なんでこんな語彙力が無いんだろ。でも、本当に綺麗だったよ、景ちゃん」
やっと顔を上げてくれた恋歌は泣いていた。普段見ない恋歌に動揺する。恋歌が泣いたところなんて演技以外で見た事がないから。
「景ちゃんは凄いなぁ…凄いよ」
恋歌から抱きついてきて、思わず嬉しくなってしまうけど、泣いている恋歌に疚しい気持ちなんて考えられなくてルイやレイを宥めるときみたいに頭を撫でてあげる。
数分後には落ち着いて、いつもの恋歌になっていた。
「電車のホームで泣くなんて恥ずかしいなぁ」
「恋歌お姉ちゃん大丈夫?」
「大丈夫だよ〜心配かけてごめんね」
ルイもレイも心配そうに恋歌を見る。だけど私はそれどころじゃなくて。
「その、恋歌。この手は…」
「…嫌だった?」
「い、嫌じゃないわ」
「良かった、まだ握ってていい?」
「うん…」
恋歌が私の手をぎゅっと握って離さないのだ。恋歌は気にしてないようにルイ達と話をしているが、私はもう茹だってしまうくらいに顔が熱かった。
結局、家に帰るまでずっと手を握ったままだった。嬉しいけれど、恥ずかしくて、その後まともに恋歌の顔を伺うことが出来なかった。
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私は貴女が嫌いだった。私の心を暴く悪魔だと思っていた。
けど貴女を知っていく内に、好きになってしまった。
切っ掛けは水族館でのデート。貴女の笑顔に見惚れてしまった。本当に楽しそうに笑う貴女を忘れられなくて、もう一度見たいと思ってしまった。私の演技で貴女を笑顔にしたいと思ったの。
“天使”として祀り上げられていた私じゃ駄目だと教えてくれた夜凪さんには感謝している。仮面を被っているだけじゃ、恋歌ちゃんに追いつけない。恋歌ちゃんを振り向かせられない。
天使になることを目指すようになってから、演技力が異常なほど成長していくのを感じる。でも、足りない。私はこのままだと失墜する。恋歌ちゃんを振り向かせる前に芸能界から消えてしまう。大衆に飽きられて、私は堕ちる。
なら悪魔と契約してでも私は生き残ろう。貴女の笑顔を私が独り占めしたいから。夜凪さんにも、アリサさんにも負けたくないから、超えなきゃいけないから。この悔しさと愛を満たすにはこれしかないから。
「だから力を貸してよ」
私の対面で、彼は正直にも胡散臭くも感じる笑みを浮かべている。
「えぇ、私にお任せ下さい」
「へぇ、随分と自信満々だね?頼んでおいてなんだけど、怖いくらいに自信があるね」
「そうですね、予想していたので」
彼は、紙を私に渡してくる。それは本当に私が来ることを知っていたかのような資料だ。
「…トリプルキャスト?」
「ダブルキャストで夜凪景と貴女を戦わせるのも面白そうだが…頭鬼恋歌という
トリプルキャスト。ダブルキャストならば舞台でよく見られるシステムだ。だが、名が売れている俳優なら、普通の俳優なら避ける。何故か。比べられるからだ。少しでも劣るところがあれば必ず言われる。比較対象が近くにあるのはリスクしかない。
「スターズが捨てた女とスターズの天使、そしてスターズの新星の三つ巴…これは売れそうだ、と思いましてね」
彼が何を考えているかは明白だ。“金儲けする”。それが彼の理念なら私も似たようなものだ。“売れる作品を生み出す”。なら私が彼の手を拒む理由はどこにも無い。
「よろしく、天知さん」
アリサさんにも報告を終えた翌日の夜、夜凪さんと恋歌ちゃんのグループに今から会えないかと連絡する。
公園で立っていると、恋歌ちゃんと夜凪さんが来てくれる。彼女達は知っているのだろうか、あの話を。
「こんばんは、恋歌ちゃん」
「待って、私も居るのだわ!?」
「こんばんはぁ、千世子ちゃん」
恋歌ちゃんを見て、顔が緩みそうになるけど気合いで引き締める。恋歌ちゃんは嬉しそうに抱きついてきてくれる。まるで犬みたいで可愛い。…首輪とかつけてみたら喜んでくれるかな?
頬を膨らませた夜凪さんを無視しつつ、ベンチに座る。
少しだけ3人で他愛の無い話をする。恋歌ちゃんとも夜凪さんとも。こんな風に笑って話せるのはこれが最後かもしれないから。噛み締めるように。
「…2人はまだ聞いていない?」
「何の話かしら?」
「?」
ふたりとも首を傾げる。天知さん経由で恋歌ちゃんは知っていると思っていたけど…
「私たちの次の仕事の話」
「もしかして、共演の話?」
恋歌ちゃんが目を輝かせて聞いてくる。私は可愛すぎて抱きしめたくなる気持ちを抑えて、首を横に振る。
「ううん、共演じゃなくて…トリプルキャスト。私と恋歌ちゃん、夜凪さんが同じ役を演じてみんなに見比べてもらう舞台。そして、私が主人公だって証明するための舞台だよ」
私は不敵な笑みを浮かべる。これは宣戦布告だ。夜凪さんと恋歌ちゃんの演技を完全に超えた上で、恋歌ちゃんを私のモノにする。
「2人は、興味無いかな?私と貴女たち、誰の芝居が上か」
「…うん、私も知りたい」
夜凪さんは真っ先に乗ってくる。恋歌ちゃんは少し戸惑っているようだった。そんなんじゃ、私に勝てないよ恋歌ちゃん。私は貴女の知る天使じゃ無くなったから。もう綺麗なだけの天使じゃない。
「演目は“羅刹女”。西遊記に孫悟空の敵として登場する風の神のお話。新しい私を魅せてあげる…覚悟してね、恋歌ちゃん、夜凪さん」
天才である2人に私は勝つ。そして、証明する。私は貴女の横に居るのに足る女だって。
だから、貴女も本気で来てよ。恋歌ちゃん。