アクタージュ 暗殺者(になるはずだった)ルート   作:朕好こう

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烏山武光→源真咲→和歌月千で視点変更しています。


【幕間】人は巡り()う 転

 俺はいつも一歩、遅い。そして後悔するんだ。もっと早く足を踏み出せば良かったって。

 

 例えば、デスアイランドで百城の技術、夜凪の演技力、頭鬼の才能を目にした時。

 

 例えば、夜凪が巌裕次郎の遺作“銀河鉄道の夜”に出演した時。

 

 例えば、頭鬼が“星の王子さま”で俳優として名を上げた時。

 

 俺は足を踏み出せなかった。怖かったからでは無い。本当に間が悪かったのだ。偶然別の仕事があったから、偶然他に用事があったから。

 

 そう、誰が悪い訳でもなく。ただ間が悪かった。

 

「だからこそ、俺は後悔しているんだけどな」

「ふぅん、武光でも後悔するんだな」

「む?真咲、それは俺の事をバカにして無いか?」

「いや、そういう訳じゃねぇよ。最初のイメージ的には真正面しか見ない奴だったってだけだよ」

「…ん?結局それって」

「……本当にバカにはしてないぜ。良い奴だよお前は」

 

 真正面しか見ない。それが出来たらどれだけ楽か。人である以上、真正面だけを見るのは不可能に近い。どれだけ熱中しようとも、努力しようとも周囲に目を配らなければ人は生きていけない。独りで闇雲に突っ込むだけでは、駄目なんだ。それが出来るのは…一部の人を辞めた天才だけだ。

 

「そう言えば、真咲の“銀河鉄道の夜”良かったぞ。巌さんの作品に出れて羨ましい限りだ」

「お前、さっきの話の流れから、よくそれ言えたな…まぁ、うん。ありがとう」

「はは、俺は俺に後悔しているだけで真咲は関係無いからな!…ところで、夜凪はどうだった?演技が研ぎ澄まされていたのは分かるが…裏でどんなことをすれば、あんな演技になる?」

「相変わらず、成長速度が桁違いだよ。スポンジみたいに吸収しやがる。あの演技は、巌さんに俺らより先に癌について話されてたらしいからな」

「成程な…」

 

 死について話されていたからと言って、彼処まで表現出来るかどうかは置いておいて、素晴らしい演技だった。繊細さやリアリティはそのままに、表現力を得た夜凪に感嘆半分、嫉妬半分という気持ちだ。

 

「武光って頭鬼の方も見に行ったんだろ?どうだった」

「…俺は怖いと感じたよ。恐らく、頭鬼を知っているからだろうけど」

「怖い?」

「あぁ。元々、頭鬼の表現力がずば抜けていたのは真咲も知っていると思う」

「そうだな…多分、俺は特に知ってると思うよ。何せ、演技であいつの影響を1番受けたのは俺だからな。それで?表現力が高まってたから怖いってか?」

「いや、表現力も高まっていたがそこじゃないんだ」

 

 言い淀む俺に真咲が首を傾げる。表現というのは、あくまで気持ちを、何かを伝える為にある手段だ。だからこそ、否が応でも相手の主観が入ってくる。しかし頭鬼の演技からは、それを一切感じなかった。それにも関わらず感動した。いや、()()()()()()()

 勿論、“星の王子さま”自体が感動する物語だったのもある。だが、それ以上に郷愁や悲哀を引きずり出され、泣いてしまった。

 感情を強制的に引き出す演技…それが恐ろしくない奴なんて居るだろうか。

 

「…よく分かんねぇけど、取り敢えず演技が上手かったってことか?」

「それは間違いないな。星アキラもデスアイランドの時とは比べ物にならないほど、演技が上手くなっていた。1日目では少しアクシデントもあったらしいが…」

「それは聞いたな。今、CMとかドラマで、主役として引っ張りだこなんだって?羨ましい限りだぜ、本当に」

 

 真咲は、けっ、と言いながらパイプ椅子に深く座り込み、俺は苦笑して窘める。

 

「そろそろオーディションが始まるんだ。流石にきちんとしておけ」

「…それもそうだな」

 

 真咲が座り直した途端に、俺の番号が呼ばれる。真咲は頑張れよ、と言って背中を押してくれる。それに対して、俺は笑顔で任せろ、と返す。

 

 俺はいつも間が悪かった。足を踏み出せず、遠い所から見ているだけだった。

 

 だから、今回はそうならない。

 

 足を踏み出す。今回のオーディションは1対1の形式だ。仲間は今は居ない。

 

「烏山武光です!宜しくお願いします!!」

 

 さぁ、今こそ羽ばたく時だろ。このチャンスを俺は、絶対に逃してはならない。もう二度と後悔しないように俺は今日、足を踏み出した。

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 武光とオーディション会場で別れた後、電車じゃなくて歩いて帰る。最近、ろくに運動してなかったからそれも兼ねて歩いてみる。

 

「色々変わってんなぁ」

 

 東京は目まぐるしく、色んな店が変わる。流行りの中心だからこそ、栄える店もあれば廃れる店もある。例えば、タピオカとかもそうだろう。あれの次はバナナジュースだ。俺にはそれらの良さはよく分からないけど、流れっていうのは確実に存在する。

 

 それは俳優も一緒だ。歳を経るごとに需要は失われる。勿論、逆もある。歳を取るごとに需要が増す人も居る。けどどちらにも共通するのは結局、流行なんだ。

 若くて爽やかな奴が流行る、渋くて落ち着いた奴が流行る。そうやって俳優はニーズに合わせて行かなきゃ行けない。

 

 それは俳優にとって苦痛だ。死よりキツい。流行に乗れなきゃ、待っているのは社会に忘れられるというある意味での死な訳で。皆が必死に流行を追いかける。自分を偽って、流行りの飲み物を飲み、流行りの服を着て、流行りの曲を聞きながら、笑顔を做る。

 馬鹿げてる。俳優なら、演技で勝負しろよって心底思う。けど、それが出来ない奴は落ちぶれるわけだ。客のニーズに応えられない店が飽きられるように、俳優も飽きられる。

 

「…何してんだお前」

 

 歩いていると、公園で鳩と悪戦苦闘している恋歌を見掛ける。いや、一方的にやられているな。数分するとパンを無事死守して、肩で息している恋歌に話しかける。

 

「真咲くんじゃん。どしたの?」

「こっちが聞いてんだよ」

「撮影終わって、遊んでたんだけどね…そしたら鳩が私のパンを奪おうとしてきてさ…」

 

 こいつ、鳩に馬鹿にされてんのか?恋歌は戦利品(パン)を口に咥え咀嚼する。その間、ずっと無言で気まずい。俺が喋ろうとすると、ふんふんしか言わないし…

 

「ご馳走様でした。で、真咲くんは何してるの?」

「…散歩だよ。運動不足だからな」

「そっかぁ。じゃあお腹減ったんじゃない?」

「確かに、減ったけど」

 

 久しぶりに歩いたのもあるし、いつも夕食を摂っている時間だったからお腹は空いている。というか、こいつまだ食うのか。その割には色々小さいな。小学生とか中学生以降、成長してないんじゃないか?

 

「…ねぇ、今その割には胸も身長も小さいな、なんて思わなかった?」

「いや、別に」

 

 こいつ、俺の心を読んでいるのか?少し怖気付いて嘘を吐く。恋歌はそっか、ならいいやと胸を気にしながら呟くと、手を叩いて何かを思い付いたように喋る。

 

「良かったら、一緒にご飯食べない?今日、私の家に戻るんだけど夕食、独りだと寂しいからさ」

「良いけど…夜凪は?」

「いつも景ちゃんとご飯食べてるし、たまには他の人とも食べたいなぁって」

 

 こいつ、夜凪の好意にまだ気付いてないのか?いや、そんな訳ないよな。夜凪が恋歌とこういうことしたって自慢げに話してくるし…てっきりもう付き合ってるのかと思ってたけど。

 まさか、全部夜凪の妄想だったりしないよな…?

 

「そうと決まれば行こっか!焼肉屋さんに!」

「奢らねぇぞ」

「牛丼屋に!」

 

 俺が奢らないという意思を出した瞬間に華麗に手のひらを返す。こいつ、奢らせる気だったな…

 恋歌は早く早く、と言いながら俺の背中を押して牛丼屋へ向かわせる。

 俺は溜息をつきながらも、久しぶりに会った恋歌が何処か人間味が在って少しだけ安心した。

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 なんで、私はここに居るんだろう。

 隣に座る恋歌さんを見て、バレないくらいに小さな溜息を吐く。

 

「えっと…デスアイランド以来か?」

「そうですね、お久しぶりです。源さん」

「千ちゃん、千ちゃん。おすすめはチーズ牛丼だよ。3種のチーズが濃厚に絡み合ってね、とっても美味しいよ!あ、でもね、普通の牛丼も美味しいからね!」

「は、はぁ…」

「うるせぇよ、恋歌」

「そう?あ、真咲くんは決まった?」

「…チーズ牛丼」

 

 オーディションが終わって、マネージャーさんに無理言って、カラオケで発声練習をした帰りに恋歌さんに捕まった。

 恋歌さんとは“星の王子さま”以来、会っていなかった。メールのやり取りはしていたけれど、何故か身体が会うことを拒絶していた。あの舞台以来、色んなものが色褪せて見える。彼女に出会ってから私の何かが壊れそうになる。

 

「千ちゃんは?」

 

 笑顔で私に話しかけてくれる。私とは違って、良い感じに身長が低くて愛嬌のある人だ。きっと大衆が好むのはこういう娘なのだろう。

 でも、私には何処か恐ろしく見える。あの舞台から、演技をする度に違和感が積もり、拭えない。出演していた他の役者達も上の空になっていたり、演技に違和感を覚えているらしい。

 彼女から演技を教わった者はよく伸びた。だけど、その代わりに何かを失った。例えば、時間、家族、感情。演技に熱中するあまり、彼らは帰って来れなくなった。

 

 …私も彼らと同じなんだろう。狐の役を演じてから、何処か孤独を感じる。傍にいた大切なものが無くなったような気持ちがふとした拍子に溢れる。

 

「私は…普通の牛丼で」

「じゃあ、頼むよー」

 

 彼女には才能がある。千世子さんのような魅せる技術が、夜凪さんのような目を惹く演技力が。

 天は二物を与えずという言葉がある。ひとつも貰っていない私とふたつを持つ彼女。もし、この言葉通りが真実ならこうはならない。神様という存在は本当に不平等だと思う。彼女にばかり贔屓しているんだ。

 

 この感情は嫉妬、なのだろうか。いや、そんなものじゃない。それ以上の…憎悪と呼ぶべきものだ。憎くて仕方が無い。貴女のように輝けない私は、貴女と同期でありながら後を追ってばかりの私は、貴女が憎くてたまらない。

 

 貴女が居なくなれば、私は輝けるだろうか。

 

 貴女が居なくなれば、私は…元に戻れるだろうか。

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